楽斗の過去①
今日も二話投稿です!
今話と次話はあまり面白くないかも知れません(><)
三人称視点です。
混沌に支配された世界の中で、楽斗の意識だけが辛うじて彷徨っていた。
浮き沈みする意識を何処か遠くのように感じながら、楽斗は自分の記憶を回想していた。
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楽斗には親も兄弟もいない。
小さい頃に両親を事故で失ってからずっと1人で育ててくれた祖母も、楽斗が15歳の時に病気で亡くなった。
それから楽斗は、「明るく生きなさい」という祖母の言葉に従って、1年を過ごしてきた。
常に笑顔を絶やさず、学校でもクラスのムードメーカーになった。
でも、心の奥底に眠る空虚さは、どうやっても消し去ることが出来なかった。
そんな折である。
楽斗の日常をぶち壊す時間がやって来たのは。
最初、楽斗は自分自身に何が起こったのかを理解することが出来なかった。
突然、自分の周囲の景色が一変したかと思うと、きらびやかな服装に身を包んだ人達に囲まれていたのだ。
家で1人でテレビを見ていた楽斗は、急激な状況の変化についていくことが出来なかった。
でも、それも、その中で一層上等そうな服を着た少女の言葉で理解することになった。
少女は言ったのだ。
「勇者様」と。
それに加えて自分に起こった不思議な現象。
まず、楽斗の周囲の景色が突然変化したということ。
そして明らかに日本人にはない、桃色の髪をした目の前の少女と、周囲から自分の様子を伺っている獣耳の男女の存在。
これらを踏まえて、楽斗はこれが異世界転移ではないかと判断した。
だが、まだそれが正しい判断だとは限らない。
だから、楽斗は少女に聞くことにした。
「ここは一体何処なのか」と。
それに対する少女の答えは、楽斗の予想通りのものだった。
この世界は楽斗の住む世界とは異なる世界であり、楽斗はそこに勇者として召喚された。
だから、あわよくば、この世界で猛威を奮っている魔王を討伐して欲しい、と。
ただ、もし元の世界に帰りたいのであれば、送還魔法で帰すことも可能であるとも、少女は言った。
だから、楽斗は考えた。
元の世界に戻って、いつも通り上っ面だけのなんの楽しさもない生活を送るか、この世界で勇者として厳しい戦いに身を寄せるか。
勿論、楽斗の決断は一瞬だった。
楽斗は、勇者としてこの世界で生きていくことを決意した。
その後、楽斗は勇者に与えられた加護の存在を知った。
勇者であるものは、誰であれその身に神による加護を与えられているらしいということを。
だが、楽斗に備わっていた加護は『?』で埋め尽くされており、楽斗自身その効果を知ることが出来なかった。
だから楽斗は、その加護の分を帳消しにする勢いで、必死に修行を行った。
兵士達との模擬戦が終わった後も、部屋での自主鍛錬を欠かすことは無かった。
そして、その生活が半年間続いた頃。
既に、楽斗に適う人間は、その国には存在しなくなっていた。
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この国にはもう自分より強い人間はいない。
それが分かった楽斗は、魔王を討伐するための旅に出ることにした。
黒髪黒目は目立つため、フードで顔を隠しての旅だった。
それを含めて、楽斗はどんな事が起こるのか、ワクワクしていた。
最初、楽斗はお金を溜めるために冒険者になることにした。
等級がF~SSランクまである中でFからのスタートだったが、楽斗はどんどんとクエストを達成していき、最速のスピードでランクを上げていった。
いつしか楽斗は、その常に身につけている特徴的な黒いフードと、剣1本でどんな敵も倒すことから、『漆黒の剣士』と呼ばれるようになった。
楽斗が冒険者としての生活を始めてから半年が経った頃、楽斗を含む高ランク冒険者は、緊急の魔物討伐クエストとして、冒険者組合に集められた。
突然変異種であるオークジェネラルとの戦いは熾烈を極め、幾人もの重傷者を出しながら、ようやく討伐することが出来た。
その戦いで、楽斗もまた浅くはない傷を負った。
そこで出会ったのが、その時回復役として戦いに出ていたリリアーナである。
金色の髪をした女神のような容貌は周囲の男を魅力していたが、楽斗は容姿ではなくリリアーナの持つ『何か』に惹かれた。
それの正体は分からなかったが、楽斗の心臓が一瞬、ドクンと高鳴ったのは確かだった。
だから、楽斗は何度か一緒にクエストに行った後、自身が勇者であることを告げ、僧侶として仲間に加わって欲しいという旨を告げた。
リリアーナは笑顔で快諾し、そこから2人の旅が始まった。
リリアーナとの旅は、楽斗に変化をもたらした。
リリアーナと会話をする度に、楽斗は自分の心にある空虚さが満たされていくのを感じた。
そしてリリアーナもまた、楽斗と旅をするうちに、楽斗に惹かれていくのを感じていた。
そんな旅を数ヶ月程続けたある日、楽斗が目を離している間に、リリアーナが何者かに攫われるという事件が起こった。
その時楽斗の心の中でよく分からない感情が荒れ狂い、楽斗はそれに突き動かされ、一心不乱にリリアーナを探し回った。
自分が勇者であるという事が周りにバレることも惜しまず、リリアーナの情報を集め回った。
そして、1時間程で、楽斗は犯人の正体を突き止めることに成功した。
犯人の男は、奴隷商人だった。
リリアーナの容姿に目をつけ、人目を盗んでリリアーナを攫い、貴族に売るつもりだったのだ。
その情報を情報屋から聞いた楽斗は、自分の心が不思議と落ち着いていくのを感じていた。
冷静になったのか、否、そうではない。
ただ単に怒り狂い、全てを破壊しそうになる衝動を抑えていただけだった。
楽斗は直ぐにその奴隷商へと向かった。
接客をしていた男を突き飛ばし、襲ってくる護衛達を気絶させ、奴隷のいる場所へと向かった。
リリアーナはその場所で、うずくまって泣いていた。
その表情は、絶望に囚われていた。
それを見た楽斗は、頭の中の何かがブチッと切れたのを感じ取った。
楽斗は感情に身を任せ、リリアーナや他の奴隷に危害が加わらないようにしながら、奴隷商の全てを破壊し尽くした。
後始末を含めて全てを終えた後、リリアーナは楽斗に抱きつき、怖かったと泣いた。
それを見た時、楽斗はようやく自分の感情の正体を知った。
それは自分には無縁だと思っていた、『好き』という気持ちだった。
だから、楽斗は、リリアーナの体を支えながら、リリアーナに好きだと告げた。
リリアーナは顔を赤くして、涙目のまま頷いた。
そして、2人はそのまま唇を重ね合わせた。
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