第1回 “コスプレ男”
全話、一気に修正しました。
ラノベ好きの友人に、「文章がくどくて読みづらい」という指摘を受けていたんですが、自分の文章力が足りなくて直すことができないでいました。
その後、他の小説を書いたり、他の方が書かれた小説を読むことで、少し言っていることの意味が分かって来たので、今回、その観点で全話修正しました。
修正のポイントを簡単に言うと、書かなくてもわかるような冗長な表現とか、セリフ間のト書きに当たる部分をかなり削除したということです。
なので、文字数が結構減っています。
あと、結構タイプミスがあったので、そこも気づいた範囲で修正しています。
前の文章よりは少し読みやすくなっているかと思います。
なお、お話の内容自体はほとんど変更していません。
※お詫び:第41回にだけ、「仮面ライダー」という表記がありましたので削除しました。
(2020/9/23記)
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仮面ライダー大好き人間で、それをネタにしたコメディタッチの小説を考えてみました。
お気楽にお読みいただければ幸いです。
◆主題歌
迫るニョッカー、今日も筋肉痛。
わが町狙う赤ら顔、地域の平和ぐらいは守りたい。
ゴー、ゴー、レッツゴー!
かっこは気にするなー
フライーング「キック!」
フライーング「パンチ!」
お面ライダー、お面ライダー、愛車は原付ー!
ここは新潟県のとある地方都市。
季節は初秋に差し掛かっていたが、暖かい日が続いており、北陸とはいえ外を歩くと汗ばむような陽気だった。
極度に運動音痴の佐々木弘は、旅行会社の若手営業マン。毎日、日中は外回りの営業に汗を流し、夕方には事務所に戻ってその日の報告書を作成する日々を送っている。持ち前の明るさがあり営業職には向いているため成績は悪くないが、根っからのドジで時々大きな失敗をしでかすのが玉に瑕だった。
この日もコピーをミスったため、上司からこっぴどくしかられていた。
そこで、いったん帰宅したあと、駅前の居酒屋に集合して、唯一の友人、小林治郎と飲んで憂さを晴らしていたのだった。
「いや、しかしさあ弘、いくらなんでもコピー3部を300部とか間違えるか?」
「メールをそう読んじまったんだから仕方ないだろ!」
「やれやれだな」
「まあ、それはもういいから、明日は土曜で休みだし、とことん飲もうぜ」
と、瓶ビールを治郎につごうとする弘だったが、その途端、右肩を抑えて「痛ててて」と言いながら手を止めた。
「なんだ?どうした?」
「いやね、社会人になってからただ歩いてるだけですっかり運動不足になっちゃってるなあと思って、昨日の朝からテレビ体操始めたんだけど、今朝起きたら肩が筋肉痛で」
「はあ?テレビ体操って、テレビでやってるラジオ体操みたいなやつだろ?あんなんで普通筋肉痛とかないだろ」
「いやー、自分でもあきれてるんだけどね」
苦笑しながら弘は答えた。
「まったく、子供の頃からの変わらない運痴ぶりには感動すら覚えるよ」
「なんだそれ!・・・まあ、社会人になったら目立たなくってありがたいけどね」
「やれやれ」
「ところでさあ、新しく始まったライダーの番組どう思う?」
「うーん、ちょっと見た目がロボットぽ過ぎて、なんかライダーって感じがしないんだけど」
「やっぱりそう思う?そりゃ、20作以上作ってきたら差別化をしたくなるのはわかるけど、あれはちょっとなあ」
「ただ、ヒロインはかわいいよな」
「そうそう!高校生だけど、なんか妙な色気があっていいよな~」
「そう、特にお尻がな」
「やっぱ、治郎はそういうとこはキッチリ見てるよな」
「お前もな(笑)。ライダーに魅力のあるヒロインは必須だからな!」
「そうそう、魅力のあるヒロインが出てないと観てるテンションがいまいち盛り上がらないよな」
二人とも、子供のころからヒーロー大好き人間なため、その手の話になると素晴らしく会話がはずむのが常で、特に今日は新しいライダー番組をネタに大盛り上がりをしたので、そのまま日付が変わるころまでハイテンションで飲みまくった。
弘の家は駅から歩いて15分ほどの駅から大分下った場所で、途中に自宅の方を見下ろせる高台のある公園の横を通る。
「いや~、なんかいつもより家が遠くなってないかあ?・・・って、なんか真っすぐ歩けないなあ。さすがに飲みすぎたか?」
弘がそんなことを言いながら、おぼつかない足取りでその公園のそばに差し掛かったところ、右前方の家の向こうから「ドドドドド!」という、重量感のある音が聞こえてきた。
「ん?なんだあ?」
と、弘が思った瞬間、家の向こう側の路地から、テレビのヒーローものに出てくるようなピッタリしたモスグリーンの戦闘用スーツに頑丈そうな肘の近くまである手袋、これまた頑丈そうなブーツに、頭を完全に覆っているヘルメットのようなものを被った男がすごい勢いで転がり出て来た。
「え?こんな時間にコスプレパフォーマンス?」
弘が驚いていると、カミキリムシの体に牛の角が生えた頭部を持ち、赤ら顔をしている着ぐるみの人物が追ってきて倒れているコスプレ男を蹴飛ばした。
すると、信じられないことにコスプレ男は20メートルくらいふっ飛び、左手の公園の植え込みの中に消えた。蹴とばしたカミキリムシ男もそれを追って公園の中に走って行った。
「なになになに?蹴られた人、見た目がライダーっぽくて、蹴った方は怪人ぽかったけど、テレビドラマのヒーローものの撮影?すげーワイヤーアクションだー」
ライダー番組の撮影現場に出くわしたと思った弘は、嬉しさで少し酔いが醒め、その二人のあとを走って追っていった。
公園に入って左側の植え込みの角を曲がったところで、怪人が植え込みを超えた道に倒れていたコスプレ男に追いつくのが見えた。
コスプレ男は、体を起こして一旦四つん這いなり、それから着ぐるみ怪人にとびかかったが、着ぐるみ怪人はそれを軽くかわすと、ものすごいスピードの回し蹴りをコスプレ男のお腹のあたりに放った。
コスプレ男は、すごい勢いで弘の方にふっ飛んで来た。
「うわっ!」
弘はとっさにしゃがんで避けようとしたが、根っからの反射神経の鈍さのため避けきれず、おでこのあたりにコスプレ男の体をくらって後ろにひっくり返った。
その直後、コスプレ男はすぐ後ろの大木に激しい音ともにぶつかり「ぐうっ!」とうめき声をあげた。
「痛てててて」
弘がおでこに手を当てて体を起こしながら振り返ると、コスプレ男は青いカッターシャツにジーンズの普通の人間の姿になっていて、その脇に、高さ10センチ、横幅20センチ程度の横長の箱が真ん中に付いた帯のようなものが落ちていた。
男は、その帯を掴むと弘のそばににじり寄り、
「俺はもうダメみたいだ。すまんが・・・このベルトを・・・頼む」
と、言って、振るえる手で渡した。
それから、顔をあげて怪人を凝視し、力を振り絞ってという感じで立ち上がると、「うおぉぉーーー!」と叫びながら勢いよく怪人の方へ駆け出して行った。
立ち上がる時に、左手に黒い卵のようなものを握っていて、その上端についた赤い直径1センチぐらいのボタンを親指で押したのが見えた。
直後、怪人に肩から突っ込んで怯ませると、両手で怪人をしっかり抱え、そのまま高台の上から手すりを越えて跳躍した。
二人は高台の向こう側に落下してすぐに見えなくなったが、弘がそこへ走り寄って見下ろすと、二人は落ちていく途中で大きな音とともに爆発した。
「えっ!爆発した!?すげー特撮技術だな~」
弘は思わず大きな声を出して感心した。
「あれ?でも、何であの人は俺にこんなもの手渡したんだ?」
疑問に思いながら再び高台の手すりから身を乗り出して下を覗き込んでみたところ、二人が落ちて爆発した場所は黒焦げになって血糊が散乱していているように見えた。
「うわー、焦げ跡とか血糊まで付いてるよ。スゴイ技術だなー」
そう言って関心はしたものの、それらがあまりにもリアルで少し不思議な感じがしてきた。
「でも、一瞬でどうやって付けたんだろ?爆発する前には付いてなかったような・・・それと、あの二人はどこ行ったんだ?一瞬で見えなくなったぞ」
そうやって悩んでいたが、その答えに思い至って愕然とした。
「本当に二人が爆発したってのが一番正しいような・・・あ!そう言えばコスプレの人は走り出す前に手になんか握っててスイッチみたいの押したな・・・え?まさか、今のマジなの!?」
弘は、何か見てはいけないものを見てしまったという気がしてきた。
よくよく周りを見回してみると、カメラや監督などの撮影スタッフの姿はどこにもなく、公園内は静まり返っていた。
「もしかすると、これって撮影じゃない感じ?マジで秘密結社の怪人とヒーローの戦いを目撃したってこと?なんか、相当にヤバくない?」
そう考えると恐ろしくなってきたので、家に向かって走りだした。もう、完全に酔いは醒めていた。
走りながら時々後ろを振り返ってみたが、特に誰かが追ってきているという様子はなかった。
しばらく走ると、古めいた板塀に囲まれた平屋建ての自宅が見えてきたので、ホッとして走るのをやめた。敷地の坪数は250坪とかなりの広さで、弘はここに一人で住んでいた。
家の鍵をあけようポケットに手を突っ込もうとして、右手にさっき手渡されたベルトを握っているのに気がついた。
「こんなの持ってたら俺も襲われる!」
恐ろしくなったので、右手の庭の背の高い雑草が茂っているあたりに投げ捨てて、急いで玄関の鍵を開けると家の中に飛び込んだ。
家に入ったらすぐにドアの鍵を掛け、普段は掛けない内側からの鍵も掛けた。
そして、庭に面した廊下にあるサッシの鍵とすべての部屋の窓の鍵が掛かっているのを確認してカーテンを閉めたら、自室に入って急いで寝巻に着替えてベッドに潜り込み、頭から布団を被った。
弘の家は、元々、市内では有数の名家だった。
しかし、弘の両親は、弘が大学生の時に相次いで病死していた。
家のことをする使用人も二人ほど住み込みで働いていたが、自分一人だと身の回りのことぐらいは自分でできるので、それからは一人でこの家に住んでいるのだった。
ただ、部屋数が12もあり、さすがに掃除は難しいので、2週間に1度の契約で家政婦を雇って掃除はしてもらっていた。
かなりの遺産を相続したので大学は無事に卒業できた。
一生遊んで暮らせるだけの財産はあったが、そこまで暇をつぶせる趣味を持っていなかったのと、それじゃ全くのダメ人間になりそうだったので、大学卒業と同時にサラリーマンになることを選択した。
大学では文学部に通っており、特に資格も技能も持っていなかったのと、運動音痴ではあるが歩くのは嫌いじゃなかったので旅行会社の営業として就職した。
自分の給料では賄うのが難しい固定資産税だけは遺産から支払っていたが、家政婦費用も含めて、その他の費用はすべて自分の給料から支払っていた。
居間、台所、浴室、トイレと自分の部屋以外は極力使わないようにしていたので、光熱費はそれほどでもなかったから、特に生活が苦しいということもなかった。
基本的にはまじめな性格で、ギャンブルはパチンコも含めて一切やらなかった。
女性に対して特に苦手意識というのはなかったものの、周りにピンとくる女性がいなかったので彼女はいなかったが、結婚してこの広い家に一緒に住んでくれる女性がいたらいいな~、というのはいつも思っていた。
次の日、目覚めてベッドの左手にかかっている丸い壁時計を見るとすでに11時だった。
「うー、頭いてー。ちょっと飲み過ぎたかな。途中から焼酎のお湯割りにして、なんかすごく飲んだ気がする」
と、ひどく痛む頭を押さえてつぶやいた。
「そういやあ、ヘンな夢見たなあ。ライダーみたいなカッコのコスプレ男がカミキリムシだか牛だかわかんないような化け物に襲われてるような。でも、その場から走って逃げ帰ったような場面もあったから、夢じゃなくて現実だったような気もする」
そう考えたら少し恐ろしくなってきたが、
「まさかね。とりあえず、昨日は風呂にも入らずに寝ちゃったみたいだからシャワーでも浴びて来るか」
と、すぐに思い直した。
しかし、シャワーを浴びているうちに、だんだんとコスプレ男と怪人のことが夢じゃないような気がしてきた。
「現実だったら、仲間がうちに忍び込んでるかもー」
そう考えると怖くなってきたので、庭と家の外を一通り見回って、ヘンな足跡とか、家や塀が壊されたりしてないかチェックしたが、特にそんな形跡はなかった。
この時、庭の塀の近くに昨夜捨てたベルトがあったが、雑草に隠れて見えなかったのと、弘がベルトのことはすっかり忘れていたせいで気づかなかった。
「やっぱ夢だよねー。あんなこと現実にあるはずないし。昨日、治郎と新しく始まったライダーの話で盛り上がったから、あんな夢見たんだろうな」
安心したので家に入り、まだ、頭痛がしていたので台所の冷蔵庫から頭を冷やす鉢巻状の冷却ジェルを出して頭に巻き、自室に戻って毛布の上からベッドに横になって目をつぶった。
しばらくそうしていたら、痛みが和らいできたせいもあり、いつの間にか寝てしまった。
◆口上
お面ライダー44号は普通の、いや、普通以下のサラリーマンである。
しかし、お面スーツを装着して秘密結社ニョッカーに立ち向かい、
日夜筋肉痛と戦うのだ!