11 採取しよ……う?
クリスの後について森へ入り、少し歩いた場所で立ち止まる。
「のぞみさん、この辺りで素材採取をします。この辺りであれば、ゴブリンも滅多にいませんし、なにかあっても家まで逃げられる距離ですからね」
クリスのいう通り、振り返ればアトリエが見える。
この付近で取れる物は、回復薬の素材となる『キュアグラス』はもちろん、食べられる木の実やキノコが採れるそうだ。
食べられるキノコだけでなく、毒キノコもある。
「のぞみさん、このキノコはこのまま食べられますよ?」
採ったばかりの黒っぽいキノコを差し出すクリスさん。
ちなみに土のついた所は、ナイフで切り落としてくれてある。
クリスが言うのであれば大丈夫だと思い、そのキノコを少し齧る。
「……少し固いけれど……おいしいね」
「そうですよね。ですがそれ、実は毒キノコなんですよ」
「!?」
すぐに吐き出したが、少し飲み込んじゃった。
「そんなもの食べさせないでよ!」
「すみません……でも大丈夫ですよ。その量であれば、死ぬことはありませんし、あっても体が暖かくなる程度ですから」
そう言われれば、少し体が熱を帯びてきた気がする。
なんとなく他の効果もありそうな気がする。
「……ねぇ、クリス。本当の効果を教えて?」
「……あまり食べすぎると発情させる効果があります。1本くらいであれば問題ありません」
このキノコを使って発情させるには、1度に5本以上食べる必要がある。しかし、キノコはそれなりの大きさがあり、その効果が現れる前に満腹になるため、普通の女性に食べさせるのは難しいと思う。
ちなみにこのキノコ、注意書きがあることを除けば、普通に食べられているそうだ。
クリスに「もうしないでね?」と釘を刺し、素材採取に精を出す。
クリスは回復薬の材料や、食べられるキノコを取っていく。
根こそぎ採ることはせず、少し採る程度にしている。
理由を聞いたら、しばらく放置しておけば、また同じ場所で採取できるから、だそうだ。それに、群生地を探す手間が省ける、というのも理由だと言う。
楽しそうに採取するクリスを眺めていたら、剣からロミちゃんが姿を現した。
「ロミちゃん?どうしたの?」
「……とあるせいれいさまが、ごしゅじんさまにあいたいそうです」
精霊様?
誰のことかわからず、ロミちゃんに聞こうとした時だった。
突如、霧が出始めた。
はぐれたりしたら困るので、今のうちにクリスの元へ駆け寄る。
「クリス!」
「なんでしょう?」
「この辺りで霧なんて出たことはある!?」
「ありませんが……こんなのは初めてです」
なにか知っていそうなロミちゃんに話を聞こうとしたが、なにか様子がおかしい。
「ロミちゃん?」
「ごしゅじんさま、わたしはしばらくけんのなかにいます。せいれいのちょうてんにたつおかたに、わたしなんかがあうなんておそれおおいので……」
ロミちゃんは気になるワードを残し、逃げるように光の粒子となり、剣の中へ消えていった。
精霊の頂点に立つ精霊について、知っていそうなロミちゃんは、逃げちゃったので、ここはクリスに頼る。
「精霊の頂点ですか?おそらく『生命を司る精霊』とされる、ライラ樣だと思います」
「ライラ樣?」
「はい。説明させてもらいますね」
クリスの説明によるとこうなる。
この世界は、後に『始まりの生命樹』と呼ばれる事になる、1つの種から始まった。
種が芽を出した瞬間、1体の精霊が生まれた。
その精霊こそ、『精霊の頂点に立つ精霊』と呼ばれる事になる、全ての生命を司る精霊ライラである。
彼女は生命樹の成長を助けながら、後に大精霊と呼ばれる、火、水、風、土、光、闇の6体の精霊を生み出した。
始まりの生命樹が成長し、6体の大精霊に加え、その支配下の精霊達で、世界を任せられるようになった時、ライラは彼らの寝床として、6体の精霊それぞれに1本ずつ木を与えた。やがてその木は、大精霊と同じ属性を持ち、始まりの生命樹に次ぐ大樹となり、大精霊の住まいとしてだけでなく、その他の精霊の寝床となった。
そして、役目を終えた『始まりの生命樹』と『精霊ライラ』は姿を消した。
「精霊ライラ樣の姿は、誰1人として見た者はいませんが、各地にライラ樣の伝承が残っていたり、大精霊と契約した過去の賢者樣が、精霊樣に聞いたとかで、その存在を信じる方が多いです」
クリスが語ってくれた伝承の中に、こんな話があった。
とある商人が事故に巻き込まれ、生死の境をさ迷っていた時、金色の平原と、その中央にそびえ立つ大きな樹を見たと言う。
その光景に見とれていると、大きな樹の方から、この世に生きる人間とは思えない程、美しい女性がこちらに向かって、歩いてくる事に気がついた。
声は聞こえなかったが、『戻れ』と言っているような気がした商人はそれに従い、来た道を戻る。
金色の平原を抜け、その先の暗闇を抜け、気がついた時には、自分の家のベッドにいたと言う話だ。
商人は後に、その女性をモチーフにした木の像を作り、毎日崇めていたところ、商人は大きな富を得たと言う。
いくつか話を聞いたけれど『金色の平原』、『大きな樹』、『美しい女性』の3つが共通している。
『金色の平原』が『始まりの生命樹』がある場所とすれば、『大きな樹』が『始まりの生命樹』であり、『美しい女性』が『精霊ライラ樣』だと予想ができる。
いくつも伝承があるのに、この3つが共通していれば、存在する可能性は高いと思う。
この話を聞いているうちに、辺りは完全に見えなくなってしまっていた。
「……クリス……進んでみよう?」
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ……断言できないけど、私達に敵意はないし。それどころか、こっちへ来てって、言われているような気がする」
不安そうに私を見るクリスをなんとか安心させ、私はクリスの手を引いて歩き始めた。
さっきから歩き続けているが、足の裏に伝わる感触から、すでに森の中ではないことが分かる。
感覚としては、コンクリートの上を歩いているような気分だ。
繋いだ手から、クリスが不安に思っている事が伝わってくる。
クリスを励ましながらさらに歩く。
やがて、金色に輝く平原に出た。
「わぁ……」
「……凄いです」
あまりの光景に言葉がでない。
さながらそれは、金色の絨毯のように見える。その金色の絨毯の奥には、空を貫くかのようにそびえ立つ立派な大木がある。
繁らせる葉は青々とし、そこに風が吹けば、ザァザァと音を立てて葉が揺れる。
その姿は生命の美しさを感じさせる。
私はなぜか、その立派な大木こそ『始まりの生命樹』だと直感した。
「……クリス……行こう。『始まりの生命樹』のところへ」
「……はい。え?」
私は進もうとするが、クリスが動かない。
「クリス?」
「……『始まりの生命樹』って、伝承にある大樹ですよね」
「たぶんそう」
他にも金色に輝く平原を見ているし、あとはライラ様だけ。
「のぞみさん……私の頭がどうにかなりそうです」
クリスは錬金術師としての血が騒ぐのか、興奮を隠しきれていなかった。
ここで手を離したら、そのままどこかへ行ってしまいそうなので、このまま『始まりの生命樹』まで、引っ張っていくことにした。
生命樹の根元まで来ると、私達の前で、ロミちゃんのように光の粒子が人の形を作る。
背の高さは私よりも少し高い程度だ。
伝承の通り、見た目は金色の髪をした若い女性であり、女である私たちでさえ、息を飲む程の絶世の美女だ。
気品を感じさせるドレスを身に纏い、私達に優雅な挨拶をする。
「ようこそお出でくださいました。『始まりの巫女』様こと、柊のぞみ様、ならびにクリス・アルフィテリア様」
どこかのお嬢様がやるような挨拶をされても、どう返すべきかわからない。
「えっと……」
反応に困っていたら、精霊の方から口を開いた。
「驚かせてしまってごめんなさい。私はライラでございます。以後、お見知りおきを」
「あ、はい……。知っていると思うけど、私はのぞみ。こっちはクリス」
流れに任せて自己紹介したけれど、あの精霊はライラって名乗っていた。
クリスを見ると、時が止まったかのように制止している。
「クリス?大丈夫?」
クリスの頬を指先でつつく。
「ひゃいっ!?」
「しっかりしてよね?」
「……すみません。ライラ様がいらっしゃると思うと……」
それはそうか。目の前には伝承の登場人物がいる。私はなぜか平静を保っているけれど、普通はクリスのようになるか、騒ぐ。
ともあれ、生命樹の精霊であるライラ様は、私達に、もしくは私に何を求めるのか、話をしよう。




