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儚き夢と折れた翼  作者: 垂瀬一太
0章
11/13

あの頃の私

遅れました。時間の都合で短くなっています、スミマセン

 武道場を出た真琴は歩いて誰もいない場所まで行った。本当は誰もいない公園で秘密の通話をしたかったのだが手頃な公園がなかったのだ。

取り敢えず建物に挟まれて暗く、人もいない道でデバイスを開きじっと緊張した顔で待っていた。周りには誰もいないので落ち着きのない、だらしない姿を誤魔化す必要もない。

縁を切られたはずなのにどうしてまた?俺の不調を取り除く方法が分かったのか?まさか姉さんが見つかったのか?と真琴の頭に様々な考えが浮かんでは消えていく。

彼がボーッと考えていた時、ポケットの中のスマートフォンが震えた。これはかつて母から渡された連絡用のスマートフォンで縁が切られたあとも持っていたものだ。真琴はスマートフォンを取り出す前にシャツで手を拭いた。シャツに薄っすらとシミができるほど手汗が止まらない。彼はそんな緊張を押し殺そうとしながら電話に出た。なるべく落ち着いて挨拶をした。


「お久しぶりです、母さん。何ヶ月、いや一年ぶりかな。」


「ええ、久しぶりね。実際は一年も経ってはいないけれどね。」


電話越しに落ち着いた品のある声を真琴は聞いた。一年前から全く変わっていない感情の読みにくい声が電話越しに響く。真琴は取り敢えず要件を聞くことにした。


「それにしてもなぜ電話を?一年前に捨てられたと思っていたのですが。」


「まさかそんなことがあるわけ無いでしょう。大切な家族に対してそのような仕打ちはしませんよ。一年開いた理由は私にもしなくてはいけないことがあったから貴方を手伝っている余裕がなかったの。そしてあなたの行動の熱意を確かめたかったから。」


「熱意ですか?」


「そうです。たった一人になっても、叶いそうでなくなっても諦めずにいられるかを確かめたかったの。途中で抜けられても困りますしね。」


「僕の思いを知っていると思っていたのですが。それに二人が側に居てくれたので一人ではありませんでしたよ。」


「あぁ、そういえば付けましたね。すみません、私も忘れたわけではないですよ。」


「いえ家族への思いは知っているので。それより僕は貴方に認められましたか?」


「そうね、この電話が答えだと思ってくれていいわ。今再びあなたにチャンスを与えると誓いましょう。五年前の真相を明らかにするチャンスをね。」


真琴はそれを聞いてスマートフォンを持ってない手を強く握った。

“やっと再びチャンスが来た”

彼は今にも喜びを叫ぼうとした。しかし夜だった事を思い出し我慢した。



 ーーーかつて、真琴には家族がいた。父は生まれて少しして亡くなったらしいが、その事を悲しいと思わなかった。正しく言うならば悲しむ暇がないくらい真琴は毎日姉に振り回されていた。そんな日々を楽しんでいた。

話は変わるが真琴の家は異能を使う中でも筆頭家である紅坂家だった。小さい頃は殆ど意識していなかったものの小学生に入った頃から能力者、魔法士としての訓練が始まった。

そして五年前に転機となる事件が起きた。敷地内にあった研究所で爆発が起きたのだ。真琴は外で剣術の訓練をしていたのでいち早く駆けつけることができた。そこで真琴が見たものは燃える炎の中にいた姉の姿だった。

真琴はどうすべきか悩んだ。

見たところ暴走しているのは姉だろうが、姉を止めるなんて事はできなかった。

逡巡してスキのできた真琴は姉の作り出した衝撃波に吹き飛ばされ壁に体を強く打ち付けた。それでも真琴は姉を止めるために動けなかった。家族を愛していたからだ。

姉は倒れて動かない彼に向かってゆっくりと歩み寄ってきた。そして、倒れている彼の首を掴み、掲げた。真琴は消えかかっていく意識の中で泣きながら何かを呟く姉の姿を見た。


「ーーーー」


今は何を言っていたか覚えていないがその時、それを聞いた真琴はカッと目を開いて姉の手を払うと倒れながら剣を作りだし姉を刺した。そしてそのまま二人は倒れた。最後に微笑む姉の姿を確認して真琴の意識は途切れた。

次に目が覚めると家の中だった。服は変わっていて体の至るところに火傷があった。そんな真琴の元に有栖と聖奈が駆け寄ってくる。近くの椅子には母もいた。


「あれ二人共お姉ちゃんを知らない?」


二人が答える前に母が立ち上がり真琴の下へ来て、肩を両手で掴み目を見ながら答えた。


「貴方には姉が二人、妹が一人いたでしょ?姉はそこにいるのよ。わかった?」


「あぁそうだったよね。うん。忘れてた。ごめん、聖奈…姉さん。」


二人はぎこちなく微笑んだ。このあと真琴は姉が死んだことを聞いてふさぎ込んでしまった。やはり頼みとはいえ自分が殺してしまったと思うと苦しかったのだ。

誰が呼んでも空返事で食事も部屋の前に置いてあるものを食べて引きこもっていた。一月ほどだった頃姉の姿を見たという人が現れた。

しかし喜びより理解できないという思いが真琴の心を満たした。そんな真琴に母は言った。


「生きているならまた会えばいいじゃない。それに偽物だったとしたら名を語られている……が可愛そうよ。弟としてそんな泣いて塞ぎ込むだけでいいの?……も望んでいないはずよ。」


その言葉を聞いて真琴は再び立ち上がった。少しでも真実に近づく為に能力の訓練や格闘技を再開したのだ。

それ以来真琴は真実を追っている。生きているなら一度謝って再び家族として、偽物なら葬って手にかけた罪悪感を受け止め姉の分まで生きていこう。真琴は決意したのだ。そしてそれが姉に対する彼が出来る唯一のことだと考えたのだ。

そんな真琴を支えてくれたのは家族だった。まだ子供でしかない真琴を特に支えたのは母である夜華だった。彼女は当主であった紅坂四郎の娘という立場を利用し情報を集めたり真琴のサポートをしていた。

しかし三年前の事件が終結して以降、夜華は真琴に対して少しずつ疎遠となり、おおよそ一年前に真琴は絶縁の宣言をされた。

ーーー


 そして今に至る。疎遠になってからの夜華の事を真琴は何も知らない。ただ真琴が確信を持って言えることは三年前を機に何がが変わったということだけだ。

真琴はその事を聞く良い機会ではないかと思ったが母の機嫌を損ねてもっと大きな機会を逃すのはもったいないと思い直した。再び真琴は母との会話に意識を戻した。


「でも母さん、僕にはまだ力が無いんです。せっかく時間があったのに申し訳ありません。」


「気にすることはありません。今日電話した大きな目的がその事についてですから。」


「何か分かったんですか?」


真琴は三年前の決着がつけられること、そして嘗ての力を取り戻せるかもしれないということで少し声が弾んだ。


「あまり期待はしないでください。今回分かったのはあくまで何が起きているのかだけですから。」


「そうですか…。」


「でも進展だとは思いませんか?自分の身に何が起きたのがが分かれば安心できるでしょう?」


「そうですね。すみません、落胆してしまって。せっかく集めてくださったのに。」


「いえ大丈夫です。」


夜華は改まって相変わらず感情の読みにくい声で真実を伝えた。


「貴方の身に起きていることですが、それは魔法による記憶の上書きです。」


真琴はその言葉を聞いても訳が分からなかった。“記憶と魔法につながりがあるのか?”と思ったくらいだった。


「分かりにくいでしょうから説明しましょう。能力者が能力を使うためには鍵となる言葉などを発動のキーとします。

しかし発動の為にはそのキーとなる言葉を言った後に脳がそれを認識しその通りに内魔力を反応させる事が必要になるのです。その記憶を封じられて別の情報に差し替えられている貴方は使えた能力が使えなくなっているというわけです。」


「大体理解できました。それを解く方法はないのでしょうか?」


それを聞いた夜華はため息をついて申し訳なさそうに声のトーンを下げた。


「まだ分かっていないの。何重にもかけられていることだけは分かっているのだけれど。」


「いえそんな、僕の為にわざわざありがとうございます。少し分かっただけで満足です。」


「今日の要件はこれだけです。また何かあったら連絡をするわ。」


「分かりました。」


そう言って真琴は電話が切れるのを待っていた。なかなか切れない電話に対し何かあったのかと耳を澄ました。


「最後に一つ。生徒会入りを期待しているわ。」


その言葉は突然で真琴も耳を疑った。それを最後に電話は切れた。

ちょっとした疑念も忘れ、真琴は自分の夢が大きく前に進もうとしていることに喜びを感じていた。

その喜びを胸に抱いたまま誰もいない道を歩いて家への帰路についた。


家の扉を開けようとしたとき、真琴は落ち着いてきた。そして今日の事を考えると一つ気になることがあってそれを呟いた。


「どうやって調べたんだろう?魔法が使えない原因や生徒会の事…。」



 真琴が家に着いたその頃、夜華は執事の前山と話をしていた。二人は紅坂家当主の書斎にいた。そこは異能力関係の本のみが棚に入っていて赤の研究の記録などもある。

その為入って良いのは当主と執事長のみとなっていた。そこで前山はカップにお茶を注ぎながら話をする。


「まさか暁から真琴さまの話が出てくるとは思いませんでした。」


「そうね…多分覚えていないはずなのだけれど。それと前山、あの子は存在しない子なのよ?口にしてはいけません。」


「失礼しました。久々に親子の仲睦まじい会話を見たものですからつい。」


「減らず口も大概にしなさい。」


「私は先代の力を信用していると受け取ってくださって構いません。それに彼へ声をかけたということは準備が整ったということでしょうか?」


「いいえ、まだよ。でもあの子の力が必要になるかもしれないから一応、ね。それにあと少しで長年の夢が叶うのだからサービスですよ。彼には色々と迷惑をかけましたし。」 


そう言って窓から月を見上げた夜華の右目はルビーの用に紅く染まっていた。その燃えるような紅は彼女の心に宿る想いと同じ色をしていた。


話のまとまりを考えて短めにしました。前に書いた時からここで締めたかったんです。ゆっくりですが話は進んでいきますので長い目で見守ってくれると幸いです。

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