1章の十五 現代チートとガチチート
少し長めです。
僕は冒険者ギルドへ戻っていた。
あれから色々と訪ねて、色々と話を聞いていた。
今までの話の確証を得るためと、新しい手がかりを掴むためにだ。
とりあえずエミリさんが言っていたことは大方間違っていなかった。
物事の見方や思考の違い等で内容の評価が少し違っていた者もいたが、事実関連に殆どの誤差はなかった。
徴兵制度に、職業の選択や様々な自由や権利の剥奪など、やりたい放題ともいえるような蛮行だった。
正直言って、領主の方針には違和感があった。違和感しかなかったが・・・その違和感を調べるためにグリルには色々と聞きたいことがあるが・・・
「聞きに行く場所が全然分からない」
メモについて色々訪ねてみたが全滅だった。
というより、村人の殆どの人が文字を読めずにいたのだ。
この世界の識字率は異世界常識と同じなようで低いらしい。
訪ねた人全員に確認したが、誰一人読めなかった。
村長は読めたかもしれないが、アレに訪ねるのは・・・ねえ。
どうするかね・・・と思い、とりあえずギルドマスターにお願いしようとした。
「何を書いているのかさっぱりわからん」
駄目だった。
「単語は間違いだらけで、文章もおかしい。最初から全然意味が分からない。
『しきびほうっと ぷっげばいなけわそう がれだあろわずなきけとれんちなも』ってふざけているのか?」
どうやら文字は読めるようだが、予想通り何かの暗号だった。
僕は今の発音を頭にいれて、メモに追記する。ローマ字みたいに母音と子音が別れている文字みたいなのでどの文字がどの発音になるかは分かりやすかった。
言葉さえわかれば解読は可能だろう。誰にもわからないような暗号を作るのであれば暗号の意味がない。
それに、今のうちに言語を本格的に覚えないといけないかもしれない。
今後も異世界言語能力が通用しないことがあるだろうから、能力なしでも理解できるようにしていきたい。
「分かりました。ありがとうございます」
僕はお礼を言って再びギルドを見回した。
小説等を読んで、冒険者ギルドはもっと汗臭い場所を想像していたが、少しボロいだけで、何処にでもありそうな小綺麗で整った酒場と変わりはなかった。
「で、どうするんだ?何かクエストを受けるか?」
「いえ、この後用事があるので」
時間に余裕がなく、武具や防具も買っていないのになぜクエストをこなさなくてはいけないのだ?
いや、労働系のクエストならこの格好でも出来るか。
「まあ、依頼なんざ、殆どがないけどな。
常時募集している『外の魔物を10体討伐』くらいしか残っていないな。因みに報酬は4百ディルだ」
ずいぶんとアバウトなクエストだった。どうやって達成報告すればいいのだろう?
あと、安い!
いや、相場が分からないから知らないけど、魔物を倒すのは結構命がけなのに本来の村の入場料で4分の1もとられる。出入りで2回だから半分だ。
と、魔物の討伐と聞いて思い出した。村の様子を見て気になっていたことがあった。
「魔物が村を襲ったりとかしないんですか?」
「あるわけねえだろ。村の入り口は門番が守っているし、バリケードは木で出来ているが、魔物避けの魔道具が設置してあるんだ。どこだってそうだろ」
「え、あ、ああ。そうですね。魔物が襲ってこないのは故郷でもそうでしたけど、なぜ襲わないのかなって、ふと思っちゃって・・・」
孤児院でも襲われることはなかったので、外にいる魔物はあまりいないのかなと思ったが、ここに来るまでに何度も襲われた。
孤児院も同じように魔物避けの魔道具を設置していたのかも知れない。
でもそれなら、魔物を討伐する理由はこうだろう。
「じゃあ魔物を討伐するのは、魔石が成長して魔物が凶暴になる前に、討伐して未然に防ぐためですか?」
念のために確認という形で聞いてみる。
定期的に狩るのは魔石が成長して凶暴な魔物を生まないためだ。
放っておけば魔石は空気中に含まれる『魔素』というもので大きくなるからな。
「魔石が成長?
人の住む場所から遠ざかるほど危険な魔物が棲息しているけど、そんな話は聴いたことがないぞ?」
「え・・・あれ?」
・・・ちょっと!女神様?『ヘルプ』で出てくるのは最低限の知識でしたよね?
ギルドマスターが知らないだけのですか?それともあなたの知識が間違っているのですか?
「冒険者とはいえ少しはまともな学を学んだ方がいい。無知や間違った知識は死を呼び寄せるって言うからな」
どうやら僕は無知で間違った知識を有した冒険者みたいだ。
「・・・そうですね。ご忠告ありがとうございます」
だが、確かに冒険者として生きていく気はないが、異世界でしばらく過ごすのであれば、何かと知らないといけない。
『ヘルプ』がもし、もう少し分かりやすい設定なら、安心できるけどな。
そんなことを考えながらカウンターの机に頭を寝かせていると、視界にある光景が写った。
「・・・私の負けです」
「おいおい、大丈夫かよお嬢さん。結構負けているけど大丈夫なの?」
ロープを着ている男女のペアが複数の冒険者とテーブルでカードゲームをしていた。
見た目的に多分ポーカーみたいな賭け事なのだろう。
「おい、サクヤ!もうよそう!こいつらの話を真に受けるな!」
男の方がゲームに参加している女を止める。多分護衛だな。腰の位置が一定の位置まで下がっている。何かあればすぐに行動できるためにだろう。
「いいえ、手がかりが手に入るかもしれません!大丈夫、次は絶対に負けません!」
しかし、女の方は止まりそうになかった。慌てているのか、焦っているのか、どうにも冷静さが欠けている。カードとにらめっこしても何にもならないのに。
事情を察するに、何やら情報を賭けて冒険者と勝負しているのだろうが・・・それにしても、彼女は弱いな。いや、弱いと言うかチョロいな。
「ねえ、マスターさん、あれはいいのか?」
「別に銭を賭ける奴なんかゴマンといるからな。いちいち注意なんかしねえよ」
「そうじゃなくて・・・あんなあからさまなイカサマを無視していいのか?」
「・・・そんなに気になるなら、輪の中に入ればいいだろ。揉め事になっても助けないがな」
どうやらギルドのマスターは大事にならない限りは無視するスタンスのようだ。
学校の先生にもこういうのはいたな。自分の保身のために責任を取りたくない人物だ。
まあ、別にそれが問題というわけではない。誰がどう行動しようがその人の自由だし、僕も別に関わる理由もないし・・・
「あれは?」
カモになっている女性の方に注目する。
ロープからでも分かる程に無駄にはみ出しており、多くの男性陣から注目の的になっている大きな胸!
彼女が少し動くたびにプルンと小刻みに揺れる柔らかそうな巨乳!
にもかかわらず、綺麗な形で崩れてない美しい胸が・・・
僕は自分の左頬を殴って平然を保つ。
落ち着け!別だ別!あとで見ればいいだろ!(駄目!)
僕は彼女の隣の椅子に置いてある物に注目した。
ロープごしにくっきりと浮き出ている魅力的な太股がすらりと長い足にフィットしている!
しかも脂肪ではない。筋肉だ!
土俵がしっかりとしているからこそ、あの魅力的な脚を作り出してい・・・
今度は右頬を裏拳で殴って平然を保つ。
ヤバイ!これ以上殴れば意識が飛ぶ!くそ!何て魅力的な肢体なんだ!
僕が目についたのは赤いリュック、しかも異世界では絶対に見ないであろうデザイン。と言うより地球でのデザイン。まあ、デザインはどうでもいいか。
見間違うことはない。あれは僕のバックである。
シンプルなデザインだが、機能的なあのバッグが異世界で同じようにあると思えない。
「悪いね!お嬢さんの負けだ!」
「!!!」
彼女は再び負けて、頭を抱え込みながら混乱していた。男の方も落胆する。
いや、イカサマされているし、負けて当然なんだけど。
・・・本来なら、ここは無視する所である、イカサマを見抜けない彼女が悪い。
それがここでのルールなのだろう。
だが、彼女の所有物に俺のリュックがあるのなら話は別だ。
あれには確か金貨が入っているはずだ。
今回の作戦の方針では必要ないのだが、僕の所有物が勝手に第三者に渡るのもどうかと思う。他の機会で使う事があるだろうし。
だから、しかたない、ああ、しかたない。
ここは自分のために彼女の加勢をしよう。
そう結論付いて、僕は席を立ち上がり、名前も知らない彼女のもとへ向かう。
「じゃあ、チップを頂くぜ・・・って何だよ?」
僕がテーブルに近づくと冒険者の一人がいかつい顔で睨んできた。
イカサマをばらしたら殺すぞ!と脅している目だった。いやだな、言いませんよ。今は
「ああ、別に気にしなくていいです。用事があるのはそちらの方だから・・・」
「・・・何かしら?」
僕が彼女の方に近づくと、苛立ちを隠さずに僕に睨んできた。
機嫌が悪いから、ふざけたことをしたら殺すという目だった。
誰か!誰か味方はいませんか!僕を助けてください!
「なあ、おい、今は良いところだからさ、邪魔しないでくれよ!」
「そっちのお嬢さんだって、まだやる気みたいだしな」
「嬢さん、金がないなら服をかけてもいいぜ?」
・・・もう少し様子を見ようかな?いや、服が脱げるところが見たいわけではないよ?
イカサマをね?もう一度だけ確認しようと思っただけだよ?
「・・・すみません、これを借りてもいいですか?」
悩んだ末、僕は赤いリュックから荷物を取りだし、スマホと充電器を取り出した。
「いきなり何を・・・え?」
彼女は驚きを隠せていない。充電器を接続してスマホに電源をつけると画面が光ったからだろう。
よかった。使えないかと思った。
水没で駄目になったかもと思ったが、あの時にビニール袋の中に入れておいたのがよかったかもしれない。
赤いリュックをすぐにダミーとして使うための仕掛けだったが、別の意味で役に立った。
「使っても?」
「え、ええ、何するつもり?」
僕が確認すると、彼女が驚きながらも了承した。まあ、僕のだから確認する必要はないのだけどな。
「ああ、気にしないでください。続きをどうぞ」
僕がそう言って、カメラのアプリを起動させる。左手だけだと操作しづらかったが、何とか成功した。
向こうも僕を気にしながらもゲームを再開する。
「おい、何を・・・」
「これを持ってそのまま動かないで」
「・・・は?」
「いいから」
付き添いの男が何かを言おうとしていたが、有無を言わさずスマホを持たせて固定するように指示した。
「なあ、気が散るんだよ!変なことはやめてもらおうか?」
勝負をしている冒険者がそう言ってきた。まあ、何かしらしているのは明らかだから注意するのは分かるが、その言い方でいいのか?
「別にいいですが、それならあなたの後ろにいる人も同じ理由で外れてもらいますがよろしいですか?」
「チッ!・・・三枚変えるぜ!」
僕がニコリというと冒険者は渋った。まあ、そりゃそうだ。その人たちはイカサマの共犯者なのだから。
そして、冒険者は堂々とイカサマを行った。
僕はそれを口にしなかった。距離が遠いから、イカサマの瞬間を押さえることができないし、イカサマを行った後では追求しても意味がない。
どうやら決着がつきそうだ。
「さあ、どうする?お嬢さん?」
男はニヤニヤと挑発している。勝利を確信したような顔だ。
「く・・・コ、コール!」
「残念!また俺の勝ちだ!弱いねぇ」
そう言って、男はテーブルに置いているお金を取ろうとして・・・
「あの・・・待ってください」
僕が待ったをかけた。
「・・・おい、何を言いやがる?待てだ?
おい、坊主、賭けで負けてやっぱやめたはねえんだよ。
そんなもんは筋が通らねえ。違うか?」
そう言って、後ろにいた冒険者の一人が、ナイフを僕の腹に当ててきた。
「もう一度だけ聞いてやる。なんて言った?」
「いや、筋を通す。良い言葉ですね。
ただ・・・ズルはだめだろ」
俺はそう言って、後ろにいる人間に対して魔力弾でナイフを掴んでいた手に当てて、衝撃でナイフを落とさせて、腹を殴る。
「ぐふ!」
悶絶している間にその男のポケットに手を入れると、中に入っていたカードを取り出した。
「カードのすり替えをしていた。それに対して筋は通るのか?」
「あ・・・」
女の方はやっと自分が負けた理由に気付いたようだ。テーブルの下では簡単にカードのやり替えが行っていたのに全然気づいていなかった。まあ、気づかれないように色々とテクニックをやっていたようだが・・・
「あれれ?テーブルに置いてある山札には後ろにいた男のポケットに入っていたカードがないぞ?
可笑しいなー?」
どこぞの子供探偵の真似をして犯人を追い詰めていく。すると、犯人はニヤッと笑う。
「・・・これが何だ?これで俺がイカサマをした証拠になるのか?偶然だろ?
ああ、そうか、こいつがうっかりして山札に入れ忘れをしていたんだな」
明らかな嘘を平然と言ってのけるが・・・とどめにアレを見せよう。
「よし、もういいぞ。ありがとう」
「はあ?」
護衛の男からスマホを奪い取ると、操作して、先ほど撮影した動画を映す。
「な、何だこれ?」
「俺たちが小さい画面にいる!」
「これは起きた出来事をそのまま映し出す魔道具『スマホ』だ。
それで、ここに写っている映像には・・・」
冒険者たちがイカサマをしている動画が確かにあった。一瞬だけだが、確かに行っているところを確認することができた。
「完全な証拠がここにある・・・っという訳でだ。筋を通すなら、イカサマを行ったあんたらの負けだ。
そこのお金は返してもらう」
「お、おい、いい加減にしろよ!そんなものが何だってんだ!調子に乗るなよ!」
そう言って、冒険者は武器を持って立ち上がる。おいおい、ここで何をする気だ?
そんなことをしたら流石にギルドマスターが・・・見て見ぬふりしてグラスを吹いていた。
まあ、良い。これで大義名分が出来た。後はこの二人を守りながら冒険者を追い出せば・・・
「ああ、そう、調子に乗っているのは誰かしらね?」
そんな冷たい女性の声が隣で聞こえた。
「こっちはあんた達のルールに沿ってあげていたのよ?こっちはそれどころじゃなかったのに、あなた達みたいな得体のしれない人間でも、正々堂々と!それが通じなければ暴力?ふざけているの?
まあ、別にそれでもいいわよ。・・・私の得意分野なのだから!」
次の瞬間
寒気がした。
いや、寒かった。
凍てつくような風が冒険者の方に向かって吹雪く。
「ひぃ!な、何だよこれ!」
「つ、冷てえ!いや、痛え!腕が氷のようになっている!」
近くにいる俺が巻き添えを食らっていた。それほどまでに圧倒的な冷気!
冒険者の腕は氷のように固まっており、すっかりと動かなくなった。
「冒険者風情が舐めた行動をするからだな。命を奪っていないだけマシなほうだろ」
男の方がため息をついて、そう言った。そうなって当然と言うように。
「お、お前たちは何者なんだよ!」
冒険者の一人がそう聞くと、女と男は互いに頷き、ロープを脱いだ。
現れた姿は紫色にいかにも高そうな素材を使った制服だった。
「私は王国騎士学校の一生徒よ」
「右に同じだ」
王国騎士学校
その言葉を聞いて冒険者の一人が顔を青ざめた。
「王国騎士学校・・・氷・・・!、ま、まさか、あんたはサクヤ・フローズン!なんでそんな化け物がここに!」
「あら、何で名前を知っているのかしら?私なんかまだ騎士にもなっていないのに」
「素でこういう事を言うところがサクヤのすごいところだよな」
有名な人物なのか、その言葉を聞いて見て見ぬふりをしていたマスターまでもが彼女に注目していた。
おい、マスター、後で覚えていろよ!
「まあ、私のことは別にいいわ。それより・・・イカサマをしたという事は、バレた時の末路は冒険者のあなた方なら分かるでしょ?」
「おい、良いのか?貴重な情報源ではなかったのか?」
「大丈夫、私も馬鹿ではないから。流石に冷静になったわ。
・・・ガセネタで私をカモにしようとしたこと、後悔するといいわ」
「「「ひいいいいいいい!!!!!」」」
冒険者は涙目になりながら逃げようとした。それを護衛の男がさせなかった。
素早い身のこなしで彼らが動き出す前にのど元に細剣を突き立てていた。
「せっかくの命を無駄にしたくないのなら逃げない方がいい」
俺は唖然としていた。
奴の動きを見るのが精いっぱいだったからだ。動きに全然ついていけなかった。
「さてと、少し痛いかもしれないけど、お仕置きを開始しましょう」
イカサマを行った冒険者と相手を氷漬けにする奇妙な法術を使う騎士学生
どちらを助けた方がよかったのだろうか?
しかしまあ、チートだねぇ。
異世界の人間はやはり反則級の力を持っていた。




