1章の一 少女と会話する
遅くなってすみません。
少し短いですが更新します
夢を見ていた。
俺と顔の見えない女が雑談しながら、学校の帰り道を歩いている夢
商店街に寄り道してお菓子を買うか買わないかという下らないことで喧嘩する夢
周りに人がいない公園で仲直りをして、手を繋いでドキドキしていた夢
俺と彼女が共に笑って、共に泣いて、共に過ごしていく。
そんな温かく、そしてかけがえのない夢
ずっと願って、そして叶わなかった夢。
だが、なぜだろう。
懐かしいと感じるのに、大切な人だと分かるのに、
彼女の姿が見えない。彼女の名前を思い出せない。
彼女はいったい誰なんだ?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「大丈夫っすか?」
目が覚めて最初に聞こえたのはそんな言葉だった。重い瞼を開けると、まず目に入ったのは見知らぬ天井だった。
あれ?どこだここ?何で僕はこんなところにいるんだ?
それより、昨日は何があったっけ?
えっと、昨日は確か・・・あれ?昨日のことがうまく思い出せない。
夢の内容は覚えているのだ。
三島がいなくなって、行方を探そうとしたところに、謎の郵便物が届き、それを頼りに目的地に向かうと、謎の怪物が現れて、必死に逃げながら倒して、それでも相手につかまりそうになって、すると、女神が現れて、三島が異世界にいるって言われて、自分も異世界に行こうと思ったら、いきなり空から落ちて、なんとか必死に地面の墜落は防いだものの、結局は海に墜落して溺れてしまうという意味不明で情けなく思える夢なら。
・・・夢だよな。こんなことが一日の内に起きるなんて普通はないよな。一端の主人公キャラじゃないんだ。
「あの~、大丈夫っすか?」
それにだ、もしあの夢が本当なら、僕が生きているはずがない。だって、溺れたもん!普通なら死んでるもん!あんな状態で助かるにしても、目覚めるなら無人島とかそういうものだろ!
・・・ここって天国とかじゃないよな?いや、僕の人生を振り返れば地獄の方だろうけどさ。
「聞こえてるっすか~!もしもしっす~!」
大声の叫び声が頭に響き渡る。うるさくて、今の状況を整理できない。
僕は声のした左側の方向へ首を振り向くとそこには一人の女の子が目の前にいた。
「やっと、振り向いてもらえたっす。えっと、あんた大丈夫っすか?名前とかわかるっすか?」
女の子は笑顔になったが、距離が近いせいもあって、僕は驚き動揺して距離を置こうとした。
「痛っ!」
「ああ、無理に動かない方がいいっすよ!全身に・・・特に右腕はなんかやばい感じになっているから、安静にした方がいいっすよ!」
(右腕?)
そう思って、僕は右腕を見てみるとそれは悲惨な状況だった。まず、物凄く腫れている。蚊に刺されたときの腫れと比べ物にならないレベルで右腕全体がパンパンに腫れていた。
次に肌の色、健康的だった肌色が、見事に真っ黒になっていた。中二病であれば格好いいと思ったかもしれないが、実際見てみると、グロテスクで気持ち悪い。
そして、感覚、全くと言っていいほど何も感じなかった。動かすこともできないし、黒い肌を触っても痛みも感覚もない。麻酔を打たれた気分である。
(やっぱり夢じゃなかった)
僕はこの腕をみて実感した。よく見ると、左腕も右腕ほどではないが、血管が浮き出ていて、肌が青ざめている。
多分、魔力というものを制御できなかった反動なのだろう。
知識も無しに独学でやった。だから、こんなことになったのだ。まあ、でも死ぬよりはマシだ。本当に死なずに済んで良かった。
「あの・・・すみませんっす。私も必死に法術で処置をしたんっすけど、そこまで酷いと、王都まで行かないと治せないっす」
・・・この人が僕を助けてくれたのだろうか?
確かに海に落ちて、建物で起きるのなら、誰かが僕を運んだのだろう。
「いや、謝らないでください。むしろ感謝しています。助けてくださってありが・・・」
そこで僕の声は途切れた。何故か?驚いたからだ。
何を?彼女の髪だ。
先程は距離が近かったため、彼女の顔だけしか見ていなかったが、この時僕ははじめて彼女の全体像を目にした。
その女の子は二次元のような桃色の髪色をしていた。地球では絶対にお目にかからないであろう、そして似合うことはない髪だ。
それが、幼い顔ではあるがしっかりと整っている顔立ちにとても似合っていた。
「綺麗な髪だ」
思わずつぶやいてしまった。いや、この状況でこんな関係ないことに対して素直に感想を言っている自分が馬鹿に思えてくる。女の方も驚いた顔をしている。心なしか顔が赤いような気がする。
この美しさはなんだ?まるで二次元でいう『萌え』!地球では決して見れない!
これが異世界か!異世界パワーなのか!異世界ありがとう!
「あの・・・本当に大丈夫なんですか?頭とか打ったりしてないっすか?」
おっと、ちょっと変人扱いされたようだ。まあ、流石にあれは自分もキモいと思った。女を食べ物と思っている軟派野郎と同じくらいのキモさだ!
落ち着け僕!キャラが段々とぶれているぞ!僕はクールキャラだ!格好よく、冷静な態度で・・・
「あ、いや、すみません!ほ、本当に、ごめんなさいいいいいい!」
全然駄目だった。駄女神クラスで僕はテンパって動いて痛みがぶりかえる。あれ?おかしくない?何で冷静な僕がこんな状態になっているの?
こんなことが起きるのは初めて桜さんと話した時くらいだ!
ヤバイ!何で?女にたいして免疫がないというのか?馬鹿な!あり得ない!何度も女性と話したことはあるぞ!今さら緊張するなんて!
「あ、あの、本当に大丈夫っすか?何か動機が激しくなっているようで不味い状況だと思うっす」
「い、いや、だ、大丈夫!し、深呼吸すれば!すーはー!すーはー!」
おかしい!おかしい!yばいぞ!このmまじゃこ、呼吸困難d、し、sぬ!
「ん?この症状?・・・あ、もしかして!ちょっと待ってください!」
そう言って、彼女は手を前に出して何かを唱えた。
「かの者を鎮め、かの者を静め、惑わし心に救済を、『リラ』」
そう言って、彼女の手のひらから淡い光が放たれる。
その光が僕に浴びると、今までなっていた胸のときめきが段々と収まっていき、呼吸困難が治った。
・・・あれ?何であんなにドキドキしていたのに、急に心が冷めたのだ?いや、なぜ今まで胸が高まっていたのだ?
「大丈夫ですか?落ち着きましたか?」
「あ、ああ。助かりました。ありがとうございます。」
何でこのような女に胸をドキドキさせていたのだ?よく見ると、体格に関して言えば『スットーン』というような表現がよく似合う女にたいして。
「今のは多分ですけど、魔酔病っす。私の魔力を吸って酔ったみたいっすね」
ん?魔力に酔う?え、何それ?
「その感じだと、知らないみたいっすね。でも、その年でこんな病気にかかるとか意外っす。たいした病気ではないけど、普通は子供の頃に一度だけかかるような病気っす。しかも、教会から加護をもらえば絶対にかからない病気っすよ?」
魔酔病がどんな病気か分からないが、今のことでわかったことがある。
先ほどの症状は麻疹みたいなものだろう。
麻疹や水疱瘡等は子供の頃にかかりやすく、かかると抗体が出来て、大人になれば抗体が守るので、かかりにくくなる。また、予防接種を受ければ同じ様に抗体はできる
加護というのも恐らく予防接種みたいなものだろう。つまり、魔酔病も麻疹と同じくかかりやすい病気であるが、一度かかればかかりにくい病気の様なものだろう。
そもそも、僕には異世界の物資に対して抵抗がない。
基本的に抗体は特定の物質にしか作動しないのだ。異世界でしか存在しない最近やウイルスには抵抗がないため、そういうのにはすぐに感染してしまうだろう。
何てこった、異世界に来て早速貰った称号が病弱体質とか嬉しくない。
それはさておき、彼女とのやり取りで気づいたことがもうひとつある。
先ほどの会話で彼女は僕の言葉に驚きはなかった。いや、あの臭い台詞には引いていたけどさ!
つまり、彼女と会話ができる。異世界言語の習得は正常に機能している。女神もたまにはきちんとできるらしい。まだ信頼するには程遠い距離があるけど。
さて、そろそろ彼女と会話をして、この世界について情報を取りたいのだが、なんと言って聞き出すか?
先ほどのキーワードをそのまま聞いてみるか?いや、これが常識であれば不味い。相手が警戒してしまう。
馴染んでいる土地に見慣れない男性が、見慣れない服装で、そこで非常識であれば警戒しない相手はいないだろう。
いきなり本題は不味い。まずは相手の警戒をとくのが先決だ。まずは名前でも聞いてから、自己紹介でも・・・
(僕の名前は深山 和志
地球という国からこの世界に来ました!)
・・・アウトだこれは!
(カズシって言います。
どこから来たかは言えませんが、その、怪しい人物ではありません)
・・・怪しい人物ですね。
・・・あれ?自己紹介ってこんなに難しいものだったっけ?ヤバイヤバイ!難問だよこれ!ボッチの僕に回答なんざ出来るわけない!
かといって、何も言わないのも駄目だ。警戒をこれ以上されることはないが、情報を得られない。
三島を探すという明確な目標がある今、探すためには動かなければならない。だが、無知な状態で異世界を旅したら、すぐに死ぬことになる可能性が大きい。
だから僕が必要なのは情報、ゲームでいう攻略本だ。
ゲームオーバーは出来ないから、安全第一で行動しなくてはならず、だからといって、時間をかけることが出来ない。
三島に限ってヘマを打つとは限らないが、世の中には運という物があるからだ。
だから少しでも早く三島を見つけるためには効率よく動かなくてはならない。
「あの、貴女のお名前は?」
「私っすか?・・・メインっす。そっちは?」
「僕は一志と申します」
「カズシ・・・変な名前っすね?」
やっぱりというか、日本の名前は相当珍しいみたいだな。でも、英語圏の名前なら良いみたいだ。
「ではメインさん、助けてもらって悪いのですが、いくつか聞きたいことがあるのですが?」
「ああ、平気っすよ。でも私もいくつか聞きたいことがあるので、こっちも尋ねるっす」
「では交互に質問していきましょう。まずは私から、
ここはどこでしょうか?」
「ここはサントリア王国のアニマ領っす。近くの海岸でカズシが倒れているのを見たっす」
なるほど、知らん。
これはあまり異世界について問わない方がいいかもしれない。答えを教えてもらっても、その答えが理解できないのだから。
それにしても、もう僕の呼び捨てか。
少し礼儀を知った方がいいぞ。そっちのことは知らないが、うちでそんなのやれば、学校ではクラスの男子に「え、ヤバイ!女子に下の名前で呼ばれた!」と喜ばれるぞ。・・・あら、美人ってお得!
「それじゃ今度はうちっす。
カズシはどこの生まれか分かるっすか?」
来た!ここは大事ですよ!
ここで不審なことを言えば、警戒される。それは不味い。
「えっと、僕は村の名前しか知らなくて、どこの国かはわからないんだ。あ、村の名前はサクラ村って言うんだ」
嘘です。思いっきり嘘を言っています。
「え?国の名前を知らないんっすか?領主の名前も?」
「ああ、領主様の名前は知っているよ。アリア様だ。」
嘘です。そんな名前の人など全く記憶がないです。でも、基本的にこれでいくしかない。
まず、この世界の地理がわからない僕がこの世界の国の名前など言えるわけがない。
だが、質問しよう。日本人で世界のすべての国を言える人はどれくらいいるだろう?有名な国であればともかく、無名の国を知ることは機会がないと難しい。
つまりだ。彼女に対して嘘を言っても、彼女がそれを嘘だと断定するのは難しいだろう。
国を知らないと言えば、存在しないサクラ村もアリア様も探しようがないだろう。誤魔化せる。どちらも速攻で考えたにしてはいい名前ではないだろうか?
嘘は堂々と言えば嘘と思われない。少なくとも表情で判断されない。そんな考えで発言していた。
「サクラ村って聞いたことがないっすね。領主アリア・・・アリア?・・・ア、アリア様!え!」
ん?彼女の反応がおかしい。知り合いにそんな人がいるのか?い、いや、名前だけなんだ。それだけで警戒されるのはおかしい。特徴が違うと言えば、問題ないはずだ。
「あの、そのアリアという人物は白髪の女性じゃないっすか?」
・・・は?