序章の二 差出人不明の郵便物
少し書き足しました。
三島 京
僕の通っている学校の後輩であり同じ部活動に所属している一年生である。
彼女を見かけたのは高校二年の時、学校の登校時の時である。
非常に目立つ存在だった。まず第一に見た目が普通の人と違ったからだ。
白い髪に白い肌、簡単に折れそうな細い手足に、大きい目と小さい口。可愛らしくも凛としている整った顔立ちは後程聞いた話では学校の注目の的だったらしい。
また、多くの男子は彼女に一目惚れをしていたと思う。多分。いや、知らないけれど。
彼女は先天性白皮症という病気だった。
先天性白皮症は、太陽から発生する紫外線を吸収するメラニン色素が生成されない病気である。色素がないため肌の色が白く見えるのだ。
だから彼女は髪も肌も白かった。色白とかそういうレベルではなく、シミすらない二次元のような体だった。
また、彼女は外での行動がかなり制限されていた。
紫外線を吸収しないということは皮膚の核細胞にそのままダメージを受けるため、肌が赤く腫れる。最悪は皮膚がんに至るのだ。
日焼け止めは毎日塗っていたし、外にいくときは白い日傘は必須アイテムであったが、それでも、日差しが強いときは皮膚が赤く腫れ上がり、非常に苦しそうな表情をしていた。
だから、彼女は色白で美人で頭も良かったらしいが人との交流が少ないと当時は噂で聞いていた。
まあ、噂を聞いたのは彼女と出会った後からだったので、出会った時は噂を聞いていなかったことに後悔した。
彼女と面と向かって出会ったのは僕が部室で留守番していたときのことだ。
ひとつ上の先輩たちが創った歴史の浅い、少し特殊な部活動に彼女は一人で訪れた。
僕と彼女の出会いは最悪だった。いや、最悪だったのは僕だけだが・・・
僕は突然彼女に煽られて、刺されたくない所を刺されまくって、怒って簡単に挑発に乗ってしまい、いつの間にかゲームで賭け勝負をするようになっていた。
そして、彼女の策略によって勝負に負けると僕は彼女の奴隷となっていた。いや、奴隷じゃないけど奴隷のように扱われ、働かされることになる。
この時、僕は理解したのだ。彼女が一人でいるのは特殊な病気のせいで交流の機会が無いからでなく、素で僕以上に変人であり、僕以上に一人を好んでいたからだった。
だからこそ、先日に言われた彼女のあの言葉には驚いたのだ。彼女がそんな言葉を口にするとは誰もが思わないだろう。
そして彼女は・・・
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「ごめんなさい。私たちの方も手がかりはないわ」
「桜さんが謝ることではありません。こっちこそ、捜索に手伝ってくれて・・・」
「当然のことよ、京ちゃんも和志君も私たちにとっては大事な後輩で、大切な部員だもの。何か分かったらすぐに連絡するわ」
「・・・ありがとうございます」
僕は電話を切ると、ベッドに仰向けで倒れた。
あの日以来、彼女の行方が音沙汰もなく途絶えた。
聴き込みやネットワークを利用して捜索していたが、全くと言うほど手がかりがつかめない。
SNSがあるこの時代で何も手がかりを得られていない。
彼女自身は目立つし、体が弱く、裕福な家庭ではないから一人で遠くまで行くことはできないはずだ。
だからこの状況は可笑しいと僕は思っていた。
一応、学校ではクラスメイトに聴き込みを、放課後には彼女がいそうな所を探したりしたが、全く成果がなかった。
教師にも相談したが、『あいつの行動がアレなのはいつものことだろう。すぐに戻ってくるさ』と説得されて僕に勉学に集中させようとしていた。
そんな無責任な教師に僕は腹が立って三日ほど学校を無断欠勤して彼女を探したが、それでも成果を得ることはなかった。
そして、彼女が行方をくらまして1ケ月ほど経った。
そろそろ真面目に学校に出ないと本格的な家族相談をされるであろう。そうなってしまったら捜索に支障がでてしまう。そんなことを思っていた頃に、玄関の前には僕宛で差出人不明の郵便物が送られてきた。
僕はもしかしてと思い、それを受け取り自分の部屋ですぐに開封した。
今まで見つけられなかった三島の行方の手がかりがこの中にあると確信していた。確証があったわけではないが、今の僕にはそうだと盲信していた。
小さな段ボールに包まれていた郵便物の中身は、一枚のカードときれいな白色の石だった。色々と思うところはあるが、ひとまず僕はカードに書いている文章を読んだ。
「・・・英語で書かれてて全然読めないんだけど」
僕はスマホのアプリを利用して翻訳作業に取り掛かった。先程の確信的に思った事が一瞬で霧散し、これ自体が三島の行方を差しているとは思えなくなってきた。
それでもこれにすがるしかなかった。
三島の両親は警察に家出人捜索願を出していないそうだった。教師も彼女の失踪に少しの関心しか表さなかった。まあ、彼女は性格が悪いことで有名だったからな。僕は気にならなかったが・・・
だから、彼女の行方を僕だけが探している。手伝ってくれる人もいるが、本格的な捜査は僕だけだろう。
探している理由は別に心配だからだとか、彼女の笑った顔を再び見たいとかではない。
ただ、彼女には千円貸したままだったから返してもらうだけだ。
一時間ほどかけて英語を和訳し、僕はカードに書かれている文章を読み始めた。
「君はこの世界がつまらないと思ったことはあるか?
君の住む世界が息苦しいと思ったことはないか?
もし、君が望むのであれば、すぐに新しい生活、新しい文化、新しい夢、素晴らしい幸せが君を待っているだろう。
もし君が新しい世界を望むのなら、一緒に入っている石を持って丸々駅で待っていてくれ。
それだけで君が望むような世界へ行けるはずだ。
新しい世界であなたの運命が幸せであることを」
・・・呆れて笑えもしない内容だった。
ただのいたずらだと思った。いや、99.99999%そうだろう。でも、頭によぎってしまった。ただの偶然だと思っているのに、あの時の話題を思い出す。
『異世界は存在するのだろうか?』
これだと思ってしまった。彼女が突然話した話題はこれなのではと思った。・・・そういえば、あの時の答えは結局『存在する』になった。
だから彼女は・・・いや、さすがにそれはないか?それを簡単に鵜呑みにするような人間ではない。そもそも彼女にはある目標がある。現実逃避をする理由がない。
でも、同時にこんな出来事を無視するような人間でもない。それは僕が一番知っている。
興味が湧くようなことに首を突っ込み、僕の首を掴んで一緒に突っ込ませる人間であることをよく知っている。
信じようが信じまいが一度目的地に向かうだろう。そして、その目的地で何かが起きて連絡ができなくなった。
・・・ヤバイな、現実味が出てきた。
怪しいだろこれは!一緒に届いている変な石ももしかしたらGPS機能が内蔵されているものかもしれない。それなら、鵜呑みにしている馬鹿を連れていくこともできる。
ヤバイヤバイヤバイ!
これだ!これだよ!
もちろん憶測の範囲内だ。証拠もへったくれもない。でも彼女を知っている輩であれば簡単に想像できてしまう。
一学年上の僕にタメ口を聞く彼女
校舎裏に滞っている不良の上級生に堂々と注意をする彼女
偽物のラブレターに対して貶しつつも、断りの返事をいれようとして校門に6時間もずっと待っていた彼女
そんな彼女がこれに無関心を貫き通すわけがなかった。僕は桜さんにチャットで連絡を入れた。
「ひとまず、僕が先に行ってみよう。一緒に入っている石は置いていくか。
日時を指定した文章は書いていないから、何かしらを起こす為に石に何か細工をしてあるかもしれない。それなら、持っていかなければ多分面倒なことは起きないだろう。」
チャットには郵便物の中身、カードの内容、僕がこれから行う事、もし自分に何かあった場合にやってほしいことを書いて送った。
送った後、僕は目的地の丸々駅という場所は聞いたことがないので携帯で検索する。
「・・・県内ではあるな。近くではないか」
色々と準備をする必要がありそうだった。
僕は押し入れの中からバッグを取り出すと自分の部屋にある様々な道具を入れていく。あらゆる可能性を考慮して持っていく道具を考え、自分の部屋にないものはリビング、炊事場、妹の部屋から探して次第に入れていく。
最後に財布と携帯をズボンのポケットに入れると、メモを残して僕は目的地へと向かった。
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駅に向かう途中で色々と必要なものを購入していく。
あるものはツールとして、あるものは護身用として、あるものは長期滞在用として購入していく。
必要ないだろうと思いながら、もしもを気にして購入する。
すでに費用は三島に返してもらう1000円を超えていたが、まあ、ほとんどが日常生活で使えるものだから、その時に使えば損はしていないと思えば良い。
一通りの道具を揃えると、俺は近くの駅へ向かい、切符を購入する。
目的地へ向かう乗り場に向かうとちょうど電車が発車するところだったので急いで電車に乗った。目的地の駅はここから5つ先にある。そのため、ちょっと時間がかかるので椅子に座る。
回りを見てみると、平日でかつ通勤時間を過ぎているのでかなりガラガラの状態だった。
ちょっと、社会人のみなさん!お昼前に会社に向かうと余裕で席に座れますよ!でも、上司の人にクビにされるリスクはあるので注意しよう!
と、そんなふざけたことを考えながら、ふと周囲の人を確認すると、ある現場を目撃した。
目の前にいるのは明らかに不良と思われる男子高校生四人とそれに絡まれている女子中学生。
そして、それを助けに行こうとしているリア充みたいな男性とその彼女と思われるビッチそうな女性、おそらくこの二人は大学生か専門学生だろう。
僕は変に絡まれないように、目線を合わせないようにして、会話を聞いてみた。
「なあ?お前ら何なの?俺たちが楽しく会話してんのに、急に割って入ってさ、新手の嫌がらせ?」
「そこにいる彼女が困っているようだったからね。相手の嫌がっていることを考えて行動した方がいいんじゃないかな?」
リア充みたいな男性・・・めんどいからリア充は不良四人に向かって堂々と言った。いやー、すごいな、流石リア充、リア充の鑑だよ!困っている人を放っておけないとかマジリスペクトです!
でも、騒ぎを起こしかねないからあまりお勧めしないな。ほら、奴さんの頭の血管が青く浮き上がってきているよ!
「俺らに指図するのかよ!」
「やんのか!こら!」
まるでテンプレのようなセリフを発していると、リア充は少したじろいでしまったが、すぐに元に戻る。
「別に喧嘩をするつもりはない。ただ、このまま見過ごすわけにはいかない」
いや、それは喧嘩を売っているのと同義語です。
「・・・そっすか、じゃあ表に出てもらおうか」
不良1がリア充の胸ぐらを掴もうとすると、それより早くビッチが後ろからリア充を掴み後ろの方に引っ張った。
「ちょっとフタっち、やめようよ、騒ぎになるでしょ。」
騒ぎが起きそうな中、意外にもビッチ・・・いや、流石に失礼か、オシャレをしている女性が喧嘩を止めようとした。
「美晴さん、止めないでくれ」
「止めるわよ。今はこんなことをしている場合じゃないでしょ。ふじむーの事はどうするの?」
彼女がそういうとリア充は顔を閉じて気まずそうな顔をする。
「なんだ?やんねえのかよ!ダッセ!」
「ここでやんねえとかマジヘタレじゃね」
不良共は調子に乗って挑発してくる。リア充は歯を食いしばって、それを見ているだけだった。
「何なら、そこの姉ちゃんも話そうぜ。こんな奴を放っておいてさ」
後ろにいた不良二号が前に出ると、にやけた顔で女性の茶髪に触る。すると、心配していた顔だった彼女の顔が段々と不機嫌な顔になり、
「・・・触んなよ、発情猿が」
彼女は小言でそう言って手を払った。
「・・・・は?」
不良二号は唖然としていた。
「触んなって言ったのよきたねえ猿顔野郎!
あんたたちダサいんだよ!
あんたに触られるくらいなら金持っている脂ぎったおっさんの方が数十倍マシだわ!
というよりさ、そんな女の子にしか声をかけられないとかあんた達って童貞?
そんな地味で大人しそうな小娘にしか手を出せないとかマジ男として終わっているわー!
ねえ、あんたたちの居場所はここじゃないんだから、さっさと山に籠って猿と交尾していろよ!」
その言葉に皆さんが絶句していた。顔も固まっている。
・・・・・・ビッチ
すごい!!流石ビッチ!!BITCH!!
不良四人に対して童貞とか猿とか言い切るなんて本当にビッチの鑑だね!
そうですか、脂ぎったおっさんの方がまだ良いですか!
でも、あまり彼氏に言わない方がいいよ!彼氏もほら、かなり引いているよ!
大丈夫?猿顔童貞野郎君は今にもキレだして殴りかかりそうなくらいに顔が赤くなっているよ!
幽霊が現れてオラオラしちゃうよ!よかったね!近くに矢がなくて!
それと、彼らも見る目がないとは限らない。
そこでオロオロしている女子中学生だが、彼女はお化粧を学んだらきっと美人になるよ!素質はあるよ!意外に!
と、問題が発生している中で意外に美人の女子中学生と目が合ってしまった。
・・・なんだろう?心なしか『助けてください』と心の中で叫んでいるように見える。
いやいや、何で僕?僕に何を期待しているの?そこのイッケメーンに頼みなさいよ!
さて、どうする?意外に美人とはいえ、メリットデメリットを考えれば普通は関わらない方が身のためなんだよな。
だけど、もしかしたら意外美人を助けた方がいいかもしれない。
そう思った理由は勘ではない。でも確実にそうという訳ではない。
彼女の服装や容姿を見れば、もしかしたらと思う。
意外に整っている顔、意外に大きい胸・・・じゃなくて!
校則通りに身だしなみをしている僕の高校の近くにある中学校の制服や、真面目に手入れしているであろうⅢのバッジがついているきれいな鞄。
明らかに不登校の感じがしないのに、こんなところにいるんだ。
もしかしたらと思うよ。まあ、合っていたとしても、無事に助け出す方法があるわけではないんだけどさ。
・・・三島が隣にいればどうするだろうか?
たとえ、メリットがなくてもデメリットだらけでも『助けろ!もしくは死ね!』と有無を言わせず助けに行くだろうな。
・・・もし、三島がこのことを知ったら大変だ。殺される。
ああ、たいへんだ、たいへんだ。何も思い浮かばないけど、このまま見過ごすわけにはいかない。
ああ、しかたない、しかたない、どうにかして助けるか!
俺は一度深呼吸をすると、前方五mにある騒ぎの現場へと向かった。
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深山 和志
所持品
財布 (所持金22000円)
(内 小銭入れ 6000円)
携帯電話
ノート
筆記用具
タオル
ナイフ
お茶 (ペットボトル)
携帯充電器(ソーラー式)
スタンガン(改造)