1章の十八 作戦会議1
僕はサクヤとヴァンを連れて、目的の場所まで向かっていた。
日が暮れた頃についた場所は村に唯一ある酒場だった。
「はい、いらっしゃい!ご注文は!」
一人の店員が入った瞬間に注文を聞いてきた。
席にも案内されずにすぐに注文されたのであれば、普通なら動揺するかもしれないが、事情を知っている僕はすぐに答えた。
「ピッグボアの燻製、ゴルドオレンジのカクテル」
メモの暗号は簡単に解読できた。母音を弄っているだけのは簡単な暗号だったからな。
「・・・了解しました!どうぞこちらへ!」
店員は僕の返答に対して一瞬反応したが、すぐに笑みを浮かべて案内する。
案内された場所は酒場の奥の席で、そこはこじんまりした建物に似合わない綺麗で豪華な部屋だった。
そして、その部屋の奥には一人の人物が黄色いジュースを飲みながら座っていた。
「お、来たか・・・っと、後ろの奴らは?」
グリルが僕に気付き、その後ろにいる二人の人物を見て警戒した。
「王都の騎士学校の生徒らしい」
僕がそう言うとグリルは、二人をじっと見て鑑定する。
「ふーん・・・手伝わせるつもりなのか?」
「いや、僕としては事情を把握してもらえればそれでいい」
「戦力にするつもりはないと・・・」
「目的自体は違うからな。でも、邪魔をしないでもらえるように理解してもらった方がいいだろう」
「理解ね・・・」
僕の考えに悟ったのかグリルは納得をしたような表情を表した。
今回の出来事はどう考えても面倒くさい案件になる。すると、力を持つ第三者が近くにいた場合、僕たちに対して制止したり、邪魔したりする可能性が高い。
だからこそ、こうしてあらかじめ説明して対応してもらう必要があるのだ。ついでだから手伝ってもらえればいいが、それはあの推測が確定にならないといけない。
仮に推測が違ったら諦めるしかないだろう。
「まあ、別にいいだろう。貴様が俺の邪魔をするとは思えないしな」
そう言うとグリルは席を立って、右手を胸に当ててお辞儀をした。
「はじめまして、私はグリル・モワール
領地アマル領の領主であるポワレ・モワールの息子だ」
その挨拶につられて後ろの二人が挨拶を返した。
「は、グリル様、私はサクヤ・フローズンと申します。隣にいる者はヴァン・ガーディルです」
「ヴァン・ガーディルと申します。本日はご一緒の席にお招きいただき誠に・・・」
「いや、君たちの堅苦しい挨拶は結構だ。俺が招いたわけでもないしな。とりあえず座ってくれ」
そう言って、席に座るように手のひらを椅子に向けると、グリルの向かいに僕が、左右にサクヤとヴァンが座った。
「さて、本題に入る前に・・・貴様は村の中の様子を見てどうだった?」
「疑問に思うことだらけだ。領主の意図が全く掴めないところもあるから、知っていることだけでも知りたい」
あと、お前がメインの婚約者だと言いふらしていることも知りたい。名誉毀損罪で訴えられるレベルだぞ。
「いいだろう何でも聞くがいい・・・と言いたいところだが、生憎、お父様の明確な意図は俺にも分からない」
「領主の息子なら、引き継ぐために色々と教えられたりすると思うんだけどな・・・」
「基本的なやり取りについてはな・・・この案件については全く触れさせてもらっていない。それどころか余計なことをしないように監視されている始末だ」
僕の問いにグリルが残念そうに答える。
「まあ、今聞きたいのは領主の意図ではない。お前の情報の確認だ」
「何?」
「もう一度聞きたい。グリル様は昨日、『領主は孤児院の子供を奴隷にして利用しようと企んでいる』と言っていたよな。間違いないのか?」
「今更何を・・・?」
「答えてくれ」
グリルがなんの意味があるのか勘ぐっているが、僕の真剣な問いに正直に答えてくれた。
「・・・ああ、間違いない・・・と思う」
「思う?情報の根拠は?」
「お父様は領主代行を務めるようになってから、領内の軍事力を上げる政策をとるようになっている。
そして、お父様は領主代行になる前から、孤児院の子供たちの能力に目を付けていた。だからそう推測してもおかしくないし、実際にあの孤児院に圧力をかけているのは事実だ」
「・・・なるほど、そういう事か」
「質問はそれだけか?」
「いや、もう一つ、グリル様は領主様が洗脳を行っていると何故気づいたのは」
「貴様も色々と聞いていたのであれば、村の村長の様子を見ただろう。明らかに意思をもった人間の目ではなかった。
村長だけではない。お父様が呼び出した人間はお父様と二人きりになった途端に様子が変わる。どのような方法で洗脳しているかはわからない。
いや、洗脳と言っているが、あの様子を見る限り、正確には『魅了』の状態異常にかかっているんだろう。だが、何日も継続し続ける『魅了』など聞いたことがない」
どうやらグリルも僕と同じ意見らしい。だが、それだとまた別の疑問が浮き出てくる。
「・・・それは僕もわかった。だが、村人たちは気づいていないのか?」
「おかしいことに気づいている人間は何人かいるだろうし、お父様が何かしたと感ずいている人物も一人二人はいるだろう。
だが、洗脳・・・『魅了』に掛かっているとまでは思っていないはずだ」
「何故だ?」
「こう言ってはなんだが、本来ならこの話を信じているお前がおかしいのだ。上位の状態異常は普通ではまずかからない。
呪法術を取得している人間でも上位の状態異常をかけることが出来る人間はこの国では指の数より少ないだろう。ましてやずっとかけ続けるのは不可能だ」
僕が王都の二人に確認をとるような目で見ると、『今さら?』という不審な目で見られた。この情報は間違いないのだろう。
「でも、グリル様はそう思っている」
「・・・以前『魅了』状態にかかって洗脳された人間を実際に見たことがある。その症状は今と全く同じだった。信じられないが・・・信じないといけないのだろう」
「・・・分かった。質問は以上だ」
「何か分かったのか?」
「全てではないけど、大体はな」
信用しているわけではないが、グリルの言っていることに嘘はないだろう。
「ただ、グリル様の策に関係あるかは分からない。先に本題に言ってもらっても良いか?」
「・・・分かった」
そう言ってグリルは懐から一通の手紙を取り出した。
「これは?」
「二日後に地方領主で行われる催しの招待状だ。お父様は必ずこの催しに出るだろう」
つまり・・・そういうことか。一応何をするつもりか推測できたが聞いてみる。
「その日に何をするんだ?」
「その間に貴様が屋敷に侵入して証拠を掴む」
やはりと思いつつ、「あれ?」っと思ってしまった。
「僕が侵入するのか?」
「ああ」
マジっすか、マジっすか!グリル様はチョーパネーッス!
何で雑な作戦なんだろう。いや、分からないことは聞けと言うパターンか?とりあえず、これだけの説明で動けるわけがない。
「そもそもグリル様に監視をつけるくらい警戒している時に易々と領主が行くものか?」
普通なら行かない。こんな簡単に絶好の機会を与える人間だったら、すでにメインやグリルが何とか対策を打って解決しているはずだ。
「行かなくてはならないのだ。侯爵である地方領主の誘いを断ったり、無視したりすれば、どうなるかぐらい貴族なら誰でもわかる」
「・・・『ヘルプ』サントリア 爵位 土地」
『サントリア王国の封建制度』
サントリア王国は二つの土地に分けられる。
一つは王が直接管理をしていて、中心部に存在し、人口が最も多い中央領土
もう一つはその回りを取り囲む広大な土地を、王が与える爵位をもった貴族が管理する地方領土とある。
地方領土は四つの地域に分かれており、それぞれの地域の中心地を管理するのが公爵、侯爵の位を持つ貴族となる。
それぞれの地域の中から更に土地を細分化して、爵位を持つ貴族が管理をしていく。その際に、爵位が大きい貴族ほど、裕福な土地を与えられる。
公爵や侯爵は地方領土の中でも王都に引けをとらない大きく裕福な土地をもらい、
伯爵であれば複数の町を管理できるほどに、
子爵であれば大きな町ひとつ、男爵であれば小さな町一つ位の土地を管理することができる。
僕は『ヘルプ』の説明を見て大体納得した。
要は中央領土が日本でいう関東、王都を東⚪とするなら、地方領土は九州や北海道のことで、侯爵が福〇で伯爵が〇本を納めているみたいなところか。で、子爵や男爵は市町村位の規模で納めていると・・・
「因みにモワール家の爵位は?やはり伯爵なのか?」
「いや、領主代理だから現時点では男爵だ。本来なら、小さな村一つを管理する程度の権威しかない。
もっとも、二日後には伯爵になっているかもしれないがな」
「あー、だから必ず催しに行くと言い切れるわけだな」
伯爵になる・・・ということは正式に領主になる手続きみたいなものが行われるということか。
「警戒心の高いお父様のことだから、警備は厳重にしていると思うが、もはや好機はそこしかない」
「グリル様は向かわなくても良いのか?」
「お父様は俺ではなく、弟を連れていくだろう。俺が問題を起こさないように懸念してな」
「だったらお前が直に調べる方法が最も確実だろう。屋敷の配置や構造をよく知っている人物だろ?」
「俺が行動すればどう考えても感づかれて妨害を受ける。だから、俺が陽動して注意を向ける間にお前が気づかれないように侵入するのだ」
だとしても、他に土地勘が優れている人間に任せた方がいいと思う。と思ってたが、あることに疑問を思っていた。
「・・・信頼できる部下はいないのか?」
「いるにはいるが、彼らは街中の情報収集に専念してもらっている。戦闘に関してはからっきしだし、身分も高いというわけではないから、屋敷の中に入ったことすらない。
今回の作戦では不向きな人物だ」
「その人達は今、何をしている?」
「街中や他の村で何か動きがあったら報告するように指示している」
情報収集ということか。それなら隠密行動とか適任では・・・いや、漫画の読みすぎか。情報を集めると言っても、身分がはっきりと分かる村人とかその程度の人材かもしれない。
領主が洗脳できる今、有能な人間はいないのだろう。だが、どうしても理解できないことがある。
「・・・どうして作戦の肝に僕を使う?」
作戦の成功が高いか低いかは分からないが、僕がすべてを左右する役割に任される。グリルの事を完全に信用していない。同時に、グリルだって僕の事を信頼するとは思えない。
少なくとも、こんな役割を任せるほど築いていない。
「貴様を信頼しているし、信用しているからだ」
しかし、グリルはそれだけを口にした。
「どこの馬の骨かもわからない人物をか?ギルバート何かに頼んだ方がマシだと思うが?」
「あのメインの周りを彷徨いていた冒険者か・・・奴は駄目だ。獣人はあそこでは目立ちすぎるし、何より俺は奴を信用していない」
信用していないか・・・
「・・・一つ良いかしら?」
僕たちの会議に割って入ったのはサクヤだった。
「フローズン殿、何か意見でもあるのか?」
「領主が証拠を屋敷に置いていくとは限らないと思うのだけれど」
サクヤがそう言うとグリルは眉を潜める。
「どういうことだ?」
「だってそうでしょ?話を聞く限り、貴方が敵対すると分かっているのであれば、領主はそれをおいそれと分かるような証拠を置いていくとは限らないわ」
「!」
どうやらグリルはその事について懸念していなかったみたいだ。
「そ、それはそうかも知れないが・・・」
グリルが戸惑っているが、既にその事で僕は自己完結している。
「可能性はあるよ」




