25 隣街へ行こう(1日目)
翌朝、宿を引き払った私たちは、テントを探すため、お店へ向かった。
この街で野営の道具を売っているお店は、1件しかなくそこで調達することにした。
店員さんを呼び、テントを探している旨を伝え、おすすめの物を出してきてもらった。
出してくれたテントは、私たちでも組立が簡単にでき、なおかつ値段もお手頃だったので、そのテントを購入することにした。ほかの食料等も一緒に。
店員さんにお金を払い、商品を受け取る。買ったものは全て私が持ち運ぶことになった……鞄に入れて。
「まさか入るとは思わなかった……」
「そうですよね……」
今は背中に背負っているけど、この刀――ロミちゃんだって鞄に入っていたものだ。
鞄の大きさは、ちょっと大きめの肩掛け鞄といったところなのに。
◆
ベラトの街へ向かうため、北門から街を出る。
門の外は緑の平原で、その中をひたすら真っ直ぐに道が伸びている。この道をまっすぐ進めばベラトの街にたどり着くという。
門が見えなくなったのを確認して、ロミちゃんに人型になってもらう。
「ロミちゃん、どう?」
「もんだいありません、ご主人様!」
人型を取ったロミちゃんは、前と同じく緋色のドレスを身に纏っていた。
その服装は目立つと思ったけれど、私も人のこと言えないので黙っておく。
「ならよかった……。実体化って何かわかった?」
「はい。ご主人様がわたしをせおっていても、このすがたでいられるようになりました」
ロミちゃんはそう言って、鞘に収められたロミちゃんの本体を両手で差し出す。
私はそれを受け取り、背負う。
緋色のドレスを纏ったロミちゃんは、まだ私の前にいる。
ちゃんと触れられるのか、そっと手を伸ばし、頭を撫でてみる。
「……なんですか?」
口ではそんな風に言っているけど、なんか嬉しそうにしている。
「なんでもないよ~」
本体を私が背負っていても、実体化できるようになったのなら、いつでも一緒にいることができる。
魔物と戦うときは、実体化を解いてもらえばよさそう。
「まものともたたかえますよ?たとえやられても、ご主人様のもつほんたいがぶじなら、ひとばんあればでてこられます」
戦うことはできる、とロミちゃんはいうけれど、見た目が小さいから戦わせるのは気が引ける。というか、ロミちゃんのステータスはHPとMPを除いて、私のおよそ半分くらいしかない。そのため、スライムにすら勝てないと思う。スライムは魔法が効くので、魔法が使えればもしかしたら勝てるかも……というレベルかな。
正直、ロミちゃんが魔物にやられるところを見たくない。
「戦える、というのありがたいけど……気持ちだけでいいから。戦いになったら実体化を解いてね」
「……わかりました。ご主人様がそういうなら……」
本当に渋々、といった感じで納得してくれた。
◆
ロミちゃんを真ん中にして、私が左側、クリスが右側の順番で横に並んで道を歩く。
「のぞみさん、右側から何か来ます」
道の右側を確認すると、なにかがかなりの速さでこっちへ向かってきている。速さを考えると、スライムではない。
「ロミちゃんは実体化を解いて!クリスは魔法の準備して!」
「「わかりました」」
2人に指示を出し、私は刀を構える。
念のためライラも呼んでおく。ライラは基本的に支援しかしないが、どうしようもない時は助けてくれる。現状、私たちの切り札的な存在になっている。
がさがさと草が揺れ、飛び出してきたのはツノが生えたウサギだった。数は4匹いたが、そのウサギ達は私達を無視し、そのまま駆け抜けていった。
「……え?」
「のぞみさん、前!」
「前?」
前を向くと、私に向かって爪を立て、飛びかかってくる狼が!
「ひっ!」
「のぞみさん!伏せてください!ウォーターボール!」
クリスのウォーターボールが狼を捕らえた。
「クリスありがとう!」
「まだ来ますよ!のぞみさんはそちらを!」
「わかったわ!」
捕らわれた狼はまだもがいているが、もうすぐ動かなくなるだろう。
この個体はクリスに任せ、私は残り2匹を倒す。
「ロミちゃん、お願い」
『はい!』
刀を大きく振り、1匹を斬り飛ばす。
「うぐっ……」
大きく振ったために隙が生まれてしまい、もう1匹の狼の爪を脇腹に受けてしまう。
叫びたいほど痛いけど、それを根性で堪え、狼をしっかり見据える。
少し距離は離れているけど、ほんの少しだ。すぐさま刀を握り直し、攻撃に移る。
狼は噛みつこうと突進してくる。
私はその動きに合わせて、刀を振る。
振り抜かれた刀は、狼の胴体を大きく切り裂き、そのまま絶命させる。
「はぁ、はぁ…………痛っ……」
爪を受けた場所が酷く痛むため、その場に座り込んだ。傷を見ると血が出ていた。
戦いにはなんとか勝てたけど、このままでは駄目だ。
私が爪で斬られるところを見たのか、とても心配そうな顔で駆け寄ってきた。
「のぞみさん!大丈夫ですか!?」
「クリス……なんとか……痛っ」
立ち上がろうとしたけど、できなかった。
「のぞみさん、やっぱり怪我してるじゃないですか!」
「……少し休めば大丈夫だから」
「ちょっと見せてください」
傷口をクリスに見せる。
「まだ回復薬持っていますよね?出してください」
それを鞄から出し、クリスに渡す。
「染みると思いますが、我慢してくださいね」
その言葉に私は頷く。
回復薬を傷口にかけられた瞬間、「うあっ」と声が出てしまった。
「……これで消毒はできました。あとは魔法で治すか、薬を塗りましょう」
「ありがとう、クリス」
クリスにお礼を伝える。
「このくらいいいですよ。のぞみさん、これからの事ですが……魔物が出てきても、逃げませんか?」
「……そうね。一匹相手ならなんとかなるけど、二匹相手は無理よね……私なんか怪我しちゃったし……」
「それから、ベラトの街で旅の仲間を探しましょう。夜はライラ様が守ってくれるとはいえ、二人旅は辛いです」
旅の仲間を探すのは賛成よね。とはいえ、問題なのは私の経歴になるかな。
ライラやロミちゃん、鞄の容量、私自身が巫女であること等。
暫く休んで怪我の痛みも引いてきたが、今日はそのままここで野営することになった。
怪我をした私を気遣ってくれている事がわかっているので、反対はしない。
テントはクリスとロミちゃんが頑張って組み立ててくれた。
私がやったことと言えば、鞄から畳まれたテントを引っ張り出しただけ。
他の用意はすべてクリスとロミちゃんがやってくれた。
私が「なにかしようか?」と聞いても、「のぞみさんは休んでてください」と言われてしまう始末。
そんなわけで私は今、テントの中に一人でいる。
外ではクリスがご飯を作っているらしく、いい匂いがしている。
「のぞみさん、ご飯できました。パンとスープです。スープにはライラ様が採ってきた薬草を入れてあります」
「ありがとう……いただきます」
スープを一口飲む。
「…………美味しい」
「そう言ってもらえてよかったです」
クリスがにっこり笑う。
私はこの笑顔を守りたいと思った。
のぞみ(よそ見はダメね……うん)




