特異な力が呼ぶもの
俺たち二人は黙り込んでしまい何だか居たたまれなくなっていた。この空気をどうにかしないとなと思っていた矢先ある事に気がついた。
「そういえば有栖はそこまで悲しむ事はないと思うんだ。俺とクラスが離れたからって別に会えないわけじゃないんだし。それに家でも一緒だから学校まで一緒だと嫌にならないか?」
「そんなことは絶対にありません。何故かというと中学校の時から兄さんと同じクラスで学ぶ事が夢だったからなんです。それがやっと叶うと思ったので…」
「気持ちは嬉しいけど、何も変わらなくないか?授業中は話せないし席も隣か分からないし。」
「いや大きく変わります。同じクラスならいつでも兄さんが視界に入ります。それに学校で活躍する姿も見れますし。例えば…」
そして有栖は私から見た兄さんという話をし始めた。お前から見た俺の姿は別人ではないだろうか?とツッコミたい。
今の俺は魔法も十分に使えない、一応座学はできる方だとは思うが微塵も似てない。
俺で言うなら聖奈姉さんが活躍する姿を見たいと思う、ということだろうか?
うん、全く興味がないな。
聖奈姉さんは学校ではとても物静かでお嬢様のようだと言われているが、家では事あるごとに抱きついてきていつも有栖に引き下げられているので想像出来ない。
俺の話を終えた有栖は下を向いてしまった。相当ショックだったんだな。
「そうか、有栖の気持ちはなんとなく、メリメリ、分かった。でも1番上というのは、メリメリ、嬉しいんだろう。もっと素直に喜んでもいいんじゃないかな?」
そう言って俺は有栖の頭を撫でる。サラサラの髪がくすぐったい。
下を向いていた有栖は顔を明るくして
「そうですね兄さん。少し兄さんと違うクラスということに囚われすぎてしまったかもしれないです。来年がありますもんね!」
そう言って彼女は凹んでしまった地面を隠すように立つ。
凹ませてしまった、の方が正しいかもしれない。まだ未練が残っているようだ。
それに来年があると言ってもこのままいくと俺が魔法実技を向上させてAに入れるようにするか、有栖が勉学をサボって落ちてくるかの二択しかない。
こいつなら普通に後者を選びそうな気もする。ここは兄として先んじて宣言しておこう。
俺は真面目な顔になり有栖の両肩を掴み目を見つめる。それを見た有栖も頬をうっすらと赤らめこちらを見返してくれた。そして言う。
「有栖、俺が頑張ってCくらいまでいくから少し成績を下げてくれ。」
「はい!」
有栖は嬉しそうに返事を返してくれた。ゴメンな、情けなくて。
やっと有栖が来たときと同じくらいの落ち着きを取り戻したので俺たちは聖奈姉さんと別れた校舎の正面口からぐるっと回って体育館へと向かうことにした。
校舎自体はとても小さく簡素な造りになっている。魔法は実技のほうが大切だからどの魔法学園も似たような造りをしているらしい。
校舎はとてもキレイでまるでつい最近造られたのではないかと思うほどだ。実際は建てられてから一度も改築していないらしいのだがこの美しさの秘密は何だろうか。
校舎の横は全てさら地でここで実習を行う。しっかりとした場所を作っても魔法によってさら地に戻ってしまうから何もないらしい。
コの字の真ん中にあるやつは特別な行事で使われるらしいが俺が使うこともないだろう。
この通りには桜が植えてありそよ風で舞う桜が視界を淡いピンクに染める。そんな景色の中に不自然な桜を見つけた。有栖は気づいていないが何だか揺れているような…気になった俺は魔力を四方に広げその場所に何かしら存在するのを確認した。形からして人だろう。その人は桜の木の下で本を読んでいるようだ。人がいると認識できるとその人の姿がはっきりと分かる。
ほとんどグラスしか見えないような細いフレームのメガネをしている。言いにくいのだがなんというか、その…薄い。
俺が話しかけるかどうか悩んでいると有栖が聞いてくる。
「どうしたんですか?そんなに桜の木の下をじっと見つめて。駄目ですよ、掘ったりしても何も出てきませんからね。」
「俺は子供か!違うんだ、ほら木の下にいる人に声をかけるべきか悩んでただけだ。」
俺の声を聞いて有栖は可愛らしく首をかしげる。
「え?誰かいる…いつの間に。」
いや堂々と木の下で本を読んでいるじゃないか。あ、あくびをした。
「恐らく先輩だと思います。こんなに早くから学校に来ている新入生は私達だけでしょうし。」
そう今までの間に誰にも合わなかったのは理由があったのだ。俺たちはわざわざ始業式の1時間前に学校に着きたいという有栖の願いの為にここにいる。
俺は正直なところ始業式はサボるべきだと思ったんだが有栖がどうしてもというから俺もついてきた。
途中で聖奈姉さんとは別れるから心配だったということもある。
そんな訳でやっと出会えた人に対してどうすればいいものか?
「有栖。俺は気付かなかったことにしてスルーした方がいいと思う。」
「なんでですか?先輩なら尚更話しかけた方がいいと思います。」
「だってお前は気づかなかったんだからいいじゃないか。それに…」
「?」
「あの人は魔法を使って自分に対する認識をなくしていたんだ。」
それを聞いて有栖は手を口に当てて驚いた様子を見せる。頭のいい彼女ならわかったのだろう。
「恐らくあれは魔法だけじゃない。もともと影が薄いのではないだろうか。だからこそ魔法を使ってより目立たないようにしたとも考えられるな。それに存在を消すとなると存在を認識させる相手の脳に干渉して自分自身を消すか感覚器である目に対して何らかの障害をつくることくらいだろう。どちらもとても高度な魔法だから迂闊に近づかない…」
方がいいと理由を締めくくろうとした時にはもう有栖はいなかった。
「すみません、何を読んでいるのですか?」
「…」
先輩は反応しない。相当本に集中しているようだ。ここまで来たら俺だけが逃げるというのも何だし話しかけるしかないようだ。
そう考えた俺は反応がなかったためにどうすべきかオロオロしている有栖のもとへ駆け寄った。
それでも先輩は気づかないようなので俺は先輩のもたれかけている木を蹴って足を顔の横辺りに固定し、見下ろす様に話しかけた。
「聞こえてます?」
「兄さん、それだと脅しているように見えてしまいますよ。」
目の前に怪しい人がいて自分を見下ろしているという状況を先輩は理解できていない様だが魔法士としてのしっかりとした対応をしてくれた。
そう、怪しい人に対する自己防衛という形で。
俺は先輩の拳を腹に受けてしまいその勢いで後ろへとさがる。
座った状態からのジャブでこの威力、流石だ、と感心していると先輩はいつの間にか距離を詰めていて回し蹴りを放とうとしていた。
俺は咄嗟にかがんで避けるが先輩はその勢いで一回転しつつしゃがんで足を払ってきた。
俺はそれを避けた後、先輩の攻撃をいなしながら話しかけた。
「あのすみません、でした。初めてなもんでつい…」
「ほう初めて人を襲ったと…だが残念だったな相手が生徒会長でなければ勝てたかもしれない。」
「いやそれは結構やってるんですが、初めてなのは気づいていない人に…」
「いつもは堂々と正面から脅しているのか。その大胆さだけは認めよう。」
攻撃をいなしていると突然先輩はニヤリとしそれと同時に手が光った様な気がした。俺は咄嗟に手に集めた魔力の塊をぶつけてその光を霧散させる。
これには先輩も驚いたようで一瞬のスキができた。そこに俺は胸の中央に突きをいれ攻撃を止める。
「先輩落ち着いて話を聞いてください。俺は先輩を見かけて話しかけようとしただけです。」
「そうなのか。怪しいが…よく見たら確かに我が校の制服を着ている。」
先輩は納得したようでそう言うとこちらに歩み寄り手を出してくる。
「先程は済まない。私は暁光、この学校の生徒会長だ。そちらの娘もこちらに」
急な展開に戸惑っていた有栖もこちらへ駆け寄ると俺と一緒に挨拶をする。
「こちらこそ挨拶もせず申し訳ありません。私は壱夜有栖です。」
「俺は壱夜真琴です。」
挨拶を聞いたあと暁先輩は思い出したように質問をしてきた。
「そういえば君たちはどうやって僕に気づいたんだい?あそこにいるときは認識を阻害させる魔法を使っていたんだけど。」
やはりそうか、と思いながら答える。
「何だか魔力が不自然に集まっているなと思いまして。よく視てみると人がいることに気がついたんです。」
「君は魔力の流れを見られると?」
「そんなまさか、ただそう感じただけです。」
それを聞いた暁先輩は少し考えるような仕草をした後に
「それでは私も仕事があるからもう行くことにするよ。先程の事は水に流してくれ。先輩として後輩に恥ずかしいところを見せてしまったからね。」
と言って去ってしまった。何だか不思議な先輩だったなぁ。
先輩がいなくなったあと有栖が不安げに尋ねてくる。
「兄さん大丈夫でしたか。それに先程先輩の魔法をキャンセルさせたのは…」
「ああ。魔力を当てただけだ。そのくらいなら今の俺にだってできる。」
「ふぅ良かった。私は兄さんが先輩の攻撃であっさり倒れると思ってましたから。」
「お前は俺を信じてないのか…」
「いえ、そんなことは有りません。私の中では兄さんが倒れたあと先輩の矛先は私に向かい私も負けてしまいます。そして先輩は私に、この俺を怒らせた罪どう払ってもらおう?、と私の体を見ながら言います。先輩が私に対して手を出そうとしたその時兄さんがその手を掴んで…」
途中から話が飛んでしまった妹をおいて俺は先に向かうことにした。ここからならあと少しで体育館に着くが誰にも会わないことを祈ろう。暁先輩のときみたいになったら困るからな。
「…と言うように兄さんと私は末永く暮らすのです。ってあれ?兄さんおいていかないでくださいよ〜。」
そう言いながら有栖はこちらに駆け寄ってくる。あと30分もすれば俺達の学園生活が始まるんだ。
そう思うとどんな日々になるか楽しみになる。
…その時真琴達と別れた暁は生徒会室にいた。
「彼は素晴らしい逸材かもしれない。僕の屈折率操作に気づくだけでなく、魔法を消滅させたのだから。」
彼は生徒会室にいる誰かに対して話しかけていた。
「…」
「僕は初めて見たよ、魔力の形を。このままだと欲しくなってしまいそうだ。おっとそろそろ入学式が始まる。僕は行くから後は任せたよ、副会長。」
そう言って彼は再び外へと向かった。
更新は明日予定です。
暁光先輩の登場の仕方を変えました。またデバイスの件もなくしました。これ以降は大幅に変わりますので更新したらぜひ読んでください。