第15回 “それからの二人”
「電話は1号さんからだったよ」
弘は、変身を解きながら言った。
「ああ、部屋の中は静かだから聞こえてたよ」
それから急に真顔になって、
「ところでさあ、昨日別れた後にニョッカーの会話を思い出してたんだけど、何か、あそこじゃない別の場所を探してたみたいじゃなかったか」
と、少し難しい顔をして言った。
「ああ、それは俺も思った。あそこが目的の場所じゃない感じだったな」
「てことは、もう、うちの市内のどこか別の場所に拠点を築いているってことかな」
「でも、そのあとに、ここを拠点にするのも悪くないみたいなことを言ってたから、まだ拠点は築いてないけど先に来て何かをやってる奴らがいるってことかな?、って俺は解釈したんだけど」
「なるほどー、それも考えられるな」
「あとさあ、使用されていないから違う、とか、すこし南にずれた位置に来た、とか言ってたよな」
「あー、確かにそんなこと言ってたな」
「てことはさあ、あの場所の北にある、現在も稼働している採石場のどこかに用事があったってことじゃないのかな」
「そうだな、そういうことになるな」
それから二人は「うーん」とうなってしばらく考え込んでいたが、
「ちょっとさあ、昨日の場所の北側のどこに稼働している採石場があるかを調べて、来週行ってみないか?」
と、弘が言った。
「うん、そうだな。本当に拠点でも築かれてて、ニョッカーがもっとたくさんやって来たら困るしな」
「すでにたくさん来ているようだったら、1号さんに連絡して対策を考えてもらおう」
「そうだな。俺たちはニョッカーのことも良くわかってないし、他の情報も全然ないからな」
知らず知らずのうちに、弘だけでなく、治郎も悪と戦うヒーローのようなことを考えるようになっていた。
「じゃあ、該当しそうな採石場の場所は俺が調べておくよ。その前に、俺もその手引き読むよ。1号さんは、このベルトには色んな機能が付いてるって言ってたからね。1号さんに連絡するためにも、電話の掛け方を調べないといけないし」
弘は、少し笑いながらそう言うと、テーブルの上に置いてあった手引きを取り、背中を壁に付けてベッドに座ってから読み始めた。
「いや、ホントに結構色んな機能があったよ」
と、言ってから、治郎は再びゲームをやり始めた。
「おお、そうか。それはちょっと楽しみだ」
治郎はそのまましばらくゲームをしていたが、ふと、弘の方から何も音がしなくなっているのに気づいたので振り返ってみると、壁に背中をもたせかけたまま、少し体を左に傾けた姿勢で眠り込んでいた。
治郎は少し微笑むと、
「今まで格闘とかやったことないからな。精神的にも疲れただろう」
そう言ってから弘をベッドの上に寝かせて、その上から毛布をかけた。
それから、ベッドの上にあった手引きを取ってテーブルの上に置いた。
「さあ、じゃあ俺は帰るか。次の練習の日時の打ち合わせは電話でもいいしな」
そう言って治郎は、弘の部屋から出て行った。
良平は、60キロほど離れた別の市から大学に通うために出て来て一人暮らしをしていたが、住んでいるアパートは採石場跡地から富美香の家に行く途中にあったので、戦いを目撃した帰路、さすがに肉片のシミがそこら中についてる状態で家に帰すと親が心配すると思い、自分の服を貸すから俺のアパートで洗濯して行った方がいいと富美香に提案していた。
この時の良平は、素直に富美香のことを心配しており、下心は少しもなかった。
富美香も自分の今の状態がとても気持ち悪かったので、その提案を喜んで受け、逆にシャワーを貸してほしいと良平にお願いしていた。
良平の部屋は、脱衣場に洗面台があり、洗濯機も同じ脱衣場の洗面台のとなりにあった。
「着てた服は洗っておくから洗濯機の中に入れといてね。乾燥機もあるからすぐに乾くよ」
良平は、脱衣場とそれに続く風呂場に富美香を案内しながらそう言った。
そして、自分も気持ち悪かったので、富美香がシャワーを浴びている間にタオルを持って台所へ行き、パンツ一枚になって給湯器のお湯で濡らしたタオルで全身を拭いてからスエットの上下に着替えた。それから、女の子が着てもおかしくなさそうなTシャツとスエットの上下を出して脱衣場に持っていき、
「着替えは洗面台の上に置いとくよ。ドライヤーは洗面台にかかってるからね」
と、声をかけた。
「うん、ありがとう」
と、富美香から返答があったのでついそちらを見たら、すりガラスにぼんやりとではあるが、富美香の裸のシルエットが映ったのでドキンとした。
それから、富美加が脱いだ服を洗おうと洗濯機を覗いたら、富美香の下着の上下が入っていて、さらにドキンとした。
それから慌てて、自分の脱いだ服を持って来て洗濯機に入れ、スイッチを入れて脱衣場を出たが、今見た富美香のシルエットと下着が頭から離れず、一人で赤くなって下を向いて正座をしていた。
10分ほどして、ドライヤーを使っている音が聞こえてきた後、富美香は脱衣場から出て来たが、化粧が落ちた顔がまた新鮮で、さらにドキンとしてしまった。
「あ、バスタオルはそこのハンガーにでもかけといて。ちょっと飲み物出すから。ペットボトルのお茶でいいかな」
良平は、富美香の顔をまともに見られず、富美香に背を向けて冷蔵庫の方へ移動しながらそう言ったが、いきなり後ろから富美香に抱きつかれて足を止めた。
「あたし怖かった・・・怖かった」
富美香はそう言って、良平を抱きしめている腕に力を入れて来た。
良平は、富美香の方に体ごと向き直ると、富美香が可愛そうになって抱きしめ返した。
「もう大丈夫だよ。あそこを離れるとき気づかれてないのは確認したからね」
良平は、富美香の頭にほほを優しく押し付けながらそう言った。
「あれは何だったの?爆発した後に飛んできたものは血の匂いがしたから本物だったわ」
震える声で富美香は言った。
「わからない。わからないけど、ヒーローのような恰好をした人は10メートル以上の高さまでジャンプしてたのに、周りにはクレーンなんかの人間を釣り上げられそうなものは何もなかったし、飛び上がり方と落ち方にワイヤーアクションのような不自然さがなく、本当に人がジャンプしているように見えたから本物としか思えなかったよ。怪人の方も、角を折られたときに鼻血を出してたし」
「そう、そうよ。動きに不自然さがなかったし、確かに怪人は鼻から血を流してたわ」
「そうだ!」
良平は、そう言ってから富美香を離して顔を見ながら言った。
「動画を撮ったんだから、それをYoutubeにアップして皆に見てもらえば、何かに気づいて教えてくれる人がいるかもしれないよ」
「あ・・・そうだった。あたしのスマホで撮ったんだったわ」
「じゃあ、僕のチャンネルがあるから、そこにアップしてみようよ。うちはWi-Fiあるし」
そう言ってから、富美香にスマホを出させ、二人で床に座ってその動画をアップロードした。
「コメントに、動きに不自然さがなかったこと、周りに人を釣り上げるような装置どころかスタッフみたいな人が誰もいなかったこと、爆発した怪人の破片からは血の匂いがしたことを書いておこう」
良平はそう言ってから、そのコメントをアップした動画に付け加えていたが、再生される動画を見ていた富美香は、
「あたし、やっぱり怖い!」
と言って、再び良平に抱きついてきた。
良平は、ちょうどコメントを書き終わったところだったので、富美香を優しく抱きしめて頭の後ろを手でしばらく撫でていたが、急にいとおしくなって富美香にキスをした。
キスをされた富美香が、抱きしめている腕に力を込めると同時に強くキスを返して来たので、二人はしばらくそのままキスをしていたが、どちらからともなくゆっくりと床に寝転がっていた。
良平は、そこで先ほどの富美香のシルエットが頭に蘇ってきたため、無意識に富美香の胸を揉んでいた。
富美香はブラジャーを着けておらず、富美香の胸の柔らかい感触が手に伝わってきたので、良平は、もう完全にスイッチが入ってしまい、気が付いたら、スエットとTシャツの下から手を入れて直接胸を揉んでいた。
しかし、富美香は嫌がらないどころか、さらに強くキスを返してきた。
良平は、冷蔵庫にあった冷凍食品のチャーハンとハンバーグで富美香と一緒に夕飯を食べてから、すっかり乾いた服に富美香を着替えさせ、夜の8時ごろに富美香を自宅まで送って行った。
富美香の家の玄関の前で分かれて自分のアパートに帰ってきた良平は、仰向けに床に寝転がると、
「やったー!ついに俺も男になったんだー!今日は、いい日だったー!」
と、お面ライダーと改人の戦闘を見て怯えていたことをすっかり忘れて、長いことにやけていた。




