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僕は異世界で君を探す~命よりも大切なもの~  作者: Re:You
序章 異世界からの招待状
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序章の六 深山 和志という人物は

 ゲームでよくあるイベント、負けイベント

 どんなに力を身に着けても、どんなに策略を弄しても、決して変わることがない結果、負けという屈辱的な結果を突きつける。


 もちろん、努力して強くなっても、必死に作戦を考えても、勝負には負けることはある。むしろ負けのない人生というのはほとんどの人間は経験しないだろう。

 例えば、野球の甲子園だって激戦区であれば予選ですら200校近くあるが、そのうちの1校以外は脱落する。つまり、負けは常に起きることだ。だから、努力が報われるべきとか甘い言葉を言うつもりはない。


 それでも、それでも可能性は必ずあるのだ。

 例年一回戦負けの弱小野球部でも、たとえそれがわずかな可能性でも、実現することが出来なくてもなりえる出来事があるのだ。

 それが確率であり、それが理であり、それが事実なのだから。

 でも、その事実を無視することが僕はとても気に入らなかった。決められた事実が全てを決めることが非常に気に入らなかった。

 事実は受け入れる、理は受け入れる、それらがなければ世界は進まないのは知っている。

 だが、結果が出ていないものを決めつけるのは認めない。過程だけで諦める事は許さない。


 だってそれを受け入れてしまったら、僕は受け入れなくてはいけないのだ。


 は運命によって操られている人形という事に・・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 先ほどから非常にまずいことが起こっています。


 前方20mにおります明らかに人間ではない人物が何かを唱えています。


「◆▽◎■△ ◆▽◎■△◎■」


 全く何を言っているのかわかりません。どこの国の言葉なのだろうか?


 ただ、気になるのは奴が唱えていくごとに、火の玉が現れていきます。ええ、まるで魔法・・・奴は魔術と言っていましたが、そのようなものがうようよと。今現在は20個ほどはあるでしょう。


「さあ、お前はこれを全部防げるかな?」


 奴は僕をどう思っているのだろう?僕をどう評価しているかは分からないが、すでに勝った気になっている。そんなにその火の玉は脅威な物なのだろうか?


 なるのだろう。少なくとも真正面から受けるのは駄目だな。死体のなかに焼死体はなかった。つまり、奴はここへ誘われた連中には火の玉を使っていない。使う必要がなかったのと、使ったら何かしらの代償があるから素手で攻撃したのだろう。

 だが、奴の自信満々な顔を見ればとっておきの技なのだろう。火傷とかではすまない。多分、触れたら爆発する代物だ。


「まあ、防ぐまでもない」


 俺にもとっておきの策がある。これ以上の最善の方法が思い浮かばない程の。

 その策とは、

 そのとっておきの策とは、


「逃げるんだよー!」


 俺はそう言って・・・駅の方に逃げた。


「・・・は?」


 奴は唖然としていたが、事態をすぐに理解するとすぐに怒りを表した。


「ふざけるなよ!下等生物が!!火弾かだん


 火の玉は一斉に僕の方へ向かった。

 俺は直撃する寸前に柱に隠れて、しゃがんでやり過ごすと大きな音を立てて火の玉は柱に激突した。


 いくつか火の玉が後ろに通り過ぎたので、振り返って確認する。

 速度は先ほどの突進よりも遅い。おそらく時速100㎞程だろう。頑丈な壁が少しへこんでいたことから相当の威力はあることが分かる。熱風がこちらに来たことから、重量でああなったのではなく、恐らく触れた瞬間に爆発したのだろう。でも、いくつも跡があるという事は、爆発が連鎖することはない。当たることはなかったが、火の玉が通り過ぎた時は熱かったし、柱も壁も焼け跡があるという事はかなりの熱を持っているだろう。

 よし、特徴を確認した。一発でも当たったらアウトだな。かすっても爆風の影響でダメージを食らうし、壁側にいると熱風で行動に制限をつけられるから危険だ。逆に言えば、当たらなければそこまで注意するようなものではないが、20もの火の玉をすべて躱すのは無理があるだろう。


 となれば、まずは障害物の多い駅内に逃げるのがまず定石だ。そして、相手の様子を見る。相手の性格を予測する。相手の癖を観察する。相手を知ることから始めて、相手を誘導する。

 筋力や脚力は完全に相手が何倍も上だ。急所が人間と同じ場所だと思うが、正面から攻撃するのは明らかに不味いな。先程から動作に挙動による隙が大きいため相手の攻撃を予知することは可能だが、相手の攻撃を防ぐことは出来ない。だから、まずは攻撃手段を考えるより、相手の動きを封じることから考える。


 頭の中で整理して、これからの行動を明確にして、俺は駅の中に入っていった。


「逃がすかよ!八つ裂きにしてやる!首をもいで燃やしてやる!」


 どうやら、追いかけてくれるようだ。良かった。挑発に乗ってくれて。

 もしここで、相手が回復に努めていたら勝率は少し低くなっていた。いや、今現在も高いとは言えないから油断はできないか。

 俺は追いかける化け物から障害物を利用して左右に動きながら火の玉を避けて逃げる。


「逃げることしかできないのかよ!正々堂々と戦えよ!」


 奴は苛立ちながら体を浮かせて移動を行い、火の玉を作っては俺に放っていく。


 それを俺は必死になって躱した。障害物を利用しながら弾幕をかわしていく。次々放たれる火の玉が当たらないように、足を止めることはしない。追い付かれてもゲームオーバーなんだ。

 壁をけって急な方向転換をしたり、途中で拾った瓦礫やごみを広範囲に投げて、事前に爆発させたりと色々と策を弄して困難を乗り越える。折れた右手に痛みがジンジンと響いているが、この状況でそんなことを気にしている暇はない。


 それにしても・・・奴は馬鹿なのか?正々堂々と言っているけど、鬼ごっこで鬼に立ち向かえと言っている様なものだぞ。

 逃げることは戦術である。将棋も麻雀も戦争も引くべき時は引かなくてはならないし、逃げて相手を自分の土俵に引きずり込むのも立派な策略なのだ。


 だから俺は奴をある場所に向かってもらうように誘導しているのだ。仮に、向かってこないで回復に努めた時は、別の方法をやっていたのだが・・・

 そして、奴を誘うために俺が向かったのは先ほどいた場所である。先ほど僕が乗っていた電車の前だ。


 ただし、そこには決定的な違いがある。僕が乗っていた電車はそこにはなかった。

 周りを見てみたが、意外美人の死体は見つからない。

 意外美人が予定通りに行動して逃げ出せているのか?それとも予定外の出来事が起きたのか?それを断言することは今はできないが、俺はそのまま組み立てた作戦を続行した。


 俺の後ろには疲れた様子の奴がいた。


「ハア、ハア、おい、お前、なんだよ?下等生物なら下等生物らしくさっさとくたばれよ!普通なら1秒で殺されるようなゴミだろうが!しつこいんだよ!」


 完全に見失っていたが、俺が所持している石で居場所を特定したのだろう。想定通りの場所に立っていた。


「・・・おまえさ?ひょっとして普通じゃない?」


 突然言った僕の言葉に奴はあざ笑うように笑みを浮かべる。


「だから?何?いまさら脅えているわけ?俺みたいな化け物が本当にいるなんて思いもしなかった?

 あ!もしかして、夢だと思っていた?死んだら別の世界に行けるかと思った?残念!お前はここで死ぬんだよ!魂ごと全部消してやるよ!」


 奴は再び上機嫌になって下を動かしているが、何か勘違いしているようだ。自分が説明下手であることを思い出して、俺ははっきりと奴に言った。


「お前さ、何で上から目線なの?底辺の下級悪魔なのに?」


 その言葉で奴の笑みが消えた。どうやら俺が言いたいことがやっと伝わったらしい。


「は、はあ?いきなり何を言っているんだ?俺を怒らせようとまた挑発をしてるの?」


「いや・・・推測したら簡単にわかる事だろ。お前みたいに他人を見下す奴は結構多いが、お前は明らかにそれが顕著なんだよ。まるで、自分よりも下の立場がいなくてしたくてもできなかった奴みたいだ。つまり、普段は見下す機会がなかった奴と推測を立てることは簡単だ。性格も悪そうだし、人望もなさそうだからな」


「あのさ、勘違いしているところ悪いけどさ!俺は、俺たちの種族は実力主義なんだよ!文句があれば暴力で支配できるんだよ!証拠もないのにふざけたことを言って馬鹿だろ!この勘違い野郎!」


 奴は必死になって僕の意見を否定している。


「プライドは高そうだな。必死になって否定しているけどさ、それってコンプレックスを持っている人間じゃなきゃ必死に否定しないぞ。あと、お前が言った実力主義でならどう見てもお前は雑魚だろ(笑)」


 その言葉で奴は完全に怒り立っていた。俺以外に目がいっていないほどに睨み付けている。


「・・・絶対殺す。楽に死なせない。泣き面で土下座でもさせてから殺してやる!指をつぶして、内臓つぶして、自殺できないようにして、後悔させてやる!」


 奴がそういうと、俺に体を向けて、姿勢を低くする。そろそろ10分だ。奴も回復しているだろう。


「火の玉は出さないのか?空に浮かなくてもいいのか?」


「もう挑発に乗ると思うなよ雑魚が!さっきみたいなヘマはしガッ!!!」


 奴は言葉の途中でそのままどさりと倒れた。・・・正直驚きで戸惑いを隠せない。挑発に乗らないって言ってはいたが、今までの挑発に見事に引っかかり、俺の左手に持っているものに目を向けていなかったのだから。


「300万Vの電撃食らってまだ意識あるのかよ?下手すれば死んでもおかしくないのに」


「お、お前、何を、し、しやが」


「お前がへらへらと喋っているときにスタンガンを使っただけだ。お前が暴れて血が溜まったこの場所でな。それがお前に感電したんだ。改造して電圧を強化していたのにすごいな、その身体」


 そう言って、俺は手に持っていた棒状のスタンガンの電源を切ってポイって捨てると、奴に向かって歩き出す。


「あ、この・・・魔術を・・・」


 奴は必死に抵抗しようとするが、上手く体を動かせないのか何もできずにいた。その間に僕は意外美人から頂いたもう一つの物を取り出した。


「な、なんだよ?それ?」


「これか?ポリ袋と言って、ポリエチレンで出来たただの袋だ。これをな、小銭入れに入っている大量の硬貨を入れるとって、片手が使えないから難しいな・・・っとあら不思議!あっという間に鈍器の完成だ!」


「え、あ、た、たす・・・」


 奴が何を言おうとしたのかは分からない。ただ、俺は喜々として奴の頭を叩いた。


 ゴミ掃除の開始だ。


「ガッ!」


 奴の目があちこちに動いている。目の焦点が合っていないのだろう。という事は脳震盪でも起こしたか?まあ、筋肉で守られていない頭蓋骨への打撃は有効であることは分かった。


 6000円分の硬貨・・・重量でいえば300g程度だろう。だが、袋をぶんぶん回すことで、遠心力で効果は袋のそこに固まり、袋を回す速度はどんどん大きくなっていた。


 頭蓋骨を粉砕するには問題ないほどの威力であることは間違いない。


「あ、そ、そんな・・・」


 奴に向けて俺は再び殴り付けた。


ガッ!

ガッ!

ガッ!

ガッ!

ガッ!

ガッ!

ガッ!

ガッ!

ガッ!

ガッ!


 何度も叩かれると、奴はピクリとも動かなくなった。


 グジュ!!


 奴の頭から変な色の血?が流れているが、念のためにたくさん叩いておく。叩いている途中で奴が死んだふりをしているかもしれないと危惧し、念のため行動を制限するために、眼球もボールペンを使って潰しておいた。


 額に汗を掻きながら、俺は奴の頭を叩き続けること10分


 奴の頭部は頭蓋骨が割れているのが確認できて、骨が欠けた所から見えてきた脳も、完全に潰れていることに気が付いた。息もしていおらず、心臓も止まっていた。


「・・・よし、死んでるな」


 俺はそう言うと、奴の死体を漁ることにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そのころ、別の空間ではある人物が深山 和志を見ていた。


「いやいや、素晴らしい。この世界では弱くなるとはいえ、あの魔人を倒すとは相当優秀な人間だな。

 いやいや、扱いやすい日本人という人間を選んだまでは良かったが、大抵の人材が『僕たちの世界』では力不足だったからね。

 いやいや、だが、確かに彼を手玉に取るのは難しい。なるほど、あの女が提案した内容も馬鹿にできないな」


 そう言って、彼は倉敷 明日香の首を掴みながら監視カメラで観察していた。


「いやいや、彼の動きは珍しいね。移動術はおそらく『パルクール』というスポーツを元にして自分用にアレンジしている。思考も常識に囚われずに事実と知識を基づいて動いているな。なにより、彼のすばらしさは一般からかけ離れている知能と倫理観だね。

 いやいや、この国の人間ならまず魔人と出会った瞬間に何もできずに死んでしまうのに、突然の出来事に対する判断力、相手や周囲の状況や特徴をすかさず見つける洞察力、危険を顧みず挑発や突撃を行う行動力、そして、自身のために相手の命を奪うことに躊躇しない度胸、

 いやいや、こんなに有能な人間ならきっと『僕たちの世界』でも役立つだろう」


 彼は満面の笑みを浮かべながら、倉敷 明日香に目を向ける。彼女は何もできなかった。動くことも、息をすることさえ上手く出来ない。

 ただ彼女が出来ることは怯えることしかなかった。見た目は人に近く、知性があり、殺意も感じさせない優男のような化け物に、ただ恐怖するしかなかった。


「ねえ、君の望みをかなえてあげる。君を別人のように変えてあげる。だから・・・彼より先に『僕たちの世界』に行ってきてよ」

あと一話で序章が終わりますのでもう少しお待ちください。

ちなみに、深山和志は通常の財布と小銭入れを分けており、硬貨は小銭入れの方から取り出しました。 (百円硬貨×60枚)

5g×60=300g


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