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僕は異世界で君を探す~命よりも大切なもの~  作者: Re:You
1章 孤児院と洗脳された村
19/35

1章の八 価値

 辺りもすっかり暗くなり、部屋の中の光が灯した火の光だけになる。


「お姉ちゃん、何で私は座らされているの?」


「自分で考えてみるがいいっす」


「・・・何で俺まで」


 そんな現在の時刻が19時を過ぎる位の頃、セーラとアレスは日本人が好んで使う正座で座らされていた。


 向かいにはメインが笑顔でずっとセーラを見つめている。

 何でだろう?笑顔なのに怖いんだけど。


「セーラ、何であんなこと言ったんすか?」


「なんのこと?」


 うわぁ、あの顔を見て惚けるとかセーラは大物だな。彼女も将来は英雄とかになっちゃうのでしょうか?


「とぼけるなっす!

 

 その、わ、私と、か、カズシが、そ、その、こ、こ、こんやく、しゃとか、そんなふざけた冗談を言って・・・」


 先程まで怖かったメインの顔が急に赤くなり、声がだんだん小さくなっていく。


 メインさん、すみません。冗談だから、そんなに慌てなくてもいいと思います!

 顔が赤くなるくらい恥ずかしいのはわかりましたから!


 そんなに嫌でも、まずはリラックス!落ち着いて話そう!


 ・・・『リラ』をかけた方がいいのかな?


「ああ言ったら、あの人も近づかないかなと思って・・・向かってきてもカズシさんなら倒せたと思うし」


「そうだな、カズシはすげえ強いんだぜ!」


 と、セーラに続いてアレスも僕を誇らしげに言った。まるで、自分達の子供を誉める親バカ両親みたいに。


 お父さん!お母さん!やめて!恥ずかしいから!

 と授業参観で恥ずかしがる少年少女のように、僕の顔が紅くなったと思う。


「セーラ、アレス、あなた達が思っているほど世の中は簡単じゃないっすよ?」


 メインがため息をついて二人にそう言った。まあ、メインの言っていることはもっともである。


 仮に僕がグリルを倒したとして、何になる?


 むしろ、変な口実をつけられて領主様の権力とやらで全員奴隷行きの未来が見え見えである。

 いや、護衛を倒したのだ。すでにそうなっても可笑しくない。・・・あれ、結構不味くね?


「でも、あいつはあの領主の息子じゃん!あいつの奴隷とか絶対ダメだって!」


 と、そんな考えをしていると、アレスがそんな言葉を発した。

 ・・・アレス、その理由はあまりにも偏見だぞ。いや、僕も実際の様子を見てないから言えないけどさ。

 なんというか、アレスは脳筋のイメージが強いな。いや、脳筋というより、正義のヒーロー脳か?一度決めた評価を覆さない人間。


 そういうのはゴミへの一歩だから止めて欲しい。お兄さんは心配だな。


 と思っていると、セーラもアレスに続いて追撃をかける。


「そうだよ!お姉ちゃんだってカズシさんに・・・」


「ちょ、ちょっと、セーラ!それはずるいっす!それは言っちゃいけない約束っす!」


 セーラが何か言い訳しようとすると、メインはセーラの口を塞いで、口止めをする。

 え、何を言おうとしたの?超気になるんだけど!


 ・・・と、僕はここで周囲の様子に気づく。いや、正確には気づかされたというべきか。足元を引っ張られる感覚があったので、下を向くと、あることに気づいた。


「なあ、メイン」


「カ、カズシ!セーラが言うことは気にしちゃダメっす!何を言っても信じてはいけないっす!」


 僕がメインに聞こうとすると、メインは僕になにも聞くなと言わんばかりに早口で喋る。

 メインさん、そういう態度はよくないっす!超気になるっす!

 

「気になるけど、それは後にする。

それよりも、聞いてほしいことがある」


「な、なんすか?」


「他の子供たちがお腹を空かせている。食事にしないか?」


「え?・・・・・・あ!」


 説教をするのはいいが、僕たちはもう少し回りの様子を見ないといけなかった。

 他の子供たちはお腹を透かせて寂しそうにしている。小さな子供は既に泣き出しそうな顔をしていた。


「み、みんな、ごめんっす!すぐにご飯を作るっす!」


 そう言ってメインは厨房に向かい、すぐさま調理にとりかかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「「「ごちそうさまでした!」」」


 子供たちが合掌して食事を終えると、俺は子供達の食べ終えた食器を片付ける。


「あ、カズシ、後片付けは私がするっすよ!」


「いいよ、お世話になっているし、調理中はなにも出来ないから、これぐらいはさせてくれ」


 右腕が使えないので、僕が出来ることは限られている。

 出来ないことはないが、何をするにも時間がかかるので、足手まといになるからだ。

 お世話になっている以上、何かお手伝いしないと非常に気まずい。

 今のところ、僕がやっているのは器用さは要らない簡単な作業の手伝いと、子供達の訓練の相手だけである。


 僕が炊事場に運んだ食器をメインが布で大きな汚れを取り除き、水の入った桶に浸ける。

 洗剤の様な物はこの国にもあるらしいが、非常に高価なため、基本的には水洗いで洗うらしい。


 そんなやり取りをしながら、僕はメインに本題を語る。


「なあ、メイン」


「なんっすか?」


「僕さ、冒険者ギルドに入ろうかなと思う」


「へ?」


 何故いきなりそんな話になったのかわからないという顔だ。

 メインの疑問はもっともだが、今の僕がどういった行動を起こすにも、これは必ず必要になるだろう。


「今の僕には身分を証明するものはないからね。

 冒険者ギルドにはメンバーカードという身分を証明するものがあるらしいし、誰でも入れるらしいからな」


「な、なるほどっす」


 メインは簡単に信じる。怪しむ事を備え付けていないのか?

 確かに目的はそれもあるが、それだけではない。


 メインを見ていると、何か危うい感じが伝わってくる。

 シスターという人柄はこんなに騙されやすいのか?


「僕もいつまでもお世話になる訳じゃないからさ、だからギルドまで案内してほしいんだけど・・・」


「・・・そうっすよね、いつまでもいる訳じゃないっすよね」


 メインががっかりしたような、ホッとしたような様子を見て何か胸がいたくなる。

 ・・・心の中で『リラ』と唱えてみるが、効果はない。


「カズシ」


「なに?」


「カズシはこれからどうするっすか?」


「村に戻る手段を探すよ。引きこもって勉学ばかりしてたけど、自分の村の名前も知らない非常識さを反省して、少し外を見て学びながら帰ろうと思う。」


 僕がそういうと、彼女は納得した顔で笑った。


「確かに・・・カズシは物知りなのに、世間に凄くうといっすもんね」


 どうやら信じてくれたようだ。・・・チョロすぎる!


 ちょっと人を疑うことを教えた方がいいのかな?いや、この清い心は今時珍しい!勿体ない!

 大事にしておくれ!清純は正義!黒髪だったら神!


「でも、その前にやることがある」


「やること?」


 そう、僕にはやることがある。それを忘れてはいけない。


「今のところは2つ。

 1つは僕と一緒にいた・・・友人を探すこと」


 友人とはちょっと違うが、人探しとは本当だ。

 嘘は言っていない。


「カズシにも友人がいたんすか?」


 メインさん、僕のことを何だと思っているのでしょうか?

 確かに、友達と呼べる友達は少なかったよ!クラスではよくボッチだったよ!で、なにか悪いわけ?


 と、危ない、危ない。感情に出すな。次が肝心なことだ。肝心の話をするために落ち着け。


「まあ、友人とはちょっと違うかもしれない。

 ただ、僕がここに来るまでに一緒にいたから、もしかしたらそいつも何処かにいるかもしれない」


「なるほど・・・もう1つは?」


 『踏み込みすぎるな』


 心の中で何回も言い聞かせて本題に入る。


「2つ目はなんと言うか・・・お前らは命の恩人だからな。少し恩返しをしたいと思っている」


「命の恩人とか、そんなことを考えていたんすか!」


「ああ、だから、何でも言ってくれ。僕にできることなら何でもしよう」


 この言葉で彼女が何を思うのかが大事だ。

 次の言葉で彼女の・・・いや、孤児院の秘密が分かるかもしれない。


「・・・」


 メインは真顔で無言になった。彼女も何かしら僕に対して感ずいているのだろう。

 彼女の動きが止まり、数秒たってから口を開いた。


「一つだけ・・・いいっすか?」


「ああ」


「誰から何を聞いたっすか?」


「・・・」


 ここは正直に言うべきだ。嘘を言っては一週間で作り上げた小さな信頼関係が簡単に崩れる。

 そんな気がした。


「グリルから領主に対して借金があるとは聞いた」


「そうっすか」


 メインはとぼけたり、嘘だと伝えない。


「そして、払えなければ奴隷になることも聞いた」


「・・・そうっすか」


 でも、聞いてほしくなかったのか寂しい顔をしていた。


「すまない」


「え?」


 僕は謝った。頭を下げた。

 メインは何故謝るのか分からない顔をしていた。


「僕を助ける余裕もないのに、自分達の事でいっぱいだったのに、なにも気づいてやれなかった」


「いや、カズシは悪くないっす!何も言ってないから気にしなくてよかったっす!」


 メインは困った顔をしていた。何故か自分が悪いような顔をしていた。


 聞くべきか?聞かないべきか?


 ・・・追及しよう。ここで言わないと、何一つ進まない。


 解決する方法が決まらない。あるかどうかも分からない。


「・・・気を悪くしたらすまない。いくら必要なんだ?」


 僕が尋ねると、メインは言っていいのか迷った表情になるも、決意を決めた表情ではっきり言った。


「100万ディルっす。この国の金貨で100枚」


「・・・は?」


 金貨100枚


 それがこの世界でどれくらいの価値かは分からない。

 でも、それがとてつもない大金であること位は分かった。


「ビックリするっすよね。

 そんなお金があれば、簡単に豪華な家を建てられるっす。

 こんなオンボロの孤児院も、ピカピカになるっす。

 子供たちに美味しいお肉を食べさせてあげられるっす。

 子供たちを働かさせないですむっす。


 ・・・でも、仕方ないっすね。

 金貨100枚どころか、その10分の1も未だに払えてない。

 そんな大金を稼ぐなんて夢のまた夢っす」


 つまり、現状では払うのは不可能だ。


「何で・・・そんな借金を?」


「元々この孤児院は子供たちと過ごすためのお金がなかったっす。

 それでも、前の領主アリア様が寄付金を頂いて何とか運営をしていたっす。


 でも、領主が替わり寄付金を貰えなくなったっす。

 それどころか今まで頂いた寄付金を領主に借りていたお金になってしまったっす。しかも、3倍暗いに膨れ上がっていたっす。

 土地も無償だったのに、いきなり高い税金を払わなくなってしまって・・・」


 最初は明るく振る舞って心配させまいとしていたが、徐々に声が小さくなっていき、ついには途中から何も聞こえなくなっていた。


「なるほど」


 でも、理解をすることはできた。グリルの話していた内容も信憑性が上がった。・・・味方とは限らないが。


「まあ、どうにかするっす。だから、カズシは気にしなくていいっすよ」


「・・・そうか」


 僕はそう言って話題を打ち切った。彼女の震えた手を見て、どうにかできないのは何となく分かったが、これ以上踏み込んだら不味いと思った。


 グリルの言う通り、メインが血迷った行動をする可能性がある。

 だから、深く聞かなかった。


 聞きたいことは聞けた。相手の領域をこれ以上汚すことは必要ない。


「コツコツと稼いでいくっす!私は諦めないっすよ!」


 彼女は他人であるはずの僕にまで気を使っていた。


 期限については触れなかったので、僕に可能性を示したのだろう。


「・・・そうか」


 僕は何故か安心していた。


 自分がこれからやることは決して確実なものではない。


 僕自身に得られるものはない。


 失うものは大きいだろう。


 でも、価値は見つけた。

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