02 助けを待とう
なんの説明もないまま、異世界へと旅立たされた私は、いきなり命の危機に晒されている。
なぜかって?
それはね……。
「なんでいきなり空中なのよーーー!?リドちゃーん!!」
さっきの神様の名を叫ぶけど、返事はない。
いや、そんなことよりも今は、森へ向けてまっ逆さまに落下中なのだ。
何とかしないと死ぬ!まだ始まってもいないのに死にたくない!
あっ、リドちゃんから貰った鞄があった。
なにか使えるもの……って、もう緑の大地が近い!
なにもないよりはマシだと思い、鞄を盾がわりにして、そのまま私は森の中に落下した。
どのくらいの時間が経ったのだろうか。
目が覚めた私は体を動かそうとするが、うまく動かせない。両手が自由に動かせる事が救いだ。
見える範囲で、周囲の状況確認をしよう。
体がうまく動かせない理由はすぐにわかった。折り重なった枝や蔓に、偶然はまってしまっているからだ。
わかりやすく言えば、浮き輪にすっぽりはまってしまって、自力で抜けられなくなってしまったようなものだ。
それに私は、地面からおよそ2メートル程の場所にいる。
枝や蔓を切る事ができれば降りられるけど、落ち方によっては怪我する高さだ。
切るものと言えば、リドちゃんから貰った剣がある。
しかし、どこにあるのかわからないし、そもそも私が振り回せる代物なのかもわからない。
よって私が取れる行動は……誰かが通るのを待つ。ただこれだけ。
待つって言っても、こんな森の中に入ってくる人なんて、普通ならいないと思う。しかし、ここは異世界なのだから冒険者とか、ならず者みたいのとかがいても不思議じゃない。
もしくは人間じゃない、何かとか。
ともかく、自分ではどうしようもないし……少し休もうと思う。
どのくらい休んだのかわからないけど、なんだか下の方がギャアギャア騒がしい。
何事かと思い見てみると……全身が緑色の小さい鬼?……これってゴブリンかな。服の代わりに布切れを体に巻いて、手には棍棒。それから剣を持ったのもいる。
下で蔓を切ろうと剣を振り回してるけど、蔓には全く届いていない。
しかし、私には何かの拍子に届きそうなため、すっごく怖い。
しばらくすると彼らは諦めて帰っていったけど、今度は私自身に危機が及ぶ。それはね……おトイレ行きたい!
17歳にもなって漏らすのは嫌だし……誰か来てよー、と叫びたい。叫びたいけど、またゴブリンが来ても困る。
いっそこのまま……と思ったら、同い年くらいでローブを纏った少女を見つけた。
彼女は草を採っているようで、私には気づいていない。
ある程度採取したら、立ち上がり、その場をあとにしようとする。
彼女を逃したら、助けは来ないと思い、彼女に声をかけた。
「すみませーん!」
私の声に気づいたのか、キョロキョロと辺りを見回す。
「こっちです、後ろです!」
振り向いた彼女は私を見て、不思議な生き物を見た顔を見せた。
「あの……引っ掛かっててうごけないので……助けてもらっていいですか?」
「……あ、はい。ちょっと待っていてくださいね」
彼女は私の下に落ち葉や枯れた枝を集めてきて、無いよりは良いとも言えるクッションを作る。そして、背負っていた杖に蔓で石を巻きつけた。
私を落とすつもりかと思ったら、そのまさかだった。
「え、待って?」
「待ちませんよ?ゴブリンがまた来るかもしれませんから」
ゴブリンってさっきの小鬼だよね。
「ゴブリンの子どもを産みたいなら待ちますけど……産みたくないですよね?」
それはそうだ。私はあんなのを産みたくない。やっぱり人間がいいもの。
「落ちると痛いかも知れませんが、そこは心配しないでください。私が薬で治しますから」
「いや、待って!せめてこれも下に置いて」
私は持っていた鞄を彼女に投げ渡し、下に置いてもらった。
彼女は簡易的な斧を使い、私を支えていると思われる枝を折っていく。
枝が私の重さに耐えられなくなったところで、バキバキと音をたてて折れた。枝が折れれば私も落ちる。
「ーーッ!!」
落ちた時に思いきりお尻を打ったけれど、鞄と集めてくれた葉っぱのお陰か、大事には至らなかった。