第17回 “作戦会議”
次の土曜日の午後1時前に、弘はブリザードに乗って治郎の家を訪れた。
治郎は作業場で道具を片付けているところだった。
「うーす治郎、仕事は終わったみたいだな」
弘は治郎に後ろから声をかけた。
「おお来たか。これを片付けたら終わりだからちょっと待ってろ」
振りむきながらそう言うと、手早く道具をしまい、手を洗ってから着ていたつなぎをシャツに取り替え、ブリザードにお尻を載せていた弘のところまでやって来た。
「お待たせ。ところで昼飯は食った?」
「いや、まだだ」
「じゃあ、途中にあるファミレスで昼飯食いながら作戦会議だな」
車の少ない裏通りでは二人は並走していたが、幹線道路に出たところで治郎のマシンが先行し、前後に並んで走っ行った。
その間弘は、治郎のオートバイをうらやましそうにずっと見ていた。
ファミレスに入ると、店員にお願いして奥の方の周りに人がいない席にしてもらい、それぞれにドリンクバー付きのランチを注文した。
「いやー、まいったね。あの動画、思った以上に話題になってて、ほとんどの人が観てるみたいだな。うちに来たお客さんにもその話をしてくる人が多かったよ」
治郎は、少し眉間に皺を寄せながら言った。
「ああ、うちの会社でもかなり盛り上がってるよ。月曜と火曜は遅くまで外回りをしてて、戻ってきたら課長しかいなかったから気づかなかったけど、水曜に昼過ぎまで事務所にいたら、いやもう、色んな人が話を振って来て、俺にも『どう思うか』とか聞いてきて答えに困ったよ。うちの隣のナオミさんとクミちゃんまで知ってたしな」
「まあ、テレビのニュースで何度も取り上げてるみたいだから、小学校でも話題になってて不思議じゃないな」
「はー。・・・困ったのもそうだけど、もう、話振られるたびに恥ずかしくしてしょうがないよ」
弘は苦笑いしながら言った。
「まあ、そこは慣れるしかないな。1号さんの話通りだとすると、マスコミは追跡調査をしないみたいだし、そろそろ取り上げる回数も減って来ると思うぞ」
「だといいんだけどね」
「まあ、それはなるようにしかならないからひとまず置いといて、で、ニョッカーが根拠地にしてそうな場所はわかったか?」
「ああ、あの場所から北の採石場ってことだと、該当する場所が3か所あったな」
そう言ってから、弘は用意して来た市内の地図をバックパックから取り出したが、そこで注文したランチが来たので、一旦、自分が座っている椅子の窓側に置いた。
ウエイトレスが下がると、二人ともランチを通路側の方に押しやり、弘が地図を開いてテーブルの上に乗せた。
「この、赤丸を付けたところがその場所だ。話しやすいように、①、②、③と番号を振っといた」
治郎は、少し難しい顔をしてその地図に見入った。
「一つは結構遠いな。ニョッカーの雑兵は『少し南に』って言ってたから、一番可能性が低いかな。最後にするか」
「そうだな。じゃあ、ここから一番近い、この②から行くか」
「ああ、そうだな。ただ、正面から入ろうとしたら止められるんじゃないか?何か作戦はあるのか?」
「一応考えた。3つともここらよりは少し高い丘の上にあるけど、進入路の裏の方角から登って行けば採石場を見下ろす位置に出られるみたいだから、そこからこっそり様子見をしたらいいじゃないかと思う。お面ライダーに変身すれば、登っていくのはのは簡単だろうし」
「なるほど。その方がいいな・・・でも、俺はどうするんだよ。様子見るのも、二人の方が早くやれるし見落としも少なくなるからいいと思うんだけどな」
治郎は、少し不満そうに言った。
「それは考えてある。一緒に行ってもらうつもりだ」
弘は、にやりとして治郎に言った。
「あ、なんだよその顔。へんなこと考えてるだろ?」
「へんなことでもないよ・・・・・・俺がおぶっていく」
弘は、さらににやりとして言った。
「えー!マジか!やだよそんなの!」
治郎は、思わず少し大きな声を出して反論した。少し離れた席にいた他の客がこっちを見た。
「おい!目立つことするなよ」
弘は、小声で治郎をたしなめた。
「お前が変なこと言うからだろ!」
治郎が小声で反論した。
「でもさあ、他に方法があるか?お前の今の格好は、長袖のカッターシャツに綿パンだぞ。途中が密集したやぶとかになってたら、採石場の下にたどり着くだけでも大変だと思うけどな」
「う、確かに」
「まあ、優しくしてやるからさ」
「なんだよそれ!・・・ちっ!仕方ないか」
「よし。そうと決まったら、まず腹ごしらえだな」
「おう」
そう言ってから、弘が地図をしまうと、二人はそれぞれのランチを自分の目の前に引き寄せた。
治郎が自分の生姜焼きを一つ口に入れたが、途端にしかめっ面になり、
「う・・・かなり冷めてる・・・教訓。作戦会議はお腹がいっぱいになってからやりましょう」
「・・・俺のもだ」
それからしばらくは、二人とも冷めたランチを黙々と食べていたが、弘が突然、思い出したという顔でおかずを口に頬張ったまま治郎に言った。
「あ、そうそう。俺、一つ不思議に思っていることがあるんだよ」
「なに?」
治郎は、顔を上げて弘の方は見たが、口はモグモグさせたまま聞き返した。
「今まで見た改人も、その手下の雑兵も、みんな日本語しゃべってただろ?お面スーツはEUで開発されたって言ってて、1号さんもわざわざフランスから来たみたいだから、ちょっと違和感があってね」
「ああ、そう言えばそうだな。俺はなんの疑問もなくすんなり受け入れてたよ」
治郎は笑いながら言った。
「俺も、最初のカブトムシ男の時は何も思わなかったんだけど、先週、あの人数が全員日本語をしゃべってるのを聞いてたらちょっと違和感があってね」
「それ、1号さんに聞けばわかるんじゃね?」
「ああ、そうか。そうだな。でも、変身しないと電話が掛けられないから、採石場のそばに着いてからだな」
弘がそう答えると、二人とも自分のランチに視線を落として、また、黙々と食べ続けた。
「よーし、食った食った。じゃあ、行くか!」
治郎がそう言って立ち上がると、
「おう!」
と答えて、弘も立ち上がりレジに向かった。
「あー、ここは俺が出すよ」
「え?なんでだよ?」
「いや、お前には色々と教えて貰ってるし、先週の戦闘の時も助けてもらったしで、コーチ料アンド助っ人料だよ」
「おお、そうか。それは良い心がけだね、キミ。じゃ、ごちそうさま」
治郎はそう言って笑うと、先に外に出た。
弘は、レジ係に1万円札を渡すと、レジ係がおつりを用意している間にその治郎の後ろ姿を真顔で見つめていた。




