序章の四 化け物に遭遇
「・・・それで、その人はそのまま行方不明になったという事ですか?」
僕が相手の様子を窺うように尋ねると、リア充は暗い顔をして頷いた。
「ああ、俺は危険だと口では言っていたけど、都市伝説をあまり信じていなかったから本気で止めなかった。だから勇気はその翌日に行って・・・もう一か月以上も会っていない」
「でも、小型のGPS機能のついたベルトで居場所は分からないんですか?」
「分からないのよ!話の流れで気づきなさい!」
ビッチがイラついた顔で僕を睨んできた。超怖いし、超うざい。
「え、えっと、壊されたり、外されたりして特定できなくなったとかですか?もしくは誘拐先が電波の通じない場所とか?」
「原因は分からないけど、恐らくは壊されたんだと思う。GPS反応は駅前で止まってからすぐに反応が消えた。外されただけなら、電池切れになるまでしばらくは反応があるはずだから」
という事は相手にGPSの存在が気付かれていた?いや、おとり捜査まがいのことに気付いていた?あるいは本当に・・・
僕はいくつか仮説を立てると、リア充にいくつか質問した。
「二見さん、いくつか質問していいですか?」
「ああ、答えられる範囲内なら・・・」
「ご協力ありがとうございます。では早速・・・藤村 勇気さんの失踪日時を正確にわかりますか?GPS反応が消えた時間帯でもいいです。」
「えっと、日時が消えたのは3月14日・・・正確な時間は分からないが、大体正午にはGPSの反応は消えていたよ」
3月14日・・・奇遇にも三島が失踪した日と同じだ。話の共通点も多いし、やはり三島も藤村さんみたいに消えたのだろうか?
「そうですか・・・では次に彼は武術などの心得はありましたか?」
「あいつとは小さい頃からいるが、武術は習っていない。運動自体が得意ではなかったよ」
武術は習っていない。運動センスもないとすると、相手は強行手段をとることは簡単だ。
それは三島も同じ、いや、女性である三島の方が楽だろう。
だが、あの三島がなんの準備もせずに行くか?
藤村さんという方だって、黒い噂は聞いていたのだ。先程の話を聞いていると、なにか対策をしているようだったし、そんな人が簡単に消えるのだ。
相手はどんな手段を使ったのか?
「・・・最後の質問です。あなたはこの出来事についてどのように思っていらっしゃいますか?」
「・・・どのようにって?」
「誘拐事件だと思っていますか?それとも本当に異世界に飛ばされたと思いますか?」
「・・・誘拐事件だと思っている。少なくとも、俺は異世界なんて信じていない」
つまり、噂はデマで他に何かしらのことが起きて行方不明になったと思っている。まあ、普通に考えればそんなことが起きることなんて、それこそ小説の中だろう。
宇宙人はいる。異世界は存在する。
こういった説の可能性は否定できないが、この平和な日本にそれらが干渉する可能性は、あまりにも現実的な数値ではない。
だが、今身近で起きているこの事態は現実的にあり得るだろうか?
行方不明の事件が起きることはまだ理解できる。だが、大きな騒ぎにならないこの事態は明らかに異常なのだ。未成年の誘拐事件は本来であれば全国放送されてもおかしくない大ニュースである。
しかも藤村さんという人間はおそらく、向こうにとっては想定外の人物だ。僕みたいに不思議な石を送られているような人間あればそれはすでに色々と調査をしているだろうが、彼の場合は違うだろう。
対策を打たれて、向こうはそれを知る術がない。勇気さん本人に身を守る力がないのなら、彼はそれぐらい考えるはずだ。
三島もそうだ。こんな怪しいことにも簡単に首を突っ込む・・・というより、自ら面倒事に向かってしまう性格だが、それでも何の準備もしない愚か者ではない。
その二人がだ!おとなしく捕まって、周りに何の手がかりも残せないでいるのがあり得るのか?
ただの誘拐犯がだ!
あり得ないとは言えないが、どうにもそう思えない。仮にできたとしたら、それこそ小説のような大事に巻き込まれないとおかしい。
「わかりました。ありがとうございます」
一つずつ可能性を潰していく。小さな出来事でも可能性を浮き出していく。
今回の騒動は何かしらの大きな力によって動いている。
純粋な力や知恵などではない。不可思議な出来事を起こせる奇妙な力、もしくは情報を制御できる権力のような力。
誘拐の目的は不明だが、狙っている人物にある程度の条件はついていると思う。だが、無差別ではないだろうが、この犯行はその気になれば誰でも良いと思う。
そして、誰が相手でも実行できるような方法をとっている。
条件をつけているのは、犯行を用意にするためではなく、犯行を終えた後で、騒ぎの影響を出来るだけ小さくしたいからだろう。そういう人物を狙っている。犯行を行いやすいひ弱な人間を狙っている訳ではないだろう。
そうでなければ、三島をターゲットにする事、それは選択肢として間違っている。
もし、僕が誰でも良いから同じようなことをしろと言われたら (やらないけど) 三島は絶対に選ばない。
向こうも人物をある程度調べてやっているとしたら、普通はそう考えるはずなのだ。そういう人物なのだ。
だが犯行に成功し、手がかりを残さなかった。藤村さんに対してもそうだ。
彼に至っては正規の入手ではない。
条件に当てはまらない人物、そんな人が知恵を絞り、犯行に立ち向かっていったにも拘らず、騒ぎが起きることが無かったのだ。
藤村勇気さんがとれる行動を予想する。GPSの他にも監視カメラ、護衛、犯行のポイント探し、ect、ect・・・深く考えていないとしても、最初の3つくらいは用意しているだろう。
その方法を無効化して、犯行が成功した。
こうして考えると、だんだん一般的な考えはどんどん無くなっていく。
偶然や奇跡が起きたことも可能性にいれるが、仮にこういった犯行が何回もあると考えるとフィクションと同列になってしまう。
三島の性格、証言、マップ、時間・・・関係なさそうな物まで考慮して情報を整理していく。
いくつかの説を辻褄合わせして、矛盾が起きないかトライ&エラーを繰り返す。
そうやって考えを早急にまとめ、現時点であり得る大きな可能性を2つ出した。本当に最初の時点では数字の前に0がたくさんつく可能性だが・・・
「・・・あの、何かわかったんですか?」
僕が質問を終えて、考えをまとめると今まで空気のように聞いていた意外美人が僕に聞いてきた。
「まあ、的外れかもしれないけど、一応、現時点で二つの説が浮かんできました」
2つとも外れてほしい説ではあるが、こんな異常事態に一般的な意見をいっていても仕方がない。
現地で手がかりを見つけて新たな可能性が浮かぶかもしれないが・・・まあそのときはそのとき考えよう。臆測だし、別に間違っていても大丈夫だし。
「はあ、今ので何が分かるっていうのよ!」
・・・うるさいな。説明しますから落ち着いてくださいよ。
彼女の叫び声にイラつきながらも、僕は分かりやすく説明しようとする。
「・・・結論から言ってしまうと僕はこの出来事について二つの仮説を立てています。
・この事件は国や大富豪など、お偉いさんが関わるような大きな事件
・本当に異世界が存在して、その世界に飛んでしまう
この二つのうちのどちらかと思って・・・」
僕は説明の途中でビッチに胸ぐらを掴まれて、電車の壁にぶつけられた。
「ふざけるのもいい加減にしなさいよ!こっちはあんたの遊びに付き合っているんじゃないの!小説の読み過ぎで現実との区別がつかなくなったの?真面目に言っているなら死ねば!」
「美晴さん、落ち着いて!」
「落ち着いていられるわけないでしょ!どうせ、あんたのいなくなった友達ってのもあんたの妄想なんじゃないの?あんたって、友達いなさそうだもんね!こっちは真剣なの!本当に心配して探しているの!邪魔だから出ていけ!」
彼女はイライラした顔で僕を睨んできた。僕は彼女のような人物を何人も見たことがある。
ゴミだ。
偏見と差別は当たり前、自分が理解できないものは信じない、どこにでもいる、大量に存在する人間だ。
はあ、嫌なんだよな。こういう奴を相手にするの。
すごく疲れるし、それに見合った対価が得られない。
無駄が大嫌いなんだ。
「別に説明するのは別に義務でもないですし・・・情報提供をしていただきありがとうございました」
僕はそう言って、胸ぐらを掴んでいた彼女の手を強引に外した。
小指を親指を用いて握り捻る。
「っ!!」
彼女は途端に握った手を放し、それを見計らい僕は彼女の小指を放した。
これ以上話に付き合う価値はないな。
「協力ありがとうございました。失礼します」
そう言って、僕は背を向けて別の車両へ移動しようとした。
でも、向こうはそれで済まさないようだ。ヒールの足音がこちらに向かって聞こえる。
僕は振り向くと、ビッチは今にも殴りかかろうとしていた。
見よう見まねで空手の内払いをして彼女の拳を受け流すと、手のひらをグーにして彼女の顔面の寸前で止める。
「出ていけと言ったのはそっちなのにその態度は何ですか?」
「調子に乗んな!」
彼女は僕を押して突き飛ばし、再び殴ろうとする。
しかし、流石にまずいと思ったのかリア充は彼女の肩を押さえて止める。
「いい加減に止めて!騒ぎを起こしたらまずいって!」
「フタっち!止めないで!あいつが悪いんでしょ!」
・・・ええ?なんで?
やっぱり人間の言っていることは理解できない。
言っていることと感情が全くあっていない。
他人のためにやっているとか言っているけど、自分が理解できないでムカついているから怒っているだけじゃん。
大方その人物を探す理由もリア充と親密になるためのフラグだろう。
大体、説明の途中で割って入ったのは彼女だろう。なぜ僕が悪いようになっているのか理屈が分からない。
怒りを通り越して呆れるね。
僕がそんなことを思っていると、4つめの停留駅に電車は止まった。
「ごめん、この駅でいったん降りるから!」
そう言って、リア充は彼女の体を引っ張って電車を降りた。
途中、「逃げるな!」とビッチか言っていたが、全くの見当違いである。逃げてないし、何なら殴り倒してやろうか?女性相手じゃ正当防衛にならないだろうから嫌なんだけど。
ああ言う人間は理解しようとしない、常識に囚われて異端を潰す。
「苛めは良くない!」と公言しておきながら、「これはいじめじゃないよ!ただ弄っているだけ!」と言って、弱者の言い分を無視したり、どついたりする人間。
自分の常識が世界の常識と勘違いしている人間
彼女みたいな人間がいなくなれば、この世界も少しは良くなるだろうに。
そう思って彼女を哀れむと、電車が再び出発し、この車両に乗っているのはいつの間にか僕と意外美人の二人になってしまった。
「・・・・・」
「・・・・・」
向こうは気まずそうに無言でこちらを見ていた。
すみませんね、トラブルを引き起こしちゃって、リア充を遠ざけてしまいまして。
「あの、さっきは何であんなふざけたことを言ったんですか?」
「・・・ふざけ?」
先程のやり取りでイラついていたのだろう。眉間にシワを寄せて睨んでしまった
「あ、あの仮説のことです。その・・・いくら何でも話が唐突過ぎます」
・・・あー、アレ冗談だと思っていたの?
「いや、結構マジで言ったんだけど・・・というより、君は異世界とか信じていないの?」
三島みたいな変人かと思っていたが?こんな胡散臭いものにホイホイついてくるような人間だし。
「・・・私はあくまで自分が変われるきっかけにでもなればと思ったんです。小説みたいな出来事は信じていません」
そう言って意外美人は俺を怪訝した目で見る。
まるで、『私はあなたとは違うんですよ!』と言っているようだ。
「・・・こんなあからさまに怪しいのに引っかかって、言う事がそれ?」
「別に期待はしていません、ただ、他にやれることがありませんでしたので」
「・・・あっそ」
彼女が何に悩んでいるかは分からないが、まあ、僕の知ったことではない。
それよりも丸々駅に着いて、三島の行方が分かる手がかりがありそうな所を推測した方がいい。
ただ、僕は周囲の気配に少し違和感を感じていた。
この車両には僕と彼女の二人しかいないが、それってあり得るだろうか?
いくら平日だからと言って、もうすぐ昼になる時間帯にこの人混みの無さははっきり言って異常だ。
僕は隣の車両を確認してみるが、車両さん以外は誰もいなかった。つまり乗っているのは僕たち二人?
・・・何事もなければいいが、あれ?
そういえば、僕の所にもあの変な石が届いたよな?
つまり、僕のことはターゲットとして認識されている可能性が高い。
意外美人もそうだ。今ここに持っているのだから。
そんな二人だけが目的地に向かっている?
僕がそんなことを考えていると、電車の速度が減速してきた。
同時にアナウンスも流れる。
『次は丸々駅、丸々駅です。右側のドアが開きますので、ご注意ください』
・・・いやいや、まさかな?すでに犯行が始まっているとかそんな偶然あるわけない。そんな嫌な予感が当たるわけがない。だけど一応ナイフをすぐに出せるようにした方がいいかな?
僕は彼女から視線をはずし、200m先にある駅を見てみた。
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そこには一人の化け物がいた。
そいつが左手に持っているのは、女性の頭部だろうか?
首がもげてそこから血がだらだらと流れている。
「・・・・・・は?え?」
自分の目が可笑しくなったとそんな誤魔化しの思考を行おうとしていた。夢でも見ているのではないだろうか?
その姿を見て、僕は全身が動かなくなった。
必死に視線を動かすと、辺りには他にも人間の死体らしき物が見える。
不気味な笑い顔で右手の真っ赤な血がついた鈍器を眺める。
力が入らない。分かる。恐怖で動けない。
でも動かないとやられる。視線が合ったら、多分死ぬ。
僕は必死になってポケットに手を入れて、あるものを落とさないように必死で握った。
「痛っ!!」
ナイフを握って血がポケットに染み渡る。
だが、そのお陰で痛みが恐怖の感情を僅かに打ち消して体に力が入る。
僕は静かに立ち上がり、目の前にいる彼女を見る。
彼女は携帯を弄っているようでまだ気づいていない。僕はすぐに彼女の手を握り引っ張った。
「え?何?」
彼女は事情がわからないだろうが、構わず僕は彼女を連れて化け物の死角へと隠れ、息を潜めた。
「何?何なんですか?警察を呼b・・・」
彼女が声をあげるのを防ぐため、口を塞いだ。
僕は口に人差し指を立てて静かにするように合図する。
「静かに駅を見ろ。絶対に声をたてるな。」
僕は小さな声で彼女に指示をする。駅はすぐ目の前、電車もかなりゆっくりと進む。
彼女は訳が解らない顔をしていたが駅の方に振り向くと目を大きくし、口を開ける。
僕は再び口を塞ぐ。騒がれたら絶対に不味い!僕は彼女にたいして静かに言った。
「今、電車の死角に化け物がいる。接触したら殺される。存在がばれたら殺される。死にたくないなら、僕の指示にしたがって」
僕がそう言うと、彼女は何回も首を縦に降った。
おそらく、あの化け物を間近で見てたら確実に終わってたな。
密着している今だから分かるけど、一瞬見ただけで相当震えているもん。
見てたら動けてないな。
でも大丈夫、バレなければ良い!こんな事態に車掌も気づくだろうし、奴も僕たちに気づいていないはず!無理矢理乗り込んだとしても、隠れてさえすれば・・・
そこで僕は思い出した。石の存在を。
「倉敷さん、石はどこにある?」
「え?イシ?」
「持っている石だ、さっき話題になったやつの」
「・・・あ、この鞄にありますよ」
そう言って意外美人は左腕に掛けてあるバッグを見せた。
・・・駄目だ。このままじゃ多分駄目だ!
石にGPS機能みたいなのがあったなら確実に相手に存在が知れている。
何かないか?方法は?どうする?何をすれば良い?頭の中がパニックになっていく。
・・・そんなことを考える時間もなく電車は駅に到着した。




