01 転移しよう?
私は気がつくと、白い霧が渦巻くその内側にいた。
ベッドに入って眠りに落ちたのは覚えている。
身につけている服を見れば、いつも眠る時着ている橙色のパジャマではなく、私が持っているシャツとスカートを着ていた。
いったいいつ着替えたのか、そもそも、なぜこんなところにいるのか、それすらわからない。
周りを見ても、白い霧が渦巻いているだけで、なにも見えない。
本当の私はまだ眠っていて、これは夢の中よね、と考え、自分の頬をおもいっきりつねってみる。
……やっぱり痛い。
痛いと感じるということは、この場所は現実ということになる。
「なんなのよ……ここは……」
そう呟いた瞬間、突如霧の渦が消えた。霧の渦の向こう側は美しい草原が広がっていた。
「お姉さんいたー!!」
その大きな声とともに、小さな子どもーーフリルのたくさん付いた、ピンク色が眩しい洋服、言わばロリータファッションに身に包んだ女の子が駆け寄って来る。
……が、つまづいて顔から地面にダイブしていった。
「……ねぇ、だ、大丈夫?」
手を差し出し、声をかけるが応答がない。
「だ、大丈夫……」
そう言って自力で立ち上がる。可愛らしいピンクの洋服が汚れてしまっている。
女の子の顔を見れば涙目で、鼻を打ったらしく、そこを片手で押さえている。
どう見ても大丈夫には見えないが、本人が大丈夫だというなら、私はなにも言わない。
「変なところ見せてごめんね?私はこんなでも神様なの!」
胸を張って言っているが、鼻から赤い液体が流れ、服は土にまみれていて、まるで説得力がない。
「まずいろいろ拭いた方がいいと思うよ?」
「あ、うん。そうだね」
どこから出したのか、その布で顔を拭い、服に着いた土や砂は手で払い落とす。
拭った布は、その辺に放り投げる。
その布は地面に落ちた瞬間、消えてしまった。
「では改めて……私はリド。柊のぞみ、貴女の魂を別の世界へ導く女神なの」
「こんなにちっちゃいのに……」
なんとなく可愛かったので、頭を撫でる。
「ち、ちっちゃいいうなー!あと撫でないでよ」
そんなこと言いながらも、顔はにやけているので、喜んでいるみたい。
このまま撫でていたいけど、先へ進まないのでここまでにしておく。
「と、とにかく説明させてね……って時間がない!」
なんか女神様が焦り始めた。
なんとなく自分の手を見ると、透けてきている?
「え、なんで?なんで透けて……?」
もしかして私このまま消えちゃうの?
「本当は私の方からいろいろ説明しなきゃいけないんだけど、時間がないからできないの。それらを纏めた本を渡すから、後で読んでね。それから貴女は《始まりの巫女》になるから、頑張って生きてね。」
「え?待って?」
待って……説明ないの?本渡すから私に読めと?
そもそも《始まりの巫女》ってなに?
「それとお詫びの代わりにいくつかサービスしてあげるね。私を呼び出す召喚魔法と、不思議な鞄、名無しの精霊剣をあげる。召喚魔法だけど、直ぐには行けない事もあるから、気をつけてね。それでは行ってらっしゃい!」
「えーーー!?」
お詫び代わりのサービスより、説明をくださいっ!
それに女神様を呼び出せるって、それはいいの?……貰えるなら貰うけど。
そしてそのまま私、柊のぞみは転送された。
前にいた世界ーー今という世の中から、どんな場所なのかすらわからない、未知の世界へと……。