69:箱 (雑穀はたまに食べるとアリですが、何食も続くと「俺はコトリじゃねー」と言いたくなります)
やたらと姦しい絡新婦連中を連れて村へ帰ることになった。ここには居たくないと。
それはわかる。でもなぜ俺が?
俺がいないと、また蜘蛛に戻るという。それも、分離して、只の大蜘蛛と魂になってしまうらしい。
「魂っていうか、霊魂、幽霊ではないのか?」
「そうとも言う」
解呪か浄化をしようとしたら泣いて止められた。
正直とっても面倒くさい。
おいとさんはやつかさんとべったりだ。やつかさんの鼻の下がこれでもかと伸びている。
とつかさんは他の絡新婦連中と楽しそうに話しながら歩いている。
やっぱりおいとさんが母親なのは間違いないそうで、生命の不思議を感じる。DNAはどうなってんねん、ちゃん仕事してるんかと小一時間問い詰めたい。
最初のちびっこいのが一番年上というか古株らしい。和服だが、裃のようなちゃんちゃんこみたいな薄布を羽織り、袖の閉じていない和服を纏っている。全体に白っぽくて、緋色が見えるので巫女服のようだ。聞くと、采女服というらしい。
「女官でございました」
名前は内緒だそうだ。それでは困ると言ったら、婆さんと呼べばいいと。でもどう見ても婆さんではないから不自然極まりない。
名付けろと言われたので適当に絡久というと、またえらいたくさん吸い取られて、大層喜ばれた。
そうなるとみんな要求してくるのでしょうがない、おいとさんも通称だったので真名的な意味で名付け直すことにした。
残っている食料を持っていくことにするが、もう昼なのでなにか作ってもらう。食いながら考えることにした。
雑穀、粟か稗か何かわからい小さくてぷちぷちした粒と山芋、雉の塩漬けで粥のようなものが出来上がる。案外うまい。
やつかのおっさんの嫁さんの(ツイ◯ギー+ベティブ◯プ)÷2は
「綸瀬」
一番普通っぽい、落ち着いた着物を着た20代なかばに見える女性を
「網絵」
二人してよくわからない方言を話すキャピキャピしたやつら、こいつらは洋服を着てる。顔立ちも妙に似ていて、姉妹か?
「安良子」
「久音美」
『安易ですな』
『えー、悪くないと思ったんだけど』
「良い名をありがと言うございます。御恩は一生忘れません」
いや、あんたらもう死んでるから。一生とかおかしいから。
「ご恩返しに生ある限りかねかつら様に同行して「それって永久やん!そんなんええから!そもそも生命無いから!」
また取りに戻ればいいのかもしれないが、ろくな荷物もなく、加工仕掛けの皮革や、石灰とか薬品、全部いらないとか言うので、まとめるものだけまとめて今日限りでおさらばするという。そもそも服もない。名付けで解放された時、一番印象に残っている姿になったのだという。履物もその時のものだから、とても歩きにくそうだが、そうでもないという。
「女子力が試されるのです」
どこでそんな言葉を?
真名で呼ぶのは避けるので、おからさん、おいとさん、あみさん、らーさん、くーさん。
蜘蛛精の呪いが解かれる時、個々の一番印象深い服装で、以前の姿に戻ったらしい。滝に飛び込んだ時の服とは違うと姉妹は言っていた。おからさんとおいとさんは、この姿で身を投げたという。あみさんはよく覚えていないらしい。
共通点は、心中、のようだ。それも、相手の男に騙されて、男はその後逃げてしまう。そういうクズに復讐を果たしたのが、この連中だった。怖ぇえ。相手の男達に同情はできないが、蜘蛛のバケモンに襲われると思うと、竦みます、縮みます。
家探ししているときに玉手箱のようなものが出てきた。真っ黒にみえる。
「これはかなり危険なものどすな」
黒い煙のようなものが流れながら取り巻いていて、詳細がはっきりしない。大きなお盆に載っているからまだ動かせるが、直接触ることが出来ない。手が不自然に滑る。
見つけたのは人化したおんざさんだった。捧げ持つ手が震え、顔色がひどい、白い。
「はい。少し外れの小さな祠の中に安置してありました」
ヤバそうなので受け取って仔細に眺める。文箱とか、家庭科用具入れみたいなサイズで、組紐で縛ってあるのは何となく分かる。りくが目を細めて呟く。
「これを解呪するんはむつかしおすな、込められたものが何かは分かりませぬが、良くないものが撒き散らされ、この辺り一帯が不浄の地になるやもしれませぬ」
「これが、この辺りの結界を作っていたのではないでしょうか。正反対の効果のものなら、知っています」
首を傾げていたあおいさんが答える。
「正反対?」
「はい。これは穢を周囲に広め、嫌悪から自然と人の足を遠のかせるためのものだと思います。私が知っているのは、神威を漂わせて敬意から人を立ち入らせなくさせるためのものですわ。今度持ってきます」
「持ってるのかよ!」
「いえ、持ってはいませんが、場所は知っています。今は力も弱まり、効果も殆どないので持ってきても大丈夫だと思いますわ」
そうですか、失礼しました、つーことは、これって有名な「コトリ◯コ」的なものなんかな。どうするか。
「あの!捨てればいいと思います」
すては俺の陰から箱を見ながら震えていたが、意を決したように話す。
「……なるほど」
「私も!そう思います!」
杖もそう言うと、人形から杖になる。
『私は!せじろです!』
……わかった。
「すての魔力では到底折伏できそうにないどすな、かねかつら殿の力を足さずばなりますまいな」
「そうだろうな」
りくを下ろしてあおいさんに預ける。
涸れ川の傍にある人が座れるくらいの石にお盆ごと箱を載せる。
少し離れて、すてに鹿杖を渡すと、背後に立って右手を添わせる。
すてが息を止めて集中しているのがわかる。
「……『捨』」
箱の周囲に薄紫色した煙が靄ぐ。ピシピシとテスラコイルのように放電している。
その間もグイグイ魔力かオーラかなんかを引っ張られて、ぐったりしてきているすてを左手で抱えるように支える。
『GGグゥuURYャァアゥううUGUuuaaAAAAAAAAA』
重低音の悲鳴が脳内に轟く。バタバタ人が倒れる音がするが、余裕がない、箱を見つめながらさらに送る魔力量を加速させる。いや、グラヴィトン、ここに超マイクロブラックホールを生成するイメージ。吸い込んだら即閉じるイメージ。体が浮き上がりそうになるが、堪える。あおいさんとりくとおんざさんが俺の着物や足を掴んで耐えている。
パチン、と音がして石と周囲の土ごと超圧縮されて消える。
すては気を失っているが、鹿杖を強く握ったままだ。横たえるようにそっと下ろす。指が白くなるほど握りしめているのを、優しく剥がす。
『はぁはぁ、主様!やりましたね!』
セジロは鹿になり体を震わせる。これが一番楽なんやろな。
「ブラックホールとは、思い切りましたな。これでエントロピーは増大しますな」
「そうなの?それっていいことなの?」
「良くも悪くもないですな」
わからんけど、わかった。
絡新婦達は倒れ込んで気を失っている。おいとさんとやつかさんは抱き合ったままだ。とつかさんはかろうじて意識があるのか、低く唸り声をあげている。あおいさんとりくは腰が抜けたのか座り込んで放心中だ。おんざさんは刀に戻っている。狐は平気っぽい。
とりあえずとつかさんのところに行って、体を起こすのを手伝う。
「とつかさんは、あれのことは知ってたん?」
「……いえ、祠のお掃除や、お供えはしていましたが、多分誰も開けたことはなかったと思います……」
「変な感じはせえへんかった?」
「いえ……よくわかりません。気持ちが昂ぶった時、祠の近くに行くと、落ち着いたような気がします。かみさんが悪いものだとは思っても見ませんでした」
「そうか、自分らには悪いことをしたのかもしれへんな」
「いえ!」
よろけながらとつかさんが立ち上がる。見上げる大きさだ、可愛いけど。
「よくわかりませんけど!見晴らしがとてもいいです!明るくて!とてもいい匂いがします!ありがとうございました!」
流れるような土下座、いやええから!
「いえ、やれることをやっただけやし、そんな畏まらんでええよ」
さらにやつかさんとおいとさん、絡新婦の連中までスライディング土下座、もうほんまやめて!
「心からお礼を申し上げます。心が晴れ渡ったようでございます」
「ほんに、もう気持ちが沸き立ってまいります」
「ウキウキするというのは、こういうことなんですねぇ」
「「うふふふふふふ」」
「これ、あらくね、にじり寄るんじゃない!あっ、どこに手を伸ばして!こら!やめろっちゅうに!」




