06 ステータスを知ろう
本日二話目。
その日の夜はクリスが寝床を準備してくれた。
一つはソファに毛布という組み合わせで、いつもクリスが使っているものだろう。
そしてもう一つは、床に毛布を数枚重ねたものだ。
「ソファはのぞみさんが使っていいですよ」
「大丈夫よ、私は床でも」
ここはクリスの家なんだから、私は床で構わない。
「異世界から来たのぞみさんを床で寝かせるわけにはいきません」
確かにそうだけど……。
「……じゃあ、一緒に寝る?」
「ですから、のぞみさんと一緒に……はい?」
クリスの思考が一瞬止まったらしい。
「一緒に……ですか?」
「……ごめん、やっぱ床でいい……」
何を言っているんだろう、私は。
「いえ、はい。え?」
クリスが困惑しているうちに、床に敷かれた毛布に横になり、そのまま眠りに落ちた。
朝を迎え、目が覚めると、目の前にクリスの顔があった。
「ひょわっ!?」
びっくりして変な声が出てしまった。その声でクリスも目を覚ました。
「……おはようございます、のぞみさん……」
結局、床で私と一緒に寝たらしい。
「おはよう……クリス……」
おはようと挨拶を交わし、外の井戸水で顔を洗う。
お互い無言のまま、朝ごはんのパンとスープを食べる。
静かすぎる食事を終え、私は鞄を開き、神様から貰った説明書を取り出す。
「……説明書?」
それは説明書ではなく、辞書かと思うほど分厚い本だった。
その本の最初のページを開く。
『この本を見ているということは、無事に転移できたんだね』
あれのどこが無事なのか、問いただしたい。
『この本には、私があげた力や道具の使い方と、その世界で使える希少な技能を1つだけ、覚えられる機能がついているよ』
私が貰った道具は『不思議な鞄』、『名無しの精霊剣』の2つと、その神様を呼び出せる魔法だ。
特殊な技能を含めて、これらの説明はこんな感じに書かれていた。
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『不思議な鞄』
所有者:柊のぞみ(固定)
容量:1万キロ(約10トン)
技能:時間停止 自動修復
備考:『名無しの精霊剣』を除き、生物は入れることができない。
『名無しの精霊剣』
所有者:柊のぞみ(固定)
技能:火属性 実体化(固有名が決まるまで使用不可) 自動修復
備考:攻撃力が任意で変動する剣。変動幅は所有者の能力値の50%から100%。
『召喚魔法:女神リド』
1日1回、対価なしで呼び出しが可能。
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「……また凄いものをもらいましたね。鞄を見せてもらってもいいですか?」
「ひゃわっ!?」
クリスはいつからそこにいたの!?
びっくりさせないでほしい。
見せるくらいなら構わないと思い、鞄を渡す。
「ありがとうございます。お借りしますね」
クリスは鞄を手に取って観察している。所有者固定になっているけれど、触ることはできるみたいだ。
鞄の外見は明るい赤色で、A4サイズの雑誌が入りそうなくらいの大きさがある、シンプルな斜めかけショルダーバッグだ。
鞄の内部は亜空間となっていて、入口さえ通過できれば、生物を除き、どんなものでも入る仕様となっていた。
「のぞみさん、お返ししますね」
クリスから鞄を受け取る。
「……どうだった?」
「この鞄の見た目に近いものは作れそうですけど、全く同じ機能を付けるにはどうしたらいいのか、見当もつきません」
え?なに?同じものを作ろうとしていたの?そう言うなり、考え込んでしまった。
私はその先にある、特殊な技能の説明を読んだ。
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『鑑定』
相手のことを調べる希少技能
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ここに記されている『鑑定』という技能が覚えられるみたいだ。
『なお、鑑定の技能の詳細を読むと、この本は自動的に消滅します。その際、貴女の頭に技能を刻み込むため、激しい頭痛が起こります。ご注意ください』
……はい?
「ぁ……う……」
その瞬間、激しい頭痛が私を襲った。
「のぞみさんっ!?」
「クリ……ス……」
そのまま私は意識を失った。
◆
しばらくして私は目を覚ました。
ソファの上に寝かされていたから、クリスが運んでくれたのだろう。
「のぞみさん、体は大丈夫ですか?」
「……なんとか……」
頭痛いがそれだけだ。
「回復薬飲みますか?」
「……そこまでじゃないから、大丈夫よ。ありがとう。それから私が読んでいた本はどうなったの?」
本は消滅するって書いてあったから、多分なくなっているだろうと思う。
「本の事ですか?……のぞみさんの体に吸い込まれるようにして消えてしまいました……」
「……それ本当?」
「はい」
そう言われて、辺りを探すが本だけがない。
どうやら書かれていた事は本当みたいだ。信じられないけど……。
「そっか……本に書かれていた通りになったのね」
「……なにがですか?」
クリスが興味ありげに聞いてくるので、教えた。
「なるほど……魔法の本やそういった類の物みたいなものだったのですね」
つまり、今の私なら『鑑定』という技能が使えるようになっているはず。
口に出さず心の中で、『鑑定』と唱えてみる。
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名前:柊 のぞみ
年齢:17
LV:1
技能:召喚魔法(女神リド) 光属性魔法 治癒魔法 鑑定
称号:異世界人 始まりの巫女
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自分自身(私)の情報が出た。ほかにも知られたくない情報――身長はともかく、体重や身体のスリーサイズ等――が出ていた。これらは当然のことながら見せられない。
技能の欄に『鑑定』があるのは予想通りだが、『光属性魔法』と『治癒魔法』があるのは予想外だった。
「のぞみさん、何か出ましたか?」
「私、能力が見られるようになったみたいなの」
「本当ですか?」
「うん」
「能力ってギルドへ行かないと確認できないはずですが……私のも見られます?」
「……見ていいの?」
本当に丸裸にしちゃうよ?念のため、確認を取る。
「はい。見たものは全部教えてくださいね」
というわけで、これがクリスの能力だ。
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名前:クリス・アルフィテリア
年齢:15
LV:2
技能:錬金術
称号:錬金術師
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能力の詳細を書き写した紙をクリスに渡した。
「これが私の能力なんですね」
「まぁ、うん」
彼女の尊厳を守るため、機密情報までは書かなかったけれど、あとで見ていたことを白状したら、顔を真っ赤にして怒られた。
許してもらう代わりに、私のスリーサイズを教えることになってしまったのは言うまでもない。