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第10回 “危険なキック”

「よーし!技の言い方は大体いい感じになったな」

 30回ほど繰り返した後に、やっと治郎からOKが出た。

「じゃあ、次はいよいよ実際の飛び蹴りだ!」

 そう言ってから治郎は、土手状に1メートル半ほど高くなっている場所に移動した。治郎の目の前2メートルほどのところには、高さ3メートルほどの砂利の山があった。

「さすがに、同じ高さのところから飛び上がって飛び蹴りだと、俺の場合、セリフを言うには滞空時間が短すぎるから、ここから飛び降りながらやってみる。ちゃんと俺の格好を見てろよ」

 そう言うと治郎は、一旦腰をかがめてから、

「空中では、左足をたたむと同時に右足をピンと伸ばしたポーズをとるが、大事なのは、相手に当てる直前に一回右足をたたんでから思いっきり伸ばして蹴るってことだ。足を伸ばした姿勢でそのまま蹴ったんじゃ落下速度しか蹴りに乗らず、大した威力にならないからな」

 と、ポイントを説明した。

「なるほど~!」

「じゃあ行くぞ!・・・とうっ!」

 治郎はそう叫んで斜め上に飛び上がり、両足をたたみながら、

「ふるぁいーんぐ・・・」

 と、言ってから右足だけをピンと伸ばし、

「きぃぃぃぃぃーーーーーーっく!」

 と言って砂利山に飛び蹴りを食らわせた。右足が砂利山に届く直前に、一旦右足をたたんでから蹴ったのが弘にもわかった。

「おおおおおー!すげえーーー!」

 と、弘は心底感心して叫んだ。


 治郎が蹴った位置の砂利山は、大きくへこんでいた。

「はい、こんな感じだ。じゃあ、やってみろ」

「簡単に言うけど、なんか、すごい高等技術って感じがしたぞ」

 弘は、治郎がジャンプした高い場所に移動しながら不満そうに言った。

「ああ、その通りだ。だけど、そのスーツを着た状態なら、足をたたんだり伸ばしたりするスピード的には余裕だと思うから、コツさえつかめば簡単にできると思うぞ」

「そうかなあ。まあ、やってみるけど」

 位置についてそう言いながら、腰をかがめてジャンプする姿勢をとり、

「とうっ!」と、言ってから砂山の方に飛び上がった。

 しかし、足に力を込めすぎたため砂利山のはるか上にジャンプしてしまった。

 弘は、少しパニックになり、空中で3回ほど足をたたんだり伸ばしたりしながら、砂利山の向こう側10メートルほどの場所に着地した。

「あちゃー」

 そう言って治郎は天を仰いだ。


「うーん、このスーツを着た状態の間隔は何回も試さないとつかめないぞ」

 弘は、治郎のところに戻ってきて言った。

「ああ、それはわかる。多分、俺がそのスーツを着ても同じだろう。まあ、俺の方が慣れるまでが早いと思うがな」

 治郎がにやりとしながら言った。

「ちぇっ。・・・まあ、でも、その通りだろうな」

「格闘技に限らず、何事でも熟達するには反復練習が必要だから、お前はとりあえずそのスーツを着て体を動かして感覚を体で覚えるしかないな」

 と、治郎は真面目な顔で言い、さらに、

「さあ、もう一回だ!」

 と、言って手でさっきの場所に行くように弘を促した。

「すぐに砂利山に命中させられるようになれるとも思えんから、とりあえずポーズだけ決めることを考えて空中の動作だけ覚えろ。だからむしろ、障害物がない方向へジャンプして、地面に着地する練習だ。ただ、着地する直前に、一回足を引いて蹴りの動作をすることは忘れるなよ」

「わかった。やってみるよ」

 と、弘は答えて、また腰をかがめとる、

「とうっ!」

 という掛け声とともに、今度は何もない方向へ向かってジャンプした。

 そして、頂点に着くところで、

「ふるぁいーんぐ・・・」

 と、叫んで、いったん両足をたたんでから右足だけを伸ばした姿勢で降下し、地面に近くなったところで右足を素早くたたんで、蹴りを出しながら、

「きぃぃぃぃぃーーーーーーっく!」

 と、叫んで着地した。


「あーダメダメ!」

 治郎は大きな声で怒鳴った。

「ええー?今のは結構いい感じだったと思うぞ」

「足だけじゃなくて、つま先もピンと伸ばさないと!」

「えー、そうなの?なんで?」

「伸ばさないと見た目がカッコ悪いからに決まってるだろ!」

 治郎は大真面目な顔で答えた。

「うーん、つま先を伸ばすのは危険だと思うなあ」

 弘は、少し考えるような顔をして言った。

「危険って何がだよ。ウダウダ言ってないでさあやって!」

 治郎は、怒ったような口調で言って、先ほどと同じしぐさで弘にジャンプする場所に行くよう促した。

「えー、気が進まないなあ」

 弘は、そう言いながらも元の位置に戻って、一旦腰をかがめると、「とうっ!」という掛け声とともに飛び上がり、さっきより少し早めに蹴りを出して、今度は右足のつま先をしっかり伸ばした。

「おお、やっぱりかっこいいじゃん!」

 そう治郎が言った途端、

「ぐおう!」

 と、弘は叫んで右足を押さえて地面に落下した。

「おい!どうした!?」

 治郎が弘に駆け寄りながら言うと、弘は右のふくらはぎあたりを両手で押さえながら、

「あ、足がつったー!・・・だからつま先伸ばすのはヤバいって言ったんだよう」

「・・・どんだけ筋肉弱いんだよ、お前」

 治郎は飽きれ顔で言った。

「そんなこと言ってないで、早くつま先押して。イテテテテテ」

 と言いながら、弘は悶絶していた。

「しょうがねえなあ」

 治郎がしゃがんで弘の右足のつま先を押し始めたとき、ここへ登ってくる坂の方から自動車が走ってくる音が聞こえて来た。

 治郎と弘が顔を見合わせたあとそっちを見ると、真っ黒いランドクルーザー2台と、これまた真っ黒いメガクルーザーが1台、ちょうど坂を上り切って採石場に入って来るところだった。


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