序章の三 都市伝説と怪しい奴ら
「・・・これでいくか」
歩きながら、一つだけ作戦を思いつく。この作戦はひどい傷を負うことになる。主に精神的に。
しかも、周囲の目線も決していい方向にはいかないだろう。だけど、この緊急事態だとそれぐらいしか思い浮かばない。
「・・・あ?てめえ、誰だよ?」
不良3が僕に気付いて睨みを効かせる。もう後戻りはできない。
「あら、やあねえ、目の前に盛っている男がいたからつい近づいたじゃない」
僕は高い声でonesamaを演じてそう言った。その言葉にリア充やビッチ、周りの人が唖然した。
「な、なんだよ、こいつ!」
不良4が気味悪がってそう言うのを無視して、僕は一番強そうな不良1に向かう。
「ねえ、その子も嫌がっているみたいだし、良ければ私と遊ばない?童貞さん」
「っ!この!」
男は僕の肩を掴み殴りかかろうとした。隙の少ない良いパンチだったが、僕は顔を前に出して額に当てた。
僕もめちゃくちゃ痛いが、あちらも拳を痛めただろう。
僕は彼が痛みでひるんでいる隙に寄り添い、股間に手を当てた。
「でーも、私は童貞なんかよりもー、もっと欲しいのがあるの!きゃ!」
僕はそう言って手を股間の奥に出す。そうすると不良1の顔はものすごく青ざめていた。何を察したのかは言いたくない。
よし、仕上げだ。
「それは・・・あ・な・た・の・しょ「うわあああああああああああ!!!!!」」
僕が耳元でそう言うと彼は僕を突き飛ばし、体勢を崩して倒れこむ。やっぱりこれって効果あるよね。以前もすごいダメージを受けた。相手も、僕も。
「ひっ!だ、だれ・・・」
不良1は仲間に助けを求めたのだろう、だが、残念だ。彼の仲間は僕たちの近くには誰もいない。仲間を売るのが早いな。
不良1はそれに気づくとすぐに別の車両へと逃げ出した。おそらく、次の停留駅で降りるのだろう。
「・・・ふう、なんとかなった」
爽やかな顔でそう呟いて僕は振り向いた。
目の前に写った光景は、とても冷たい目で見る僕への視線だった。
リア充も、ビッチも、汚れている服を着ているおっさんも、小さな子供の目を手で隠している奥様も僕から距離を置いていた。
というより、ビッチは携帯電話をこっちに向けていた。動画でも撮ってたのか?おい、SNSには絶対載せるなよ!絶対に!
「あ、その、みなさん、気にしないでください。あれは、演技ですから」
僕がそういうと、一部の人間はホッとした顔をする。何で一部?いや、流れ的にわかるっしょ!
「あ、あの・・・その・・・ありがとう・・・ございます」
目の前にいる意外美人は申し訳なさそうに感謝の言葉を僕に言った。
でも、目を合わさないのはちょっといただけない。『関わりたくない』オーラをビンビン流しているが、俺を巻き込んだのはおまえのせいだからな!
「あ、その、助かった。俺じゃ止められなかったから・・・その、ごめんな」
僕が意外美人にお礼を言われた後、リア充とビッチが僕に寄って来た。何で謝るんですか?感謝されこそされど、謝らせるようなことはしたつもりじゃないのですが・・・ヤバい、泣きたくなってきた。
「あ、俺は二見 秋晴って言うんだ。専門学生の一年だ。
隣の彼女は天地 美晴、僕の一つ上の先輩」
「面白かったわよ、今の奴」
リア充もとい、二見はそう言って隣のビ・・天地さんを紹介した。
彼女は良い顔をしてそう言っているが、僕に視線を向けず、携帯をいじっている。
「美晴さん、携帯を弄らないでくださいよ」
「もうちょっと待って、ねえ、君の名前は?SNSに情報を載せるから」
「美晴さん!駄目だよ!あ、君は名前を言わなくていいから!」
「・・・いえ、自己紹介ぐらいはします。僕の名前は深山 和志と申します。
投稿はやめていただきたいです」
「もちろん冗談に決まっているわよ。流石に私もそこまで鬼ではないわ。そう、深山君ね。じゃあミヤっちね。」
え、ミヤっち?いきなりあだ名?なにこの人?なに他人のATフィールドにずかずか入ってくるの?
「あの、僕に何か用でも?」
「あ、いや、俺たちは君にただお礼を言いたくてさ・・・と思っていたんだけど、良ければ君とそこにいる彼女にいくつか聞きたいことがあってね」
「え、私ですか?」
後ろにいる意外美人は少し驚きを表していた。
「うん、えっと、もしよろしければお名前を聞いてもいいかな?」
「・・・倉敷 明日香です」
「明日香ちゃんか・・・いい名前だね」
「あ、ありがとうございます」
・・・なんか、面白くないな。
リア充が、キラキラした顔で誘惑しているところとか、それを見て目がキラキラしている意外美人とか。あのね、助けたの僕だから!僕!
これだから今時の若者はおかしいよ!・・・あ!僕も若者だった!
「でさ、聞きたいことだけど・・・君達も新世界に行くつもりなの?」
「・・・・え」
意外美人が驚いて返事をすると、リア充は納得した顔で「やっぱりか」と言った。
「明日香ちゃんって俺の家の近くにある中学校の制服を着ているけど、なんでそんな服装でこの電車に乗っているのかなって思ってさ」
「・・・あなたは何か知っているんですか?」
彼女ではなく僕がそういった。当の彼女は僕の言葉についていけず、僕とリア充に向けて交互に視線を動かしている。
「やっぱり君もだったんだ。高校生みたいだけど、不良には見えなかったし、もしかしたらそうなんじゃないかなって思ったんだ」
「一応聞きますが、新世界って言うのはあなたの創造した電波な世界ではないんですよね」
「馬鹿じゃないの?あ、馬鹿なのね。フタっちがそんなことをいう訳ないじゃん。新世界っていうのは・・・こことは別の世界ってことよ」
・・・ビッチ、うぜえ。イラッてくる口調で言うな!
「・・・もしかして君も行方不明の子を探したりしているのかい?」
だが、リア充の言葉に僕は意識を切り替えた。。
「えっと、何の話をしているのですか?」
「・・・明日香ちゃん、君は今、白い結晶のような石を持っていない?」
「え、何で・・・はい」
「俺の友人はその結晶を持っていたんだ。それを持って丸々駅に向かうと言ってから行方不明になったんだ」
「・・・それは本当なんですか?」
「ああ」「そうよ」
リア充とビッチの二人がそう返事した。
僕はその言葉を聞いて、三島の行方不明に関連していると改めて確信した。
「二見さん、僕の・・・友人もそれが関係しているとは断定できませんが、それらしい事は言っていました。そして、その彼女も行方不明なんです」
「本当か!・・・あっ、ごめん」
リア充は嬉しそうに言うと、すぐに自分の失言に気付き、謝る。他人の不幸を喜ぶのは不味いと思ったのだろう。
「いえ、気にしないでください。僕も彼女の手がかりが掴めそうで喜んでいますから。ただ、僕は彼女の行方を知りたい。ですので、色々と情報を共有しませんか?」
「情報の共有?俺は何を言えばいいんだ?」
「あなたの友人がいなくなる前に行った行動や、言動を教えていただければ、僕もできる限りの情報を伝えたいと思います」
「わかった。それなら、目的地に到着するまでに済まそう。明日香ちゃんも良ければ聞いてくれないかな?」
「え、あ、はい、わかりました。え?」
意外美人は突然起きた出来事にまだ整理ができないまま、僕たちの話を聞くことになった。
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その人の名前は藤村 勇気という名前だったらしい。リア充の友人で高校の時からビッチと三人で過ごしていたらしい。
彼は外見的な特徴はあまりなかったが、最近の流行ネタやファッション、エンタメに聡く、常に面白い話題を振っていたため、クラスの人気者だった。
そんな彼が突然いなくなる前日、二人は彼にあるものを見せつけられていた。
「なにそれ?」
「・・・高価な鉱石なのか?」
「いや、高価かはどうかは分からない。たださ、特別な伝手で入手した裏世界では伝説を呼んでいる石だ。」
「裏世界ってまたネット?いい加減にしとかないとオタクになるわよ」
「いや、ネットでも表層で引っかかるような単純なものではない。都市伝説級のものだよ」
「うわ、フジムーがオタクになった!」
ビッチの変な偏見はさておき、リア充はその石の中身が気になった。
「それで、その石はどんな噂の石なんだ」
「異世界転移」
「「は?」」
「異世界だよ、社会で、世界で孤立している人間に対してこの石が送られて、丸々駅で願えば新しい世界へ行けるといわれる曰くの石だ」
「・・・大丈夫フジムー?あんたは面白いものでも電波なことを言わないと思ったけど。というか冗談でも面白くないし、超シラケてるし」
「落ち着けよ、勇気の話は終わっていないよ」
興味がなくなり話を聞き流そうとしたビッチと引き続き話を聞こうとするリア充に彼は話をつづけた。
「俺も、信じてはいなかった。だけど、丸々駅では色々と不思議な噂が多いんだ。まあ、半分以上は根も葉もない噂なんだが、ある二つの噂が段違いに有名なんだ」
「・・・なんだ?その噂は?」
「丸々駅で待っていると何者かに拐われるという事件性の噂と、怪しい姿をした人が丸々駅に現れるという噂だ」
「・・・まさか、それとこの石が?」
「この石には特殊なGPS装置がついていて、これを持って丸々駅に行くと、その石を持った人がさらわれるという説がある。石を持ってくる人間は社交性の低い人間が多いから社会に大きな影響を与えないから騒ぎになりにくいし」
「うわー、ドラマの見過ぎじゃない?」
「でも、その話が本当なら、それは危ないんじゃないか?」
「だからこそ、面白いんじゃないか。誰が、なぜ、どこに攫われたのか?この石の本当の意味は?どうやって選出しているのか?本当に新世界に行けるのか?
これを究明したいんだよ。警察を利用してでも、噂の真実を見てみたいんだ」
「・・・まさか、俺たちに手伝いを求めているのか?」
「いやよ、そんな変な話に関わるとか!」
「まあまあ、手伝うというよりはお願いがあるんだ。俺のベルトにはGPS機能のついた小型発信器をつけている。明日、丸々駅に向かうから、その後の情報を確認してほしいんだ」
「確認?・・・何をする気なんだ?」
「わざとさらわれてみようかなってさ」
藤村勇気は笑顔でそう言った。