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手野学園の秘密

作者: 尚文産商堂

手野学園。

それは、手野グループの関連団体であり、手野市学園町に本部を置く学校法人である。

数多くの学校を運営しており、手野市を中心として、全国あちこちにキャンパスがある。


ここはその中枢。

手野学園理事会である。

理事会は、学校法人の定款である寄附行為によって、あらかじめ定めている人でなければならない。

その中でも、理事長は手野産業株式会社社長とされていた。


「ようこそ、理事会へ」

私は、手野医療大学学長として、副理事長の待遇を受けている。

「ありがとうございます、理事長殿」

「いやいや、ここではこちらの方が若輩です。いろいろとご教示いただけたら、幸いです」

「ええ、より良い学校にしていくために、協力は惜しみません」

それから、理事会のメンバーが順々に紹介された。


「さて、ではこれから案内したいところがあるのですが……」

理事長は、私だけを理事会後に残し、何やら言いにくそうにしている。

「どうなさったのですか」

「学長先生は、オカルティズムについて、どうお考えでしょうか」

「オカルトですね。非科学的なものであるとは思います。しかし、否定はしません」

「それはなぜ」

「あの世と呼ばれるような異次元は、未だに存在が証明されておりません。重力子が、別次元へとエネルギーを発散させているという説はありますが、未だ確証がない。証明されていない以上、それを否定するという証明もなされておりません。互いに証明がない以上、それが存在するかどうかは、まるでシュレディンガーの猫のようなものです。あるかどうか、それを判断するための材料がないのであれば、否定も肯定もできません」

私は一息に言ったものの、理事長の真意を測りかねていた。

だが、どうやら理事長は決断したようだ。

「こちらへ来ていただけますか」

壁際にあった白色の懐中電灯を手にし、理事長は理事控え室へと私を招く。

何の変哲もない、極めて事務的な部屋だ。

そこの戸棚、一番上のさらに上に置いてある蚊取り線香を入れるための陶器の豚を左に二回、右に二回回し、さらに強く押した。

するとどうだろう。

戸棚のすぐ横の床がゆっくりと開き始めたではないか。

「秘密の部屋が、これは一体」

「この手野学園最大の秘密を、ご覧にいれましょう」

理事長は、呆然としている私を置いて、床からさらに下へと続く階段を降りる。

確かに、ここの理事控え室は1階にある。

しかし、私が知る限り、地下室はないはずだ。

そう考えつつも、私は理事長について、ゆっくりと、階段を降りていくことにした。


数十段で一度踊り場へたどり着く。このくらいまでしか、部屋からの光がこないようで、この先の廊下は真っ暗だ。

「確かこの辺りに……」

あった、と理事長が声をあげ、パチンと何かのスイッチを入れる。

まず、頭の上にある床の扉が閉まり、それから私たちの側から電気が灯っていく。

「この廊下は、一体何なのですか」

「戦前、ここには生物実験場があった。手野大学は知っているだろう」

誰かが私たちに声をかけてくる。

スーツ、メガネ、革靴、誰かはすぐにわかる。

私の恩師であり、現在の手野大学統括理事会会長だ。

通称統括長と呼ばれるその役職は、全国の国立大学では手野大学にしかないとされている。

「なぜ先生がここに」

「君がここに入ることになったからだ。この廊下の先に、秘密が隠されておる。この世界の最大級の秘密だ」

ここまで焦らされると、すぐにでも答えが知りたくなる。

しかし、そこは私も大人だ、グッとこらえて統括長と理事長について廊下の先へ向かう。


角を2回、さらに何やら下へと降りていくような感覚の廊下を歩くこと約10分。

とうとう、扉の前にたどり着いた。

「開けるか」

「ええ」

統括長が左の、理事長が右の扉の取っ手を持ち、一気に開け放った。

薄暗い廊下から、突然眩しい世界へと出たから、目がチカチカする。

それも1分と経たずに治ると、そこは何やら雑然とした部屋だった。

倉庫、あるおは物置のようなところだ。

「手野学園理事長が、なぜ手野産業社長となっているか。それは、手野学園の設置と運営、それに維持について極めて多大な功績があったというのと同時に、手野家当主として、ある仕事をしなければならないためなのだよ。それが、次元の統合だ」

「次元の?」

「そう。我々の宇宙は一つではない。子宇宙、孫宇宙、さらには並行宇宙と数々の宇宙空間が存在している。魔術が使える世界、使えない世界。そもそもとして生命が誕生することなくクラッシュした世界だってある。この部屋では、それぞれが相互干渉しないように、制御を行っている。手野学園は、本来はそのような土地にある」

統括長の話は信じられないものばかりだ。

だが、この人が言うのであれば、おそらくは事実なのだろう。

それほどに信用している人の発言は重い。

「手野学園理事は、その裏の任務として、このように定期で確認をしなければならない。砂賀家にも同じ機能があるが、あちらはもっと広いことをしているらしい。そちらについては、私は関与できないのでしらないが」

今日も大丈夫そうだな、と理事長が話す。

「ここに入ることを許されるのは、理事になった者でも、さらにオカルトを否定しない人だけだ。否定する場合、この世界の秘密を探ろうとするからな」

「この状態を受け入れて、なおかつ詮索するな。そういうことですか」

「そういうことだ。ゆえに、世界は平穏だ」

これ以上、何も話すことはない。

統括長はそう言っているようにも聞こえる。

だから、私は何も聞かないことにした。

この部屋についても、次元に彼方の話として、そっと胸の中にしまっておくことにする。

それが、最高ではないにしろ、最善の策だと信じて。

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