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第12回 “戦闘開始”

「良平くん、ホントにこんなところに松茸なんか生えてるの?」

 富美香は、恋人の良平が松茸が採れる場所があると言うので、ハイキングもかねて市内から郊外のこの場所まで歩いて来ていた。

「それに、こんな季節に松茸なんか採れたっけ?」

 富美香は、すでにかなり足が疲れて来ていたので、少しイライラして聞いた。

 二人とも、地元の大学に通う19歳の同級生だった。

 付き合い始めてからまだ2カ月ほどでキスもしていなかったが、良平はそろそろキスをしたいと思っていたものの、童貞でウブなため街中ではなかなか切り出しづらく、人のいない郊外のここらへんならその勇気も出るだろうと期待して、松茸が採れると嘘を言って富美香を連れ出していたのだった。

「あ、もうすぐ、もうすぐ。ここを登ったところが採石場の跡地で、そこを越えてすぐのところだから」

 良平はにこやかに富美香に向かって言ったが、内心はこれからのことを想像してかなりドキドキしていた。

「ほら、ここが採石場跡地だから、もうすぐだよ」

 300メートルほどの坂の頂上近くになったところでそう言ったが、心臓の音はさらに高まっていた。

 坂を上り切って採石場跡地に着いたところで、少し休憩しようと言って用意して来たブドウやカットした桃なんかのフルーツを食べさせながら、キスする雰囲気に持って行こうと画策していたのだった。

 登り切って、富美香に休憩しようと言おうと思ってなんとなく右手を見たら、大きな車が3台停まっているのが見え、その中でひときわ大きい車のそばに何か動物っぽい着ぐるみを来た巨体の人間一人が立っていて、他の2台の車のそばには全身黒ずくめの男たちが数人いるのが見えて愕然とした。

(なんで人がいるんだよー!)

 良平は、内心泣きたい気分だった。

 計画を変更して、その男たちと離れるように左に行って、採石場の向こう側に降りてからやり直すか、と考えていた時に、富美香がその一団に気付いた。

「なあに、あの人たち。ちょっと怪しい格好だけど」

「そうだね。着ぐるみを着てるみたいだから、ヒーローものとかのテレビの撮影かなんかじゃないの?」

「えー!そうなのー!?・・・でも、それにしては変よ。カメラマンや音声さんのようなスタッフが誰もいないわ。監督さんとかもいるはずでしょ?」

 マジメな顔で富美香は言った。

「えー?・・・・・あれ?確かにそうだ。じゃあ、遊園地のヒーローショーの練習じゃないの」「あ、そうか。そうよね。きっと、ショッピングモールでヒーローショーとかあるのね。だいたい、こんな田舎にテレビの撮影が来るはずないし」

 富美香は納得したように答えて、続けて、

「ねえ、面白そうだから動画撮らない?見つからないようにこっそりと」

 いたずらっ子みたいな顔をして言った。

「えー?」

 自分の計画が台無しになった良平は不満だったが、

「こんなの撮ったら学校でいいネタになるし、Youtubeにアップしたら、きっとすごいアクセス数になるわよ」

 という富美香の言葉で、(確かになー。まあ、キスは撮影してからでもいいか)と、思い直した。

 富美香は、スマホを出した。

「じゃあ、あたしが動画撮るから、良平くんは写真撮って」

「わかった」

 良平は素直に返事をしてスマホを出し、二人そろってその一団に向かって構えた。

 その時、さらに右の方から「待て、ニョッカー!お前らの思い通りにはさせないぞ!」という声が聞こえて来たので良平がそっちを見ると、大きな砂利の山の右手に、長袖のTシャツに裾の広い白いトレーニングウェアのズボンを履いた引き締まった体の20代半ばと思われる男が立っていた。

「お!あれがきっとヒーロー役だな?しかし、怪人の名前はニョッカーって言うのか?変な名前だなー」

 と、笑いながら言った。

 しかし、

「しっ!動画に声が入っちゃう!」

 と、富美香に言われたので、それからは黙って撮影していた。



 弘は、その治郎のセリフを聞くと同時に、

「とうっ!」

 という掛け声とともに、砂利山の上に向かって思いっきりジャンプした。

 それから、砂利山を飛び越して、治郎の声で振り返っていた改人の10メートルほど手前に右膝を付いて着地し、ゆっくりと立ち上がって両腕を開き気味に下げ胸を張った。

 そう、着地とそのあとの決めポーズは完ぺきだった。

 さらにそのポーズから改人を指さして、

「ニョッカーの悪事は、このお面ライダーが許さない!観念しろ!」

 と、叫んだ。

 このとき、改人とニョッカーの雑兵の位置は20メートルほど離れていた。

 治郎は弘に向かって拍手を贈りたいのをこらえながら雑兵の方へ突進した。走りながら弘に向かって、

「ひろ・・・お面ライダー!改人は頼む」

 と、叫んだ。


「ちいっ!なぜ、ここにお面ライダーがいる!?どこで計画を知った!」

 改人は、お面ライダーの弘に向かって怒鳴った。

 それから、

「まあいい、どうやら二人だけのようだから、ここで始末してやる!」

 と、大きな声で言って、弘に向かって駆けだした。

 弘は、それを迎え撃とうと改人に向かって突進したが、例によって超高速なため一瞬で改人の目の前に移動していた。

 まだ、その感覚に慣れていない弘は少しバランスを崩した。構わず、改人の顔面に向かって力いっぱい右のパンチをお見舞いしたが、狙いが少しずれて、鼻っ面を斜めに殴る感じになった。

 弘の動きを予想していなかった改人はパンチをまともにくらったが、斜めに入ったの災いして、錐もみ回転しながら10メートルも後ろに吹っ飛び激しく地面に転がった。

 弘は、倒れた改人のところに移動しようとしたが、高速のため止まるのが遅れて2メートルほど行き過ぎた。

「うーん、なかなか難しい」

 そう言いながら、一足で倒れている改人の横まで戻ると横っ腹を思いっきり蹴りあげた。

 改人は、今度は15メートルほども吹っ飛び、横倒しに地面に落下すると、そのまま5回ほど横に転がった。

 そこで弘は治郎のことが心配になったので、治郎の方を見た。

 治郎は、一人目の雑兵の顎に前蹴りを決めて1発で昏倒させると、次の雑兵に走り寄ってみぞおちのあたりに左右の正拳突きを5発ほどお見舞いしてこれも倒し、次の雑兵に向かって駆け出していた。

「すげーな、あいつ!」

 弘は感嘆してしばらく見とれていたが、ドスドスという足音を聞いて振り返った。

 すると、1メートルほどの距離に改人の顔があり、右手を振り上げて攻撃してくるところだった。

 反射的に左手を顔の横に持ってきてガードしたが、その上から「ブンッ!」という大きな音とともに改人の右フックが叩きつけられた。

 弘は、立ったまま5メートルほど横に地面を滑ってから止まった。

「うわっ、今のはちょっと痛かったー!」

 弘は左手をブラブラと振った。

 改人がさらに突進して殴りつけて来たので、弘は飛び上がって改人の右斜め後方に一っ跳びで移動してから、

「そうだ!この間のカブトムシ男は腎臓パンチで爆発したよな!」

 と、思い、パンチが空振りして前につんのめっている改人の背後にまた一っ跳びで移動し、よろけながら腎臓のあたりにパンチをお見舞いした。

 改人は、10メートルほど吹っ飛んで顔面から地面に落下したが、「ううん」と、一つ唸っただけでゆっくりと立ち上がってこちらを向いた。

「あれ?コイツ頑丈だなあ・・・・・ああ、シロサイだからカブトムシ男より体が固いんだな」

 と、勝手に納得して身構えたが、同時に一つ思いついた。

(あ、さっき治郎から教えてもらった前蹴りなら雰囲気は覚えたからいけるかも!)

 そこで、右足を前に出した姿勢をとり一つ息を吐くと、「はっ!」という掛け声とともに改人の顔面に目がけて前蹴りを放った。

 その時の弘のイメージは、先ほど見せてもらった治郎の前蹴りのイメージだったが、弘は治郎ほど足を高く上げることができないので、少し宙に浮いてて突進する前蹴りになった。

 今度は相手が真正面なうえ、ほぼまっすぐ移動したので、弘の前蹴りは見事に改人の前角の根本あたりに炸裂した。改人は、前角を折られると同時に、その真下左右に開いた鼻から血を吹き出しながら後方に吹っ飛び、後頭部から地面に叩きつけられた。

 さすがに今度は効いたようで、改人は「ぐうう」と唸ってそのまま地面に転がったままになった。


「おい、チャンスだぞ!決め技の飛び蹴りだ!」

 声の方を振り返ると、治郎が立ってこちらを見ていた。その周りには、雑兵が全員倒れていた。

「えっ!もう全員倒しちゃったの!」

「それはいいから、早く!」

「よし!」

 そう言うと弘は、その場で身をかがめ、「とうっ!」という掛け声とともに思いっきりジャンプした。

 しかし、張り切り過ぎて飛び上がる位置が前過ぎていた。

 改人を飛び越してしまうというのが自分でもわかったので、そのまま何もせず改人の5メートルほど向こう側に着地した。

 治郎はそれを見て、おでこに手を当てて天を仰いだ。

 弘は、一旦、改人と反対側に飛び下がり、再び身をかがめて「とうっ!」という掛け声とともにジャンプした。

 しかし、今度は手前過ぎたのが分かったので、また、何もせずに改人の3メールほど手前に着地した。

 治郎は再び天を仰いだ。

 弘は、また後方に飛び下がったが、今度は調整するように3歩ほど前に出てから、再び身をかがめて「とうっ!」という掛け声とともにジャンプした。

 今度は、大体良い位置にジャンプできていると思ったので、頂点付近でいったん両足をたたみ、

「おめーーーーーん・・・」

 と、叫んでから右足を伸ばし、改人に向かって降下した。

 改人は、頭を振りながらゆっくと立ち上がってきたが、先ほど蹴られたのがまだ効いているらしく、フラフラとした体で少し下を向いていた。

 そこに、「きぃぃぃぃぃーーーーーーっく!」という掛け声とともに、膝が曲がってつま先の伸びていない弘の飛び蹴りが改人の左胸上部に炸裂し、そのまま改人を地面に叩きつけた。

 今度はぐったりして動かなくなった。

「あ、そうだ!死ぬと爆発するんだ!」

 弘があわてて後方に飛び下がると同時に、改人は爆散した。


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