迷う幼馴染
俺と有栖が体育館に着いたとき案の定中には誰もいなかった。
体育館は1階と2階に別れていて、ステージがない方の後ろ半分程2階のスペースはある。入学式は1年生だけなので席は1階にしかない。今日座る席は自由だそうなので俺と有栖は真ん中辺りに座り始まるまで話していた。
あっという間に時間が過ぎ始業式が始まった。本当は人を探していたが終わってからでいいか。
副校長の進行のもと粛々と進んでいく始業式。
「それでは次に生徒会長による挨拶です。」
その声と同時にあの暁光会長が席を立ちステージへとあがった。
「雲ひとつない青い空。校内の桜も咲き誇りあなた方の入学を祝福しているようです。今日をもって私達、東京地区魔法学園の生徒が増えること、会長としてこれ以上の喜びはありません…」
流石会長らしい素晴らしい挨拶だなぁ。でもこのような表現がかたい文章だと聞いていて飽きるのも否めない。なにかないかな…と思いながら話しているのを聞いていた。
「…しかし、皆さん考えてみましょう。山は登ったら下りる。それが常識です。そしてその考えは山だけには収まらないのです。」
?、皆の頭には疑問が浮かんだだろう。始業式の間ずっと俺の顔を見てニコニコしていた有栖でさえも前を向いている。
「そう人生も同じなのです。一度良いことがあったら悪いことが起こる、良いことで始まったら悪いことで終わる。これがこの世のしきたりです。恐らく卒業式は嵐の中近くで戦いをしている最中に行われるでしょう。そしてそこで、チーン。」
入学した生徒の心を折りたいのだろうか?いや先輩なりのジョークだろう。戦ったからこそ分かる…
「ちなみに嘘だと思った人は今年の卒業式を見るといいでしょう。あ、魔法の準備は忘れずに。でないと早めの卒業式になってしまいます。人生のね。」
…事は無かった。マシだったのか…先輩はさっきのを笑うところだと考えているらしく話が止まっている。ジョークが怖すぎて笑えねぇよ。
先輩は諦めて話を続けるようだ。
「卒業式が暗いと決まったからと言って学校生活が暗くなるとは限りません。あなた方それぞれが自分なりの楽しさを見つけられるよう、そしてより強い魔導士となれるよう祈っています。無限の可能性を信じて…」
お、最後は真面目に締めるのか…
「まあ頑張っても僕は抜かせませんが。」
そしてすぐに言ってることが食い違ってるところも予想通りの流れだな。何だか面白い先輩に出会えたようだ。
その後は普通に進み30分後…無事に入学式を終えた俺と有栖はある人を探していた。
「いないですね。まだ寝てるんじゃないですか?」
「流石に入学式から休むやつはいないだろう。」
「でも今日は入学式を終えてクラスに行ったらすぐに下校ですし来る意味はそんなにないと思います。」
「それをお前が言うか…」
めげずに体育館の入り口で待っていると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ま〜こ〜と!」
俺がゆっくり振り返るとそこには今にも飛びかからんとしている幼馴染、藤東明日那がいた。俺はそれをサラッと避けた。
ズガァーン
ぶつかった先の地面がえぐれている。周りの目線もどことなく冷たくなった。
「大丈夫か?いつも言ってるだろ、抱きつきたかったら威力を抑えろって。」
「だって、真琴を見たらつい…」
えぐられた地面に座りながら頭をかいて笑っている彼女こそが藤東明日那。昔からの幼馴染で藤東流という武術の流派を引き継ぐ伝統的な家だ。そして俺もそれを習った。有栖や星奈姉さんよりも背は高い。
明日那は立ってスカートを払うと再び腰を低くし飛びかからんとしてくる。
それさっきと同じパターンじゃないか?
と思ったので取り敢えず落ち着かせた。
「明日那、ここは学校だから落ち着け。家に帰ったら抱きついてもいいから。」
『本当に(ですか)』
「なんで有栖も反応してるんだ?」
「いえ、なんでも。」
有栖が俯きながら弱々しく否定する隣で喜んで跳ねている明日那に話しかける。
「始業式のときどうしたんだよ。一緒に出ようって言ったのに」
「ああ、ごめんね。体育館に行ったときにはもう埋まってて見つけられなかったんだよ〜」
「あれだけ寝坊するなって言ったのに…」
「ね、寝坊じゃないよ〜」
「じゃあなんで遅れたんだ?」
「間違えて教室に行った」
「え?でも俺は知らなかったのになんでお前は行けたんだ?」
「え〜真琴わからないの?ダメだなぁ〜」
「逆になんで知ってるんだよ。お前の方が駄目なんじゃないか?手段が。」
「真琴が知らないなら教えてあげるよ。真琴はAだったよね」
「何!やっぱり星奈姉さんの言ってたことはジョークだったのか。思わせぶりだったから勘違いしたよ。」
そこで有栖も嬉しそうに言う。
「兄さんと同じ…やっぱり神様は私と兄さんを祝福しているんだ…」
「いや有栖はFだったじゃない。」
有栖がまた黙ってしまった。
「だった?何だか話がずれている気がしてきたな。お前は魔法学園のクラスのことについて言ってるんだよな?」
「何言ってるの?中学の時のクラスに決まってるじゃない。」
「時間を戻し過ぎだろ!」
「話をそらしたのは真琴の方でしょ。私は体育館じゃなくて教室に行った話をしていたじゃない。」
「ってことは、お前が間違って行ったの中学校かよ!」
「そうよ。」
自信たっぷりに言われてもな…
「よく行けたな…」
「まだ定期券は切れてなかったわ。」
「運賃の心配はしてないわ!心の問題だよ。なんで学園の入学式の日に中学校行けるんだ。」
「まあ気づかなかっただけよ。教室に行ったあとちゃんと体育館に行ったし。」
「なら良かった。じゃああの迷走した会長の話も聞いたか?」
「あ〜あれね。あれは凄かったわね。」
「何処らへんが良かった?俺はボケたけどシーンとなったところかな…」
「えーッと私は…そう会長が入学したからには皆のものは皆のもの、俺のものは皆のもの、って言ってお金をバラ撒いた後、俺についてきてくれって土下座した辺りね。私の学校も堕ちたなと思ったわ。」
「その学校通いたくねー。というか絶対に聞いてなかっただろ。そんな悲しい事はなかったぞ。」
「聞いてたよー」
「じゃあ会長の名前言ってみてくれるか?」
「真琴も一緒に言おうね」
せーの、「暁光」「鈴木太郎」
「お前の中学校の会長じゃないか!」
「真琴の言った会長どこの人?」
お互いに声を出し合う。有栖は口に手をあてて笑いを堪えている。というか中学校の会長身を切りすぎだろ。どんだけ人望ないんだ。金が無いと皆から支持されない会長とか辞めちまえ。
中学校に固執する明日那に内の学校のことを教えているとデバイスが震える。
「クラス発表のようですね。姉さんが言っていたとおりです。明日那さんは…」
「何だよ。まさかのいないとか?」
「やった〜真琴と同じだ〜」
「いいなー」
有栖が羨ましそうに明日那を見つめる。
「明日那はなんでF何だ?心当たりあるんだろ?」
俺は明日那にFの真実を教える。すると少し考えたあと明日那は話し出す。
「多分筆記試験だね。私、勉強はからっきしだから取り敢えずマークシートを全て塗ったの。だからかも…」
「絶対に確信犯だろ。逆に何もなかったら先生の常識を疑うな。」
「しかも濃さが微妙に違ってて光の当て方によっては、分かりません、という文字が浮かび上がるようにしたの。」
「無駄に凝ってんなそれ。というかそれする暇あるなら考えろよ!」
「え〜。しかも頑張りすぎてチャイム後も鉛筆いじってたら怒られるし。」
「先生可哀想だな。」
「けどそれだけだよ。2科目以降は退出したし。」
聞いた俺が馬鹿だった。俺の予想を遥かに超えたやつだった。
俺と明日那はまだ悔しそうな有栖と別れて教室に向かう。さあ今、俺の学校生活が始まる。
遅れてすみません。次の更新は1週間後予定です。
展開そして書き方が大幅に変わったけど大筋は変えてません。今後ともよろしくお願いします。