1章の十一 代償を払って村へ
孤児院から歩くこと2時間強
僕たちは襲ってくる魔物を倒しながら、着々と進んでいき、奥を見てみると村が見えてきた。
いや、マジ助かった!もう本当に疲れた!だって、いつ魔物が襲ってくるか分からなかったもん!
魔物は気配を消していきなり襲ってくるから嫌だったが、対面すればどの魔物も強くはなく、メインのナイフに刺されば一発で倒せた。
僕も魔力弾を用いて相手の足を止めて、隙をつくるなど、援護をすることで役に立った・・・つもりだ。必要なさそうに見えたけどね。
いや、ぶっちゃけ見た目で誤解していた。華奢な体であるメインの実力は、僕の想像を遥かに上回っていた。
まず、ナイフ捌き、魔物に攻撃する際は全てが急所を刺している。相手の呼吸に合わせ、タイミングを把握して、攻撃を身軽にかわして、軽く一突きなのだ。
魔物が単調な動きしかしないからかもしれないが、それでも、5度もあった戦いで、なんの危うげもなく倒した。
その後の処理も素早かった。血抜き、魔石回収、解体、どれもが素早く処理をしていた。
躊躇すれば血の匂いで魔物が寄って来てもおかしくないが、魔物を倒して10分もかけずに処理を完了させていた。
たらればの話はあまり好きではないが、僕はメインに喧嘩で勝てる自信がない。
いや、正面から武器ナシなら何とかなるかもしれないが、暗殺とか簡単にされそうで怖い。
残り短い時間だが、怒らせないようにしないといけない。
いや、こんな人物を平気で怒らせるセーラはすごいと思った。
「もうすぐっすよ」
「あそこから入るのか?」
僕は木で出来ている関所を指さした。
「そうっす。そこで関所に村の身分を証明する者か、入場料を払えば中に入れるっす」
その言葉を聞いて、僕は足を止めた。メインは何事かと振り返って僕の様子を見ている。
「入場料?」
この国の・・・いや、この世界のお金を持ってなどいない。いや、あるにはあったが、どこぞの馬鹿女神のせいで、僕の所持品ごとどこかに無くしてしまった。
「どちらも持ち合わせをしていないんだけど・・・」
「大丈夫っす。お金ならあげるっすよ」
「いや、でも、メイン達は・・・」
こいつらのために動こうとしているのに・・・
「どっちみち、冒険者ギルドに登録する時は手数料が必要になるっす。カズシは持っているっすか?」
「・・・必ず返すから」
「ふふ、利子を付けて返すっすよ」
メインは冗談めかした声でそう言った。
・・・いや、本当にお世話になりっぱなしである。1週間もお世話になって、お金を借りてしまうとか・・・ヒモと言われても否定ができない状態である。
いや、ご飯とか洗濯とかもしてもらっているから、ヒモ以下だ!嫌だ!プライドとかそんなのは三島に売っている僕だが、それはなんか嫌だ!
冒険者ギルドで仕事をするつもりはなかったが、やった方がいいのかな?
孤児院があの状況でなければ、すぐにでも稼いでやるのに・・・いや、三島探しが優先になるか?どちらもできるような策を考えているか。
村の入り口には見張りの門番が立っており、周りは木で出来たバリケードで簡単に入れないようになっていた。
「なあ、入場料を払わなくても入れるんじゃないのか?」
「やめた方がいいっす。魔道具でそういう事が出来ないようにしてあるっす」
どうやら無理らしい。それが分かったのであれば、無理にする理由はない。
僕とメインは村の入り口で止まった。
「証明書か入場料を」
「はいっす」
そう言って、メインは銀貨二枚を支払った。銀貨二枚って相場は分からないけど、結構高くない?
というか、メインも払うのか?いや、『非国民』とグリルは言っていた。それでか?
「足りんな」
「・・・え?」
だが、門番は通さなかった。そして続いてこう言った。
「2百ディルでは全く足りない。現在は入場料は一人5千ディルだ」
「二人で1万ディル・・・金貨なら1枚か」
これは明らかに可笑しい。それくらいは僕でもわかる。
「何でっすか?一週間前までは普通に百ディルで・・・」
「規則によって変わったんだ。外からの人間に対しては一人5千ディルになった。
村の人間である証明が出来れば普通に入れるぞ」
門番の人間は悪ぶれもなくそう言った。
どう考えても仕掛けているんだろうな。僕は敵の顔を見たことがないのに、話を聞いているから驚けない。
僕はため息をついて、メインに尋ねる。
「お金はいくらある?」
「・・・純銅貨十枚と銀貨九枚だから・・・ちょうど千ディルっす。ごめんっす」
今の言葉を察するに純銅貨がおそらく十ディル、銀貨が百ディルくらいか・・・価値はおそらくだけど、1ディル=10円くらいか?それとも100円か?まあ、どちらにせよ、払えないくらいの高額で変わりはないだろう。
「謝ることはない」
僕はメインを励ますために頭を撫でた。それを見た門番がイラついた表情で睨んでいた。
「さあ、入らないのであれば立ち去れ!」
門番が怒鳴りつけて僕たちを追い出そうとしていた。こんな明らかな騒ぎになっても、村人は寄ってこない。いや、恐れて近づけないからか苦い表情をしている。
つまり、村人全員が敵ではないという事が分かった。おそらく領主の息がかかったものが敵になっている。身分の高い人物や管理職も信用しない方がいいだろう。
まあ、こんな方法は長い間できるものではない。
このような政策は本来であれば、愚策中の愚策だ。何ヵ月かすれば、明らかに村が破綻する。領主という職についている人間がそれを考えないほどの馬鹿ではないだろう。小説とかでは馬鹿な領主がやっていそうだが、そんな無能なら、むしろ相手をするにはありがたい。
仕方がない。ここまで露骨にされると動けないな。別の方法を考え・・・
僕はここで違和感を感じた。
・・・おかしい?いや、おかしくないか?何でそんな方策をとる?
普通にじわじわと追い詰めればいいのに、何でそんなに急かす理由がある?作戦が上手くいっているのであれば、無理に方針を変えなくてもいいはずなのだ
向こうで何かあったのか?
それとも・・・この村で向こうにとって不都合なことが起きた?
入れないなら仕方ないと言う考えを訂正する。
入らなければならない。
かといって、不法侵入は不味い。後の行動に響くし、これはあくまで憶測だ!確実に何かがあるとは思っていても、どれくらいの影響を及ぼすかは不明なのだ。
・・・中に入る策、行動しやすい策、いろいろとあるにはあるが、どれも賭けの要素は強い。やるか?やれるのか?
と考えるとき、ある人物が見えた。領主の息子、グリルだ。
彼は困ったような顔をして俺達を見ていた。動かず、ただ見ているだけだ。
その時、視界がゆっくりとなる。グリルがそこで立っている意味を理解した。
そして、それを見て、一つの策を思い浮かぶ。
正直言ってやりたくない。
でも、やらなくちゃいけない。
そう決意した俺はメインを撫でていた左腕に力を入れた。
「痛っ!」
メインは痛がる表情をしたが関係ない。
「お前を期待した俺が馬鹿だった」
そう言って、髪の毛を引っ張りメインを地面に倒した。ドサリと倒れて、頭を抱えるメインに対して俺は睨み付けた。
「カ、カズシ?」
メインが怯えた顔で未だに理解できていない顔をしている。でも、恐怖を感じているのか体が震えている。
俺はそんなメインに対して体を足で踏んづけた。
「お前にギルドまで案内してもらおうとしたのが馬鹿だった!
なんだよ?入場料5千ディルってよ、お前はどんだけこの村に嫌われているの?
何で俺までそんなとばっちりを受けなきゃいけないんだよ!
ふざけんじゃねえよ!こっちは大事な用事があるって言ってんだよ!
お前みたいな奴に足を引っ張られる暇はないんだよ!」
そう言って、何度もメインを踏みつける!
何度も、何度も踏みつける。
「痛い!カズシ!やめて!」
メインは怪我をして、血が滲み泥まみれになる。それでも俺は踏むのを止めず、ついには蹴りを入れた。
門番もその様子を見て青ざめる。
「お、おい!何をしている!こんなところで騒ぎを起こすな!」
門番の一人がそういうと、俺は視線をゆっくりと門番の二人に向ける。
「騒ぎを起こすな?あんた達がその現況だろ!入場料5千ディル?払えるわけがないだろ!」
「そ、それが規則なのだ!」
「でたよ、規則規則ってよ、お前らの狙いは見え見えなんだよ!こいつの嫌がらせなんだろ!無関係の俺を巻き込むな!」
「んんんんんんん!!!」
そう言って、俺はメインの掌を踵でギリギリと力を入れて踏みつぶそうとした。メインは苦悶の表情をする。
「む、無関係ではないだろ!一緒に歩いて・・・」
門番は注意するも、声が小さかった。演技に見えないやり取りに動揺している。
当たり前だ。演技でも何でもない。本当にメインを傷つけているだけなのだ。
「そいつを入れろ!彼はあの件とは無関係だ!」
入口の奥から声が聞こえて、俺は踏みつけるのをやめた。先程から入口の奥で見えていた人物が慌ててこちらに来たからだ。
「グ、グリル様!」
先ほどまで奥で様子を見ていたグリルが現れて、門番は慌てて敬礼をする。
「そいつは俺の護衛として雇おうとしたんだ。一緒に彼女と来たのは偶然だろう。入れろ!」
「そ、そうでしたか・・・しかし、お金を・・・」
「身分は俺が保証する!入れろ!」
「し、失礼しました!どうぞ、お入りください!」
門番はそう言って道を開けると俺はニヤリと笑った。
グリルが門番に通らせるように言っても、俺達は通してもらえなかっただろう。
なぜなら、グリルが俺達の存在に気付いても近づかなかったからだ。介入しても意味がないからだ。だから機会を伺ってあそこで待っていた。
お金を払ってもらっても、難癖をつけられて入れてもらえなかった。
でなければ、あんな莫大なお金を請求をしない。絶対に払えない金額であろう金額を提示している。
ここまでの無茶ぶりをしているのであれば、無茶苦茶な口実をつけても今更だしな。
でも、俺がメインを叩きのめし、騒ぎ経てばどうなるか?
門番は混乱するだろう。少なくとも正常な思考はできないはずだ。
問題が起きれば対処に困るが、助ける相手は陥れる相手なのだ。領主の意向を考えれば、止めて良いのか判断に困る。
そこで、グリルという上の立場の人間が解決策を出したらどうする?
混乱した状態であれば、普通ではありえない判断も簡単にしてしまう。
女神は言っていた。『危ないことはしないでください』と。
つまり、現時点で危険なことが起きているのだ。女神はそれを肯定したのだ。
で、あれば、グリルが先日言ったことは事実とみて間違いないだろう。
メインが危険な状態である事、そして、時間がないことは推測できた。
もちろん、これらはすべて憶測だ。証拠も何もへったくれもない。無能の領主説だってあり得ないわけではないのだ。
そうだと決めつけず、時間をかければ、方法はほかにも色々とあっただろう。
メインに演技をしようと言えば良かったかもしれない。日を改めて様子を見てもらえばよかったかもしれない。一度、グリルを呼んで入場料を払ってもらうのを試せばよかったかもしれない。
でも、それも駄目だった。
村の中に敵がいるからだ。観察していたからだ。
そんなことをしている暇も余裕もなく、そして機会は今しかなかった。
「借りるぞ」
そう言って、俺はメインの右手に握ってある銀貨を一枚受け取ると、門番の一人に差し出した。
「入場料の百ディルだ。わかんだろ」
「は、はい!」
門番は先ほどの威圧感は全く出さず、縮こまった子犬のようにびくびくしていた。
門番さん、これを受け取って入れるという事は、俺は不法侵入にはならないからな。
口には出さなかったが、そういう意味で渡しておく。
「行きましょうかグリル様」
「・・・ああ」
グリルは俺を睨んでいた。ものすごい殺意を秘めた目でこちらを見ていた。
でも手は出さない。彼が俺の意図に理解しているからだろう。
「・・・カズシ」
後ろでメインの声が弱弱しく聞こえた。俺はそんな声を無視して村に入ろうとする。
「・・・置いてかないで」
・・・なぜか自然と足が止まった。
「・・・わたしを・・・また・・・」
聞き取れないほどに小さな声で何かを言っていた。何を言っていたのかは知らない。
無視しろ!ここで感情を表に出しては全てが無駄になる!
そう理解しているのに、足を止めて振り返った。
メインは泣いていた。
泣いている顔を見たのは初めてだ。
笑っている顔しか印象がなかった。俺の前ではいつも笑っていた。
そうだ、彼女はいつも笑っていた。逃げ出したくなるような現実を目の前にして、それでも笑っていた。
本当は泣きたくなるほどに辛いはずなのに。それでも、周りに見せないように笑って誤魔化していた。
・・・なぜ、いま彼女は泣いている?
理解できなかった?なぜ今泣くのか理解できなかった。
でも、放っておくわけにはいかなかった。
放っておいたら、絶対に後悔するような気がした。
でも、早くここから出ないと門番が正気に戻ってからじゃ遅い。
だから、俺はメインのところに歩み寄る。そして、メインの傍で小さい声で一言だけいった。
「約束は守る」
そう言って、再びメインから離れて、村の中に入った。
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「あの時、君を殺そうと思ったよ。でも、君の目を見て、すぐに分かった」
グリルがギルドまで案内している最中で僕に話しかけてきた。
「何かを覚悟した目だ。何か失うのを覚悟した目だった」
グリルはそう言って、足を止めると、振り返って僕の目を睨んだ。
「もう、孤児院には帰らないんだな」
「あれだけやって帰ろうとするならそいつは大した心の持ち主だ。普通の人間ではありませんね」
僕がそんなことをしそうな人物を思い浮かぶのは一人しかいない。ヒントは白髪。
彼女であれば、何事も無かったかのように戻れるだろうが、僕は生憎常識人なので無理だ。
「君も普通の人間ではない。異端者だ」
異端者・・・異端者か・・・
まあ、グリルが言った言葉は当たりだ。僕はあの時、覚悟を決めた。
何事をするにも代価はいる。
ならば、何を失い、何を得るべきか?
人は食物を代償に肉を作る。
時を代償に知恵を作る。
金を代償に物を得る。
労働力を代償に金を得る。
悪を代償とすることで義を得て、自由を代償に社会を得る。
信頼を代償して何かを得て、何かを代償にして信頼を得る。
すべては代償を払ってなにかを得ている。
何かを得たければ何かを失う必要がある。
与えられるものなど、生まれた時の命だけだ。
たった一つの、それだけでは無価値な物だけだ。
それが僕の世界なのだ。
だから僕の世界を壊す運命よ。僕はお前に代償を支払う。
僕の代償は今のところは異世界で築いた信頼関係だ。
足りないのなら、また何かを払ってやる。
だから理不尽な力で埋め尽くす運命よ・・・貴様の道筋を変えさせてもらう!




