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動揺するふたり・意気込む友人

「色白でめっちゃ可愛かったんだって! 年は多分俺らよりちょい上ぐらいだったと思う!」


康介は興奮した様子で話す。


「トイレの帰りの途中でフードコート近くを通ったんだけどさ、そこのテーブル席に一人で座ってたんだって。もう衝撃! 芸能人でもこんな気持ちになったことねーよ!」

「へー」

「ほー、それでもちろんナンパしたよな!?」

「ナンパなんてできるかっつうの! 見た瞬間、頭に電気が流れたみたいに痺れて固まっちまったよ!」


 ああー、でも話しかけたいなー。そういう康介を見て和人は少し引きながらも羨ましく感じる。普通自分たちぐらいの年代では、そういうことは恥ずかしがって例え友人でも自分からいうことは躊躇するものではないのか。ただ康介のように自分の気持ちを素直に表に出せれば、きっと楽しいだろうなと思った。


「でも、それだけ可愛かったらもう彼氏とかいそうだよな、というか今日も彼氏と来てたりして」

「やめろよ! あの子はそんな軽そうじゃなかったし、いねーよ、きっと!」

「というか、見に行かね? 今ならフードコートにいるんだろ?」

「まぁ見るだけなら、行ってみるのもいいかもしんないね。ちょうど昼だし」


 和人はプールに設置されている時計を見ると12時を過ぎていた。そろそろ昼にしたい。


「えっちょ待ってって。心の準備が…」

「いや別に話しかけろなんて言ってないから」


 その様子でナンパができるわけがない。


「いや、話かけるべきだ」


 智也は真剣な表情で康介の肩に両手を置き向き合う。


「一目惚れしたんだろ? 今ならどこにいるかもわかってる。今を逃したらもう二度とその子に会えやしないぜ!?」

「智也…」

「今なんだよ、今しかないんだ! 勇気をだせ康介。おまえならできる! 俺らも力になってやるから!」


 いやいや、おまえ面白がっているだけだろ。康介は気づいてないようだが、智也は明らかにニヤけるのを我慢しているように見えた。


「まぁ確かに、全くの他人ならもしダメでも、康介が少し傷つくだけであんまりデメリットないよな」


 和人も少し面白く感じて便乗してみることにした。まぁ康介だし。


「そのとおりだ、康介! 失敗しても俺らが慰めてやる。なんならジュースもおごってやるよ! 一歩踏み出そうぜ、大人の階段へ!」


 まぁそうは言ってもナンパなんて、付き合ったことはおろかクラスの女子とも会話することが少ない俺ら(智也は除く)ができるわけないよな。そう和人が思ったのも束の間、


「…わかったよ、ありがとう二人とも」


 ボーズ頭、もとい康介は覚悟を決めた面持ちでいう。


「俺、話しかけるよ!」






 さて。

 智也たちはフードコートへ向かうと、幸いにも康介が一目惚れしたという子はまだそこにいた。


 確かに可愛い。康介がいうように芸能人以上とは言わないが、康介が一目惚れしたというのも頷ける美貌だった。セミロングに伸ばした黒髪と色白で小さい顔に対する大きな瞳、その上綺麗に整った容姿は清楚系美人と呼ぶにふさわしく思う。しかし問題はその子と楽しそうにおしゃべりをしている女子二人だった。


 先ほど智也と和人の話にでてきた中学の頃の同級生、吉村と川瀬だった。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 思わず智也と和人は互いの顔を見合わせた。

 

「どうだ? 可愛いだろ? それじゃあ二人とも、俺行ってくる!」


 康介はまるで歴戦の戦士のようにどうどうと、女子たちのほうへ歩いていこうとする。


「いやいや、ちょっと待とう康介くん」


 智也は思わず引き止めた。


「ほ、ほら、彼氏とは来てなかったみたいだけどさっきと違って女子が二人増えてるみたいだし、ここは少し作戦を練ろう! まだ康介も心の準備できてないみたいだし、とりあえず先に昼メシを食おうぜ!」

「でもさっきお前、今しかないって言ってたじゃん。もし昼メシ食べてる間にどっか行っちゃったらどうすんだよ!」


 康介は少しムッとした表情で言い返してくる。


「だ、大丈夫なんじゃないかな。ほら、見たかんじ会話に没頭してるみたいだし、女子の会話って長いっていうし! それに何も考えずに行動して玉砕したら元も子もないでしょ! あっ、あそこの席ちょうど空いた。とりあえず康介はその席とってあの女子たちを見張ってなよ! その間に俺と智也で昼メシ買ってくるから!」


和人が助け船を出してくれた。確かにあの席なら近くにある木のおかげで川瀬たちの死角になりちょうどいいかもしれない。


「うーん、一理あるな。わかった、じゃあ、とりあえずあの席取ってるわ。昼メシは焼きそばでお願い」

「おっけーそれじゃあ俺らは、昼メシ買ってくるわ!」


そう言って智也と和人はフードコートの行列へと向かった。


「まさか、川瀬と吉村がいるとはな」

「びっくりしたー」


智也は先ほどから鳴り止まない心臓を落ち着かせるように深く息を吸う。あまりうまいとは言えない生温い空気が体内に入ってくる。


「噂をすれば影ってね。でも意外だなー。智也ならもっと乗り気になるかと思った」

「あのなー、俺だって友達が同級生だった女子の連れをナンパするのはさすがに戸惑うって」

「でも、智也が川瀬さんとか吉村さんに声かければ、むしろナンパよりもスムーズな形で話せるじゃん。それをしなかったのはやっぱり相手が川瀬さんだから?」

「ちげーって。…まぁでも少し話しかけにくいかもな、あの二人だと。」

「俺もいきなりすぎてちょっと心の準備がね…」


はぁ、と二人でため息を吐く。


「どうする? 戻ったら話しかけるんでしょ?」

「うーん、少なくとも康介が話しかけるよりは俺らが話しかけたほうがいいよな…」

「そうだね、がんばれ智也…」

「いやいや、ここは平等に俺らでじゃんけん。というか二人同時だろ!」

「とりあえず、戻って康介に事情を話してから考えよう」

「…まぁそうなるよな。」


そうはいうものの、話しかけたあとどのような会話をするべきか、今から不安になる。


「あっそうだ、智也」


和人は思い出したかのように言う。


「昼メシはやっぱりラーメンにする?」

「当たり前だろ」


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