第31回 “貧乏神博士”
火曜日にネズミ男と戦闘した場所に到着したところで、二人はそれぞれのマシンを降りた。
「こっちに向かって走ってたってことは、この先にある建物ってことだな」
治郎は、ネズミ男が乗っていたメガクルーザーが走って行こうとしていた方向を指さして言った。
「待って、今、タブレット出すから」
弘はそう言うと、背負っていたバックパックからタブレットを取り出し、この辺りの地図を出して拡大した。
「この先の大きな建物っと・・・・まず、2キロほど先に製紙工場があるな。さらに、その先に運送会社の配送センターがある」
「運送会社か・・・大きなトレーラーを持ってるだろうから、何かを大量に運んだとしても一番怪しまれない業種だな」
「よーし、とにかくそっちに行ってみよう」
弘は、そう言うと、バックパックにタブレットをしまってから変身ベルトを取り出して腰に装着し、二人してマシンを発進させた。
しばらく行くと、製紙工場が見えてきた。
弘は、路肩に出てなるべくその工場の塀の近くに沿ってゆっくりと走行し、ベルトにサインが出ないか注意していたが、通り過ぎても何の警告音も鳴らなかった。
「いよいよ運送会社が臭いな」
治郎がそう言って、さらに先に進むと、すぐに運送会社の建物が見えてきた。かなり大きな配送センターだった。
再び、治郎が路肩に出て塀に近いところをゆっく移動していくと、50メートルほど進んだところで、ベルトから「ピコーン、ピコーン」という音が聞こえるとともにバックル左端の前側にあるライトが黄色く点滅を始めた。
「やっぱりここだ!」
弘は、気を引き締めた顔になって言った。
「よし!・・・でも弘、確実な証拠を見つけるために少し見て回った方がいいな。とりあえずこの塀の向こう側の端を左に曲がったとこへ行こう」
「わかった」
治郎と弘はマシンを車道にもどし、少しスピードを上げると何食わぬ顔をして、守衛が一人立っていた入り口ゲートの前を通り越して、敷地の向こう側の端に行ってから左に曲がり、中からは見えない位置にマシンを停めて降りた。
そこから少し先に行ったところで塀が金網になっていたので、そこから中の様子を伺おうと頭を低くして進んで行った。
金網の端から二人で中を覗くと、輸送用の大型のトレーラーが3台、運転席をこちらに向けて停まっていたが、それぞれのトレーラーの後ろの方で数名積み込み作業をしているのが見えた。運転席には人影はなかった。
「うーん、作業している男たちの格好は普通の作業着だなあ」
そう言いながら、治郎がさらに首を伸ばして中の様子を伺おうとしたその時、
「お前たち!ここで何をしている!」
と、二人の後ろから声がかかったので振り向くと、さっき、門のところにいた守衛がこっちをにらんでいた。二人は、しまった!と思ったが、
「いやー、僕たちトレーラーが好きで、ちょっと見学しに来たんですよ」
と、治郎がとっさに苦しい言い訳をした。
「なに~?ホントか?怪しいなあ」
守衛は疑わしそうにそう言って、二人の体をジロジロと見たが、弘のお腹の辺りで視線を止めた。
「お前!そのベルトはお面ライダーか!」
守衛は叫んだ。
「あちゃー、しまった」
弘がそう言うと同時に、守衛はポケットからホイッスルを取り出してけたたましく鳴らした。
その音を聞きつけて、トレーラーの後ろにいた作業員が5名、荷物の積み込み用に一段高くなっている場所から飛び降りてこちらに走ってきた。
「くそっ!こうなったら仕方ない!今まで、これをやる機会がなかったけど、ついにやれる日が来たな」
弘はニヤリとしてそう言うと、左手の指を閉じたまま手のひらが前に向くように真っすぐ前に出し、右手はしっかり拳を握ると肘を後ろに引いたポーズをとった。それから、素早く左腕を引くと同時に右手を下におろしながら、
「変身!」
と、叫んだ。
弘は、閃光に包まれてお面ライダーに変身した。
守衛は一人だったので、それは治郎が倒してくれるだろうと、弘は、ジャンプして塀を越え、作業員たちが向かってくる敷地内に降り立った。
それから、高速で移動しながら5人すべてにパンチを放って吹っ飛ばした。5人は、それぞれ、建物の壁やトレーラーの荷台の壁にぶつかってから地面にずり落ちると動かなくなった。
弘が振り向くと、治郎はすでに守衛を倒し、金網をよじ登って敷地内に入って来るところだった。
治郎は、弘の方に走って来ながら叫んだ。
「おい!この大きさの建物だから、ニョッカーのメンバーが何人いるかわからないぞ!ニョッカーの基地だってのはわかったんだから、ここは退散した方が良くないか?」
「確かにヤバい状況だとは思うけど、基地は基地でも、ここがレアメタルの移送基地だっていう証拠を何か見つけないと!」
「そうだけど、1回退散して1号さんに報告して対処してもらった方がいいって!」
そう話している間にも、搬出入口や建物の左手から続々とニョッカーの雑兵が現れて、こちらに走って来た。治郎は弘の斜め後ろに立ち、向かってくる雑兵に対して身構えた。
「わかった。俺に掴まれ!」
弘は治郎の方を向きながらそう言って治郎に手を伸ばそうとしたところで、
「それまでだ!観念しろ!」
と、後ろから声がかかった。
振り返ると、7,8メートルほどの距離に雑兵が10人ほど立っており、全員が、手に手に拳銃を持ってこちらに狙いをつけていた。
「しまった。トレーラーの向こう側から回り込まれたか!しかも、拳銃か!」
治郎が叫んだ。
前方から押し寄せて来ていた雑兵の集団は、やはり、二人からの距離が7,8メートルになると二人を囲むように止まり、そのうちの半分ほどが懐から拳銃を取り出して二人に狙いを付けてきた。
そこで、集団の中から落ち着いた男の声が聞こえてきた。
「おやおや、たった二人でやって来るとは勇ましいことだ」
一団の中から一人、40代半ばと思われる黒い仕立てのよさそうな3ピースの背広に、黒いシャツを着て赤いネクタイを締めた男が歩み出てきた。
「キミがこの地域を担当して我々の邪魔をしているお面ライダー44号か」
その男は、不敵な薄笑いを浮かべながら言った。
「あれ?なんで44号だってわかったの?」
「は?何を言っている。お前の頭の後ろにでっかく『44』って書いてあるだろうが」
「えー!ホント!」
弘は、その事実に気づいてなかったので心底驚いた。
「あれ?お前知らなかったのか。あんまり大きく書いてあるから、知ってると思って特に言わなかったけど、かなり遠くからでもハッキリわかるぞ」
治郎が言った。弘が治郎の方を向くと、治郎は弘の後頭部を右手で指さしていた。
「うそでしょ!」
弘は、そう言うと、すぐ横にあったトレーラーの運転席横の窓ガラスとバックミラーに自分の後頭部を映してみた。
「うわー!ホントだー!信じられない!なんてセンスだー!」
弘は泣きたい気分だった。
「ええい!そんなことはどうでもいい!まだ、話の途中だ!」
「どうでも良くないよ!」
「そういえば、2回アップされた動画の中じゃ、高速で移動してて見えないか、止まってるときはたまたま前か横からのアングルだったから、ちゃんと映ってなかったかも」
治郎が、ぼそりと言った。
「あー、動画には映ってなかったのか。確かに映ってたら気づくよな。少しホッとしたよ。しかし、1号さんから6号さんの後頭部には書いてなかった気がするなあ」
「もういい!とにかく、ここに来たからにはお前たちはそのまま帰さない。覚悟しろ」
その男は、再び不敵な薄笑いを浮かべて言った。
「ふん、ありがちな決め台詞だな。ところで、あんた何者?」
「私は、天木英雄というもので、日本支部の参謀本部長をしている」
「天木英雄・・・・あ!」「あ!」
「貧乏神博士だ!」
弘と治郎は同時に叫んだ。




