表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/44

第29回 “ニョッカーのたくらみ”

 次の土曜日の午前9時頃に、弘は治郎の家にブリザードに乗ってやって来た。

 治郎は、工場の中で自分のH2 SXのメンテナンスをしていた。

「よ、治郎、おはよう」

 弘は、治郎がちょうど立ち上がったところで後ろから声をかけた。

「あれ?弘、今日は10時からだったよな。早いな」

「お前のレーシングスーツが出来上がったって連絡があったから、昨日の夜にもらってきたよ」

 弘は、そう言ってからブリザードのシートの後ろに縛り付けてあった中型で銀色のスーツケースをおろし、治郎に渡した。

「お!もう出来たのか!早いな!」

 治郎は、嬉しそうに答えてスーツケースを受け取った。

「ただし、スーツだけだ。ヘルメットはもう少しかかるから待ってくれって」

「あー、そうだろうな。いやー、全然問題ないよ」

 治郎は、にやけた顔のままスーツケースからレーシングスーツを取り出しながら言った。そして、両手でレーシングスーツの肩の辺りを持って上に差し上げると、

「おおー!かっこいー!紺色渋いね~」

 と、言ってから、自分のつなぎを脱いでとっとと着替え始めた。

「え?もう着替えちゃうのか?」

「そりゃそうだろう。着心地も確認したいしな」

 治郎は、完全におもちゃをもらった子供のようになっていた。

「おおー!いいねー!オーダーメイドだけあって体にピッタリだ!」

 着終わってから、体中を眺めまわしながら治郎は言った。

「ちょうど、俺のマシンのメンテナンスも終わったところだ。さ行くか!」

 治郎はニコニコしながら言った。

「え?その格好で行くのか?」

「オートバイ乗りがレーシングスーツを着てオートバイに乗って何か問題があるか?」

「俺は自動二輪の免許を持っていないからよくわからんけど、街中でそんな恰好でオートバイに乗ってる人は見たことない気がする」

「気のせいだよ。とっとと行くぞ!」

 弘は、治郎の喜びようにやや気おされて回れ右をすると、ブリザードに戻って跨った。

 治郎も、使っていた工具を工具箱に仕舞うと、H2 SX跨り発進させた。

「あ、ちょっと待てよー!」

 弘は、かっ飛んで行く治郎を慌てて追いかけた。


 弘は、治郎に一旦かなり離されたが、治郎も極端なスピード違反はさすがにできないので、何回か信号待ちをしているうちに弘が追いついてきた。

「あー、やっと追いついたよ。まったくもう」

 弘は、赤信号で止まっている治郎の横に並ぶと、治郎の方を向いて言った。

「ん?どうした?」

 治郎は、弘を置いてけぼりにしたことに気づいていないようだった。

「まったくもう、こういうことになると完全に子供に戻るな」

「そうか?それほどでもないぞ」

 なぜか、治郎は嬉しそうに答えた。

 そこで信号が青になったため、治郎はまたしてもすごい勢いで加速して行った。


 それからは、郊外に出て信号がまばらになったこともあり、結局、採石場跡地まで弘は治郎に追いつけなかった。

 弘が到着する、治郎はすでにストレッチをしていた。

「おお、遅かったな。先に準備運動してるぞ」

 弘がその横に到着すると、悪びれもせず治郎が言った。

「やーれやれ」

 弘は、そう言いながらブリザードから降りると、バックパックから変身ベルトを出して腰に装着した。

 その間、治郎はストレッチに没頭しており、弘のことは目に入っていないようだった。

 弘がストレッチを始めると、治郎は自分の準備運動は終わったらしく、今度は空手の構えをとると、突き、蹴りと空手の稽古のようなことを始めた。

 それを30秒ほど繰り返した後、

「おおー!動いてみてもしっかり体にフィットしてる感じだ。F1レーサーってのはレース中は大して体を使うわけでもないからもっと自由度がないかと思ったけど、意外に着て戦うには支障がなさそうだな」

 と、治郎は、やっとまともに弘の方を見て言った。

「そこらへんは、俺から藤川さんにお願いしておいたんだよ。体を保護する目的だけど、戦闘力が低下したら意味ないからな。しかも、F1用レーシングスーツだから、摩擦に強くてオートバイから放り出されて道路の上を滑って行ってもちょっとやそっとじゃ破れたり穴が開いたりしないし、炎に包まれても30秒ほどは耐えられるはずだ」

「そりゃ、すげーな!」

 治郎は嬉しそうに言った。

「じゃあ、その性能を試してみようか」

 弘がそう言ったあと、二人は5秒ほど無言でその場に立ち尽くした。それから、

「どうやって試すんだよ!」

 と、二人で同時に叫んだ。

「じゃあ、とりあえず俺がお腹の辺りを殴ろうか?」

 弘が言った。

「バ・カ・ヤ・ロ・ウ。衝撃を吸収してくれるわけじゃないだろ!?俺はまだ死にたくないぞ!」

 治郎は、呆れながら言った。

「じゃあ、野球のヘッドスライディングをやってみるとか?」

「汚れるからイヤだ!新品だぞ!それに、俺は野球はやったことないからやり方がわからん」

「うーん、まあ汚したくないって気持ちはわかるな。じゃあ、もう実戦のときに確認するしかないか」

「そうだなー。それでいいんじゃないか。じゃあ、とりあえずこれを着たままもう少し稽古してこれの特性を把握することにするよ」

「そうか。そうだな。んじゃ、俺も自分のスーツにもう少し慣れる練習をするよ」

 そう言うと、弘はお面ライダーに変身して、間違って治郎にぶつかったりしないように100メートルほど離れた場所に移動した。


 そこで10分ほど慣れる練習をしていたら、お面ライダー1号から着信があった。

「私だ1号だ」

「あ、こんにちは」

「君の住んでいる市にニョッカーが出現している理由がわかった」

「ホントですか?なんです?」

「先週、キミたちが見つけた、ニョッカーが拠点としていた採石場では、特産品としてある石が採掘されているな」

「あ、はい水草石ですね。墓石や記念碑用として人気らしいです」

「その採掘施設がその山間部にいくつかあると思うが、あの採石場からは非常に貴重なレアメタルが採れているらしい」

「え?ホントですか?そんな話聞いたことないです」

「ああ、その採掘会社がそれを極秘にしていて、国には内緒で海外に売り込みを図り、最も高い買い値を付けた共産圏の某国に販売していたとのことだ」

「なんと!」

「そして、そのレアメタルを利用した強力な兵器を開発していたニョッカーがその情報を仕入れ、それを手に入れようとして、ドイツに本社のあるニョッカーの息のかかった巨大企業に会社ごと乗っ取らせたらしい」

「なんと!なんと!」

「だから、その採掘会社はすでにニョッカーの手中に落ちており、近々、そのレアメタルが台湾にある亜細亜統合本部へと移送され始めるとのことだ」

「なんと!なんと!なんと!」

「・・・ふざけているのか?」

「え?何がです?」

「・・・まあ、とにかくそこでキミには、移送する前に一旦、レアメタルが集められる加工工場を突き止めてニョッカーの野望を阻止して欲しい」

「え?その加工工場がどれだかわかってないってことですか?」

「そうだ。どうも、採掘会社とは全く別業界の工場を利用しているようだ」

「ええー!?それ難しくないですか?」

「そのスーツには特定金属の探知機能が備わっているから大丈夫。それを利用すれば簡単にわかる」

「でも、それってすべての工場のそばまで行ってみないとわからないってことですよね?」

「その通りだが、そのスーツのスピードなら造作もあるまい」

「あー、また筋肉痛か~」

「あ?なんだって?」

「いえ、何でもないです。やりますよ」

「そうか。頼んだぞ。今から探知用にそのレアメタルの成分データを送る」

 そこで、1号は一旦、言葉を止めた。弘は、嫌な予感がした。

「それからもう一つ。本来なら、ニョッカーとしてはその周辺の地域で色々と手を打って採掘と移送の作業を円滑に進めたいところだが、キミの活躍でその地域でのその作業が進まないため、ニョッカーの幹部がじきじきにそっちに行くという情報が入った」

「幹部ですか?それって、どう変わるんですかね?」

「もっと組織だって規模の大きい攻勢になる公算が強い」

「えー!?それって、俺一人で大丈夫なんですかー?」

「わからん。まず、様子を見る。キミだけでは難しそうだったら支援要員を派遣する」

「あー、良かった。お願いしますね」

「ちなみに、その幹部の名前は『天木英雄』。基本的には日本人だ」

「基本的には?」

「そいつもバイオテクノロジーで改人化してるからな。国籍なんて今や無意味だ。しかも、そいつは幹部だけあって擬態能力も付与されており、普段は普通の人間と変わらない容姿をしている」

「なんと!幹部ってことは、もしかして相当強い?」

「ああ、今までの改人とは比較にならん。しかも、元々が医学博士で改造手術の一部にも参加している人物だ。ただ、ものすごいどケチのため、我々の組織では『貧乏神博士』というコードネームで呼んでいる」

「うわ!なにその悲惨なコードネーム!」

「コイツが開発費をケチるために改人の能力が今一つになっていて各地での占領作業が進まないという噂もあり、まさに貧乏神の位置づけになってるからだ」

「ええー!?・・・・・意味わかんない」

「タコを取り込んだ改人で、変身したあとはの姿には『タコデビル』という別のコードネームがついている。両手を使って頭の上で輪っかを作るポーズで変身し、その手の位置が頭になるから、そのポーズをとったら要注意だ」

「あらー、どっかで見た変身ポーズをダサくした感じ?」

「ちょっと何を言ってるかわからないが、よろしく頼むぞ」

「えー!?情報そんだけ?ちょっと待ってくださ・・・」

 ブツリと電話が切れる音がした。

「ちょー。簡単に言ってくれるよなあ」

 弘が、そう不満を言っていると、電話の発信音とは別の電子音がヘルメットの中に響き、目の前右上に「レアメタル組成データ受信中」の表示が出た。「受信完了!」の表示が出ると、続いてメッセージが表示された。

『データ送付と同時にキミのスーツの探知機能をオンにしておいた。健闘を祈る。1号』

 という内容だった。

「まったく人使いが荒いんだから。まあ、でもやるしかないか。その兵器で人が大量に殺されでもしたら寝覚めが悪いからな」

 弘は、諦めたように言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ