35 模擬戦しよう
次回は来週の日曜19時となります。
翌日、模擬戦のルールが発表された。
ルールは以下の通りとなる。
・代理参戦は不可。
・武器は協会側で用意したものを使用すること。
・勝敗は相手が気絶するか、降参することによって決まる。
なお、領主の娘であるココが選手として参加するため、回復魔法を使える者が招かれている。その為、多少の怪我ならば治すことができ、遠慮せずに戦うことができる。
現在私とクリスは協会の一室にいる。
ココやガルディさんとは朝食の時に顔を合わせたくらいで、それ以降は見ていない。
その朝食の時にクリスの対戦相手の事を聞いてみたけれど、クリスの戦い方に合わせた使用人を選ぶから安心して欲しいそう。
改めて確認するが、クリスの戦い方は魔法を使った遠距離型だ。おそらく魔法を使える者を出してくるだろう。
「クリス……本当に大丈夫?」
「何がですか?」
「私が受けるからって、クリスは受ける必要なかったと思うの」
「ガルディさんの言い方を考えますと、私の実力の確認も入っているように思います。のぞみさんの実力だけでココさんを預けるのは、心配なのではないのでしょうか」
そういえば確かに「お前達2人」って言っていたよね。
「そっか……。私に何かあったとして、クリスがあまりに弱かったらココがどうなるかわからないものね」
「はい。私も自分がどこまでできるかわかりませんので、思い切りやってみたいと思います」
クリスは自分の杖を握り締め、戦う覚悟を決めた。
丁度その時、一室のドアがノックされ、協会職員が呼びに来た。
「待たせたな。準備ができたぞ」
「わかったわ」
椅子から立ち上がり、クリスと一緒に部屋を出る。
まず案内されたのは、保管庫だ。
「武器はこの中から選んでくれ。大体は揃っているからな。そっちの嬢ちゃんもここにある杖を使ってくれ」
「私もですか?」
「ああ」
大した効果は装備効果はなかったはずだけど、念のためだろう。
私は手に合う剣、できる限りロミちゃんと近い大きさの物を探す。
クリスもしっくりくる杖を探しているらしく、いくつか手に取っては振ってみたりしている。
『ご主人様、そのけんでしたら、わたしにちかいとおもいます』
『……これ?』
ロミちゃんの念話に従って手に取り、振ってみる。
「……うん、ちょうどいいかも」
『よかったです』
剣と言っても木製だ。いくら木製だと言っても、叩かれたら痛いくらいにしっかり作られている。
刀の場合はほとんど重さを感じないけれど、これは本来の重さが伝わり、それなりにずしっとくる。
クリスの方も丁度いいものが見つかったらしく、木製の杖を手にしていた。
「良さそうな武器は見つかったみたいだな。訓練場では領主様が待っているぞ」
訓練場に到着して驚いたのは、その広さと人の多さだ。
訓練場の広さは、小学校や中学校のグラウンド並みに広く、その半分ほどの面積が模擬戦の為に確保されていた。
模擬戦の為に空けられたスペースを取り囲むように、人が集まっていた。
「……まさかこんな事になっているなんて……」
「見世物にでもなった気分よ」
「冒険者どもに取ってはいい娯楽になるからな。それにココ様が参戦するんだから、当然だ」
ココ目当ての男が多いみたいね。
彼女はいかにもお嬢様という雰囲気を纏っていて、話し方もお嬢様そのものだ。しかし、困っている人がいたら、救ってあげようとする優しさも持っている。街の外で会った時のように、行動力も高いのだろう。おまけにかなりの美少女だし。
彼女は私が思っている貴族とは違っていた。
「まずはそっちの娘からだな」
「私からですか?わかりました」
クリスが模擬戦の舞台に上がる。クリスから少し遅れて、対戦相手となる使用人が舞台に上がった。
「クリス様のお相手をさせていただきます、ミトでございます。手加減など不要でございます」
彼女は使用人らしい服を着ている。待って、家の中で見た使用人と同じ物だ。戦うときもその服装なの?
服装はともかく、彼女の手には杖が握られている。クリスと同じ後衛なのだろうか……見た目はメイド服なんだけど。
クリスが選んだものは長杖で、彼女の物は片手で持てる程の大きさだ。
試合開始の合図が下され、2人は魔法の詠唱を始める。
「水よ穿て。ウォーターボール!」
「水よ、玉となりて、敵を打て。ウォーターボール!」
2人の魔法が発動し、水の弾が飛んでいき、そのまま互いに衝突する。魔法の威力はクリスの方が高かったようで、勢いは落ちたものの、そのまま飛んでいく。
……あれ?クリスとミトさんの詠唱が違う?理由はあとでライラに聞いてみるとして、戦いを見守る。
ミトさんは水属性以外にも風属性の魔法を使ってきたが、クリスはその魔法すべてを防いできた。
魔法戦は強かったが、接近戦に持ち込まれてからは、身を守ることが多くなり、隙ができた所に一撃を入れられ、そのまま負けてしまった。
「のぞみさん……負けてしまいました」
戻ってきたクリスはとても悔しそうにしている。模擬戦といえど、負けるのは悔しいよね。
「……私がクリスの分も頑張るからね」
「……はい」
次は私の番だ。
協会職員に呼ばれ、模擬戦の舞台に立つ。
その直後歓声が上がり、その歓声とともにココが舞台に上がってきた。
「お待たせ致しました、のぞみさん。私と踊りましょう」
ココは紫をベースとしたワンピースに、ケープを羽織っている。
正直、戦う格好ではないと思うの。……私も人の事言えないけれど。
手に持つのは片手剣と丸い盾だ。
試合開始の合図が下され、私は剣を正面に構える。
「のぞみさん、参りますわ!」
宣言ととともに、ココが斬り込んでくる。
その剣撃を受け止める。
「ふふっ……この程度は止められて当然ですわね」
「あまり喋りたくないんだけど……」
「あら、失礼」
そこから先を模擬戦と呼ぶには無理があった。
木製の剣と剣がぶつかる音が響き、時おり魔法が飛ぶ。
「はあ、はあ……やりますわね。のぞみさん……」
「ココもね……」
私とココの剣の実力はほぼ互角であるが、体力的な理由で私が押され始めている。
「……のぞみさん、元気がなくって?」
「う、うるさい……!」
「あら、怖い。そろそろ終演にしましょうね」
魔力を剣に纏わせた攻撃がくる事を悟った私は、同じように魔力を剣に纏わせる。使うのは光属性。
魔力を乗せた、お互いの剣がぶつかったその時だった。
バキッ!と音がして、慌てて離す。
「!?」
剣を確認すると、刀身の所にヒビが入っていた。
「これ、そのうち折れるよね」
「……そうですわね」
「仕切り直す?」
剣が傷んでいる状態で続けても危ないだけ。本当の戦いなら状況次第だけど、今は模擬戦の途中だ。
武器を変えて仕切り直しもできる。
「必要ありませんわ。のぞみさんの実力は私と同等ですもの。それだけわかれば十分ですわ。それに使いなれた武器ならば、私の勝利はあり得ませんもの」
ココは潔く負けを認め、職員を呼び出す。
勝敗は武器破壊による引き分けと宣言させ、模擬戦は終わった。




