第27回 “秘密捜査官”
トラックの運転手は、そう言いながらメガクルーザーの方へ近寄っていったが、メガクルーザーの運転席と助手席から、全身黒ずくめの服で、黒いプロレスラーのような覆面を被った男が一人ずつ降りてきたので、その異様ないでたちにギョッとして立ち止まった。
「な、なんだお前ら?プロレスラーの体格じゃないし、何者だ!?」
トラックの運転手は、その黒ずくめの二人の向かって怒鳴った。
その声が合図かのように、メガクルーザーの右側後席のドアが開いて、体中を灰色の毛で覆われた怪物が2本の足で降り立った。
その怪物は、手の指先からは鋭い爪が伸び、赤ら顔のとがった口の先端からは2本の歯が下に向かって生え、頭部の上部左右からはそれぞれ斜め上に向かって耳がピンと伸びていた。
「なっ!なんだお前!」
トラックの運転手は、その怪物に向かって怒鳴った。
そこで、治郎のオートバイがその場に到着した。
そして、メガクルーザーから降りてきた改人を二人して注視すると、弘が言った。
「あれは・・・・・ネズミだよな」
「ネズミだな」
「何ネズミかな?」
「ニョッカーだから、ドブネズミってことでいいんじゃねえか?」
と、治郎が答え、二人して笑った。
それから、弘は治郎に向かって、
「じゃあ、行くよ」
と、言ってから、オートバイの後席の上に立つと、改人に向かって、
「待てい!」
と、大声で叫び、
「とうっ!」
という掛け声とともに前方に高く飛び上がった。
トラックの運転手が、その怪物のただならぬ雰囲気に恐怖を感じて後ずさろうとしたその時、
「待てい!」
と、どこからか男の声がして、続いて、
「とうっ!」
という掛け声が聞こえ、それと同時に自分の頭上が暗くなったので見上げると、10mほどの高さからヒーローっぽい格好をした男が降りて来て、自分と怪物のちょうど真ん中あたりに右ひざをついて着地した。それから、ゆっくりと立ち上がって胸を張った。
「あれ?こいつはYoutubeにアップされてニュースでも取り上げられてたヒーロー?ホントにいたんだ!」
と、驚いて、お面ライダー44号の姿を後ろからまじまじと見つめた。
「しかし、今、10メートルぐらいの高さから降りて来てなんでもないように着地したよね。やっぱり本物?」
そうつぶやいて、目をキラキラさせながら見つめた。
「でも、動画と違ってカッコいいじゃん!」
と、さらに目をキラキラさせて見つめた。
「ちっ!やっぱり追って来てたのはお面ライダーだったのか!余計な奴が来たぜ!」
と、改人は弘に向かって毒づいた。
「えっ?ホントにお面ライダーって言うんだ。カッコ悪!」
と、トラックの運転手は残念そうに言った。
弘は、改人に向かって突進し接近戦の格闘になったが、いつものように殴るときや蹴るとき姿は実にかっこ悪かった。
「えっ?えっ?えっ?あの動画みたいにすげーカッコ悪いんだけど。最初だけかよ!なに、この人」
と、呆れ顔で二人の戦いを見つめていた。
そこで、自分の右肩が軽くトントンと叩かれたので振り返ると、20代半ばと思われる引き締まった体の男が立っていた。
「そこじゃ巻き添えをくって危ないよ。こっちに来て」
治郎は、トラックの運転手を、改人と弘から陰になるようにトラックの後ろに誘導した。
「あんた誰?」
トラックの運転手は、トラックの後ろに回ると治郎に聞いた。
「俺?俺は、あの、お面ライダーの友達」
「友達?・・・・あああー、仲間ねー」
と、その男は勝手に合点がいったという顔をした。
「いや、子供の頃からの友達だけど?なんか変な想像してない?」
「いやいや、友達とか言って、インターポールの秘密捜査官かなんかでしょ。わかってるって!」
トラックの運転手は、ニヤニヤした顔で言った。
「なに勝手に決めてんの。俺はただの自動車修理工だよ」
「またまたー・・・・あ、そうか!秘密捜査官であることがバレたらまずいもんね。だから、それは世を忍ぶ仮の姿ってやつね。なるほどなるほど」
と、トラックの運転手は一人で勝手に感心した。
そこで、雑兵が一人、治郎にとびかかって来たので、治郎は体をかわしながら右の膝蹴りをみぞおちにお見舞いして倒した。
続いて、後ろからもう一人とびかかって来たので、振り向きざまに右回し蹴りをこめかみに放って、これも倒した。
「うわっ!すげっ!強えー!」
トラックの運転手は驚きの声を上げた。
「ほらー、やっぱりそうだー。秘密捜査官なんでしょ?」
「いや、だからただの修理工だって言ってるでしょ!」
治郎はイライラして答えた。
「ああ、そうね、そうだよね。大丈夫、大丈夫、内緒にしとくから」
「なんだこの人。付き合いきれん」
治郎はあきれ顔で言って、弘と改人の戦闘に視線を戻した。
そのころ、弘は改人との戦闘に苦戦していた。
「なんだそのぬるいパンチやキックは。スピードが自慢の俺には止まって見えるぞ!」
見た目がネズミっぽい改人は、どや顔で弘に向かって大声で言った。
戦闘開始時から、弘のパンチとキックはことごとくかわされていたのだ。
「くそっ!お面ライダーの俺より速いヤツがいるなんて!」
弘は、全速力で移動しながらパンチやキックを放っていたが、改人の方が明らかにスピードがあり、完全に見切られていた。
弘は、今までの改人との戦いでは感じたことのない焦りを感じていた。
「こうなったら、フライング・キックで一気にかたをつけるしかない!」
そう言ってから、いつもの通りの掛け声でフライング・キックを放ったが、それも余裕でかわされた。
「お前、頭悪いのか?とび蹴りなんて避けてくださいって言ってるようなもんだろ!」
「卑怯者!避けるんじゃねーよ!」
「バ、バカかお前は!避けるに決まってるだろ!」
「ちくしょー、もう一度だ」
と、立て続けにフライング・キックを5発放ったがすべかわされた。
弘は、体力を消耗するフライング・キックを連発したため、かなり息が上がって来ていた。
「よーし、こうなったら最後の手段だ」
弘はそう言うと、さらにもう一発フライング・キックを放つ体勢を取り、「とうっ!」という掛け声で飛び上がり、改人に向かって「ふるあいーーーんぐ」と、叫びながら降下した。
「だからー、何度やっても無駄だって言ってるだろ!」
「あ、全裸の巨乳美女!」
弘は、フライング・キックの体勢のまま空中で怪人の右後ろを指差しながら言った。
「なに!?」
改人は、思わず弘が指さした方向を振り返った。
その直後、弘のフライング・キックが改人の後頭部に命中して、そのまま改人を地面に叩きつけた。
弘が飛び下がると同時に改人は爆散した。
「ふう、コイツがどスケベで良かった」
弘は、心底安堵したという体で言った。それから、
「あー疲れた。もう動けねー。今日の回復時間は3時間だな、きっと」
と、つぶやいて、その場に大の字に根っころがった。
「うわー!決め技の掛け声はかっこいいんだけど、あの曲がった足はなに?・・・あ、でも、なんとか命中したね。・・・・って、相手爆発したよ!マジかっ!」
トラックの運転手は、戦闘の一部始終を見ながらつぶやいていた。
「正義の味方っぽいけど、よくわからんヒーローだな。ぶふっ!」
トラックの運転手は、笑いをこらえながら納得して頷いた。
「あんた、大丈夫だったか?」
横で見ていた治郎は、改人が爆散したのを確認するとトラックの運転手に聞いた。
「大丈夫」
トラックの運転手は、しかめっ面をして下を向いてそれだけ答えた。
治郎は不思議に思ったが、
「大丈夫なら良かった。じゃ、俺たちはこれで」
と言ってから、弘のところに行って助け起こすとなんとか歩かせてオートバイの後席に乗せ、元来た方へ戻って行った。
二人の姿が見えなくなったところでトラックの運転手は、
「ぶーーーーー!ぎゃははははは!なんだあれー!」
と、腹を抱えてしばらく笑い続けていた。




