17 街を目指そう
翌朝、日の出と共に家を後にする。
「ねぇ……鍵はしなくてよかったの?」
「はい。人間はともかく、魔物は近づいてきませんから」
言われてみればそうだ。
人気のない、魔物のいる森の中にある家なのに、魔物が来た事は一度たりともない。
柵はあったものの、簡単な作りのため、壊すのは容易いのにも関わらずだ。
それでも、魔物が来ない理由を聞いたら、「師匠が錬金術で作製した、魔物避けがありますから」と返ってきた。
クリスの先導で森を歩く。
「ねぇ、どこへ向かってるの?」
「ここから一番近い、ミンタカと言う街です。そこでのぞみさんのステータスカードを発行してもらいます」
「ステータスカードって?」
「こういったものですよ」
クリスがステータスカードを見せてくれた。
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名前:クリス・アルフィテリア
年齢:15歳
所属国家:プレアデス王国
職業:錬金術師
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書いてある内容を見る限りは、保険証や学生証といった、この世界での身分証だろう。
旅をするなら、持っていた方がいいと言う。
というか、持っていないときに何かあった時困るし。
詳しい説明は発行時にあるそうなので、ここでは聞かなかった。
しばらく歩いていると、私たちの前にゴブリンが出てきた。この世界に来て初めて見たゴブリンは剣を持っていたが、今度のゴブリンは棍棒を持ってた。
「のぞみさん!ゴブリンです!」
ゴブリンはこちらへ向かってくる。
クリスはすでに杖を構えており、魔法を放つ。
「水よ、穿て!ウォーターボール!」
水の塊が剣棍棒を振り上げたゴブリンの顔面に命中し、少しだけ怯む。
「のぞみさん!」
「ふぇっ!?」
《ごしゅじんさま、わたしをつかってください!》
クリスとロミちゃんに従い、ゴブリンに剣を振り下ろす。
「たあっ!」
ゴブリンは振り下ろされた剣を防ごうと、棍棒で防御体勢を取るが、その棍棒ごと袈裟斬りにされる。
袈裟斬りにされたゴブリンは後ろに倒れ、動かなくなった。
「…………」
相手は魔物とはいえ、私はその命を奪ったのだ。
「のぞみさん、やりましたね」
「……うん」
「……どうしました?」
「……殺さなきゃ駄目だったのかなって……」
それをクリスに伝えたら、彼女の顔色が変わる。
「ゴブリンに慈悲なんてかけないでください」
私に向き直り、真剣な表情で話す。
「彼らは私たち人間を『子どもを産ませるための道具』、もしくは『食料』としか見ていません。そんな存在に慈悲なんていりません。それに……」
そこで話を一度区切った。
「捕まってしまえばその先はありません。例え、助け出されたとしても、ゴブリンに忌み物にされた女性を誰が貰ってくれますか?」
言葉が出なかった。
そんな女性を貰ってくれる男の人はいないだろう。私が男でも断る。
「そうですよね。ゴブリンは見つけ次第駆除です」
クリスはそれだけ言うと、先程殺したゴブリンのところへ向かい、ナイフで胸の辺りを切り裂く。
「で……なにしてるの?」
「魔石の回収ですよ。ゴブリンを始めとした魔物には、魔石があります。ちなみに魔石は胸の辺りにあることが多いです」
クリスはゴブリンの体内から取り出した魔石を私に渡す。
魔石は綺麗な紫色の玉だった。
「それは売ればお金になりますから……のぞみさん、持っていてください」
私はその魔石を鞄にしまった。
死体は放置でいいのだろうか。
「死体ですか?森の動物や魔物が食べてくれますから……」
その後もゴブリンの襲撃は受けた。
棍棒だけでなく、剣を持っていたり、中には木を切るための斧を持っているゴブリンまでいた。
もちろん例外なく、出会ったすべてのゴブリンを駆除した。
お昼頃になると、クリスがウサギを捕まえてきて、そのウサギが昼食のサンドイッチになって出てきた。
「いただきます」
私はいつものように「いただきます」と言って食べ始める。
「……のぞみさん、聞いてもいいですか?」
食べながらも頷く。
「その……『いただきます』というのは?」
口の中の物を飲み込み、説明する。
「うーん……何て言ったらいいかな。このサンドイッチのお肉、さっきのウサギさんだよね?」
「はい」
「そのウサギさんを殺して、私たちの糧としているよね。せめてもの感謝の気持ちかな。その生き物に対して『あなたの命をいただきます』って」
「そんな意味があったんですね。では最後の『ごちそうさまでした』というのも?」
私は「似たようなもの」と返した。
その次の食事から、クリスも「いただきます」と「ごちそうさまでした」という言葉を使うようになった。
昼食を終え、再び歩き始める。
やがて森を出て平原へ出た。
「この草原の向こうに『ミンタカの街』があります。この草原にはスライムが潜んでいますので、気をつけてくださいね」
「わかったわ」
「スライムというのは……あれですね」
クリスの指差す方向には、水色の大きなゼリーのような物体がノロノロと動いていた。
あれがスライムなのね。
「普段はあのように動きは遅いですが、餌となる物を見つけると、跳び跳ねるように動きます」
クリスが説明してくれた直後、スライムと目があった。……ような気がした。顔があるかはわからないが……。
「……スライムに顔ってあるの?」
クリスは少し考えて答えた。
「……スライムについてはよくわかっていません。ですが、目が合った、と言う話は聞いたことがあります」
「そっか。普通に斬れば倒せる?」
「はい。のぞみさんの剣であれば……。水属性以外の魔法なら、もっと速く倒せます」
「わかったわ。クリスは伏せてて。スライムが来てるから」
「はい。はい?」
ようやくスライムの接近に気づいたクリスは、私の後ろに隠れる。
私は手を前に出し、魔法を発動させる。
「ファイヤーボール!」
放った<ファイヤーボール>はスライムに当たり、ゼリーのような体を燃やす。
燃やされながらも近づいてくるが、やがて動きが止まり、核となっていた魔石だけを残して消えた。
魔石の色はゴブリンと違い、深い青色だった。
「ゴブリンの魔石とは違う色なのね」
「はい。魔石の色は魔物の種類によって違いますからね。紫色、青色の他、赤色、黄色と様々な色があります」
いろいろな魔物を倒したとしても、魔石の色で判別可能なのはいいね。
ちなみに魔石を鑑定してみると、しっかり魔物の種類まで特定されていた。
日が傾きかけた頃、ミンタカの街を護る城壁と思われるものが見えてきた。
「のぞみさん、あの城壁の内側が『ミンタカの街』です」




