カナエの気持ち。
本日3話目です!
カナエ視点になります!
最初は数話投稿しますが、途中から不定期になる予定です!
私の名前はカナエ。
勇者パーティの魔法使いをやっている。
いや、正確にはやっていた、だけど。
勇者であるラクトがいなくなり、勇者パーティというもの自体が無くなってから、私は実質的な役割を失った。
勿論、過去の功績は周りの注意を引きつけるのには十分で、今でも私のファンだという物珍しい人もいるけれど。
それもこれも全て、私とリョーマがほぼ奇跡と言ってもいい形で、ラクトとリリアーナに出会えたおかげなのである。
あの出会いがなければ、私達は今でも中堅くらいの冒険者で燻っていたことだろう。
そんな私達パーティの中心は当然ラクトで、それは勇者であるからとかそういうことではなく、彼には周囲を引きつける魅力があったのだと今は感じている。
だから、一年前の魔王討伐から私達が誰から言い出したわけでもなく自然と解散されていったのは、言ってしまえば必然だったのだろう。
勿論、それで私やリョーマ、リリアーナの縁が切れるわけじゃないけど、根本的な部分が変化していると感じるのは事実だ。
話は変わるが、今日はリリアーナの誕生日で、同時に彼女の結婚式の日でもある。
去年までなら、何の曇りもなくおめでとうと言えたはずだし、親友の結婚式なんて祝い事、諸手を挙げて喜ぶはずだった。
でも、残念なことに今年はそんな言葉は言えそうにない。
だって、主観的に見ても客観的に見ても、何もおめでたくなんてないのだから。
リリアーナの恋人でもあった、勇者のラクト。
私は本音を言うと、彼の事が大好きだった。
それは勿論友達的な意味であり、恋愛的な意味だとはラクトラブなリリアーナを目にすると口が裂けても言えない訳だが。
でも、そんなリリアーナの存在がなければ好きになっていたかもしれないくらい、彼は魅力的な人だった。
ラクトとの日常的な会話。
私が本音で軽口を叩きあえるのは、ラクトとリョーマだけ。
その中でも、リョーマとは昔からの長い付き合いで、気心の知れた対等な関係であったが。
ラクトは、不思議とこっちを包み込んでいるような気持ちになれて、私は心があったかくなるのを感じていた。
多分、そこがリリアーナがラクトを好きになった理由でもあると思う。
だからこそ、ラクトがいて、そのすぐ横にリリアーナがいて、後ろに私とリョーマがいる。
そしてみんなで、何の遠慮もいらないやり取りをして、一緒に笑い合う。
そんな構図が、昔の形であり、今の私の理想なのだ。
それなのに、今日リリアーナが結婚するのは私の知らない唯の一貴族。
リリアーナの意思を無視した、政略結婚。
いや、それも正確に言えば、本当にリリアーナが嫌がればそれを取り消すもできるのだが。
彼女は優しいから、今まで育ててくれた母親の頼みを断れなかったようだ。
そして、そうなったのも全て、あの魔王の最後の攻撃で、ラクトが私達を逃がして犠牲になってしまったからだ。
あの時のことを、私は今も悔いている。
そのたび、死にたくなるほどの苦しみに襲われる。
まとめ役として、私がみんなに逃げるべきだと告げなければならなかったと。
魔王を倒したと思いこみ、一緒になって喜んでる間にやられるなんて、そんな滑稽なことは無い。
でも、実際にその滑稽な出来事を引き起こしてしまったのは、私だ。
まあ、今更そんな事を思っても何も変わらないのは分かってるけれど、それでも考えずにはいられないのだ。
「はぁ、何が偉そうに先に進めない、よ。
一番先に進めてないのは、私じゃない」
そう自嘲気味に零れた言葉は、正しく後悔の感情。
そして思い出すのは、ラクトが死んでから私がみんなを立ち直らせるために言った言葉。
ラクトの死を乗り越えないと先には進めない、という言葉。
あの時から、私の言葉通り、リリアーナはラクトを安心させるために色んなことをしてきた。
それは嫌なことばかりだろうし、言うなら今からより嫌なことに立ち向かおうとしている。
一方で、リョーマもまた、死に引きずられていると言いながらも、それでも自分を押し殺して今日まで過ごしてきた。
それは誰にでもできることじゃない。
本当に、ラクトのことを尊敬しているからこそできることだ。
それなのに、私はどうだろう。
一番前に進めていないのは私じゃないだろうか。
今日のリリアーナの結婚式だって、本当は私も参列する予定だった。
実際、リョーマは今頃、結婚式場で祝福していることだろう。
例えそれが本心からの祝辞でなかったとしても、形式的には祝福しているのは事実だ。
その気持ちは、推し量るだけで辛いと分かる。
そして、私にはそれがどうしても出来なかった。
式場で別の男とキスなんかするリリアーナを見てしまったら、私は怒りで式場の全てを破壊しつくしてしまいそうだった。
感情を殺すなんてこと、できそうになかった。
私までそれをしてしまったら、本当にラクトの存在が薄れてしまうように感じられるから。
いや、それも言い訳か。
要するに、私が一番子供だったのだ。
嫌なことがあればすぐに癇癪を起こす、ただのガキンチョ。
それが今、私が自分に下す評価だ。
本当は、私は、私の思い描く勇者パーティの未来が壊れてしまうのが怖かったのだ。
もうラクトがこの世にいないのは分かっているはずなのに。
それでも、ずっと夢を描いていたかった。
だから、結局のところ、一番ラクトの死に引きずられているのは、私なのだ。
間違っている方向だろうと、地獄への道のりだろうと、リリアーナとリョーマが一歩踏み出したのは事実。
それがどれほど茨の道だろうと、そう生きていくと誓った2人に、私は本当に尊敬の念を送っている。
私の出来ないことを心を押し殺してでもやり遂げる二人に、私は畏敬の念を送っている。
本来なら勇者パーティの一人として私もそうあらなければならないのだろう。
でも、何度も言うが、私には絶対無理だ。
だから、私は結婚式には行かない。
もしかしたらリリアーナと会う機会がもう無くなってしまうかもしれないけど、それでも私はそこに行くことができない。
「嫌だ」という最も単純で、子供っぽい気持ち。
その感情が、私が結婚式に行くことを遮っているから。
「はぁ、もう寝よう」
私はしばらくまともに手入れしていない髪を掻き毟り、そのまま布団へと入る。
今の私を見たら、世間のみんなはどう思うだろうか。
いつも凛としている勇者パーティの魔法使いとして、あるまじき行動だと思うだろうか。
でも、そんなことはどうだっていい。
私が評価されたいのは、本当に心を許した仲間だけだから。
そしてそれは、もう一生揃うことの無い懐かしい面子。
こんなだらしない格好の私を見て、仕方ないなと笑ってくれる三人。
段々と遠のいていく意識の中で、私は願っていた。
神様お願いです。
どうか、夢の中だけでも。
私の理想を、願いを、叶えてはくれないでしょうか、と。
そんな、途方もない理想を願う私の目からは、静かに一筋の涙が零れていたのだった。