12 ライラ様とお話ししよう
「ライラ……様でいいんですよね?」
「はい。固くならず、お気軽に、ライラ、とお呼びください」
いきなり呼び捨てにしろ、と言われても困る。なにしろ相手は、伝承に出てくる精霊ライラ様なのだから。
そんな神とも言える精霊様を呼び捨てにするなんて、私には厳しい。
「じゃあ……ライラ……さん、私たちを呼んだのはなんで?」
せめて「さん」付けで呼んでみる。
「のぞみ様。ライラ、とお呼びください」
2回目である。
「……ライ……ラ?」
恐る恐る私が呼び捨てにすると、ライラは嬉しそうな表情を浮かべる。
ライラが何を考えているのか、よくわからないものの、呼び捨てにしないと先へ進まない気がする。
話がそれた気がするが、本題に入る。
まず、ロミちゃんを経由して、ライラが私達を呼んだ理由だ。
なお、ロミちゃんは背中の剣にいるけど、呼んでも無反応。
隠れているって言っていたし。
「始まりの巫女である、のぞみ様に2つ程お願いしたいことがあります」
私に頼み事があって、呼び寄せたのね。
そういうことなら、できる限り応えてあげたい。
「そのお願いの前に、世界樹という存在をご存じですか?」
世界樹ってなんだろうか。
クリスの話に出てきたのは、精霊の住まいや寝床となる、6つの大樹だ。
それぞれ、火、水、風、土、光、闇の属性を持つと聞いているが、ただ『大樹』と呼ばれていた。
「その大樹こそが、世界樹なのです。人間達からは『大樹』や『妖精の樹』、『恵みの樹』とも呼ばれていますね」
その大樹……いや、世界樹がどうしたのだろうか。
ライラの雰囲気が変わり、真面目なものになる。
呼吸を整え、静かに語り始めた。
「世界樹が弱ってきています」
「……?」
私は首を傾ける。
世界樹が弱るとどうなるのだろうか。
「世界樹を蘇らせる為に、始まりの巫女である、のぞみ様の力が必要なのです」
だから、世界樹が弱るとどうなるの?
なんでそこで私が出てくるの?
私に何をしろと?
「お願いできませんか?」
精霊の頂点に立つ精霊様に頭を下げられるのも困る。
「と、とりあえず頭を上げて!誰かに見られたら困るでしょ!?」
ライラは素直に頭を上げる。
自分で言って思ったけど、この場にいるのは、私とクリスと剣の中にいるロミちゃんだ。
金色の平原に隠れているかもしれないし。
「……誰にも見られる心配はありません。この場所……生命の聖域には、私ライラを除き、のぞみ様、クリス様、のぞみ様の剣に隠れている精霊以外は存在しません」
私が心配する必要はなかったようだ。
というか、ロミちゃんを見抜くとは……精霊の頂点に君臨するだけある。
「そういうことですので、私が頭を下げることに、何1つ問題点はございません」
ロミちゃんに見られるのは構わないのか、と疑問に思ったが、気付いていたのなら、頭を下げるなんてしなかったはずだ。
知っているにも関わらず、頭を下げたのなら、それだけ重要度が高いお願いなのだろう。
「ところで、お願いって何?」
「受けてもらえますか?」
「とりあえず、話だけ。ね?」
「わかりました。のぞみ様へのお願いは、のぞみ様が精製した『生命の雫』を、世界樹に与えて欲しいのです」
また知らない単語が出てきた。『生命の雫』ってなんだろうか。
「『生命の雫』というのは、世界樹の栄養源です。巫女であるのぞみ様が精製可能な物です」
その『生命の雫』が巫女にしか精製できないのであれば、私ではなくても良さそうなものだ。
私の称号には『始まりの巫女』とあるが、私が『始まり』を持つ以上、普通の『巫女』もいるはずだ。彼女達では駄目なのだろうか。
「それって私じゃないと駄目なの?」
「のぞみ様でなくても大丈夫ですが……」
間を置いて付け加えた。
「のぞみ様の下位に当たる、生命の巫女数名の命と引き換えに精製されます。6つの世界樹すべてを賄うには、数十名の巫女の命が失われます」
つまりは私がやらなくては、数十名の『生命の巫女』が犠牲になるということ。
……こんな事を聞かされたら、やるしかないじゃない。
ちなみに、私が失敗して死んでしまった場合も同様に、巫女達が犠牲になるそうだ。
これは失敗できないね。
「私から質問してもいいですか?ライラ様」
「はい、どうぞ」
クリスがライラに質問があるらしい。
「1000年程前に『40名ほどの巫女が短期間に命を落とした』という記録が残っていますが、関係ありますか?」
「はい。その時期より少し前、のぞみ様と同じ使命を持った『始まりの勇者』がいました。彼は2つの世界樹を蘇らせましたが、残り4つは蘇らせる事ができませんでした。そのため、彼に代わり『生命の巫女』が犠牲になりました」
4つの世界樹で40名となれば、仮に6つ全てだと60名。
私がすべて世界樹全てを巡れば、犠牲はない。
となれば、『生命の雫』の詳細をまだ聞いていないが、答えは決まったも同然。
「ライラ、それが私の役目なのね?」
「はい。のぞみ様の『始まりの巫女』としての役目です。いかがいたしますか?」
「……期限はないのでしょ?私がやらないと、人が死ぬって言われて、やらないわけにはいかないし……」
「ありがとうございます、のぞみ様」
続いて、先ほども出てきた『生命の雫』についての説明が始まった。
『生命の雫』というのは、先ほどライラが言ったように、世界樹の栄養源であり、巫女にしか精製できない代物だ。
仮に何らかの理由で、『始まりの勇者』や『始まりの巫女』が使命を達成できなかった状態で、『生命の巫女』が全滅した場合、生命樹が巫女の代わりとなり、緩やかに減少していく。やがて生命樹が尽きると、今度は世界樹の力が失われていき、最後には枯れ果てる。
一番最後まで残るのは『始まりの生命樹』となるが、そうなる前に、ライラが手を打つそうだ。
何をするのか聞いたところ、口を閉ざしてしまったので、聞かない方がいいと判断し、それ以上は聞けなかった。
「精製方法をお教えします」
ライラはそう言うと、どこからか杖を取り出し、私にその杖を手渡してくる。
私は杖を受けとる。
杖は剣より少し短い程度の大きさがあり、ずっしりと重さがある。
装飾は先端部分に、花を模した飾りが付いているのみと控えめだ。
「これは?」
「その杖は『始まりの生命樹』の枝葉から作った物です。精製にはその杖が必要となります」
「他の杖じゃできないの?」
「答えとしてはできます。質は落ちますが……」
質の問題なのね。
ちなみに『生命の雫』の精製方法は、とても簡単だった。
杖を持ち、「『生命の雫』精製」と唱えるだけ。
慣れてくれば口に出す必要はなくなり、杖を持ち「精製」と念じるだけでいいそうだ。
杖を持ち、試しにやってみる。
「のぞみ様、試すのであれば、生命樹の根元でお願いします」
ライラに従い、生命樹の根元で試してみる。
「『生命の雫』精製」
私がそう唱えると、体から何かが抜けていく感じがするのと同時に、杖の先端部分が輝き、そこから1つの水滴が落ちる。
水滴が向かう先は、生命樹の根があり、そこに当たり弾けた。
その瞬間、生命樹全体が輝きを放ち、風もないのに葉っぱが揺れ、生命樹が喜んでいる事がなんとなく伝わってきた。
言葉などはないが、私はそう感じた。
「のぞみ様……とても良質な『生命の雫』でした。ありがとうございます」
ライラ本人も心なしか、若返った気がする。
「もうひとつのお願いも聞いてくれますか?」
「もちろんよ」
世界樹を巡る、と言うことは世界を旅するということ。
この事に比べたら、どんな願いでも小さく感じてしまう。
「私と……いえ、生命樹の精霊ライラと、主従契約を結んでくださいませんか?」
誤字脱字等あれば、報告してもらえると嬉しいです。




