10 採取へ行こう(準備編)
クリスが錬金術を行っているのアトリエから、爆発音が聞こえた。
アトリエの扉を乱暴に開け、中にいる家主に向かって叫ぶ。
「クリス!大丈夫!?」
呼び掛けても返事はない。
「ロミちゃんは剣のままいてね?」
聞こえているのかどうかわからないけど、剣に一声かけてから、アトリエの中にはいる
中の様子は爆発の影響で、悲惨な状態だった。
錬金術に使うと思われる、様々な器具ーー形は少し違うが、理科の実験で使いそうな道具だーーが散らばっていた。
中には割れてしまっているものもあるため、足元に気をつけつつ、家主のクリスを探す。
クリスはすぐに見つかった。爆発で吹っ飛ばされたのか、床に仰向けで倒れている状態で。
「クリス?」
返事はないが、一目でわかるような怪我はしていない。
クリスの頬をぺちぺちと叩く。
「……うぅ……のぞみさん……?」
クリスの意識が戻り、私はひと安心する。
「そうよ。痛いところはない?」
クリスはゆっくり起き上がり、軽く体を動かす。
「……大丈夫です。ありがとうございます」
まずこんな状態になった理由を聞いてみる。
何を作っていたら、こうなったのか気になるし。
「……で、何を作っていたの?」
「いつも作っている薬なんですが、なにか不純物が混ざっていたらしくて……混ぜていたら、いきなりドカン!と」
クリスは不思議そうに答えた。
「私には錬金術の事はよくわからないけど、たまには失敗もある。失敗しない人間なんていないから……」
「そうですよね……のぞみさん、ありがとうございます」
「どういたしまして」
クリスは元気が出たらしく、せっせと片付けを始めた。私も手伝おうとしたけれど、「片付けも錬金術の修行の一部なので……」と断られてしまった。
片付けが終わり、今後どうしようか、と考えていたら、クリスから「森へ行こう」とお誘いを受けた。
なんでも、爆発のせいで素材の大半が使えなくなってしまったそうだ。
アトリエ自体は森の中にあり、クリスの作る回復薬の材料も付近で採れるため、素材に困ることはない。
「私も行っていいの?」
「はい。私1人よりものぞみさんと一緒の方がいいですから」
私はすぐに了承した。
機会があれば、剣を試し切りしたかったし……。
「その前に、のぞみさんの衣服を何とかしましょう。あちこち裂けてますし……」
「うん……そうね……」
この世界に来てすぐ、枝や葉っぱに引っかけて、ボロボロにしたからね。
ちなみにボロボロになっているのは服だけであり、下着類は無事だ。
初めての異世界人が私と同じ女性でよかった。悪い人間だったら……って、考えちゃダメよね。
「森にはゴブリンがいますからね。ゴブリンが今ののぞみさんをみたら、鼻息荒くして襲ってきますよ」
それは困る。私の異世界生活はゴブリン漬けとか最悪。
「そうならないために、私の衣服を貸します」
クリスがタンスから衣服を取り出し、私に差し出す。
「広げてもいい?」
「はい」
それを受け取り、衣服を広げた。
「…………」
それはどうみてもメイド服だった。ただし、やたら胸を強調したデザインの。
大きい人が身につけたら、よく似合うだろう。
……私?普通だから。
「言っておきますが、私の師匠の趣味です。私の趣味ではありません。のぞみさんに着てもらったら、似合うと思っただけです」
師匠の趣味だと必死になって言っているけど、最後の言葉はいらないと思うよ、クリスさん。
だけど、ボロボロの衣服を身につけているよりはいいので、そのメイド服に着替える。
「……似合ってますよ、のぞみさん」
着替えて姿を見せたら、似合うと言ってくれたけれど……クリスが私の胸を見て、残念そうな顔になったのは見逃さなかった。
クリスの服装はというと、森の中で初めて出会った時と同じような衣服を身につけている。
「……クリス……私、本当にこの服装で行くの?」
「今回は近場で済ませるので、大丈夫です。それにこのあたりのゴブリンは単独でいることが多いですから……なにかあっても対処できますよ」
ゴブリンが出てきたとしても、私には剣があるからいいけれど、クリスはなにか持っているのだろうか。
ちなみにゴブリンに捕まってしまったら、死ぬか助けられるまでゴブリンを産み続けることになる。という話をクリスから聞かされた。
「私は剣がいるけど、クリスは何かないの?」
「私ですか?これとナイフで何とかしますよ」
クリスはアトリエに立て掛けてあった、長い棒を持ってきていた。
具体的には、これで殴って動きを鈍らせ、ナイフで刺し殺すそうだ。
杖を見ているから、魔法でも使うのかと思っていた。
「それから、無事だった回復薬が3本あったので、持っていきます。怪我する可能性もありますからね」
無事だった物があったのね。
「のぞみさんが2本持っていてください。私は1本あれば大丈夫ですから……」
「え?でも……」
クリスが持っていた回復薬であって、私の物ではない。
「大丈夫ですよ。材料さえあれば、また作れますから。それはのぞみさんにあげます」
「……それじゃ、貰うね」
回復薬を受け取り、それらを鞄にしまい込む。
「それでは、行きましょうか」
私とクリスは森の中へと進んだ。




