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第5回 “お披露目”

 治郎の家は自動車修理工場を営んでいたが、カーディーラーの下請けもやっており、それなりに繁盛していた。

 弘と治郎は小学校から中学校の同級生で、以前は弘の家のそばに治郎の家である工場があったが、商売が繁盛して仕事が増えて来たため手狭になり、郊外に移転していたのだった。

 父親と従業員が毎日自動車をいじっているのを見て育ち、特に、修理が完了したときに時折見せる父親の満足げな表情に惹かれたのか、治郎も子供の頃から自動車いじりが好きで、後継者にしたいと思っていた父親の思惑と合致したため、小学生の頃から手ほどきを受けていた。

 そのため、小学校高学年になるころには一通りの自動車関連の用語と修理手順は把握していて、その頃から外部の人間に見られないようにこっそりと手伝いをしていた。

 それでも、最新の技術を学びたいという思いから工業系の大学に進学し、大学を卒業すると同時に後継ぎとして父親と一緒に働いていた。


 治郎は弘とは正反対にスポーツ万能で、特に格闘技に強い興味を持ち、幼稚園に入園してすぐから中学校までは近所の空手道場に通い、工場の移転に伴い道場が遠くなったのを契機に、高校と大学では空手部に所属していた。

 中学生の時にすでに二段を取得し、高校生のときに学校の空手部の顧問の勧めで三段まで取得したが、段位には興味がなかったため、その後は昇段試験を受けていなかった。

 しかし、実力は相当なもので、全国大会の常連であり、大学の空手部内でも最強の実力を誇っていた。


 ただ、アニメやゲームが大好きで、小学校の頃から弘とその点ですごくウマが合っていた。

 裕福な家に育った弘が親から買ってもらっていたヒーローもののビデオを観るためと、弘が最新のゲーム機とソフトもすぐ買ってもらえるので、それもやりにしょっちゅう弘の家に遊びに行っていた。

 また、二人でアニメやゲームのフィギアもよく集めていた。



「おーい、治郎~!」

 エンジンルーム内の修理作業中だった治郎が顔を上げて声のする方を振り返ると、弘が自転車に乗ってやってくるのが見えた。何か変な漕ぎ方をしている。


「おお、弘。どうした」

 弘は、工場の入口の脇に自転車を止めると、左足をかばいながら治郎のところまで歩いてきた。

「お前、足をどうしたんだ?」

「いやー、昨日大変なことがあってねえ。ちょっと長い話になると思うけど時間ある?」

「ん?なんだいったい?この車を終わらせたら少し手が空くから30分ぐらい待っててくれ」

「わかった。じゃあ、庭のベンチにでも座って待ってるよ」

 と、弘は言って、勝手知ったる治郎の家の工場の脇を通って庭の方に歩いて行った。

 少しの間、足を引きずって歩く弘の姿を怪訝そうに見つめていた治郎だが、すぐに仕事に戻った。


 20分後、治郎の家の庭にある、どこから持って来たのか以前から不明だったベンチに座ってスマホゲームをやってた弘のところに、治郎が手をタオルで拭きながら現れた。

「よ!待たせたな」

「あれ?思ったより早かったね」

 弘は、スマホから顔を上げて答えた。

「ああ、お前の様子が気になったから超特急で終わらせて来たよ・・・で、何があった?」


 弘は、ベンチの上に置いてあったバックパックからベルトを取り出しながら、

「まあ、信じがたいような話なんだけどねえ・・・」

 と、話し始めたが、その言葉をさえぎるように、

「おい、なんだそれ!」

 と、弘が大きな声で言った。

「これはねえ、簡単に言っちゃうと・・・変身ベルト」

「変身ベルト~!?」

 治郎は途端に目をキラキラさせて嬉しそうな顔になった。

「なんか見たことないデザインだけど、新しいヒーローものの番組でも始まったのか?」

「いやー、番組とかじゃなくて、本物なんだよ、これ」

「は?本物?なんだ本物って。本物なんかあるかよ」

「いやー、ここにあるからしょうがない。ちょっと見てて。あ、他に見てる人いないよね」

 そう言うと弘は、きょろきょろと周りを見回し、隣の4階建てのマンションの窓にも人影が見えないのを確認してから、ベルトを腰に巻いてバックル右側のスイッチを入れた。

 途端に閃光が3秒ほど弘の体を包み、弘はお面ライダーの姿に変身した。

「え!?え!?ええーーーーー!」

 治郎は驚愕の表情で大声を上げた。

「へ、へ、変身した!ホントに変身した!」

「そう、本物なんだよ。これ」

 しばらくポカーンと弘の姿を見ていた治郎だったが、

「さて、じゃあこのスーツの能力を見せてあげよう」

 という、弘の言葉で我に返った。

「これ着ると、身体能力が人間じゃないレベルに上がるんだよ」

「はあ?ホントかよ!人間じゃないレベルって言ったって、そんなに大したことじゃないだろ?」

「いや、これがすごいんだって!まあ、見てて。まずはジャンプね」

 そう言ってから、弘はゆっくりと身をかがめてから思いっきりジャンプした。

 次の瞬間、すごいスピードで弘の体は飛び上がり、空中でじたばたともがきながらも隣にある4階建てのマンションの屋上に着地していた。

「え!?え!?ええーーーーー!」

 治郎は再び驚愕した。

 弘は、屋上から飛び降りて来て、2,3歩前につんのめりながら着地した。

「でしょ?次は力ね」

 そう言うと、庭の物置の方に歩いていき、横に立てかけてあったたバールを取った。

「ふん!」

 と、一声上げて、それを簡単に両端がくっつくほど捻じ曲げた。

「ええー!バールだぞバール。信じられん!・・・って、もう使い物にならんじゃんか!」

 と、ちょっと怒った口調で治郎は言った。

「大丈夫、大丈夫」

 そう言って、弘はバールを元の状態に戻した。

「うおー!すげー!すげー!・・・ちょっとそれ、面白そうだから俺にも貸して!着けてみたい!」

「それがねえ、なんか、俺が死ぬまで俺以外の人間は使用できないらしいんだよ」

 弘は、ふぅっと一つため息をついてからそう言い、ボタンを押して元の姿に戻った。

「ホントかよ~?ちょっと貸してみ」

 治郎は、そう言ってから弘からベルトをひったくると自分に装着した。

「どうやって変身するんだ?」

「あー、バックルの右のボタンを押すんだよ。でも、ダメだと思うよ」

「これだな!」

 そう言って、治郎はバックルの右のボタンをポチッと押した。

 その途端、ピピピピピという警告音とともに「不正使用検知。エラーエラーエラー」と無機質な女性の声がベルトから流れた。

「あらー、ホントだー。ダメかー」

 と、治郎が残念がっていると、

「不正使用者は速やかにベルトを外してください。装着を続けると30秒後に爆発します」

 と、同じ女性の声でさらにアナウンスが流れた。

「なにー!」

 治郎は慌ててベルトを外して弘に返した。

「うわっ、ヤバいアイテムだなこりゃ」

「多分、敵の手に渡っても使用されないようにするためだと思うよ」

「敵?敵ってなんだよ」

 弘は腕を組んでやや下を向き、う~んと唸ってから、

「これがねえ、結構しんどいことになっちゃったんだよ」

 それから、金曜日に起こったことと、昨日起こったことを治郎に話して聞かせた。


「マジか!普通ならとても信じられんが、ここに変身ベルトがあるからホントの話だって思えるな」

「ホントの話なんだよ、これがね」

 と、あきらめたような表情で弘は言った。

「しかし、お前ヒーローになっちゃったんだー」

「お前、なに嬉しそうにしてんだよ!こっちはこれから何回も危ない目に合うかもしれないんだぞ!」

「だってさあ、知り合いにヒーローがいるなんて、なんかカッコいいじゃん」

「お前ー、他人事だと思って」

「いやー、お前の話と、今見たそのスーツの能力があれば大丈夫なんじゃないかと思うぞ。お前も実はそう思ってるだろ?だって、お前の顔に悲壮感は全然ないぞ」

「う!・・・・・実はね」

 苦笑しながら弘は答えた。

「ほら見ろ」

「実はさっき、採石場の跡地に行ってこのスーツでどれだ力が上がるか試してみたんだけど、昨日感じた以上にすごくてビックリしたんだよ」

「おおー!そうかー!じゃあ、ヒーロー決定だな」

「あと、極度の運動音痴な自分が、こんなスゴい身体能力を発揮できて嬉しいってのも正直ある」

 と、弘は照れくさそうに答えた。

「あー、そうかー。そうだろうな。少しわかるような気がするぞ」

「で、どうすればいいかな?」

「んー、お前、正義感は人一倍あるから、性格的には向いてるんじゃないか?」

「でもー、格闘技とかやったことないから、改人とちゃんと戦える自信がないんだよなあ」

「そのスーツ着れば大丈夫だって!世界最強の人間のはるか上を行ってる感じだぞ」

「そうかなー」

「基本は俺が教えてやるから大丈夫だよ!」

「あ、そうか!それはありがたいな・・・・・って、それって小学生の頃にもやったけど、俺の体が言うことを聞かなくて全然ダメだったじゃん」

「なに言ってんだよ、そのスーツを着てやれば大丈夫だよ」

「あ、そうか!そうだよな!」

「そうそう、もうやるしかないんだから覚悟を決めないと」


「ところで、ライダーっていうからには、絶対必要なアイテムがあるよな。それを用意しないと」

 治郎がにやりとして言った。

「え?なに?」


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