第4回 “テスト”
次の朝、弘が目を覚ましてベッドから起き上がろうとしたら左足がズキンと痛んだのでズボンをまくり上げで見てみたら、4枚貼ったでっかい救急絆創膏に血がにじんでおり、どうやら、切られたところがふさがっていないようだった。
包帯や消毒する薬は家に置いてなかったので、傷口からバイ菌でも入ったらまずいかもと思い、病院に行くことにした。
日曜の当番医を調べたら少し離れた外科病院だったので、自転車に乗って出かけて行くことにした。
病院へ行こうと自転車に乗りペダルを漕ぐために左足に力を入れると痛んだので、なるべく右足で漕ぐようにした。
病院は思ったより空いており、待合室にいた客は3人で、予約を取らないで行ったにも関わらず30分ほどで診察室に呼ばれた。
傷口を見た医者は、かなり鋭いもので切ったようだがどうやってできた傷なのかと聞いてきたが、家の物置にあった鎌で間違って切ったと適当にごまかした。
傷口を3針ほど縫われ、医者からは1週間は左足に負担をかけないように走ったりしないで安静にしているように言われ、ロフストランド・クラッチと呼ばれる肘あて付きの杖を買うようにと言われた。また、痛み止めの薬ももらって来た。
自転車に乗って家に帰る途中にホームセンターがあったので、言われた杖を試しに売り場で装着して歩いてみたら、左足の力が軽減されて随分と楽なのがわかった。
それを買って家に戻り、杖をついて自室に入ったら、部屋の中央にあるテーブルの上に、昨日の夜、無造作にそこに置いた変身ベルトがそのままあるのが目に入った。
それを見ていたら、なんだかこのベルトが作り出すスーツの力がどれほどなのかを試したくなった。
「30倍ってホントなのかなあ?昨日は、短時間しか使わなかったからよくわからなかったなあ」
と、呟いて、
「まあ、左足を使わなきゃ大丈夫だよね」
と、自分に納得させるように言い、自転車で20分ほど行ったところにある、閉鎖されて今は人がいなくなった採石場跡地に行ってみることにした。
変身スーツを装着すれば大丈夫な気がしたので、杖は玄関の靴箱の脇に立てかけて、ベルトを入れたバックパックを背負って家を出た。
そして、なるべく右足で漕ぐようにして自転車を走らせて採石場跡地に向かった。左足の縫われたところは、相変わらず少し痛かった。
採石場跡地に着くと、周りから見られないようにと、採掘時に出た砂利を盛って高さ10メートルほどの山になっている陰に自転車を止めた。
自転車を降りるとバックパックから変身ベルトを取り出して装着し、お面ライダーの姿に変身した。
すると、その途端、左足の傷口の痛みが消えた気がした。
「あれ?なんだろ。治って来たってことかな?」
と、その時はあまり深く考えなかった。
それから、まずは腕力を確認してみることにして、足元に落ちていた直径10センチぐらいの石を拾い上げると、目の前10メートルぐらいのところにある、高さ5メートルぐらいの別の砂利の山に向かって思いっきり投げつけた。
「えいやっ!」
バンッ!
ものすごい音とともに、その山の上から3分の2ほどが消し飛んだ。
「ええええー!」
弘は思わず驚きの声を上げた。
それと、自分の投げた石のスピードがとんでもなく速かったのにもびっくりした。
「今のスピード、大谷翔平より速いんじゃないの?」
そう考えたら、思わず顔がにやけてきた。
すぐに、同じような大きさの石をもう一つ拾い上げると、今度は、自分からの距離は100メートル、高さは30メートルはあるだろうと思われる切り立っている崖の上めがけて思いっきり投げつけた。
ゴウッ!
すごい風切り音とともに石は崖の上をかすめて見えなくなった。
「うわー!すげー!」
弘は再び驚きの声を上げた。
驚きながら、一体、今投げた石のスピードがどのくらいなのか計算してみた。
「俺の場合、全力で投げてもせいぜい時速70キロぐらいだけど、その30倍ってことは・・・・・2100キロ!?音速超えてるじゃん!」
次に、脚力を見るために少し走ってみることにした。
まずは様子を見ようとジョギング的な感覚で2、3歩走ってみたが、何か、いつもと変わっているという感じがしなかった。
振り返ってみたら、すぐ後ろにあった自転車までの距離は2メートルほどで、いつも通りの移動距離としか思えなかった。
「あれ?脚力は特に変わらないのかな?」
弘は不思議に思ったが、すぐに
「いや、昨日、地面を蹴った時は一瞬で5メートルぐらい移動したから、そんなことはないはずだな」
と、思い直した。
「よくわかんないけど、とりあえず全力で走ってみるか」
この時点で弘は、痛みがなくなっていたこともあり、左足の傷を縫ったばかりだということを完全に忘れていた。
自転車の位置まで戻り、前方三百メートルほど障害物のない方向を向いて、昨日は一蹴りで5メートル移動したということを踏まえて警戒し、とりあえず全力で5歩だけ走ってみた。
すると、とんでもない速さで目の前の景色が後方に流れていったので、びっくりして足を止めた。振り返ってみると、すぐ後ろにあったはずの自転車が、150メートルほど後方になっていた。
「うわー!スゲー!いや~、これスゴ過ぎでしょ!」
弘は驚くと同時に、脚力が驚異的に向上していて、前に進もうと軽く地面を踏みしめただけで数十メートルも移動していまうのだと理解した。
「・・・スゴいけど、これって俺に使いこなせるのかなあ。はっきり言って反射神経も相当鈍いから、正面に障害物が出て来ても避けられない気がするなあ」
そうは思ったものの、使いこなせなければ満足に改人とも戦えないぞと思って、少しでも慣れるように練習するしかないと思った。
「あ、ジャンプしたらどうなるんだろ?」
それを試してみたくなったので、まずは、両足をそろえ、自転車の方に向かって小川を飛び越えるような感じで思いっきり両足で地面を蹴ってみた。
すると、一気に20メートルほども前に移動した。高さも3メートルは飛び上がっていたと思われた。
「うおー!スゲー!」
弘は、また驚いて叫んでいた。
それを繰り返して自転車のところまで戻ったら、今度は、目の前にある高さ十メートルほどの砂利の山の上に飛び上がってみたくなった。
「俺の垂直飛びの記録は49センチだったはずだから・・・15メートルくらいか。いけそうだな」
弘は、より高くジャンプしてみようと、一旦腰を落としてから思いっきり砂山の頂上を目指してジャンプした。
すると、力を入れすぎたせいで山のはるか上までジャンプしてしまい、砂利山を飛び越して向こう側に落下しそうになった。
「うわっ!落ちる!」
弘は、思わずそう叫んだが、予想外に体のバランスが取れていて、山の反対側にちゃんと足から着地し、少したたらを踏んだだけで倒れずに止まることができた。
なぜだろうとしばらく考えたが、
「ああ、動体視力や反射神経も30倍になってるんだな、きっと」
と、勝手に納得した。
「待てよ、ということは、このスーツを着ていれば俺は運痴くんじゃないんだ!」
そう考えたら、子供の頃からの屈辱が頭をよぎって、嬉しさのあまり思わず目に涙がにじんで来た。
そのまま、しばらく嬉しさにウルウルしていたが、
「そうだ!治郎にもこのことを教えてやろう。運動音痴な俺を、子供の頃からあいつは色々と助けてくれたからな!」
弘は、元の姿に戻ってからベルトをバックパックにしまい、それを背負って治郎の家に向かおうと自転車を漕ぎ出した。
左足でペダルを蹴った途端、左足の傷口がズキン!と痛んだ。
「痛てっ!・・・あ、そうだ。切られたところを縫ったんだった」
そう思い出して、弘は自転車に乗ったまま左足のズボンをまくって切られたところを見てみたが、包帯には特に血はにじんだりはしておらず、傷口が開いたということもなさそうだった。
「そうそう、左足にあまり力をかけないように漕がなくちゃな」
そう呟いて、治郎の家へと向かって行った。
「しかし、今まで痛くなかったのはなぜかな?スーツの性能を試すことに夢中になってたからか?・・・あ、もしかしてこのスーツ、傷口の痛みも押さえてくれるとか。いやー、ホントにスゴいスーツだなあ」
自転車を漕ぎながら、弘はそんなことを考えていた。




