1章の十九 作戦会議2
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「何故そう言いきれるの?」
「まあ、可能性の話なので確実とは言い切れないですし、説明が長くなりますから推論を先に言う。
領主が行っている洗脳方法は魔人なんかが関わっている可能性が大きいからです」
僕がそう言うとサクヤは目を細めてこちらに鋭い視線を向けた。
「魔族?貴様は何を言っているんだ?」
グリルは突然の単語に理解が追い付いていなかった。
「あ、グリル様には言っていなかったな」
「何故、そう思ったの?」
サクヤが訪ねると僕は説明を始めた。
「今回の領主のやり方はあまりにも回りくどいからです」
「どういうことかしら?」
「違和感はありませんか?領主のやり方には明らかな無駄が生じている」
「・・・無駄?」
「ああ!じれったい!早く答え言ったらどうだ!」
グリルが悩み、ヴァンが苛立って説明を要求するが、簡潔に説明するのは難しい。
「結構複雑なので一つずつ説明していきましょう。
第一の疑問点『孤児院の人間を奴隷にする理由は?』
これについておかしいと思わないのですか?」
「それは俺が説明しただろう」
「ええ、軍力をあげるための駒として使うのですよね」
確かに軍力をあげるために法術を使える子供たちは非常にほしい人材だろう。
「でも、領内で『徴兵制度』を強いているんですよ。いずれは軍力になると分かっているのに何故そんなことをするんです?」
「「・・・あ」」
僕の意見にグリルとサクヤが同時にそう口にした。落ち着いて考えれば思い浮かんでいたことに気づかなかったからだろうか?
「徴兵制度は所属しなくちゃいけない年数が限られているからだろう」
「それまでの時間は何年もある。すぐに奴隷にしなくちゃいけない理由にはならないし、時間をかければ他の方法を思い付く余裕もある」
ヴァンがそういったがすぐに否定した。兵士として働いている最中に制度を変えたりすればいいだけだ。その為にすぐに執り行う必要はない。
ましてや、他の場所で悪影響を与えたり、心象を悪くする方法をする必要はもっとない。
「じゃあ、なんでだ?」
「対象者が違うんです。恐らくですけれど、領主が奴隷にして駒にしたいのは才能のある子供たちではない」
そう言って俺は指を二本開いて、次の疑問点を示した。
「第二の疑問点、『何故メインを村の中に入れなかったのか?』
今まで普通に入れていたはずのメインがなぜ今回追い出されたのか?」
「嫌がらせとか精神的に追い詰めるとかではないのか?」
「今回の事とは関係ないのではないの?」
「いえ、関係あります。突然の法外な値上げは十中八九メインを狙ってのことです。だが、嫌がらせという理由ではない。
誰もが分かるようなこの嫌がらせについて、権力のある人間に報告すれば、領主の立場が悪くなるのは目に見えている。ましてや、もうじき伯爵に上がる領主代行であれば、そのような情報を欲しい人間はうじゃうじゃいるでしょう」
男爵から二段階上がるのは普通ではない。少なくとも回りはよく思わないだろう。そんな人たちが喜ぶようなことをするとは思えない。
「つまり、不利益を被ってまで今回は孤児院の人間を入れるわけにはいかなかったという事?」
サクヤがそう言うと、僕は頷き、左手の指を三本開く。
「そして、第三の疑問点『洗脳の条件』についてです」
「条件?」
「おそらくは洗脳にはいくつかの制限があると思います。おそらくは人数の限界か、能力の限界か、何かしらの制限で簡単にはできないと思います」
「どうしてそう思うの?」
「簡単です。領主の意図がどのような物でも、もし無制限に人を操れるのであれば、グリル様やメイン、孤児院の子供達を操れば良いだけです。それだけで簡単に物事は収集します」
「そうか、それをしないということは何かしらのデメリットがあるということか」
ヴァンがそう言うと僕はこれまでの意見のまとめに入る。
「さて話を戻しましょう。これらの疑問点で導き出される事を一つずつ言ってきます」
まず、言っておきたい事、それは守るべき相手を伝える。
「領主が狙っているのは子供たちではない。メインです。」
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「確かに・・・シスターは徴兵制度の対象者にはなりえない。対象になるのはあくまで男子だからな」
「孤児院の女子を狙っているというのは?女性も法術を扱えるのでしょう?」
グリルが納得し、サクヤが意見してきたが、僕はその問いを否定した。
「恐らくその可能性も低いです。そもそも子供達の実力は子供にしては凄いと言うだけで、大人達と比べれば、ほんの少し強いだけだ。
即戦力としてはそこまで見込みが見られないし、将来性を期待するにしても、すぐに奴隷にする必要はない」
それは訓練を手伝った僕だから知っている。
孤児院の子供達の実力は確かに高いと思う。地球の子供達や、村の子供達より高い身体能力とずば抜けたセンスがある。
だが、それは子供としてはずば抜けているだけで、大人相手ではそこまでない。いや、大人相手でも負けないほどの力はあるし、法術も扱える。
でも、経験がない。色々と考えて入るものの、見通しが甘かったり、予想外の出来事が起きた場合に動揺を隠せなかったりしている。
アレスは力があるが、剣術を学んでいないからか、隙は大きいし、セーラも色々と考えて行動していたりするが、回りの状況や想像力が足りてない。
「だが何故その少女を狙うんだ?彼女にそれだけの価値があるのか?」
「確かに聖法術は傷を癒したりするから丁重に扱われるかもしれないけど、そこまでの価値がないと思うわ」
僕もそれは悩んだことがある。初めは愛玩用かなと思ったが即座に否定した。
いや、確かにメインは可愛いよ。ぶっちゃけ好みのタイプだよ。地球では珍しく綺麗なピンク色の髪をショートヘアーにしているところとか、小柄で簡単に折れそうなくらいに華奢で細く、しかし見た目とは裏腹に、実際は芯はしっかりして引き締まっている手足とか、童顔の小さな顔に大きな目で、右頬に傷痕がついているのにそれが魅力的に感じる顔立ちとか、フィギュアにしたら僕は即座に予約するほどにかわいい。
性格もいい。誰かが何かをやらかしても、すぐに怒らず、原因を追求して同じ過ちをしないように手伝う配慮はすごいと思う。責任感が強く、簡単に弱音をはかないところも好感が持てる。
能力も素晴らしい。家事全般何でも出来る。特に料理は凄い。他人の好みの味を一瞬で見抜き、その人にあった味付けをするのだ。僕が辛い料理が好きだと既に知っていたかのように僕だけにはそういう味付けを最後にするのだ。
戦闘でも一瞬で魔物の弱点を見つけ、正確にそこを突く反応力と器用さはキラリと光るモノがある。
人間の価値として言えば、彼女は上物であることは間違いない。奴隷として欲しいのは分からなくもない。
でも、
だけども、
愛玩用として考えると・・・・あれがな、無いんだよな。
ロケットが無いんだよな。
周りを敵にしても欲しいとまで思うほどではないと思う。
それだけであれば
「恐らく彼女にはチート能力があるんですよ」
「「「『チート』?」」」
聞き慣れない言葉に3人が首をかしげる。
「簡単に言えば反則と思えるほどの絶大な効果という意味です。」
「待て、彼女にそんな能力があるとは聞いたことはないぞ!」
「聞いていなくても、ずっと見てただろ」
「見てた?」
「ちょっと、どういうこと?」
「グリル様、メインが運営している孤児院の子供達は他より優れていると言っていたよな」
「それが・・・」
「偶然か?当たり前か?孤児院にいる全員がそんな才能に溢れている持ち主であることは、先天的に優れている貴族でさえ希少な才能を親から捨てられるような人間が有しているのはあり得るのか?」
別に生まれや環境で全てが決まるわけではない。
だが、遺伝や環境は人生で大きなアドバンテージになる。貴族がこの国で優れていると言われるのはまさにそれだ。優秀な遺伝子を引き継ぎ、優れた環境で成長することができる。ならば、他人より優れるのは偶然ではない。
もっとも、優れた遺伝子と環境を持っていたとしても、本人の性質が悪ければ、価値は低くなるし、親に才能がなくても、子に物凄い才能があるという事もあるから、それが全てと言うわけではない。だが、この場合は別だ。
子供十数人全てが歴史に残るような優れた才能を持つ。しかも、親が貴族というのはあまりないだろう。
そんな確率を偶然で済ませるにはあまりにも小さすぎる。
「その子が・・・そうしているというの?」
「無自覚ではあるでしょうね。そんな能力があると知っていれば、今のような現状に追い込まれることはないでしょう」
そんな能力があることを知っているのであれば、こんなに困難な状況に追い込まれるのはあり得ない。彼女は知識も知恵もある。考えれば打開策はたくさんあっただろう。
「いや、待て、それが事実である証拠はあるのか?」
「証拠はないが、根拠はある。僕は孤児院でお世話になっていた間、自分の力が高まっていることを実感していた」
僕の体は少しずつ成長していた。能力は全体的に三倍以上担っていたし、子供達も普通の子供と比較すれば、同じくらい成長していた。最初は魔力による体の変化と推測したが、これが理由であっても不思議ではない。
「それに、領主はメインと村人との接触を極端に減らそうとしていた。良好な関係を気づけないように色々と謀っていたことも聞き込みで知った」
メインを差別させて、有効な関係を作らないようにしていた。他者と差をつけることは友好関係に亀裂をつける。学校のクラスの人間でもカースト制度というものが暗に広まっていて、大体は同じ位の人間としか築いていないのだから。
「そして、領主が行っている徴兵制度、招集されたのは孤児院の子供より少し上の年頃だ。普通なら戦力になるのに時間がかかる年代だが・・・」
「そうか、もしこの仮説があっているなら辻褄が合う!彼女が本当にそんな力があれば、すぐに戦力を強化することができるし、彼女の能力で集められた人間が法術が使えるようになれば、様々な事に利用できる」
「いや待て!そんなことがあるはずがない!」
グリルは納得したが、ヴァンは僕の意見を否定した。まあ、理由はある程度予測できる。
「そんな話が信じられるわけがないだろう!そんな能力があるなんて聞いたことがない!常識を逸している!そんなことが本当にあるのであれば・・・」
「王都が何もしないわけがない!・・・って言うのか?
だからこそ、領主はメインを今日村に入れなかったんだ」
確かにそちらとしては常軌を逸しているのであるのだろう。それこそ、孤児院の子供達より遥かに非常識な能力だ。
僕もあり得ないと思っていた。
でも、あり得る。知っている。
メイン達が・・・メインが隠している事が可能性を示している。
でもそれは僕がおいそれと言えるものではないし、理解してもらえる程の会話術もない。
だから、それは言わないで説得する。
「村には王都の人間がいる。しかも、王と直接関わりを持つ可能性のある人間だ。この偏狭な村に王都の人間が来るというのは中々無い。だが、今回偶然できてしまった。
もしメインとあなた達が出会い、事情を聞かれでもしたらこの事を王都に知られる可能性がある。そうなれば、メインは他の権力者にも狙われる。
それは領主にとって大きなデメリットになるから、メインを入れなかった。グリル様に弱味を見せてでもな」
「そんな暴論・・・本当にあると思っているのか?」
ヴァンはなかなか納得しない。それなら方向性を変えよう。
「・・・別に実際に無いなら無いで良い。どのみちメインを助けるのに代わりはない。今の推論も一割位の推論ですし」
この推論が誰も正しいとは言っていない。だが、この推論は矛盾していない・・・多分。
つまり、あり得る話の一つ、導ける筋の一つ、決して不可能な理想論ではない。現実に起こりうる可能性がある。
それに仮にこの推論が合っていたところで、だから何?、という話なのだ。向こうに聞いてもらえるように、協力してもらえるように危機感を煽ろうとしたが、失敗したのであればこれ以上の説明はいらないな。
重要な話はここからだ。
「話がそれてしまったけれども、僕がこの騒動に魔人が関連していると思う理由、それは洗脳の方法にある」
「方法?」
「村人から話を聞くに、洗脳された人間は必ず領主の屋敷で行われるらしい」
「それがどうした?」
「何故、領主の屋敷でしか行われないのか?どこでもできるなら他の場所でやればいいのに、わざわざ相手が警戒する場所で行うのか?」
洗脳を行うのは敵を自分の手駒にするため、もしくは信頼できない味方を確実に手駒にするためだろう。
そんな相手に自分のホームに招き入れるのだ。相手が警戒しないわけがない。
「・・・そこでしかできないからということね」
「逆に言えば、屋敷に入れれば確実に手駒にできるという自信があるのだろう。お父様の洗脳はすぐに終わる」
「賄賂という可能性は?」
「それで動いている輩も中にはいるだろうが、大半は洗脳しているのは明らかだ。この村の村長は欲はあまりなく村の人間のことを考える人間だったが、簡単に心変わりした。部屋の中を従者が確認したりしたが、賄賂を受け取った様子も、妻や息子に対して脅されている様子もなかった。ただ、お父様と連絡がとれるように通信魔道具を所持していたそうだ」
グリルが新たな情報を提供し、確信へと近づく。そういうことは予め言って欲しかったよ。
「相手を『魅了』状態にかけるのであれば方法は主に二つあります。
一つ目は法術や大がかりな仕掛けを使って状態異常にかける。
二つ目は『魅了』の状態異常にかかる魔道具を取り付ける。
だが、領主の屋敷でしか行われないという前提であれば、二つ目は違うでしょう」
道具であるのなら、わざわざ屋敷内で行う必要はない。それに、常に身に付けていれば、流石に周りから違和感を持つだろう。
「だが、法術をかけるにしても普通の人間では無理がある!
ましてや高ランクの法術士ですら何日、何十日もかけるのは出来ない」
「人間なら・・・それじゃ、魔人なら?」
「!」
「魔人とは決まっていないが、例えば屋敷の中に何日も洗脳できる大がかりな装置があれば?公に出せない代物があれば?
今のところで現実的な方法なら、離れていても定期的に連絡がとれる魔道具があれば、何日置きにかけ続ければ可能かと思う」
僕の意見にヴァンが黙る。
「領主の屋敷でしか出来ないということは、おいそれと証拠を動かすことが出来ない。推測が全部合っていなくても、あながち間違っていないと思うのだが」
「・・・確かにそう考えれば行く価値はあるわね」
僕が説明を終えるとサクヤは頷いてしばらく考え込んだ。この問題に対してどういう行動をとればいいのか迷っているのだろう。しばらく思い空気が流れた。
そして・・・
「ヴァン、貴方はこの事をすぐ上に報告して。私は彼について行くから」




