第13回 “回復機能”
爆散した改人の肉片は広範囲に飛び散ったが、そのうちのいくつかが、良平と富美香の方まで飛んで来て降りかかった。
富美香が絶叫しそうになったので、ここにいることがバレたらまずいと思い、良平はとっさに自分の口で富美香の口をふさいだ。
良平は、写真を撮りながらも、いつキスしようか、どうやってキスしようか、ということばかり考えていたので、体が勝手にそういう反応をしていた。
富美香は、びっくりして目を大きく見開いたが、そのせいで声を出すのをやめた。
良平は、大丈夫そうだと思ったので、富美香から口を離すと、
「これはなんかヤバそうだから声を上げちゃだめだ。音を立てないように静かに帰ろう」
と、富美香に優しく小声で言った。
富美香は、うんうんと数回大きく頷くと、採石場に背を向け、ゆっくりと坂を降り始めた。
良平は弘と治郎の方を見て、二人がこっちに気付いてないのを確認したうえで富美香の後をついて坂道を降りながら、ハンカチを出して富美香に渡し、
「これで拭いて」
と、言った。
富美香は、頷いてハンカチを受け取ると歩きながら顔と頭と両腕を拭いていたが、その顔は怯えきっており、今にも泣きだしそうだった。
それに対し、その表情が見えていなかった良平は、そこで初めて、計画していた状況とは違うものの自分が富美香とキスをしたのだということを理解し、自然と顔がにやけていた。
それから、怯えた顔とにやけた顔の二人は、足音を立てないように、それでいて足早にこの場を立ち去った。
「ふう、なんとかなったな」
治郎がそばに来たので弘が言った。
「ああ、なんとかな」
「しかし、治郎、お前すげーな!9人もいたのにあっという間に全部倒して」
「いやあ、一発のパンチや蹴りのスピードは速かったからあの雑兵たちも強化されている人間みたいだったけど、格闘技の技術そのものは大したことなかったからそんなに難しくなかったよ」
「それでもすげーよ!改めて驚いたよ!」
それから、二人で元いた場所に歩き出した。
「しかし、お前は繰り出すパンチやキックは、ことごとく様になってなかったな。もう、『格闘技やったことありません!』って宣伝してるようなもんだったぞ」
治郎はニヤニヤした顔で言った。
「うるせー!実際、そうなんだからしょうがないだろ!」
「でも、そのスーツの威力はすげーな!こっちがびっくりだよ!」
「ああ、これなら今後もなんとかなるんじゃないかって気がしたよ。ただなあ、やっぱり、もう少しこのスーツになれないとダメだな」
弘は苦笑しながら言った。
「そうだな」
治郎も笑いながら答えた。
元の場所まで戻ると、弘は変身をといた。
「うわー、なんか体だるいわー。これって長時間付けてちゃいけないスーツなのかも」
「あー、そうかー、そうかもなー。今後の練習も様子見ながらやろうか」
治郎はそう答えて、さらに続けた。
「さて、他のニョッカーが現れても面倒だから、今日はもう帰ろう」
「そうだな。はっきり言って、今日は体だるくてもう練習は無理な感じだし」
それから、オートバイを連ねて家に帰って行った。
「おーい!いるかー!」
次の日の午後、治郎は弘から随分前にもらっていた合鍵で玄関に入ると、靴を脱ぎながら奥に向かって大きな声で呼びかけた。
「・・・おー、いるぞー。俺の部屋だー」
弘から力のない声の返事が返ってきたので、あわてて弘の部屋に行った。
午後2時近い時間なのに、弘はベッドで寝ていた。
「今日の練習はどうするのか聞こうとスマホにメッセ入れても全然返事がないから来てみたけど、どうした?風邪でもひいたか?」
「全身筋肉痛で動けない」
弘から情けない声の返答が返ってきた。
「あちゃー、そうかー。まあ、威力のあるパンチやキックを出せるってことは、それだけ速く手足を動かさせられてるってことだから、まあ、当然だな」
「ああ、そうだろうな。冷蔵庫にペットボトルの水と缶コーヒーが入ってるから適当に飲んでくれ」
と、自室内にある冷蔵庫を指差そうとして手を上げかけたが、激痛に襲われて悶絶した。
それを見て治郎は飽きれたような顔をしたあと、
「ところでお前さあ、昨日、決め技の飛び蹴りを決めるとき『お面キック』って言っただろ」と、ニヤニヤしながら言った。
「え!?ホント!」
「ああ、確かにそう言ったぞ。なんちゅうダサい名前の技だ」
と、言って、治郎は笑った。
「うー、夢中だったからなあ。良く覚えてないよ」
「まあ、誰も聞いちゃいなかったから問題あるまい」
治郎はそう言ったが、相変わらず顔は笑っていた。
そこで治郎は、弘の家のポストに封筒が差し込まれていて、それを持っていたのを思い出した。
「そういえば、ポストにこんなの入ってたぞ」
「なんだろ?誰から?」
「差出人は、お面ライダー1号さんだ。しかし、差出人名に『お面ライダー1号』って書く感覚ってどうよ?・・・って、あの人フランス人で日本語ダメじゃなかったっけ?」
「なんか、ライダー組織の日本支部があるって言ってたから、そこの事務員が代行で送って来たんじゃないの」
「ああ、なるほど。そうだろうな」
「悪い。俺、動けないから開けて中を見てくれ」
「わかった」
治郎は手で封筒の口を破ると、中からB5サイズで厚さ5ミリぐらいの小冊子を取り出した。
「なになに『お面ライダーベルト利用の手引き ~上手に敵と戦うために~』って、はあ?」
そう言ってから、さらに封筒の中を覗き込んだ。
「ああ、手紙が入ってるな。なになに」
そう言って、その手紙を取り出して読んだ。
「『本来なら、ベルトを引き継ぐときに元のライダーから渡されるものだが、どうやら渡されていないみたいなので送る』だってさ。これしか書いてないよ」
治郎は、冊子をパラパラとめくって中を確認した。
「こりゃ、ベルトの使い方が書いた冊子だ。こんなのあるならもっと早く寄越せっての」
「えー?そんなものを普通郵便で送って来んの?軽っ!」
「だよなー。まあ、一応読んでみるか。まずは目次っと・・・」
「・・・ん?回復機能?どれどれ」
治郎は該当するページをめくった。
「なになに・・・『バックルの左側に緑色のリフレッシュボタンがあって、戦闘後に押すと疲れた体を元の状態に戻してくれる』だってさ!」
「えー!?そんな機能あるのー?」
「『回復時間は装着者の体力に比例するが、約10分~30分である』だって。うーん、でも、弘の場合は1時間ぐらいかかるしれんな」
と、ニヤニヤした顔で言った。
「う!否定できないところが情けない」
治郎はさらに先を読んだ。
「『なお、この機能を使用している間は戦闘不能になるため、くれぐれも安全な場所で使用するように』だってさ」
「え~、そうなの~?まあ、とにかくやってみよう。悪いけどベルトとってくんない」
「もう、世話が焼けるやつだ」
と言いながらも、治郎はテーブルの上にあったベルトをとって弘の体に装着しようとした。
「イタタタタ。もっと、そーっと、そーっと」
弘は悲鳴に近い声を上げた。
「ホントに世話が焼けるな。はい、これでいいだろ。で、ボタンはこれかな?」
治郎は、バックル左側にある小箱のふたを開けて緑色のボタンを押した。途端に弘は閃光に包まれて変身後の状態になり、それと同時にスーツ全体からブーンという低振動音が聞こえてきた。
「お゛お゛お゛お゛ーーー、ぎぼぢいいーーーー」
「なんか、ただのマッサージ器って気がするのは気のせい?」
「あ、そうだ、一昨日、プレステの新しいゲーム買ったから、それでもやっててくれよ」
弘は天井の方を向いたまま言った。
「お!それはいいね~。じゃあ、この手引きを一通り読んだらやるよ」
治郎は手引きをとると、ベッドの横にもたれて読み始めた。
弘は、回復機能の振動が心地よかったため、いつの間にか寝てしまった。
2時間後・・・
「お、止まった。どれどれ」
その少し前に目を覚ましていた弘は、ベルトのバックルの変身ボタンを押そうと右腕を動かした。
「お、とりあえず腕は痛くないぞ」
変身を解きベッドに起き上がって横座りに腰掛けて手足を振ってみた。
「おー!全然痛くねー!凄いぞこれ!」
ゲームをやってた治郎は、その声で振り向いた。
「ああ、やっと終わったか。・・・って、2時間も経ってるじゃねーか。どんだけ筋肉弱いんだよ」
「うるせー、生まれつきなんだから仕方ないだろ」
「しかし、1回戦闘したら2時間変身できなくなるってことか。ちょっと問題だなあ」
「回復時間は運動量に比例してると思うから、なるべく手数を少なくして敵を倒すようにするよ」
「運動音痴のおまえにそんなことができるとはとても思えん」
「あー、まあ確かにそうかも。じゃあ、あとは・・・」
「あとは?」
「2時間敵が来ないように祈る!」
「・・・やれやれ」
治郎はあきれて、再びゲームをやり始めた。




