07 剣に名前を付けよう
クリスに私の機密情報を知られてしまったけれど、お互い様だろう。メジャーのようなもので測られた分、私の方が精神的ダメージは大きいが。
気を取り直して、次は『名無しの精霊剣』を鞄から取り出す。
今現在鞄の中には、この『名無しの精霊剣』しか入っていなかったため、探すのは容易だった。
なお、大量に物を入れていたらどうなっていたかはわからない。
「……鞄の入口さえ通れば、なんでも入るってすごいよね」
「はい。明らかに鞄の大きさを超えていますよね、その剣」
クリスの言うとおりだ。
私の身長は150半ばくらいだが、鞄から出てきた剣は、私とほぼ同じ大きさがあった。そのくせ、ナイフのように軽い。
剣の見た目について言うと、握りの部分にあたる柄、剣を収める鞘は白く、その境目は黒。柄と鞘には太陽をモチーフにした紋章が描かれている。
『鑑定』では『剣』となっているが、私が知っている時代劇に出てくる日本刀と同じように、反りがあるので、刀の一種だと思われる。
「クリス、ちょっと手伝って」
「はい」
一人で抜くのは難しいので、クリスに手伝ってもらい、鞘から剣を抜く。
「……なんとか抜けた。ありがとうね」
「いえいえ」
そして刀身を眺める、刀身はほんのり赤みがかった銀色で、とても美しい。
『火属性』があるのは使っている素材のせいなのかもしれないが、もう1つ疑問にあるのが『実体化』と言う技能だ。この技能には『固有名が決まるまで使用不可』との注釈がついている。
剣自体には触れる事ができるから、この技能には『精霊』というものが関係してくるのだと思われる。もしそうなら、この剣が『名無し』ではなくなれば、この剣にある『精霊』の意味がわかるのではないか、と考えた。
というわけで、この剣の新たな名前を考える。
今ある剣の情報は、太陽に関係あるということだけだ。
「火属性に、太陽……輝く……」
「……悩み事ですか?」
床に座って剣の名前を考えていたら、クリスが心配になったのか話しかけてきた。
「剣につける名前が出てこなくて考えていたの。何かないかな」
「そうですね……」
クリスも顎に手を当てながら、一緒に考え始めた。
「火の大精霊と言われるサラマンダー、光の大精霊と言われるウィスプから名前を借りてみてはどうでしょう?」
「確かに強そうだけど……女の子みたいな見た目だったら困らない?」
「……そうですよね」
男の人ならいいかもしれないが、女の子の姿でその名前はかわいそうに思える。
そしてまた無言になった。
そういえば、太陽から吹き出した炎をプロミネンスとかって聞いたことがある。詳しくは知らないけれど。それを名前に持ってきて、ロミかミロという愛称で呼べばいいかな。
……うん、そうしよう。
「名前決めたよ」
「どんな名前したんですか?」
「精霊剣・プロミネンス。略してロミ、またはミロ。私のいた世界で『プロミネンス』っていうのは、太陽から吹き出した超高温の炎みたいなものなの」
「いいですね。そうしましょうか」
「……ところで、名付けってどうやるの?」
「……はい?」
クリスは首をかしげた。頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるような気がする。
「……ごめん。やっぱりいい」
クリスは「すみません」と小さく誤ってくる。知らないことはあるんだから、気にしなくていいと思うの。むしろ、私の方が知らないことは多い。
とりあえず、悩んでも仕方ないので、剣を抱き抱えるようにして持ち、それっぽくやってみる。
「所有者として『名無しの精霊剣』に新たな名を与える。その名は……『精霊剣・プロミネンス』」
……って、やってみたけれど……。クリス、そんな痛い人を見るような目で見ないで。
すると突如、剣が輝き始めた。
「わっ!?」
「なんですか!?」
剣から光の玉が出現し、徐々に人の形を作っていく。やがてその光は、小学校低学年くらいの身長になった。
光の中から現れた女の子は、緋色の長い髪を持ち、緋色のドレスを纏い、空中に浮かんでいた。
部屋の床にそっと降り立ち、目を開く。
女の子はクリスを見る。次に私を見て、私の方に体を向け、口を開いた。
「わたしはプロミネンスです。ごしゅじんさまの……のぞみさまの『けん』です」
……剣が女の子になっちゃった……?