式への乱入
次話はこの話のリリ、リョーマ視点になります。
お楽しみいただけたら幸いです!
ようやく式場に辿りついた俺は、フードを被り、他の人に紛れて式場の中へと入る。
黒髪は目立ってしまうから、今はバレないように行かないといけない。
どうやら式はまだギリギリ始まってはいないようだ。
俺はその事に心の底から安心すると同時に、気を引き締め直す。
この式をどう潰すかはもう考えている。
というか、正直考えるまでもない。
この街の人は俺とリリが結婚するのを望んでいるし、俺は実際に飛び入りでもそれを成し遂げる力がある。
正直リオ=カーミルには特に恨みはないのだが、俺のリリを取ろうとした時点で万死に値するので、ここは負け犬に成り下がってもらうとしよう。
ここまで言ったらわかると思うが、俺の考えている作戦はこうだ。
1.俺が勇者だとばらす。
2.式を強制終了させる。
つまり、力づくというやつだ。
それを作戦と呼べるのかという意見は、この際無視させてもらう。
とりあえず、今は式を止める1番良いタイミングが来るのを待つしかないのだ。
俺が座ったその席は、特別席のすぐ後ろの席だった。
そこで、俺はよく見知った顔を見つける。
「……リョーマ」
俺がとった、唯一無二の弟子だ。
いつも元気だったその表情は今は曇っており、無意識か知らないが、口では「師匠……」と呟いている。
やはり、相当心配を掛けてしまったみたいだ。
俺はすぐにでも話しかけて安心させてやりたい気持ちを我慢し、リョーマの後ろの席へと座る。
今気づかれて騒ぎにでもなったら、少しやりにくくなってしまうからだ。
それに、どうせ後でいくらでも話す機会はある。
そこでゆっくりと話せばいい。
それよりも、俺は1つ気になったことがあった。
カナエがいないことだ。
てっきりリョーマがいるということはカナエもいると思ったのだが、見渡す限りではその姿はない。
もしかしたら俺のいない1年で変わってしまったのかもしれない、と不安に襲われたところで式が始まったので、俺はその疑問は一旦棚に上げておくことにした。
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中央に敷かれた赤い道。
そこを、ウエディングドレス姿のリリと、タキシードを来たリオ=カーミルが腕を組みながら歩いていく。
俺はそれを見た瞬間に思わずリオ=カーミルに襲いかかりそうになったが、次にリリの表情を見てその殺意は消え去った。
そのリリの表情には、何の感情も浮かんでいなかった。
何もかもを諦めているというような、そんな表情。
俺はそれを見た瞬間に、リオ=カーミルに対してより、自分自身に腹が立った。
この1年間で、リリをあんなふうにさせてしまう原因を作ってしまった俺自身に。
だから、俺はすぐにでもリオ=カーミルをボコボコにしてリリを奪い返したい気持ちを我慢し、機会を待つことにした。
今、リリが何を思っているかわからない。
もしかしたら俺を恨んでるかもしれない。
それでも、俺は絶対にリリを助け出してみせる。
そこからどれほどの時間が経っただろう。
式は順調に行われていき、俺は幾度となく式を潰したい衝動に駆られた。
でも、俺がそれを我慢できたのは、俺と同じように唇を噛み締めて耐えるリョーマの姿があったからだ。
リョーマの心中がどうなっているかはわからないが、それでも色んな感情を我慢しているのは見てわかる。
そんなリョーマを見ていたら、俺は不思議と1人で戦っている気分ではなくなっていた。
そして勝機は来る。
いよいよ結婚の誓いを言うとなった瞬間に、リリが目から一筋の涙を零したのだ。
それまでは何の感情も見せずに淡々と式を進めていたリリ。
そのリリが初めて見せた感情に、式場がざわつき始めた瞬間、俺は叫んだ。
「リリアーナが泣いてるぞ!これで本当にいいのか!」
その叫び声で初めて自分が泣いていることに気づいた様子のリリが、慌ててその涙を拭う。
でも、それで涙は消しされても、街の人たちの気持ちは消せなかったようだ。
「本当だ」
「ああ、リリアーナちゃんも、やっぱり嫌がってるんじゃないか」
「本当に。やっぱりリリアーナちゃんには勇者様じゃないと駄目なんだよ」
「そうだな」
1度付いた火は辺りにどんどんと広がっていく。
全員が全員、元々俺とリリの結婚を推奨していた人ばかりだ。
リリが何の反応も示していなかった時はとにかく、リリが嫌がっていると分かった以上、リオ=カーミルとの結婚を率先して祝福する筋合いはない。
そして、逆に慌てだしたのはリオ=カーミルだ。
さっきまでは自分を祝福するムードだったにも関わらず、それが一変してしまったのだ。
まだ誰も面と向かって言ってはいないが、ざわつきはどんどんと広がっていく。
そして、誰も彼もが「勇者様が……」「こんな結婚はいいのか……」と言い始めた時に、俺は動いた。
「リオ=カーミル、少し話があるんだが」