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親友と可愛い先輩

 プールサイドに強い日差しが容赦なく照らされていた。プールに浸かってしまった今、先ほど塗ったばかりとはいえ日焼け止めクリームがきちんと自分の肌を守ってくれるか結衣は少し心配した。

 ただでさえ部活に入ってから肌が黒くなってしまったというのに…。

 結衣は今年の四月に高校に入学し、硬式テニス部に入部した。テニスはそれまでしたことがなかったが、体を動かすことが昔から好きだったことと、親友である環がテニス部を選んだことから自然な成り行きで入部することにしたものの、日に日に黒くなる自分を見るとやはり屋内の部活のほうがよかったかもと少し思う。


「結衣ちゃん、大丈夫? さっきからボーッとしてるけど?」

「あっ、大丈夫です! 少し考え事してただけなんで!」


 瞳先輩は少し心配そうに白くて整った顔をこちらに覗かせている。なんで私より2年も長くあの部活に所属してこの白さを保っていられるのだろう…。瞳先輩は結衣たちより二つ上の部活の先輩であると同時に環の幼馴染だ。結衣は入部してから初めて瞳先輩と知り合ったが、今ではこうして環と三人で時々遊びに出かけるような仲になった。


「結衣って昔から活発な割にはぼーっとすることが多いんだよね」

「私、こう見えて思慮ぶかいからね!」

「はいはい」


 環は少し呆れた顔で浮き輪の上に組んでいた両手に顔をうずめ「やっぱり、流れるプールはいいねー」と呟いた。


 結衣たちは開場時間に来て早々、瞳先輩が持って来てくれた通常の三倍はある浮き輪に三人でしがみつきながら流れるプールでのんびりと浮かんでいた。30度を越える気温の中、ひんやりしたプールに浸かり流されることは思いのほか心地がよく、浮かびながらガールズトークを交わしているうちに昼前の時間になっていた。


「そろそろ、お昼にしませんか? 早めにごはん食べたほうが並ばなくても済みそうですし!」

「うーん、そうだねー。とはいっても気持ちよくてあんまり上がりたい気分でもないなー」

「結衣は、食いしん坊だからねー」

「いやいや、最近はそうでもないし! まぁ確かにこの体制をあんまくずしたくないですよねー」


 とは言ってもやはり少しお腹が空いてきた。


「あっ、じゃあ私が先に三人分何か買ってきましょうか? ここって昼はご飯食べる場所どこも結構混んじゃうんですよね! 何か食べたいものはありますか?」

「ふふっ、一人で3人分は厳しいでしょ。いいよ、3人で行こ! あっ環はまだ流されてたい?」

「いや、一人でいても寂しいし私も行くよ。私も誰かさんと同じくお腹すいてきたし」


 環はにやにやしながら結衣をみる。さすが環ちゃん、ばれていた。




フードコーナーはまだ昼前であるというのに、人だかりができており、当然のように席はすべて埋まっていた。


「あー、じゃあ私は席が空くの観てるから、先に二人で買ってきて」

「先輩のも買いますよ、何にします?」

「うーんと、焼きそばで! ありがとね!」

「ありがとう、行ってくるねー」


 そう言うと環は結衣と一緒にフードコーナーに出来上がっている行列に並んだ。


「結衣って、瞳ちゃんのことまだ、先輩って読んでるんだね」

「んん? まぁそうだね。最初に先輩って呼んでたし、今さら変えるのもなんかタイミング逃しちゃったかなーって」

「もう十分仲良くなったし瞳ちゃんでもいいと思うけどねー」


 実際に瞳自身、先輩呼ばわりされるよりも、瞳ちゃんと呼ばれた方が嬉しいんじゃないかと環は思う。結衣には昔からこういうところがある。普段はアクティブのくせにどこか一歩引いているような。環は結衣のことを親友だと思っているが、ときどき結衣が自分に対しても距離をおいているように感じるときがあり、寂しくなる。


「あっ、じゃあ今日中に先輩から瞳ちゃんにシフトチェンジしよう!」

「ええー、いきなりじゃないかな…。少し恥ずかしいし」

「瞳ちゃんはそんなこと気にしないって、かえって喜んでくれるよ! それより結衣はなに食べる?」

「うーん、そうだねー。(…カロリーが少ないもの、カロリーが少ないもの)。か、かき氷とか!?」

「いやいやあとで食べるならともかく、昼に食べるのはお腹空くでしょ。プール来てるんだからカロリーとっても平気だって、好きなもの食べな」


 カロリーを気にするような体型じゃないだろうが、環は結衣を見て思う。


「聞こえてたんだ!? 私たち全然泳いでないけどね‥。じゃあ、ラーメンにしよっかな!」 

「ラーメンいいね、私もそうしよっかな」

「プールで食べるラーメンってなんであんな美味しいんだろうね? ただのインスタントなのに」

「それ瞳ちゃんとも話したことあるけど、瞳ちゃん曰くプールに来ているっていう高揚感がラーメンを美味しく感じさせるらしいね」

「へー、ってそれラーメン以外にも言えるじゃん!」

「うん、私もそうツッこんだ笑。でも実際プールで買うものってどれも美味しいしそういうものなんじゃない?」

「それもそうだねー」


 ふふふっ、と二人で笑いあった。大丈夫、私たちは親友だ。


ラーメン二人分と瞳の焼きそばを買い、元いた場所に戻ると瞳は四人席のテーブルに座っていた。どうやら席を確保することに成功したらしい。環は瞳に「おまたせ」と声を掛けようとしたが、自分と同じ年ぐらいのボーズ頭の男子が少し離れた場所で瞳を凝視していることに気づき思いとどまった。ただ、すぐにその男子は行ってしまった。瞳ちゃんに見とれていたのかなと環は思う。無理もない、瞳ちゃんはこんなに色白で可愛いんだから。


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