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僕は異世界で君を探す~命よりも大切なもの~  作者: Re:You
1章 孤児院と洗脳された村
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1章の二十 先手を・・・

「「え?」」


 僕とヴァンが呆気にとられていたが、サクヤは真剣な顔だった。

 協力していただけるのは大変恐縮である。少なくとも、ヴァンが王都に戻り、報告してくれるのは思っていた以上の収穫だ。

 でも、サクヤが僕の側にいるというのは予定外だった。


「魔人のいる可能性がいるのでしょ。だったら、護衛は必要と思うのだけれど・・・」


「この男の妄言を信じるのか!」


 サクヤが呆気にとられていた僕に理由を説明しようとしたがヴァンが止めた。


「こいつらがやろうとしているのはあり得ない妄言を大義名分とした領地の乗っ取りだぞ!」


 そう、普通は共にいるわけがない。確実でない情報で領主の屋敷に不法侵入して窃盗を行うのだ。


 普通に考えれば犯罪だ。むしろ彼らは僕達を止める側だ。

 だからこそ事前に事情を説明し、敵を作らないように試みていた。


「信じる・・・ではないわ。でも後悔したくないの。彼の言ったことはあくまで推論だけれども、きちんと情報を整理して導きだしたもの。

 外れていたとしても、先程の論点を聞く限り、領主の館には何かあるわ。ならば、実際に見て判断しても悪くないわ」


「だったら俺も・・・」


「貴方は戻りなさい。もしこれが『最悪の事態』に陥ったとき、必ず騎士団の力は必要になる。それに、相手が不思議な現象で洗脳できる可能性があるなら、全滅は最も避けたいの」


 『最悪の事態』、彼女のその言葉に意識を向ける。それは僕が想定しているものと同じことなのか?それとも・・・


「だが・・・」


「安心しなさい。私には頼れる()()がついているわ。貴方は知っているでしょう」


 護衛って・・・まさか僕のことではないですよね?僕を盾にするつもりじゃないよね?


「・・・報告するにもどう報告しろと?こんな話を国が信じるとは思えないが?」


「それなら、俺が色々とネタを持っている。辺境領主の息子では存外に扱われるかもしれないが、中心部の人間であれば話を聞いてくれるかもしれない」


 そう言って、グリルがテーブルの上に色々と資料をドンと乗せた。グリルが出した資料をヴァンは一つずつざっと読んでいく。読んでいくうちに眉を寄せてはいるが険しい顔だった。


「・・・これだけの不正なら動けないことはないが、それでもこれらは緊急のものではない。すぐに動いてはくれないだろう」


「これらの内容に加えて、「そのような不正に耐えきれなくなり、領地で内乱を起こそうと企む輩がいる」と報告しなさい」


「え!」


 その言葉に耳を疑う。だってそれって僕じゃん!

 何?この突然の裏切り?


「言っておくけれども、私は何かしらの不正がない限り、ミヤマに擁護するつもりはないわ。何かしらの証拠がなかった場合、貴方のやることは国家転覆罪と捕らえられてもおかしくないの。最悪死刑でしょうね」


 ああ、そういうこと?でっち上げでも何かしらの証拠があれば良し、なければ、俺は嘘つきになるから死刑か・・・女神が行くべきではないと言ったのはその為なのだろうか?


「それでもやるの?」


 やるのって、助けるためにはやるしかないよ?何言っているの?


「それでも助けるつもりなの?」


 まるで助けないという選択肢があるみたいの言い方だ。

 ああ、いや、一般人であれば普通ならあるだろうし、そちらを選ぶ人間が大半なんだろう。こんなお話、普通に考えれば誰も想像しないし、信じない。これが村のために助けるのかと言われたら、助けないと言えるかもしれない。


 だけど、僕はメインのために・・・いや、僕のための選択をする。


「僕はメインに救われた。命を落としてもおかしくなかった」


 墜落して、意識を失った僕を彼女が助けなければ、僕は死んでいただろう。彼女は命の恩人なのだ。


「ならば、それ相応の恩義を返さなくてはならない」


 受けた恩はそれと同等の恩を返さないといけない。命を救ってくれたのならば命懸けで返さなければならない。


「その子のために命を捨てる覚悟があるの?」


「違う。僕が僕であるために彼女を救うんだ」


 彼女のため・・・ではない。僕が他人のために動いたことはない。僕が動くのは全て僕のためなのだ。


 『情けは人のためならず』


 こういう諺がある。情けは人のためでなく、自分のために人助けをする。

 恩を売るため、見返りを得るため、自己満足するため、自分の矜持を守る為、そのために動く。


 人のためではない。人のためには動かない。

 それで何度も失敗した。自身の動く原動力にならないからだ。


 自己満足でも小さなプライドでもなんでもいい。


 これは、自分の命より重い事なのだから。


 だからメインを助ける。


「そう、そこまで大事な人なのね」


 だが、サクヤはなぜかそう言って納得した。


「わかったわ、貴方の大事な人を守る為に最低限の援護はしてあげる。

 あなたが覚悟を決めたように私も覚悟を決めるわ」


 いや、あの、サクヤさん?ちょっと勘違いしていません?別にメインの彼氏でも何でもないのよ?

 ほら!グリル様が僕を睨んでいる!視線が痛い!目からビームを出してきそうだ!今回の作戦で僕を嵌めたりするかもしれない!


「サクヤ」


 ヴァンが一通り資料を読み終えて色々まとめていた後、サクヤに声をかけた。


「俺は今から王都に戻る。この事を団長に報告して、増援を頼む。表向きにはクーデターが起きる可能性があるため、未然に防ぐための警備態勢で。

 でも、多分どんなに早くても一週間はかかると思う」


「それでいいのよ。私が予想している最悪の展開の為に動いてくれていいわ。多分、こちらも三日後、遅くとも五日後には局面が大きく変わるから、どんなに急いでも間に合わないでしょうし」


「・・・すまない」


「謝ることはないわ。貴方は国のために動きなさい。私は私のために動くのだから気にしなくていいわ」


 サクラがそう言うと、ヴァンは僕を睨んだ。拳を握りしめて、悔しそうにしている。

 居場所をとられたと思っているのか?いやいや、まさかな?そんな単純脳ではないだろう。


「・・・それじゃ、作戦の詳細を決めていこう。翌朝にはこの村から出ていかないと間に合わない」


 一段落ついたのを見計らって、グリルが僕とサクヤに問いかけた。


「わかった」

「了解したわ」


 そう言った一秒後のことだった。


「魔物だーーーーーー!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そんな声が建物の外から聞こえて、カンカンと金属の甲高い音が村中に響き渡った。

 その音を聞いて、まず先に建物の外へ飛び出したのはグリルだった。次にサクヤとヴァンが立ち上がり、慌てて僕も立ち上がろうとする。

 会計を無視して外に出てみると先程までとは全く違う光景になっていた。


「魔物が攻めてきたぞ!!隠れろ!!」


「逃げろ逃げろ!!殺されるぞ!!」


「バカ野郎!どこに逃げるんだよ!外に逃げても一緒だろうが!」


「邪魔だ!まだ死にたくないんだ!!」


「冒険者はどうした!何でいないんだよ!」


「ママー!パパー!うわーーーーん!」


 日が暮れてあたりが暗くなっている中、大勢の魔物が村人を襲っていた。孤児院からこの村までの道で見かけた『グラスウルフ』や豚みたいな姿で猪のような猛スピードで突進してくる『オークボア』など、他にも多くの魔物が村の中を暴れまわっていた。数はここいらだけでも十体近く。


「なんだ・・・これは・・・」


「・・・一体何が起きたと言うの?」


 サクヤとヴァンは唖然としているが、そんな場合ではなかった。

 グリルはすぐ近くにいた魔物から少女を守るために戦っている。


 俺は即座にその魔物を持っていた片手剣で切り払った。


「グリル!お前は俺と一緒に村の人間を避難させるぞ!子供と女性、老人を優先して連れていくんだ!

 サクヤとヴァンは集落付近の魔物を撃退してくれ!」


「な、何をいきなり仕切って・・・」


「早く!人の命が懸かっているんだぞ!」


 ヴァンの発言を無視して、すぐに行動するようにせかす。


「・・・わかったわ!ヴァン、貴方も村人の避難を優先なさい!周りに人がいなくなれば私()()がすぐに魔物を始末できる!」


「わ、わかった!」


 ヴァンはそう言って一瞬でここから離れた。遠くの集落にいる人を助けにいったのだろう。


「グリル!この村で一番大きい建物は?」


「冒険者ギルドだ!あそこなら地下に訓練室があるから全員中に入れることができる!」


 冒険者ギルドはボロボロであったが、確かにこの付近で一番大きな建物。人を集合させれば、少人数でも守りやすくなる。


「よし、二手に別れるぞ!グリルはヴァンと一緒に周辺の集落の人間を頼む!」


「待て!貴様はどうするつもりだ!」


「魔物が心なしか西側から向かっている!きっとバリケードの西側が壊れているんだ!そこを何とかしないと不味い!魔物が増える!」


「何!」


 グリルが回りを見てみると確かに西から魔物が来ていると理解した。


「何故だ?魔道具が壊れたのか?それとも・・・」


「取り合えずは周りの人間を避難させましょう!原因を考えるのはその後にしてください!カズシ!お前はどうするつもり!」


「西側の様子を見て見る!バリケードが壊れているなら修理を!それが無理ならどうにかする!」


 サクヤにそう言って僕は村の西側に向かった。


 走りながら周辺を見ると悲惨な光景が写る。魔物に殺された女性や子供が魔物に食べられている。今まさに魔物に噛みつかれている村人もいる。

 その人は抵抗する力もなさそうで、血がいっぱい流れていた。魔物を倒してももう助からないだろう。


 だから・・・見捨てた。その人から助けを請う声が聞こえたが、無視する。

 今から向かい、即座に倒し、聖法術を駆使して、きちんと手当てすれば助かる可能性は僅かにあったかもしれない。

 だがそれに時間をかけてしまえば何人もの人が犠牲になるかもしれない。


「・・・くそ!」


 唇を噛みながら、僕は振り返ることなく進んだ。原因を突き止めて、それを治める必要がある。


 それでも障害がないわけではない。前から『グラスウルフ』がこちらへ向かってきた。数は三体。


「邪魔だ!どけ!」


 そう言って、魔力弾バレットを放つ。

 一体は見事に当たって倒れるが、他の二体が突っ込む。

 だが、魔力弾によって分断されたため、連携することはなく、単体ずつ突っ込んできた。

 それを片手剣で一撃、そしてまた一撃で倒した。そして、魔力弾によって気絶した奴にも止めを刺す。


 村に向かう時に抱いた死の罪悪感はなかった。

 今抱いているのは無力な自分に対する怒りだ。

 殺すことに今はためらいはない。


 魔物を倒して、そのまま西に向かうと再び魔物が現れる。

 それを魔力弾と剣でなぎ倒していく。


 『グラスウルフ』は連携しないようにバラバラに別れさせて、単体で一撃。

 『オークボア』は耐久力が高く、突進スピードが速い魔物だったが、左右に曲がらないのを確認すると、支えている四本の足の内一本を魔力弾でタイミングよく当てて、姿勢を崩して自重で倒れたところに止めを刺していった。

 目の前の魔物を倒すと、再び魔物が現れてきて、今度はそいつらを倒す。

 魔物が現れる頻度がどんどん多くなってきて、倒した数が分からなくなってきた。

 だが、魔物が多いという事は、魔物が現れる地点に近いという事だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そして僕は何度目かの戦闘を終えると、目的の場所にたどり着いた。


「やっぱり、バリケードが壊れている」


 魔物の返り血で汚れた顔を袖でこすりながら注視する。


 バリケードは『オークボア』の突進によるものだろう。木で出来たバリケードは簡単に打ち破られていた。そして、そこから魔物が次々と入ってきている。

 本来は魔物が入らないよう魔道具が設置されていたのだろうが、破られた箇所にはところどころに設置された光る石のようなものが無かった。


「つまり、魔道具の故障ではなく、誰かに盗られたのか?」


 誰がそんなことをする?村の人間ではない。そんなことをしてもデメリットの方が多いはずだ。

 子供が危険性を知らずにいたずらでやった?いや、魔道具の設置場所は子供では届かない高さだ。

 誰がやるんだ?


「いや、それよりはこれをどうにかしないと」


 他の場所は正常に作動しているようだ。だから、この箇所だけ魔物が入れないようにすればいい。


 だが、のんびりDIYをしている暇はない。こうして考えながらも魔物が襲ってきている。


 僕はバレットで魔物を倒していながら考える。


 方法一、何かしらの方法で火をおこして魔物を撤退させる・・・は、周りのバリケードも燃えるだろうから駄目。

 方法二、僕一人でしばらく通せんぼする・・・と、僕がここから動けなくなるし、これから現れる魔物全てを相手するのは流石に無理だろう。

 方法三、深い穴を作って入れないように・・・しても、そんなものをすぐに作れるわけがないし、狼なら簡単に跳び越えてきそうだ。

 駄目だ!こうして考えているうちに魔物が入ってくる!


 起こった出来事、これが何を意味するか考える。そして何が大事かを考え、何を捨てるか決める。

 頭の中で一秒ほど考えて決断する。


 「・・・村は諦める」


 そう言って、僕はバリケードを破壊した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 村の中は悲惨だった。


 月の光だけなので、窓から見える光景は遠くまで見れなかったが、魔物があちこち歩き回り、畑を荒らしている。


 飼っていた家畜も魔物によって食い尽くされて、倉にあった食料も猛烈な勢いで食べられてなくなっていく。


 村の道に安全はない。村の家は魔物しかいない。


 ただし、1ヶ所だけ魔物が近づかない場所がある。


 それは生きている村人全員が避難している冒険者ギルドだった。ここには生き残っている村人82人が固まって恐怖に震えている。


「まさか、こんなことになるとは思わなかった」


 グリルが淡々と、しかし険しい表情で言った。


「グリル様、勝手な判断に怒っているんですか?」


「もっとやりようはあったと思う。でも、判断が間違っていたとも言えない。最悪の事態だけは防いだからな」


 最悪の場合、それは魔物で村人全員が食べられることだろうか?


「そうですね。もっと力があればもっと多くの村人・・・だけじゃなく、村も守れたかもしれません」


「そうかしら?私は最善手だと思うわ。村全体を守るのは四人では無理がある」


「だからって、バリケードにつけてある魔道具をはずしてギルドに取り付けるってのはいかれていると思うがな」


 グリルは微妙な表情をし、サクヤは僕を褒め、ヴァンが僕を貶す。僕たちはギルドの中で外の様子を確認しながら、状況を整理していた。


 グリルとヴァン、そしてもう1人の手によって村人はほぼ全員避難することに成功した。


 ギルド付近にいた魔物もサクヤの冷気の力で一掃し、向かってくる魔物も次々と倒していった。


 僕がやった行為は蜥蜴の尻尾切りみたいなものだ。いや、とある国の巨人対策といった方が分かりやすいか?

 広すぎる村全体の魔物を駆逐するには四人では限度があるし、穴を塞ぐベストな方法も思い付かない。


 だから、村の土地は諦めて、村人を冒険者ギルドに集めてそこに魔物避けの魔道具を設置する。

 そうすることで村人の命を守ることに成功した。

 無論、全員ではない。この騒動で命を落とした人間もいるし、怪我人は大勢いる。食糧もあまりないし、時間に猶予はない。


 だが、生きている。


 生きている。


 生きているだけだが。


「先手をとられた」


 この犯行の犯人と目的、そしてこの状況、考えれば考えるほど思い付いてしまう。そして、これが非常に不味い事態だと分かってくる。


 なのに、僕は未だに相手の顔を見ていない。

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