15 魔法を知ろう(その2)
魔力切れから復活した私達に待っていたのは、ライラによるお説教だった。
「いいですか、のぞみ様、クリス様。魔力を使いすぎると、先ほどのように倒れて行動不能になります。倒れる兆候としましては、頭がボーっとする、体がフラフラする、テンションがおかしくなる等があります」
よく思い出してみたら、テンションがおかしかったかもしれない。
いろいろ連発してたし……。
「個人差がありますので、一概には言えませんが、そうなった場合は魔法の行使を中止するか、休んでください。もしくは、何らかの方法で魔力を回復してください」
体力を回復する回復薬があるのなら、魔力を回復させる回復薬があってもおかしくない。
……え、ある?
魔力回復薬と言うらしい。材料となる素材は、この森の奥で取れるそうだが、ゴブリンを始めとする魔物が出ることがあるため、あまり行かないそうだ。
ちなみに治癒魔法と神聖魔法については、魔力が完全回復するまでお預けとなった。
アトリエに送ってもらい、ぐっすり寝た翌日、私達は再び『生命の聖域』へとやってきた。
今日は、治癒魔法と神聖魔法について学ぶ。
「それでは治癒魔法についてお話します。治癒魔法というのは、怪我や病気、毒や麻痺などの状態異常を治す魔法です」
治癒魔法っていうくらいだし、そうだよね。
「治せる傷や怪我の程度は使う者によって左右されますが、魔力を込めれば込めるほど、治せる怪我の程度も上がっていきます」
傷や怪我はもちろんの事、魔力さえあれば骨折、果ては欠損ですら治癒できるという。ただし、魔力をいくらつぎ込んでも、死人を生き返らせることはできない。
ちなみに、クリス曰く骨折を治癒できた人間は、錬金術の師匠を除き、今のところ聞いたことがないそうだ。
クリスの師匠とは一体何者なのだろうか。
治癒魔法については、これだけでほとんど済んでしまったので、神聖魔法の話になった。
「続いて、神聖魔法です。神聖魔法とは、巫女である少女、もしくは巫女であった女性にだけ使える魔法です」
つまり、一般人であるクリスには使えず、使うためには『巫女』でなければならない魔法。
「神聖魔法の効果は、治癒魔法が効かない呪い等の状態異常除去、悪魔・悪霊系魔物へ大打撃を与えることが出来る、唯一の魔法です。そして、のぞみ様は、始まりの巫女です。通常の巫女の少女達よりもその力は強く、弱い悪魔・悪霊系魔物ならば触れただけで、浄化してしまうほどです」
前にクリスが言っていた、『巫女は神殿にて保護されている』という話は本当みたい。こんな魔法を使える存在は保護しなければならないと思う。
もし、私がこの魔法を使えると知られてしまえば、その強さも相まって即座に神殿送りだろう。
というか、 弱い悪魔・悪霊系魔物ならば触れただけで、浄化してしまうって、どれだけなのよ。
「神聖魔法の使い方としましては、『魔法や武器に付与する』という使い方のほか、『一時的な祝福』という形で、クリス様への付与も可能です。のぞみ様ほど強ければ、純粋な攻撃魔法としても使えます」
物は試しと、〈ファイヤーボール〉に神聖魔法を付与して撃ってみれば、金色の輝きを放つ火の玉が飛んでいった。武器に付与してみれば、淡い金色の光を放った。
……隠しようないよね……この力。
できるだけ使わない方針でいよう、うん。
ライラによる魔法講義も終わったので、アトリエに戻ってきた。
ライラは生命の聖域にいるが、呼んでくれればいつでも駆けつけてくれると言ってくれた。
なお、呼ばれなくても、私がピンチになった時は「助けに行く」とも言っていた。
この日は魔法の自主練習をして終わった。
翌日、朝食を取ったあと、クリスに言った。
「召喚魔法を試してみようと思うの」
「……なんの召喚魔法ですか?」
「リドっていう女神様」
私は女神であるリドちゃんを呼び出すことができる、召喚魔法がある。
魔法についてライラに教えてもらったから、使ってみようと思ったのだ。
こんな理由でも、女神であるリドちゃんを呼んでいいのか、普通は迷うけれど、私にはリドちゃんが神様には見えないんだよね。
初対面時の出来事のせいで……。
「リド様……女神リド様ですか!?」
「そうだけど……?」
なにをそんなに血相変えているの?
「迷い子を導く偉い神様ですよ!?」
私の頭の上には、クエスチョンマークがきっと浮かんでいるだろう。
「ちょ、ちょっとだけ待っていてください!」
慌ててアトリエの中を片付け始めたクリスさん。
私にも雑巾代わりにしている布を投げつけてきて、「手伝って」と言いたげな視線が飛んできたので、できる限りのお手伝いをした。
アトリエ内の掃除を終えて、クリスが「もう呼んでもいいですよ」と言うので、念のため、外へ出て召喚魔法を発動させる。
頭の中に出てきた言葉を唱える。
「◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆◆◆」
自分で何言っているのか、さっぱりわからなかった。
私の前に幾何学模様の魔法陣が出ているから、召喚は成功したのだろう。
しかし、リドちゃんはまだ来ていない。
すぐに行けないこともあるって言っていたし、のんびり待っていると……上空から女の子の悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。
その声はだんだん大きくなってくる。
そのまま地面にズドン!と派手な音と共に、土や砂埃を立てて墜落した。
「……のぞみさん……リド様は大丈夫なんですか?」
「大丈夫でしょ……たぶん……」
土や砂埃が晴れると、落ちた場所には人の形をした穴が開いていた。
「ちょっと見てくる。クリスは穴を掘るもの持ってきておいて」
「わかりました!」
私は穴の方へと向かい、穴の中に向かって呼びかけた。
「リドちゃーん!だいじょうぶー!?」
「……た、助けて」
中から弱々しい声で、一言だけ返ってきた。
とりあえず生きていることを確認し、アトリエの方を振り向くと、クリスが2つのスコップを持って走ってきた。
「こんなのしかありませんでした……」
「十分よ」
2人で穴を掘ること暫く、ようやくリドちゃんを救助することができた。
「……のぞみ……私の事嫌いなの?」
救助したあとの第一声がこれだった。
嫌いじゃないから、そんな今にも泣きそうな顔しないで。
「そんなことないよ?リドちゃんは可愛いし、好きだから」
頭を撫でて落ち着かせ、可愛らしいピンクの洋服についた、土やら砂を手で払い落としてあげる。
「……うん、少しは綺麗になったね」
「のぞみ、ありがとう」
私が手で払いきれなかった分は自分で、綺麗にしていた。
こういうのは気持ちが大事なのよ。
……女神様を地面に墜落させておいて言うなって?ごもっともで。
リドちゃんはクリスに気づき、口走るように自己紹介をした。
「わ、わたひゃ……」
噛んだ。
そして、言い直す。
「わ、私は迷い子を導く女神、リド!敬うのです」
クリスの目がとっても優しい。
さっきので威厳なんてどっかにいってしまっているということも、多分気づいていない。
それでもクリスは膝をつき、祈りを捧げる。相手は神様である、ということは忘れていないみたい。
私?リドちゃんは神様だけど、妹みたいなものだから。
「それで……のぞみ?私を呼んだ理由は?」
理由?ありません。
魔法についても少しはわかったので、召喚魔法を使ってみただけです。
そのことを素直に伝えた。
「そっか…………うん?」
私から何かを感じ取ったのか、私のことををまじまじと見ている。
「精霊ライラと契約できたのね。そのご褒美、というわけじゃないけど、これをのぞみにあげる」
私はリドちゃんから、スーツケース程の大きさの宝箱を受け取った。
なぜ私が生命樹の精霊と契約していることがわかったんだろう。
疑問に思ったけど、リドちゃんは神様だからね……見た目や私の態度はともかく。
「それと鞄だけど……のぞみにはこの中に入っている物を使ってほしいな。色合いも合わせてあるし……」
……色合い?装備品一式でも入っているのかな。
「元々使っていた鞄は、錬金術師のお姉さんが使うといいよ。使えるようにするから」
そう言ってリドちゃんは鞄に触れる。
すると鞄が淡く光を放つが、すぐに収まった。
「これでお姉さんにも使えるようになったよ」
すると突然ベルの音が響いた。
「っと、ごめんね。呼ばれちゃったから行くね。用事なくてもいいから、また呼んでね」
そう言って、リドちゃんは帰っていった。
「……のぞみさんといると飽きませんね」
「……何か言った?」
「いいえ。なんでもありません」
クリスと2人でアトリエに戻り、リドちゃんに貰った宝箱を開いてみる。
中に入っていたのは、綺麗な服と小物であった。
服は赤色を基調とした花柄模様で、日本の着物を洋風にアレンジしたものだ。日本の着物の良いところに、海外から伝わってきた洋服の良いところを足して、綺麗に纏めたような感じ。着物をベースにしたドレスだろうか。裾部分にはフリルがあしらってあり、とっても可愛らしい。
服に合わせた色の小物として、肩掛けポーチのほか、花を模した髪飾り、帯、帯紐、靴下、靴、さらには肌着、下着類まである。
そして、箱の一番下には、服の説明と、着用手順が書かれた紙が入っていた。
服の説明はこのように書かれていた。
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私が神様になって、初めて転移させた人間である貴女に、私から最後の贈り物だよ。
この衣装一式を身につけると、物理防御力・魔法防御力が50%あがるよ。
そしてなんと!この衣装は1日1回自動的に洗浄・修復がされちゃいます!すごいでしょ!?
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……これは常時着用するしかないよね。何より汚れなくて楽でいいし。
……え?女の子としてどうかって?
替えの服や下着なんて、転移の時に身につけていたものしかない上、服もボロボロになっちゃってるから、もう使えそうにない。他にあったとしても、クリスの手持ちのメイド服だ。
という事で、紙に書かれた着用手順に従い、身に付けていく。
下着から全部着替え、着物状の服を羽織り、形を整え、帯を巻く。その帯の上から帯紐を巻き、固定する。
最後に髪飾りを付けて、出来上がり。
うーん……ドレスというには丈が短い。私の膝上くらいに裾がある。
とはいえ、素肌は出ていない。理由は靴下にあって、長さが裾のやや上まであるからだ。
「できた……クリスどう?」
クリスに似合うかどうか訪ねる。
「…………」
「クリス?」
クリスの顔の前で、手をひらひら動かす。
「……はっ!すみません。つい見とれてしまって……」
たぶん、服の方に見とれていたのだろう。
私はそう思うことにする。




