第28回 “動画再び”
良平は、今日は富美香の両親が留守だということで、富美香の家に遊びに来ていた。
「ガシャーン!」
二階にある富美香の部屋で二人でプレイステーションのゲームをしていたら、外から何かかぶつかったような大きな音が聞こえてきた。
「何だろ?」
「事故かしら?」
二人が顔を見合わせたところで、怒鳴り声のようなものも聞こえてきたので窓を開けて二人して音のした右の方を見た。
すると、50メートルほど先の交差点の真ん中にトラックが止まっていて、その左側の畑の中にとても大きな黒い車が頭から突っ込んでいるのが見えた。その間に、男の人が一人立っているようだった。
「あ!事故だ!」
良平がそう言った直後、富美香が悲鳴を上げた。
「あの黒い車のところに変な怪物がいる!そばに、黒ずくめの人たちもいるけど、あれは・・・」
そう言って、富美香は恐怖の表情で絶句した。
その直後、
「とう!」
という声が聞こえて、トラックの前に立つ男と怪物の間に以前動画に撮ったヒーローが降り立つのが見えた。
「あっ!あれは!」
「お面ライダー!」
二人は驚きの声を上げた。
富美香が抱き着いてきたので、良平は富美香の左肩に手を乗せたが、
「そうだ!」
と言って、スマホを取り出し動画モードにすると、戦闘を始めた怪物とお面ライダーに向けた。
「え?また動画撮るの?大丈夫?」
「前回もあのあと特に何もなかったから大丈夫だよ。前回は、アップしてしばらくしてオーバーレイ広告ってのを載せたらすごい収入になったからね。新しいのを登録すれば、またお金儲けができると思うし」
「ホント?でも、私、少し恐いわ」
「大丈夫だって。遠いし、戦闘に夢中になってるからこっちに気づかないよ」
そう言って、良平は動画を撮り続けた。
今回は、前回と違ってお面ライダーが随分と苦戦しているようでかなり長い戦闘時間となったが、良平は根気よく撮り続けた。
最後はまた、お面ライダーの飛び蹴りが決まって怪物は爆散した。
「きゃっ!」
富美香は、改人が爆散したのを見ると短い悲鳴を上げて良平に抱きついて来た。
良平は、優しく抱き返すと富美香にディープキスをした。
二人はそのまましばらくキスをしていたが、やがてゆっくりと床の上に寝転がっていった。
弘は、治郎のオートバイの後席に乗ったまま、人通りがないところを見計らって変身を解いた。
しかし、その途端、猛烈な疲れが襲ってきて、治郎の背中にぐったりともたれかかった。
「なんか、すごく疲れたよ。もう今日は仕事するの無理だな」
弘はそう言うと、スーツの内ポケットからスマホを取り出して、会社に早退の連絡を入れた。課長に小言を言われたが、心底体調悪そうな声で話したらなんとか許可をくれた。
「治郎、悪いけど、うちまで送ってってくれる?」
弘は、治郎にお願いした。
「それは構わないが、今日のお前の戦い方はひど過ぎだぞ。スーツの力に頼り過ぎだ」
治郎は、少し弘の方に振り向きながら機嫌が悪そうに言った。
「うー、申し訳ない。まさか、避けられるなんていう事態が発生するとは思わなかったんで、少しパニックになってたかもしんない」
「まあ、お前は格闘すること自体の経験がなかったから想定外のことには対処できないことはわかるけど、お面スーツは体力まで30倍にするってわけじゃなさそうだから、ペース配分を考えて戦わないと疲れ果てて動けなくなったりしたら万事休すだぞ」
「確かにそうだな。次回からは、もう少し考えて戦うよ。それでも、予測してないことが今後も発生すると思うから、見てて気づくことがあったらアドバイスよろしくな」
「ああ、わかった」
治郎がそう言ったあと、弘がしゃべるのもおっくうなほど疲れていたせいもあり、二人とも無言で弘の家まで走って行った。
「じゃ、また土曜日にな」
家まで弘を送り届けると、治郎は短くそれだけ言って帰って行った。
弘は、軽くシャワーを浴びると、スウェットに着替えてから変身ベルトを装着してベッドの上に仰向けに寝転がり、ベルトの回復スイッチを押した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ー、やっばごれぎぼぢいいー」
と、つぶやいたが、かなりの疲労だったせいですぐに寝てしまった。
「おーい、弘いるかー!」
治郎の呼ぶ声がした気がして、弘は目を覚ました。部屋の中は真っ暗だったので、枕もとのデジタル目覚まし時計を見るために体を起こそうとして、自分がお面スーツを装着しているのに気づき、回復機能を使っていたことを思い出した。
すでに回復は終了しているようだったが、時計の表示は20時を回っていた。
廊下を誰かが歩いてくる音が聞こえたが、その足音が治郎のものだというのはすぐに分かった。直後、部屋の入り口のドアが開いた。
「真っ暗じゃねーか。やっばり寝てたか」
そう言いながら、治郎はドアのわきにある電灯のスイッチを入れた。
すると、ベッドにお面ライダーが寝ていたのでギョッとした。
「・・・ああー、回復機能使ってたんだな。ここで戦闘でもあったのかと思ってビックリしたよ」
治郎は、ふっと息を吐きながら言った。
「そうだけど、ベッドの上に寝転がってやってたら、いつのまにか寝ちゃったみたいだ」
「そうか。でも、お前、さっきそのスーツで畑の上に寝てただろ?ベッドが泥だらけになってんじゃないの?」
「えっ!?あー!そうだったー!」
弘はそう言うと、あわててベッドから飛び降りて、ベッドの上の自分が寝ていたあたりを見回した。しかし、ベッドはキレイそのもので、どこにも泥や土が付いてる形跡はなかった。
「あれ?全然大丈夫だぞ」
弘は、不思議そうにベッドの掛布団の上を手で触ってみながら言った。
「あ、そういえば、『変身を解くとスーツは自動でクリーンアップされる』って手引きに書いてあった気がする」
と、治郎が言った。
「ああー、確かにあったあった。クリーンアップの意味が解らなかったんだけど、こういうことかー。そういえば、今までも何度も地面に転がったけど、次に変身した時に汚れが気になるってことはなかったなあ」
「ああ、俺も気にならなかったし、土や砂が付いてたという記憶もないな」
「いやー、こんな機能もあるなんてスゴすぎるよこのスーツ!」
「でもさ、もう、変身解いてもいいんじゃね」
治郎は笑いながら言った。
「え?ああ、そうだな」
弘も笑いながら答えて、変身を解いた。
「お前、寝てたってことはお腹すいてるだろ?そう思って来てみたんだよ。コンビニで大盛のスパゲッティ買ってきたからいっしょに食べようぜ」
そう言いながら、治郎は右手に持っていたコンビニ袋を一旦目の前にもち上げてからテーブルの上に置いた。
「一緒にコーラも買ってきたよ。スパゲッティは温めてあるからすぐに食べられるぞ」
治郎は、そう言って左手に持っていたコンビニ袋をテーブルの上に置いた。
「ありがとー!助かるよ」
弘は、嬉しそうに言った。
「それでさあ、次の練習なんだけど・・・」
食事をしながらテレビのバラエティ番組を見つつ次の練習の打ち合わせをしていたが、しばくするとテレビの番組がニュースに変わった。
「本日、東洋市の郊外にまたしても怪人とお面ライダーが出現しました。その動画を入手しましたのでご覧ください」
冒頭で、いきなりアナウンサーが言ったため、二人はビックリして手を止めテレビに見入った。
「また、撮られたかー」
治郎が、困っような声で言った。
「確かに、そばにいくつか民家があったな。そこから撮られたんだな」
「トラックとメガクルーザーがぶつかった音が相当大きかったから、それにつられて誰かが家の窓から外を見て動画を撮ったんだろうな」
「そうだろうな。俺だって化け物とヒーローが戦ってたら動画撮るからな。でも、なんか嫌な予感がするなあ」
弘は、眉間にしわを寄せてそう言った。
それから、テレビの画面に弘と改人が戦っている様子が流れた。動画は、弘と改人が畑の中で戦っているところから始まっていたが、そこには、弘の攻撃がことごとくかわされ、しかも、その攻撃のどれもが相変わらずカッコ悪い様子が映し出されていた。
そのため、自分が攻撃するところが映るたびに、弘は「ああ!」とか「うう!」とか、うめき声を上げていた。
動画は、トラックの斜め前方から撮られていたため、後ろにいた治郎はまたしても映っていなかった。
動画が終わると、男女二人のアナウンサーがこちらを向いた。治郎は、チラッと弘の方を見たが、どんより暗くなってスパゲッティを見つめたまま固まっていた。
「今回は、飛び蹴りを出すときに『フライング・キィーック』と言ってますよね」
男性アナウンサーが言った。
「ええ。でも、別の技なのかと何回か見直して確認しましたが、前の『お面キック』との違いはわかりませんでした」
女性アナウンサーが答えた。
「しかし、『フライング・キック』って、飛び蹴りをただ日本語に直訳しただけじゃないですか?ブッ」
「そんな・・・ブフッ、そんなこと言ったらカワイソ・・・ブフフっ」
「どういう大人の事情かわかりませんが、やっぱり技の名前はイケてませんでした・・・ブフフッ」
二人のアナウンサーは、笑いをこらえながらしゃべっていた。
それを聞いた弘と治郎は、「あ!」「あ!」と、ほぼ同時に声を上げた。
「そういえばそうだよ!誰だこんなダサい名前つけたの!」
と、治郎がまず言った。
「えー!?名前付けたのお前だろ!」
「いや、お前だったと思うぞ!大体、お前が使う技だし!」
「あ、そんな理由で責任回避かよ!ひでー!」
「いや、だから俺じゃないって!てか、今更どっちでも良くないか?」
治郎は自分が名付け親だったような気がしてきたので、話を終わらせようとした。
「恥かくのは俺じゃないか!」
「でも、顔は見えないから大丈夫だよ」
「ちっとも慰めになってないぞ!」
そうやって、二人は口論を始めたが、弘が動画に映った自分の姿を思い出してすぐに話題を変えた。
「でも、やっぱり今回もカッコ悪かったよ。結構、練習したのにな」
弘は、すっかり暗い雰囲気になっていた。
「殴り方、蹴り方と、当てようとしている位置は大分よくなったんだけど、なんか、やっぱり全体的にカッコ悪いんだよなあ。お面ライダースーツを着てれば体は思い通りに動かせるはずなんだけどなあ」
治郎は難しい顔で言った。
「俺としては、お前のカッコを真似してるつもりなんだけどな」
弘は、少し残念そうに言った。
治郎は、さらに難しい顔になって言った。
「これはたぶん・・・・」
「たぶん?」
「お前には先天的に格闘センスがないってことだな!」
「えー!?それひどくね?・・・・・あ、でも、小学校の体育の時間に校庭でみんなでラジオ体操してたとき、いつもより気合を入れて大真面目にやってたら、先生に『佐々木くん!何ふざけてるの!ちゃんとやりなさい!』って怒られたことがあったなあ」
「ああー、やっぱりか・・・・・すまん!俺が悪かった!お前の格闘センスじゃカッコよく戦うのは未来永劫無理だ」
「えー?じゃあ、ずっとこのまま?」
「まあ、仕方あるまいな。ただ・・・」
「ただ?」
「攻撃をする前後に決めポーズをとることはできるだろうな」
と、妙な案を出して来た。
「ん?それなんだ?」
「たとえば、左を前に半身に構えて右手でガッツポーズ作るとか、柔道の開始時のように、両手を緩く開いて相手に向かって身構えるとかだな」
「ああ、なんとなくわかった。それなら出来そうな気がする」
この案は二人にとって名案だと思われたので、次の土曜日に練習してみることになった。
だが、格闘しているときのカッコ悪さは相変わらずだったので、それとアンバランス過ぎて、
「なんだこいつ!?決めポーズだけかよ!逆にカッコ悪いぞ!」
と、戦闘の様子を目撃した人たちから密かに言われるようになるとは、二人ともこの時点では思いもしなかった。




