1章の二二 VSギルバート
ギルバートは僕に対して敵意をもって問いただしてきた。彼の右手には両手でも持てるかどうか怪しいほどの重量がある両手剣を、何事もなく軽々と持ち上げている。
さて、奴に何と説明しよう?前回と違って『リラ』は通用しないだろう。話を聞いてもらっても、村の外に出してもらえそうにないし、無理やり説明して機嫌を損ねたら、その重そうな凶器で僕を殺しにかかるかもしれない。
奴にとって、僕は殺す理由を持っていても生かす理由はない。メリットを提示しても、この輩は感情を重視する人間だからまず話を聞いてくれそうにない。というより、孤児院では聞くようなそぶりはなかったな。
奴が僕をどう考えているのか分かっていれば、何とか対処はできるかもしれないが、生憎、三島ではないものなので心理を読めても心情までは読むことができないんだよな。何に対して怒っているのかは大体見当はつくが、それを前提とした話は
「答える気がないならいい。それなら・・・」
ああ、戦闘態勢に入っている!こんな人間相手にはもうこれしか方法がない!
「・・・おい、なんだよあれは!」
僕は驚きを隠せない表情でギルバートの奥の方を指さした。
僕が指を刺す方向にギルバートは視線を向ける。
そこには何もない
「おい、何が・・・」
ギルバートが振り向いても誰もいなかった。
「・・・待ちやがれ!」
数秒後、事態を理解したギルバートが屋根から飛び降りて、そのまま全速力で追いかけてきた。
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心臓がバクバクとなっている。神経が着々とすり減っていく。
目の前は真っ暗、足元は不安定、魔物の鳴き声が聞こえる中、
目の前に魔物が現れたら躱し、足を止めることなく、恐怖を無視して全速力で走る。
瞬きをする余裕もなく、呼吸を落ち着ける暇もない。微かな音と臭いを頼りに細心の注意を払い、星を方角の目印にして、村の入り口まで進む。
精神が狂ってしまいそうな状況で僕が考えていることは孤児院での生活だ。あの暖かい生活を思い浮かべて自分を発起させる。やるべきことを忘れるなと。
身を守る防具がない僕にとって、非常にリスキーな行為を行っているが、いくつか回収しておいた魔物除けの魔道具を身に着けていたおかげで、数体しか魔物には出会わず、奴らが気付いて襲う前に逃げることが出来た。距離が離れれば、魔物も無理に僕を追いかけてこなかったのが幸いした。
問題は追いかけているギルバートであるが、奴は出会った当初と違って頑丈そうな金属製の防具とあの重そうな両手剣を背負っている。ハンデを背負った状態であるし、この視界で僕を見つけるのは難しいだろう。
もっとも、両手剣は置いているかもしれないが、魔物がいる中で武器を手放す可能性は低いだろう。それに、あの時より僕の身体能力は何倍も上がっている。何とか逃げ切ることは出来るだろう。
そして、どれくらい走ったのだろうか?実際の時間は2分もかかっていないだろうが、暗闇で感覚が無に近かった僕にとって体感的に30分は経過していただろう。そんな僕の進んでいる方向にうっすらと明かりが見えた。明かりが灯しているのはこの村を囲む塀の唯一の門である。
「ここが村の出入り口だな・・・っ!」
村の出入りする門を通り抜けようとすると、僕は急ブレーキして足を止めた。門の奥では前方から槍を構えて道を塞いでいる人物が二人いた。
「止まれ!勝手に門を出ることは許されない!」
「通りたければ通行料を払え!5千ディルだ!」
この二人に見覚えがある。というより、昼間に出会った門番兵だった。
「この非常時にまだそんなことを言っているつもりか?村の状況を知っているだろ?」
「いかなることでも規則は規則だ。払えないならばさっさと失せろ」
こいつらは洗脳された村長とは様子が違う。自分の意思を持っているようだが、領主の手先であることには間違いなさそうだ。
「だったら、村の中に規則を破っている魔物がたくさんいるから討伐して来たらどうですか?村人が苦しんでいるのにあなた方はそこで傍観するだけなのですか?」
「魔物にこの規則は適用されない。それと、私達が守るのはこの村の土地であり、村人ではない」
あっそ、その土地も魔物が食い荒らしているけど・・・まあ、門番としての役割を守らないことは分かった。自分の存在価値を捨てるような人間ならば、容赦はいらない。
「彼の物を鎮め、彼の者を静め、惑わし心に救済を『リラ』」
「おい、何をし・・・ごほっ!」
「あれ?えっと・・・ぐは!」
門番たちが警戒心を解き、無防備な状態のところを回し蹴りでそれぞれ一発ずつ食らわせた。
『リラ』は精神状態を正常にさせる。どのような事態でもストレスを取り除き、落ち着いた状態にする効果がある。
逆に言えば、必要なストレスですら取り除いてしまう。相手の行動に機敏に反応するための『警戒心』
や攻撃してくる相手に反撃を行おうとする『闘争心』をも奪う。だから、この法術を浴びた人間はほんの少しの間だけ無防備状態・・・サンドバッグ状態になるのだ。
もちろん、魔言を唱えるには時間がいるし、放たれた光から良ければそのような事にはならないので、ギルバートには通じないと思うが、初見である彼らはバカなことに固まったまま動かなかった。
他の法術に対して何か対策をとっていたのかは分からないが、とにかく、勝負は一瞬でケリがついた。
僕は奴らが気絶をしたのを確認して村の外に出る。
「・・・・・・いた!」
孤児院の方からこちらに向かってくる小さな明かりがあった。恐らく馬車なのだろう。
僕は物陰に隠れて馬車の様子を見る。
馬車を操縦している人間は体格が良く、質素で機能的な防具を装備していた、いかにも強面な顔をした冒険者だった。
馬はトコトコと時速20キロくらいで走っており、後ろから放っているランプの光を頼りにわずかに司会できる空間の中を走っている。
普通の馬車ならば、暗闇の中を走るという行為はしないだろうが、あの馬車は魔物避けの魔道具があるため、走ることができるのだろう。
・・・村を守っていた魔物避けの魔道具を使う事によって。
村の魔道具が紛失したのであれば、考えられる合理的な理由は一つ、盗んだものを利用する。
村を壊滅させて、同時に夜に行動することが可能になる。だから、わざわざ壊さずに盗めば一石二鳥である。
冒険者がいなくなったのもそうだ。昼間に集まった時の人数と夜に集まった時の人数では大きく違っていた。いくら冒険者が流人でも、日が昇り切ってから移動するのはおかしいのだ。
徒歩で移動する場合、近くの町に行くにも最低でも半日以上はかかる。昼を過ぎた時間帯に出れば次の町に着くまでに日が暮れる。そうなれば、危険な夜を過ごさないといけなくなるリスクを背負う。
馬車であれば問題ないかもしれないが、基本的に貧乏な生活を送ると言われる冒険者がそれを利用するとは考えにくい。ましてや、ここにいるのは低いランクの冒険者なんだ。
そして、問題はなぜ、その冒険者が孤児院の方からこの時間帯に馬車で移動しているかだ?
これらを考えれば可能性は一つ思い浮かぶ。領主が冒険者に依頼して犯罪を執り行った。村人の話では横暴な態度をとる冒険者だったようなので、可能性は大いにありうる。
誤解であればそれでいい。その場合は精一杯の謝罪をし、出来る限りの責任の取り方をすればいい。
だが、もし、僕の懸念が当たっていた場合は・・・覚悟を決める。
馬車が僕の前を通り過ぎようとしたところで、僕は左手を前に出す。
そして、使う予定のなかった魔術を放った。
「『魔力弾:光』」
僕の左手から魔力弾が放たれる。ただの魔力弾ではない。
女神と再会して、女神を倒すために色々と開発を施した改造魔力弾である。
放たれた魔力弾から光が放たれて、発光しながら馬車の方に向かう。
放たれた魔力弾は馬車には当たらず、馬の目の前を通り過ぎ、そして、そのまま消えた。
この改造魔力弾は射程距離が短く、一定の距離で消滅してしまうのだ。
だが、馬車を狙って外したのではない。わざと外したのだ。
馬車に当てたとしても、馬車を止めるには車輪か車軸に当てて壊すしかない。だが、僕は動いているものを的確な場所に当てるほど器用な性格ではないし、威力も一発では足りないだろう。
しかし、僕が狙ったのは馬車の『妨害』ではなく、馬の『暴走』である。
「ヒヒーン!」
「うわ!何だ!どうした!」
冒険者が突然暴れだした馬を制御しようとする。
馬は敏感で臆病な性格をしているため、突然の現象が起きるとすぐにパニックになる。牧場や競馬場でフラッシュ撮影なんかをすると、興奮して暴れるように、目の前に通り過ぎた光る魔力弾に馬が反応したのだ。
「おい、大人しくしろ!」
馬は暴れながら動くため、動きが制御できないため馬車は揺れる。それを冒険者が必死に止めようとする。村から少し離れた一本道のところで馬が大人しくなると、操縦した冒険者は安堵した。
「ふう、一体なんだぶっ!」
僕は相手が馬を制御することに集中させて、視界を狭めているところで接近し、安堵して油断したところに死角から拳を顎にヒットさせた。
馬車の中を確認すると、そこにいたのはもう二人の冒険者と・・・
拘束されて動けなくなっていたアレスとセーラだった。
「お前!何者だ!」
「ぶち殺してやる!」
そう言って、こちらに武器を持って突撃する二人に対し、
俺はアレスから借りた剣で奴らの腕ごと武器を落とした。
「・・・い、いっでえええええ!」
「な、何しやがる!このクソ野郎!」
クソ野郎?誰が?
「・・・殺そうとした人間が何言ってやがる?
五秒やるから、あそこで気絶している冒険者を連れてここから立ち去れよ」
「はあ、ふざけ・・・」
反抗的な態度だったから、思いっきり蹴り飛ばすと、馬車から5m離れたところまでぶっ飛んだ。見えないけど多分、死んでいるだろう。
「死ぬのか?逃げるのか?これ以上は優しくできないんだ」
最後の忠告、何度も生かすチャンスはやらない。むしろチャンスをやるだけ甘い人間だと思う。それを受け取らない馬鹿なら死んでも仕方がない。まあ、ここから逃げて、魔物の手を掻い潜り、町まで逃げ切れればの話だけど・・・
「わ、わかった!言うとおりにする!すまなかった!」
そう言って、もう片方の冒険者は一目散に逃げていく。操縦していた冒険者を置いていったが・・・まあ、こいつは後で拘束しておこう。それより・・・
「お前ら!大丈夫か!」
逃げた冒険者より目の前にいる子供二人の方が大事である。
「カズシ!」
「カズシさん!」
アレスとセーラは涙目を流しながら、僕の呼びかけに返事した。見たところ、小さな傷はあるみたいだが、致命傷になるような怪我はない。
「・・・あれ?お前らだけか?他の孤児院の子供たちは?メインは?」
メインと孤児院の子供たちを誘拐する。それが最も懸念していたこと。
だけど、この馬車にいるのはこの二人だけだ。
「他の子たちは、先に領主のところに送られました!」
「俺たち二人は後から来たこの馬車だけど、メイン姉も子供たちと一緒に別の大きい馬車に連れられて・・・」
・・・すでに攫われたのか。やはり遅かったのか。
いや、この二人を救えた事は大きい。
「分かった、詳しい話は村についてからだ。立てるか?」
「う、うん。でも・・・」
「俺らは大丈夫だから、メイン姉を早く!」
彼らが言いたいことは分かる。今すぐメインを救いに行きたいのだろう。
だが、今は駄目だ。
「僕は馬を操作できないし、操縦士を気絶させてしまった。外を走るのも危険が大きい。
それより、村に戻って・・・ここに座っていろ」
「え?」
「何で?」
事情を説明する前に、静かにするように指示して床に座らせた。
「奴が来た。僕の近くにいたら危ないからここで隠れていろ。何かあったらこの魔道具をもって村にいる騎士に助けてもらえ」
「え?誰が?まさか冒険者?」
「・・・いいか、絶対に良いと言うまでここにいろ。あと、この冒険者が動けないように拘束しておけ」
それだけを言って、僕は馬車の外に出ると、暗闇の奥からわずかな光に反射して光る甲冑を身にまとった獣人がこちらに向かって歩いていた。
馬車の外にいたのはギルバートだった。恐らくだが奴の後ろには真っ二つにされた人間が倒れているだろう。多分、腕が片方なくなった冒険者だ。彼の悲鳴が聞こえたから奴がここに来たのが分かった。
「おい、手前に悪意がないのは分かった。ガキ共を救ったことには感謝してやる。これ以上あいつらに余計な手を出さねえなら、殺さないでやる。だから、ここから去れ」
「お前もメインと同じ命の恩人だ。殺されそうになったこともあるけど、恩義はある。だから今までの行いについては目を瞑ってやる。断る」
僕がそう返事すると、ギルバートから放たれる殺意のレベルが上がった。
「・・・ふざけんじゃねえぞ!お前がメインに何をしたのか分かっているのか!あいつがどんな思いでお前の面倒を見ていたと思っている!」
ギルバートは僕に明確な殺意を込めて剣を構える。色々と事情を説明したいが、どうやら、言葉だけでの説得は不可能のようだ。そもそも、明確に立場が違う。
ここまで来たら逃げることは不可能だ。近くにはアレスとセーラがいる。置いてはいけない。
奴が敵だと知っている僕はここで逃げてはならない。
僕は姿勢を低くして、奴の攻撃をかわすことに意識する。格上の相手に先に攻撃をしても、待っているのは回避不能の反撃だけだ。
少しずつ足を滑らして位置を移動していく。馬車の中で隠れているアレスとセーラを巻き込まないように、一本道の端へと動く。後ろに木々があればむやみに長物の武器で攻撃はできなくするメリットもある。
「もう、てめえを許せねえ!お前みたいな人間がいるからメインは泣いたんだ!」
そういって、ギルバードは怒りに任せて突進してきた。
重たい甲冑を着ているにもかかわらず、十数メートルあった距離が一歩で半分になる。
防御するなと脳に危険信号が走る。攻撃を受け止めてはいけない。トラックが正面から向かってくるのに受け止める人間がいないように、あの重さで、あのスピードで突進する奴に対して防ぐ手段はない。
だが、躱せないことはない。僕の身体能力は上がっているし、奴は甲冑の重みで本来発揮できたはずのスピードより数段遅い。
奴が二歩目を踏み出そうとしたときに、僕は右へと身を躱そうとする。
奴が一歩目の足が離れる前に動けない。距離があるうちに動けば、奴は一歩目の足で軌道修正するだけで簡単に僕を捉えてしまう。
奴が二歩目にたどり着き、そして、右手の両手剣を横へと薙ぎ払う。ぎりぎり攻撃範囲の圏内に入っていない。そう判断した僕は攻撃をかわして、魔力弾で攻撃をする・・・つもりだった。
「っ!!!」
僕は即座に上に魔力弾を放ち、反動を利用して重心を下へ送り、姿勢を崩して仰向けになって地面へと倒れこむ。
なぜ、そういう行動をしたのか?理由はない。直感だった。
だが、直感というものは案外馬鹿にできない。それは様々な場面に様々な経験を得て、無意識に過程と結果を記憶していることで起きる現象なのだから。
とある一場面でどのような結末になったかを無意識に記録した過程と結果から、これから起こりうることを予測してしまう。
僕の直感が悟ってしまった。弱者である自分に余裕などなく、それに気づいた時にはすでに遅いのだと。僕はできるだけ最小限の回避で無駄のない動作を行おうとしていた。でも、未知の世界であることを忘れていた僕を助けたのはそれだった。
僕の悪い直感が当たるのは、とある人物のおかげで碌な目に合わない経験を何度も味わっているからだろう。
大きく避けたことによって、視線が敵から離れて空へ上がっていき、きれいな夜景が見える。
・・・そこに届くはずのない両手剣の腹が見えた。
薙ぎ払った両手剣は僕の上を通り過ぎ、近くに立っていた木々を切るというより、壊すようにして両断していった。
「は?」
一瞬、唖然としてしまった。そんな余裕があるわけもないのに、事態に追いつかない。
何が起きた?なんで剣が届く?なぜ木が切断されている?
そんな考えも剣の全体を見れば簡単な答えだった。
「・・・剣がでかくなるのかよ」
すぐさま立ち上がり、体勢を整えると、目に映ったのは同じ形で同じ材質の剣だった。ただし、大きさが全然違う。
先ほど見た両手剣の全長はは1m50cm位の十分大きな剣だったが、今目の前に見えている剣は、全長がその二倍はあった。長さだけでなく、幅も、厚みも同様にある。
このような不思議現象を簡単に納得させるものがある。
「その剣も魔道具なのかよ?」
対処法を思い浮かべるまで、呼吸を整えるまでの時間稼ぎとして問いかけてみる。
「ああ、『巨人の破壊剣』という魔道具らしい」
「・・・」
・・・やばい、ちょっと笑いたくなってきた。ちょっと吹きたくなった!何そのネーミングセンス!中二病じゃん!いや、かっこいいけどね!三年前までの僕ならかっこいいと思っていたけどね!
そんな平然と言っているけど恥ずかしくないのかな?やだ!ちょっとこの人心配!
・・・いや、落ち着け!今ピンチだぞ!今ピンチなのに隙を与えるな!
クソ!作戦は失敗した。雑念が入って集中できず、呼吸も余計に乱れているからだ。ついでに腹筋も全力で力を入れている。
「・・・なんでこんなやつをメインは助けたんだ?」
僕が笑いを堪えていると、ギルバートは嘆くようにそう言った。
「は?」
「お前だけじゃねえ。村の人間にも手を差し伸べる。自分に何の利益もないのに、自分にそんな余裕はないのに、困っている人間を見たら助けようとする」
それは先ほどとは正反対の様子だった。怒りを通り越して呆れてしまったのだろうか?
・・・いや、違うな。強いて言うなら嵐の前の静けさと言った方がいい。
「・・・なのに、なんでお前は彼女の心を踏みにじる!」
予想どおり、ギルバートは再び突進してきた。一歩で間合いを詰めて両手剣を振り下ろす。
それに対して、僕は魔力弾の反動を使って必死に避ける事しかできなかった。
「村の人間もそうだ!どいつもこいつもあのクソ領主のいいなりになりやがって!
メインがお前らに何をしたんだ!何か危害を加えたのか?メインがお前らに何をしたのか言ってみろよ!」
ギルバートが剣に溜を大きく入れるのを見ると、僕は逆にギルバートに突っ込んだ。溜が大きいという事は力が必要という事。巨人の破壊剣が大きくなる前兆だ。ならば、懐に入れば手元のスイングは遅くなるし、攻撃の反動で切り返しもできない。また、懐に入ればチャージでぶっ飛ばされるリスクも少なくなる。
「その癖に自分たちが困ったらメインを頼る?ふざけてんじゃねえぞ!あいつは道具じゃねえんだ!生きているんだ!ただ自由に生きていたいんだ!」
奴の怒りは僕だけに向けられているものではなかった。多分、僕が孤児院に行ってメインに救ってもらおうと勘違いでもしたのだろう。メインが連れられていなかったら、そうしている。
ギルバートは僕が懐に入るところを確認すると、剣をためらいなく放し、攻撃手段を拳に切り替えた。
奴が殴りかかるところを見て、左腕で防ぐ・・・ことが出来ず、防御した左腕ごと僕は後ろへ吹っ飛んだ。後ろに立っていた気にぶつかり、肺に衝撃が走り、呼吸が上手くできない。
「メインはもっとふさわしい場所がある!あいつを必要とする場所は他にきっとある!こんな腐れきった場所にいて良いわけねえ!」
そう言って何度も何度も僕に詰め寄っては、拳を握って殴りかかる。右手が使えず、左手だけで防御するしかできない僕は片方の拳を受け入れるしかできない。
岩のようにかたい拳が腹や額に当たっていく。ヴァンに殴られた時より威力は桁違いに上だった。たった三発で肉体は我慢の限界だった。僕にできることはあくまでも気絶しないようにすることだ。意識を落とせば死んでしまう。
「メインは俺が守ってやる!どんな手を使っても!邪魔する奴は殺す!」
その言葉には嘘を言っているようには見えなかった。三島のように嘘を見抜けるような心眼を持っているわけではないが、奴の表情を見れば演技ではないことに気が付いた。
奴の表情が表しているのは怒りではなかった。怒りだけを抱えた人間の表情ではなかった。その顔は怒りと苦悩を備えた顔、余裕のある顔ではない。
だから、彼の怒りは演技ではないのだろう。そこまで演技できるような人間ではない。
肉体のダメージを代償に僕は奴の感情を手に入れた。
後は、心理と感情を組み合わせて、動機を推測すればいい。
「・・・ギルバート」
小さな声を出すのが精一杯だが、ここで黙っているわけにはいかない。
「なんだ!この屑野郎!」
奴がとどめの一撃とばかりに大きくため込んだ拳を・・・
「お前はメインが大好きなんだな」
「・・・は?」
打つ前に隙を作って先に魔力弾を貯めた左手を前に出した。
「・・・『魔力槍』」
普通の魔力弾ではギルバートを引かせることは出来ない。その程度の威力ならギルバートをひるませることは出来ないし、そもそも手で弾かれてしまうので意味がない。
だから、貫通する魔力弾を作った。形状をとがった針のように鋭くして、槍のように細長くする。
「ぐ!」
魔力槍はギルバートの右肩に貫通した。その間に僕は奴と距離をとる。
「・・・てめえ、こんな時にからかっているのか!」
からかう?
冗談じゃない。本心で驚いているんだ。
「いや、真剣だよ。メインを助けるために村人を滅ぼそうとする人間がいるとは思わなかったからな」
「!」
動揺を隠せていなかった。どうやら図星らしい。これで、疑心が確信へと変わる。
「一つだけ聞きたいけど、あれは領主の命令か?それとも、お前の自己判断?」
「・・・どこまで知っている?お前は何者だよ!」
「ただの学生だよ。高校スチューデント。
でも、そんな平凡な僕でもお前が領主の犬であることは何となく想像つく」
「な!」
自分が領主の手先であることを隠せていたつもりだったのだろうか?
「ふ、ふざけるな!俺がそんなことするわけ・・・」
「だったら、その根拠を言ってやろうか?
お前がどういう立場で、どんなことをした人間かをさ」
僕は時間稼ぎという名の推理ショーを開始することにした。




