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第24回 “消えたブリザード”

「うわービックリしたー。忘れてたよ。背中に危険なタンクを背負ってたんだ。あの液体には注意しないと」

 弘は、寝転がったまま顔だけ起こして改人の方を見ながら言った。お面スーツのおかげで体は無傷だった。

 改人は、まだ、車から這い出して来る途中だったが、上半身の大部分がすでに車外に出ており、すぐにでも立ち上がって向かってきそうだった。

「起き上がって水鉄砲で攻撃して来られたら面倒だな。でも、近寄るのはもっと危険な気がする」

 弘はそう言うと、素早く起き上がって、何か武器になりそうなものはないかと、辺りをキョロキョロと見回した。

 すると、右前方の道路上に先ほど改人が飛ばした後部座席のドアがあるのが目に入ったので、そっちに向かって走った。お面スーツのスピードのおかげで瞬時にドアのところまでたどり着いてそのドアの窓枠を右手で掴んだが、その直後に、改人が下半身を車に残した状態で上半身だけ起こし、弘に向かって危険な液体を噴射してきた。

「おわっ!」

 弘は、ドアを掴んだままあわてて飛び下がったが、弘が止まった途端、改人は再び液体を噴射してきた。

 弘は、今度は右横に飛んでそれを避けた。

 そこで改人は、車から出ようとさらにさらに体を起こす動きに出た。それで、いったん噴射攻撃が止まったので、弘は、ドアの内側が下になるように持ち直すと、体の左側に横に振りかぶってから改人の頭を狙ってフリスビーのように水平に回転させながら投げつけた。

「お願い、当たってー!」

 弘は叫んだ。

 ドアは、腹這いになったまま上半身を起こして弘の方を見ていた改人の顔面に向かって飛んで行ったが、当たる寸前に改人が地面に這いつくばったため頭部には当たらなかった。

「ちぇっ!」

 弘はそうつぶやいたが、次の瞬間、

「ガスッ!」

 という、何かに刺さる音がした。

 そのドアは、改人が背負っているタンクの片方に命中して大きな破孔を開けていた。

 その直後、その破孔からタンクの中の液体が噴出して来て、それを背負っていた改人の頭部と右半身にかかり、改人の体をみるみる溶かしていった。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁーーー!」

 改人は、左手を延ばしながら絶叫した。

「うわっ!ちょっと無理!」

 弘は、改人が溶けていく様子のあまりグロテスクさに目を背けた。

 体の半分が溶けた改人はぐったり道路にのびて動かなくなり、次の瞬間、爆散した。


 目を背けた弘の視線の先20メートルほどのとろこに治郎が立っていて、治郎の足元には先ほど放り出された雑兵が倒れていた。

「こいつ、あんなスピードで自動車から放り出されたのに元気に向かってきたから、とりあえずおねんねしてもらったよ」

 治郎はニヤリとしながら言った。

 弘は治郎のところまで移動して、

「あー、全力で走って疲れた」

 と言ってから、首をぐるぐると回した。そして、

「あの液体、本人も溶けるんだな。なんか残念な改造だ」

 と、心なしか寂しそうなトーンで言った。


 首を回し終わると、治郎に向かって聞いた。

「しかし、お前のマシンすげーな!一体、何キロ出るんだよ」

「350キロは出るはずなんだ」

「なにー!ズコすぎる!」

「実は、このオートバイ、見た目はH2 SXだけど、エンジンと足回りはH2Rのものを移植してあるんだよ」

 治郎はニヤリとして言った。

「なんだそれ?どう違うんだよ」

「H2Rってのは、基本的にはレース用のオートバイで公道は走れないんだけど、その分、エンジンがかなり高出力になってて、H2 SXが200馬力なのに対し、310馬力にもパワーアップされているんだな、これが」

「310馬力ぃ~!オートバイがか?」

「そうだ。ただ、そのエンジンのままだとマメなメンテナンスが必要なんで、俺のは手がかからないように少しデチューンしてあるけどな。それでも、毎日、状態のチェックは必要だ」

「うえ~、想像もできん世界だ」

「オリジナルのH2Rは400キロ出た記録があって、動画もネットに上がってるな」

「うそーん!それって怖くないの?」

「まあ、それなりの腕がないとそのスピードで操縦するのは無理だな。俺の腕じゃ到底無理だ」

「でも、お前さっき320キロで走ってたよな」

「ああ、たぶん350キロぐらいまでなら制御できる。といっても直線だったらの話だけどな。そこから上の50キロは別次元だと思う」

「うーん、スゴ過ぎてついていけん」

 弘は、あきらめ顔で言った。

 治郎は笑いながら、

「じゃあ、お前のブリザードのところまで戻るぞ。後ろに乗れ」

 と、右手の親指で自分のマシンの後席シートを指しながら言った。

「ああ、わかった・・・あ!オートバイに乗るならヘルメットがいるけど、俺のヘルメットはバイクの中に置いてきちゃったよ!」

「・・・なに言ってんだかなあ。かぶってるじゃねーか。めちゃくちゃ頑丈なヤツを」

 治郎はあきれ顔で言った。

「え?」

 弘は、そう言って両手で自分の頭を左右から触ったが、当然のごとくそこには、お面ライダースーツのヘルメットがあった。

「あ、そーか。わはははは」

 弘は、照れくさそうに笑った。


 ブリザードを置いてきたと思われる場所に戻ってみたが、ブリザードは見当たらなかった。

「あれ?確かにこの辺に置いてきたと思ったんだけど・・・」

 弘は不思議そうに言った。

 少し辺りを探したが、道路上はおろか周りの畑のどこにも見当たらなかった。

 元の場所に歩いて戻って来ながら考えていたが、

「あ!キーを付けたままだったから、もしかして盗まれた?」

「ああ、そうかもなー」

「なんてことだ!実にけしからん!」

 弘は腹立たしげに言ったが、そこで、収納ボックス内のヘルメットの中にスマホも入れていたのを思い出した。

「あー、スマホも入れてあったよ!そっちの方が困るかも」

「え?スマホ入ってんの?じゃあ、GPSがオンになってればそれで探せるじゃん」

「あ、そうだ!確か、GPSはオンにしてたと思う」

 治郎は、自分のスマホを出して、弘のスマホを検索した。

「あー、ここから北東方面に1キロほど行ったとこにあるな。あそこの左に折れている道から行けそうだ」

 と、前方を指して言った。

「ああ、そうだな」

 弘は、治郎のスマホを覗き込みながら言った。

「じゃ、乗れ」

 弘がオートバイの後席にまたがると、GPSが指している場所に向かって発進した。


 そのころ、弘のブリザードは、見るからに不良といったいで立ちの20歳前後と思われる三人組の男たちの手にあり、その一人がそれを押して三人で大声でしゃべりながら歩いているところだった。

 そこに、お面ライダー姿の弘を後席に乗せた治郎のオートバイがやって来た。

 弘は、オートバイを降りるとその男たちに近寄り、後ろから声をかけた。

「おい!人のバイクをどこに持って行くつもりだ!」

 振りむいた三人は、そこに、少し前にしきりにテレビで流れていた動画に映っていたヒーローのような男が立っているのを見て驚いた。

「あんた、あのカッコ悪いヒーローか?」

 バイクの右を歩いていた男が弘に向かって言った。

「カッコ悪いは余計だ!そのバイクは俺のだ!」

 弘は、少し怒った口調で言った。

「え?これ、あんたのだったのか?」

 一番右にいた、黒いTシャツを着て、首からドクロのネックレスを下げた男が言った。

「そうだ!返してもらうぞ!」

 弘は、1歩前に出て言った。

「ああ?・・・あんたのだって証拠あんのかよ」

「なんだお前たち!物を盗んどいて開き直るのか?」

 オートバイを停めて弘の右後ろにいた治郎が怒鳴った。

「あー?どうして盗んだってわかるんだよ」

「なんだと!」

 治郎は、黒Tシャツの男に殴りかかろうとしたが、弘が右手を横に伸ばしてそれを制した。

「いいよ・・・ふう。しょうがないなあ」

 そう言うと弘は、足元の地面に転がっていた長径が30センチほどの楕円形の重そうな石を拾い上げて両手で左右から挟みこむように持った。そして、それほど力を込めたという感じもなく左右から押さえつけて粉々に砕いた。

 それを見た途端、三人組は、驚愕の表情で硬直した。

「返してもらってもいいかな?」

 弘は3人に聞いた。

「あ、はい、はい、すいませんでした!」

 三人そろってペコペコとお辞儀を繰り返すと、ブリザードのハンドルを弘に預けて全速力で逃げて行った。

「まったく、困ったやつらだ。じゃあ、帰るか」

 弘は、治郎に向かって苦笑しながらそう言ってからブリザードに跨った。

「まあな。どこにでもいるな、ああいうの」

 やれやれといった顔で答えて、治郎も自分のマシンに跨ろうとしたが、

「あ、そうだ」

 と言うと、ブリザードに近寄り、しゃがみこんでマシンの下を覗き込んだ。。

「ああ、これならなんとかなりそうだな。スタンドのパーツがうちにあると思うから、お前のブリザード、今日はうちに置いて帰れよ。直しとくから」

「お、そうか!それは助かる!慌ててたから思いっきり蹴っちゃったもんなー。あんなに、見事に飛んでくとは思わなかったけど」

 笑いながら弘は言った。

 そして二人は治郎の家へと向かった。


「うわっ!やべー!あいつやっぱり本物だよ!」

「だよだよ。あの怪力は人間業じゃないぞ!」

「でもさあ、あのバイク原付じゃなかったか?」

「ああ、原付だったな。音もそうだし、ナンバーもそうだったよ」

「ヒーローなのに原付バイク?なんだそれ?」

 三人は大声で笑った。


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