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第3回 “お面ライダー登場”

「え?あんたたち誰?」

「我々は、キミが今、腰に付けているベルトの元の所有者の仲間だ。先ほどこの家から爆発音が聞こえたので来てみたが、もしかしてキミは、そのベルトを装着して変身し、体がカブトムシで手が鎌のようになっているカイジンを倒したのか?」

 先頭の赤い男が聞いてきた。

「あ、はい。やっつけないと殺されそうだったんで、変身して思いっきり腎臓の辺りを殴ったら爆発しました」

「そうか。では、そのベルトはもうキミの物だ。我々と同じく、地球を守るのがキミの役目だ」

 と、その男は静かに、しかし、きっぱりとした口調で言った。

「へっ?なに?地球を守る?・・・正義のヒーローやれってこと?」

「ヒーローかどうかは知らんが、世界征服をたくらむ悪の秘密結社『ニョッカー』の地球征服の野望をくじくため、日夜カイジンたちと戦うのが我々の使命だ」

「なんだろ、その気の抜けるような名前の組織は。しかし、思いっきりヒーローものの設定じゃないですか。・・・で、もしかすると、オートバイに乗ってきたってことは、あの例のライダー!?」

 弘は目をキラキラさせながら聞いた。

「我々はお面ライダーで、私はお面ライダー1号だ」

「お面ライダー2号だ」「お面ライダー3号だ」「お面ライダー4号だ」「お面ライダー5号だ」「お面ライダー6号だ」

 と、次々に全員が自己紹介をした。

「なにその名前!?カッコ悪!」

「我々がカッコ悪いか?」

 1号と名乗った赤い男が言った。

 よく見ると、全員背筋をピンと伸ばした姿勢で、姿かたちは実にカッコ良かった。

「いや、カッコいいです、カッコいいです。で、全員、名前は番号なんですか?」

「そうだ。もちろん、それぞれに本名はあるが、この姿の時はこの名前で呼び合っている」

「てことは、俺は7号ですか。ラッキーナンバーだな~」

「いや、キミは44号だ」

「・・・えっ!?そんなにいるの!?」

「そうだ。地球は広いからな」

「なんとっ!・・・一体、何人いるんですか?」

「知らん!」

 1号はキッパリと答えた。

「ええええー!1号なのに知らないのー!」

「増え続けているから60号を超えたところで確認するのをやめた。それに、全員一緒に仕事するわけじゃないからな」

「まあ、そりゃそうでしょうけど・・・それにしても、俺の番号、縁起悪っ!」

 弘は少し悲しい気分になった。

「アメリカならラッキーナンバーだ!気にするな!」

「いや、俺は日本人・・・ところで、さっきのカブトムシみたいな男は何なんです?っていうか、どうやってあんな姿になっちゃったんです?」

「ニョッカーは、工作員の戦闘力を飛躍的に高めるために、高度なバイオテクノロジーで他の生物の人間より優れた部分を人間に取り込んでいるのだ。我々は、その改造された人間のことを『カイジン』と呼んでいる。改造の『改』と人間の『人』を取って『改人』だ」

「うわー、ヒーローものにありがちな設定だけど、そんなことしてるんだー。怖っ!・・・しかし、微妙な呼び名だなー。あ、でも俺のパンチ1発で爆発しましたよ。ホントに改人って強いんですかー?」

「そこがこのスーツの素晴らしいところだ。装着した者が、改人をも一撃で仕留めるほどの驚異的なパワーを獲得できるようにできているのだ」

「そうなんだー、ホントにスゴそうだなー・・・・・あ、でもなんで爆発したんです?生き物なのに」

「ニョッカーは、自分らのバイオテクノロジーが外部に漏れて対策が打たれることを警戒して、改人の生体反応が消えた瞬間に爆発するように体内に爆弾を仕込んでいるのだ」

「あー、なるほどー、なんか納得できるかも。しかし、なんか改人が可愛そうになってきたけど」

「うむ。しかし、やらないと確実に自分がやられるだけでなく、ニョッカーに世界が征服されたら他にも悲惨な目に会う人が大勢出るのだ。そこを忘れるな!」

 と、厳しい口調で1号は言ったが、

「はあ」

 と、弘は気のない返事を返した。

「とにかく、このスーツはヨーロッパのEU加盟国全部が参加したプロジェクトで総力を上げて作られたものだ。実は、他にも素晴らしい機能を色々と備えているのだ」

「えっ、そうなの?それってなになに」

「たとえば、私はフランス人で日本語はまったくわからないが、このスーツを着ていると、頭の中で思い描いた国の言葉がマスクから発せられ、相手の言葉は自国語に翻訳されて聞こえるようになるのだ」

「うそっ!すげっ!」

「そのほかは使っていくうちにわかる。残りの改人が港から逃亡するという情報があり今日は説明している時間がない」

「えー?なにそれー?ケチんぼ」

「甘っちょろいことを言うな!人生、何事も経験だ!」

「あー、逃げ口上としてはうまいよね」

(なんだコイツ)と、1号はイラッとした。

「とにかく、お前もこのようにカッコ良くなれるのだ。頼んだたぞ!」

 と、急いでいるので話を終わらせたい体の1号だったが、

「いや、俺、生まれつきのひどい運動音痴なんですよー。しかも、格闘技とか全然やったことないし」

 と、弘から予想もしない返答が帰って来たので思わず固まってしまった。


「・・・は?マジで!?」

 1号は驚いて聞き返した。それから、(なんでこんなヤツ選んだんだあのバカ)と、小声でつぶやいた。

「なんか言いました?」

「いや、別に。しかし、なぜ前の44号がキミを次のライダーに指名したのか聞いてなかったな。どういう経緯なんだ」

「いやー、俺にも良くわからないんですよ。あの人は俺が見てる前で改人に思いっきり蹴られて俺のすぐ後ろにあった木にぶつかった途端に普通の人間の姿に戻ったんですけど、そしたら『このベルトを頼む』って俺に手渡して来たんです。その直後、怪人にタックルして一緒に展望台から飛び降りて、手に持ってた手榴弾みたいので無理心中を図ったみたいですね。思い返してみると相当弱ってる感じだったから、死期を悟っての行動だった気がします」

「あちゃー!」

 1号はおでこに手を当てて天を仰いだ。

「えっ!?何か変なこと言いました?」

「キミ、それは我々にベルトを渡してくれという意味だったと思うぞ」

「ええー!そういう意味だったんですかー!・・・って、そんなのわかるわけないですよー」

「まあ、そりゃそうなんだけどな」

「じゃ、これ返しますよ。こんなの持ってたら何度も危ない目に会いそうだし」

 と、弘は慌てて腰からベルトを外して1号に差し出した。

「残念ながら、そのベルトは前の持ち主が死亡した後に最初に装着した者以外は使用できないのだ」

「え!?てことは?」

「そう。他の人間に譲りたかったら、キミが死ぬしかないのだ」

「ええええー!ひどいよ~!」

「ああ、だからキミには後を継いで頑張ってもらうしかない!」

「いや、だから、俺は運動音痴で向いてないですって!」

「このベルトは人間の能力を30倍に高めるものだから、少しぐらい運動音痴でも大丈夫だ」

 と、心なしか気持ちの入ってない感じで1号は答えた。

「少しじゃないんですけどねえ。懸垂や腕立て伏せは1回もできないし、百メートル走のベストタイムは18秒5だし」

「なんだそれ!?マラソンのトップランナーの百メートルごとのタイムより遅いじゃないか!」

「だから、誰か他の人に頼んでくださいよ~。無理だから~」

 と、言ったものの、すぐに、

「でも、30倍ってことは・・・・・百メートル走が1秒かからないってことだ!すげっ!オリンピックで文句なく金メダルじゃん!」

 と、思いついて一人でにんまりした。

「このスーツ姿でオリンピックに出られると思うのか?」

「例えじゃないですか、例え。もう、頭固い人だなあ」

「紛らわしいことを言うな!・・・あ、そうだ、今後、画像やデータも含めた連絡が必要になるからスマホのLineでフレンド登録しておこう。Lineぐらいやってるだろ?」

「ええ、まあ」


 それから、弘にスマホを出させて、お互いにフレンド登録をした。

 それが終わると、「じゃ!」と短く挨拶をして、全員、素早く家の外に出て行った。すぐに複数台のオートバイのエンジン音が響き、それが遠ざかっていくのが聞こえて来た。

「ちょっと、ちょっとー!」

 と、弘はエンジン音が聞こえて来た時にその方向に向かって叫んでみたが、すぐにオートバイの音は聞こえなくなった。


「えー?俺がヒーロー?がらじゃないよなー・・・・・でも、このスーツちょっと楽しいかも」

 と、少しにやけてつぶやいてから、ふと、先ほどカブトムシ男が爆発したところが気になったので様子を見に庭の裏手に戻ったら、爆発した場所に面した窓のガラスが全部割れていた。

「え゛えええ~!さっきの爆発のせいかよー。トホホ」

 それを見たら、さっきカブトムシ男に切られた向こうずねがジンジン痛んで来た。見下ろすと、左足のズボンの切られたところから、血が流れているのが見えた。

 弘はがっくり肩を落として、右手にベルトをだらんと下げたまま左足を引きずって、植え込みの中に置いた買い物の袋を拾うと、とぼとぼと玄関から家の中に入って行った。

 それから、割れた窓ガラスのところに、とりあえず、使っていないビニール製の花柄のテーブルクロスを貼ったが、ご飯を炊く気力もなくなったので、買って来たカップ麺と惣菜を食べて寝てしまった。


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