39 依頼報告をしよう
世界の某所……。
「おい、マモンの奴はまだか!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃない。せっかくベルゼブブが用意してくれたお菓子がまずくなっちゃうじゃない」
声を荒げ、興奮する男を妖艶な女性がたしなめる。
その女性には蝙蝠の羽としっぽ、そして羊のような角がある。
「待て、それはお前に食わせる為に持ってきたのではない」
そう言ってその女性の前にあったお菓子のお皿を、自分の元へと引き寄せる。
「まったく……ベルゼブブはケチねぇ」
「うるせぇ。食いたけりゃ自分で持って来い」
このベルゼブブと呼ばれた男は、食べることが何より好きなのだろう。それでいて、スマートな体型を維持しているから驚きだ。
「すまない。遅くなった」
「遅いぞマモン!どこで何してやがった!?」
「宝石を収集していたら遅くなった」
「またかよ」
今入って来た男の名はマモン。いろいろなものを集める収集家のようなものだ。
マモンが入ってきた事を確認すると、上座に座る女性が口を開いた。
「皆揃ったようね。今回集まってもらった理由は2つ。我らの敬愛する『眠れる魔王様』の事と、『生命の巫女』……いえ、『始まりの巫女』について。今、この場にいないレビィには私から伝えておくわ。それと……」
彼女の視線が、机に突っ付して眠る一人の少女に刺さる。
そして、ルシファーの魔力が練られる。その事を察知した4人は、慌てて机の下に潜り込む。
「ベル!起きなさい!」
風属性魔法の上位種に当たる、雷属性魔法の〈サンダーボルト〉が眠る少女を襲う。
「あばばばばっ!?」
襲われた少女からは、煙が出ているがビクビクと動いているため、死んではいないようだ。
そして、机の下から出てきたアスモデウスが、開口一番に口にした言葉がこれ。
「……ルシファー、やりすぎじゃない?」
「大丈夫……生きているから……」
アスモデウスがルシファーをたしなめるが、彼女からは返事はなく、代わりに答えたのは、雷を落とされたベルの方だった。
「これで皆揃ったわね。まずは魔王様についてよ。魔王様が『終の使徒』を召喚した形跡が確認できたわ。目覚めるのも近いはずよ。次に『巫女』についてだけど……マモン、あなたのそれはどうしたの?」
マモンの腕に着いた傷を指している。
「ああ……これか。神聖なる力を纏った武器でやられてしまってな。ルシファーの話にも関係あると思うが、これをやったのは、まだ新米だと思われる冒険者の小娘だ」
「その話を詳しく聞かせなさい」
マモンはその話を聞かせた。
「……間違いなく巫女じゃない」
「そうだな……その小娘は殺したのか?」
「いや殺していない。俺は強くなったあの娘ともう一度剣を交えたいからな」
マモンはサタンの質問に当たり前のように答えた。
その答えを聞いたサタンは、ため息をついた。
「……俺にはお前の神経がわからん」
「マモン、『始まりの精霊』ライラの気配は感じた?」
「いや。なにか力の強いものを感じたが、詳しくはわからん」
ルシファーは「そう」と返すと、話を進めていく。
「次は巫女について。魔王様が『終の使徒』を召喚した事から、『始まりの巫女』が生まれているはずよ。まずはその巫女を秘密裏に捜し、捕らえなさい。『始まりの巫女』がいなくては世界が死んでしまうのだから」
「その巫女の手がかりはないのか?」
手がかりがなければ、探しようもない。
「あったとしても、従えている精霊が『始まりの生命樹の化身』であること程度よ。マモンはその小娘に当たりなさい。それでは解散!」
手がかりがそれでは、ないと言っても過言ではない。そんなことは見なければわからない。
マモンは先日出会った冒険者の娘こそが、『始まりの巫女』ではないかと思っているが、その娘が今どこで何をしているのかわからないため、確かめるのは難しいと考えた。そこで彼は『始まりの巫女』を探しつつ、自分の趣味に走ることにした。
「資料探す」と言って、何故か自室に戻ってしまったベルよりはいいと思いながら……。
◆
私は暖かさを感じて、目を覚ました。
「……ん」
「のぞみさん、気がつきました?」
私が目覚めた場所はクリスの背中の上だった。
私を背負うクリスを挟むようにして、前にはココ、後ろにはロミちゃんがいた。
ちなみに刀はロミちゃんが抱えて持っている。
ライラはいないようだけど、きっとなにかしてくれたのだろう。
先頭を歩いていたココも戻ってきて、私の顔を覗き込む。
「無事でよかったですわ」
その表情からも、心配してくれていたことがわかる。
「クリス……ココ……ありがとう」
「どういたしまして。私たちだけでなくロミちゃんやライラさんにも言ってあげてくださいね。傷を癒したのはライラさんですから」
ロミちゃんには直接、ライラには念話で「ありがとう」と伝えた。
ところで今はどこへ向かっているのだろう。
「メイサですよ。のぞみさんを背負って、洞穴を出たら夜でしたので、夜営を行いました」
夜営の道具は私が全部持っていたはずだけど……。
それを聞いたら、食事はクリスの錬金術で、火はロミちゃんが、テントはないけど、ライラが生命樹から大きな葉っぱを数枚取ってきてくれたので、それを地面に敷いて寝床にしたそうだ。
もっとも、2人は生命樹の葉っぱを使う事に抵抗があったらしいけど……。
ライラが取ってきたのなら、それはきっと『始まりの生命樹』のはず。2人には黙っていよう。
「クリス……そろそろ下ろしてもらえると嬉しいんだけど……」
「……大丈夫ですか?このままメイサまで行くつもりですが……」
これといって痛いところはないし、もう大丈夫。
クリスは心配そうに聞くけれど、街まで背負ってもらうのは気が引ける。というか、それだとクリスが大変だと思う。
その場で下ろしてもらい、メイサを目指す。
メイサに着いたのは、太陽が真上に来る頃だった。
メイサの街へ着いて、すぐに冒険者協会へ入り、完了の報告を済ますべく、受付へ向かう。
時間帯的に順番待ちをする人が少なく、すぐに私たちの番になった。
「『赤青の流れ星』です。依頼の報告に来ました」
「『赤青の流れ星』様ですね。皆様のステータスカードをお預かりします」
私達3人分のステータスカードを受け取った受付嬢は、依頼内容の確認を行い、ステータスカードを私達へ返却する。
「宝石の洞穴のスケルトン討伐ですね。討伐証明はお持ちですか?」
討伐証明ってなに?
私は回収した覚えがないのだけど。
「これです」
クリスがたくさんの『スケルトンの骨』を出す。
真っ二つになった骨や焦げた骨が混ざっている。
それを受付嬢さんが一つ一つ調べ、数を数えている。
スケルトンって骸骨の魔物だから、骨だけ出されても混ざりそうなものだけど……。
「ねぇ、クリス……一度にたくさん出しちゃってわかるの?」
「大丈夫ですよ。協会には判別する魔道具がありますから」
クリス曰く、見た目の同じスケルトンでも、骨には細かい違いーー品質はもちろん、骨に付いている能力等、細かい部分が違うらしいーーがあるそうで、それを魔道具で選別しているとのこと。
クリスはそれを目と手触りで判断しているが、間違えたことはあまりないらしい。
クリスしか知らないけれど、錬金術師ってみんなそうなのかな。
ちょっと無理やり過ぎたかもしれません。




