第14回 “暴かれた秘密”
そこで、弘のスマホの着信音が鳴った。
「ん?なんだろ?」
弘は変身を解くと、枕もとに置いたスマホを取った。
「ああ、Lineのニュースだ。そういえば、昨日は疲れ果ててテレビも見ないで寝たからニュース見てないな。どれどれ・・・」
そう言って、Lineのニュースを読み始めたが、
「え!?」
と、大きな声を出した。
「ん?どうした?」
「『本物のヒーローか?ヒーローと怪人の戦いが目撃される!』だって!」
と、弘は緊張した声で言った。
「なに!?」
治郎も驚いて、ゲームを放り出し、弘の左側に座ってスマホを覗き込んだ。
「あ、動画のリンクがついてる」
弘はそのリンクをタッチした。
映し出された動画は、まさに、昨日、弘が改人と戦った時のシーンだった。
「撮られてたのか!ヤバいな!」
治郎が緊張した声で言った。
「確かにヤバい!・・・俺の戦ってる姿がカッコ悪いよ!」
「ヤバいとこそこ!?」
治郎は弘の顔を見て言ったが、弘は、動画に釘付けになっていた。
「う!・・・あ!・・・ひどい、こりゃひどい」
弘は、自分が攻撃するシーンが出て来るたびにうめき声を上げた。
「うわー、最後の飛び蹴りも膝が曲がっててめちゃくちゃカッコ悪い~!」
弘は顔をしかめて天井を仰いだ。
「しかも、『おめーん、きぃーっく!』って言ってるのがしっかり入ってるし」
弘は、絶望感に打ちひしがれていた。
「うわっ!なんだこのアクセス数!200万超えてるぞ!」
動画を観ながら治郎は言い、さらに、
「これだけアクセス数があるなら、テレビのニュースでもやってるかもしれないからテレビをつけよう」
と、言って、弘の部屋のテレビのスイッチを入れた。
すると、午後のニュースでちょうど戦っているシーンの動画を再生しているところだった。
映像は、今までスマホで観ていた動画そのもので、改人が爆散してその肉片が広範囲に飛び散り、カメラの方にも飛んできた後に地面が映ったところで終わっていた。
続いて、30代後半と思われる男性アナウンサーと20代半ばと思われる女性アナウンサーが、幅1メートル半ほどのテーブルの向こう側に立って、左後方のスクリーンから正面に視線を戻す様子が映った。
「これがYoutubeにアップされた、怪人とそれを倒したヒーローと思われる人物の戦闘シーン・・・です」
そう言った男性アナウンサーは、その直後、下を向き両手をテーブルについて肩を揺らして何かをこらえているようだった。
「現在、この動画を閲覧した人たちのコメントがそのYoutube・・・に多数アップされ・・・ていますが、本物説と・・・ぐっ・・・加工動画説に真っ二つに割れて・・・います」
と、説明した女性アナウンサーも、後半はなぜか言葉がとぎれとぎれになり、話し終わると両手をテーブルについて肩を揺らした。
「アップした方のコメントですと、怪人が爆発したあとに・・・その肉片が自分・・・の方にも降って来て、体や服に付着し・・・て血の匂いがしたということで・・・す」
男性アナウンサーが続けて話をしたが、何かをこらえているという体で、時々、言葉が途切れた。
しかし、その直後、「はっ!」と大きく息を吐き、持ち直したという感じで真顔になって、
「これが本当だとすると、サイのような見た目の怪人も本物ということになります。確かに、鼻っつらを蹴られて角が折られたあと、鼻から大量の血が流れ出していますから、着ぐるみだと考えづらいのは事実・・・です」
最後の方は、また言葉が途切れた。
「それを倒した、ヒーローのようないで立ちをした人物は、やはり、本物の・・・・ヒー・・・ヒー・・・ヒーローなんでしょう・・・か。自分で、おめ・・・おめ・・・お面ライダーと名乗っていま・・・いましたね」
話を続けた男性アナウンサーだったが、言葉のとぎれが多くなったと思ったら、話し終わったあとにまた両手をテーブルについて肩を揺らし始めた。
「ええ、確かに怪人をやっつ・・・やっつ・・・ブッ!」
と、ついに女性キャスターは大きく吹き出した。
「山岸さん、笑っちゃ失礼ですよ。こうやって悪とたたか・・・たたか・・・ブッ!」
と男性アナウンサーも吹き出した。
「でも、最後の決め技の名前が『お面キック』・・・ですからね。名前もお面・・・ブッ!」
女性は、下を向いて肩を揺らしていたが、明らかに笑っていると思われる声が聞こえて来た。
「ということで、へへへ・・・このように、・・・ぶふぉふぉ・・・ということです」
と、話をはしょった後、二人は下を向いて必死に笑いをこらえていた。
「あー!もうダメだー!俺の恥ずかしいところをみんなに見られたー!今頃、日本中の人の笑い者になってるー!」
弘は、そう言って頭を抱えて後ろに倒れ、ベッドの上に仰向けになった。
「いや、それは違うと思うぞ」
「違うって?」
「世界中の人に、だろ。何せ、Youtubeだからな」
「うおー!もうおしまいだー!」
と、弘は言うと、両手で顔を覆った。
「まあ、気にするな。こういう話題ってすぐ下火になるもんだよ」
「お前はいいよな。少し離れたところにいたせいか全然映ってないし。最初のセリフも俺が言ったとみんな思ってるよ」
「それ言いだしたら、お前だってお面スーツ着てたから顔は全然映ってないじゃないか」
「え!?」
弘は顔を覆っていた手を開いて治郎を見ながら驚いたような声を上げた。
「そうだろ?あのスーツを着てると顔どころか体の特徴もまったくわからない状態だから、誰もあのヒーローがお前だって気づかないよ。しかも、お前は極度の運動音痴だから、お前の知り合いは誰もそんな奴がヒーローをやるなんて思わないよ」
「ああ、そうかー。そうだよなー。ああ、少し安心した」
と、言って弘は短く笑った。
そんな会話を弘と治郎が交わしていたのと同じころ、市内の別の場所でそのYoutubeの動画を見ていた弘の元同級生の二人が、こんな会話を交わしていた。
「なあ、このヒーローの声、高校2年の時に同じクラスだった佐々木の声に似てないか?」
「えー?弘ー?・・・・・ないないない。あいつは、すげー運動音痴だっただろ?」
「あ、そーだった。そんな奴がヒーローなんかできるわけないか」
「そーだよ。お前も変なこと言うなあ」
そして二人は、大声で笑いあった。
「しかしなあ、もう少しマシな格好で戦えるようにならないと、また人に見られたら笑い者になるだけだよ」
弘は、難しい顔をして言った。
「そうか?まあ、今の殴り方や蹴り方だと力が相手にまっすぐ伝わってないから、いくらか威力が削がれているのは確かだ。そういう意味では、ちゃんとした殴り方や蹴り方は覚えた方がいいな」
「じゃあ、次回の練習の時は、そこら辺を教えてくれよ」
「ああ、わかった」
その時、電話の着信音のような音がベルトから聞こえて来ると同時に、ベルトのバックルの右上が点滅を始めた。
「ん?なんだなんだ?」
弘は少し慌てた声で言った。
「ああ、それは電話の着信の合図だ。手引きに書いてあったよ。でも、その電話に出るには、変身後の状態にならないとダメらしいぞ」
「えー!なんだそれ、面倒くさいなあ。ああ、でも翻訳機能はヘルメットについてるって言ってたからしょうがないのか」
変身ベルトは装着したままだったので、弘はベルトの右のボタンを押して変身した。
その途端、ヘルメットの中に声が聞こえて来た。
「私だ、1号だ」
「あ、1号さん。何でしょう?」
「まず、手引きは届いたかね」
「あ、届きました。ありがとうございます」
「そうか、良かった。戦闘以外に役立つことも色々と書いてあるからちゃんと読んでおいてくれ」
「わかりました」
「私はあれから、キミのところで活動を開始しようとしているニョッカーの動きを探るため、ずっと日本にいるが、今、キミがニョッカーと戦った動画を見た。まあ、スーツに慣れていないせいか戦い方はぎこちなかったが、運動が苦手の割にはよく頑張ってくれた」
「あ、すみません。他に人がいたなんて気づかなくて撮影されてしまって」
「それ自体は構わんよ。ヨーロッパでは政府や警察関係者には、ニョッカーと改人の存在は広く認知されているからな。すでに、日本政府にも連絡済みだから、この件について突っ込んだ調査は行わないよう各報道メディアには圧力がかかるはずだ。ただ、Youtubeの動画については、削除すると逆に話題になるし、どうせコピーされたものがいくつもアップされるだろうから対処はしないがな」
「えー!じゃあ、俺のあのカッコ悪いのはずっとあのままですかー?」
「まあ、それは仕方あるまい。キミの本当の姿だしな」
「うっ!・・・まあ、それはそうなんですが」
「それより気になったのは、どうしてキミはあそこにいたんだね。それと、キミ以外にキミの協力者の声がしていたようだが、あれは誰だね。電話をしたのはその確認だ」
「ああ、あれは俺の子供の頃からの親友で、俺と違って空手の達人なんで、今、彼から戦い方を教わっているんですよ。あそこにいたのは、あの場所はすでに閉鎖された採石場で、人が来なくて好都合だから練習場にしてたんですが、そこにたまたまニョッカーが現れたってことです。実は、あの場にニョッカーの雑兵が9人いたんですが、彼が一人で全員倒してしまいました」
「おお、そうか!それは、なかなかのものだ。良い友人を持ったな。しっかり教えて貰って、よりうまく戦えるように鍛錬してくれ」
「はい、そのつもりです。少なくとも、もう少し見られても笑われないぐらいの戦い方ができるようにならないと」
「まあ、そこは気にするな」
1号は少し笑いながら言った。
「えー、でも大事ですよー」
「まあ、わかった。頑張ってくれ。それじゃ、ニョッカーに動きがあったらまた連絡する」
そう言って電話は切れた。




