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リリアーナの想い。

リリアーナ視点になります!

魔王との戦いから、長いようで短い一年という月日が流れた。


私達勇者パーティは魔王を打ち倒した英雄と持てはやされ、一生揺るぐことのないだろう名誉と地位を手に入れた。

最近ではどうやらファンのようなものもできているらしく、気軽に外に出ることすらできない状況だ。


でも、どれだけ有名になって人気が出ようが、私の心からラクトの存在が消える時はない。

彼は私達を救ったと同時に、一生消えることの無い傷を心に残していった。

あの人は、置いていかれる側の気持ちを考えたことがあるだろうか。

いや、多分きっとないのだろう。

でないと、こんな残酷な行動に出れるはずないのだから。


そんな自問自答ができるくらいに回復することが出来たのは、偏にカナエの存在があったからだ。


今でも思い出す。

あの時、思い出したくもないあの悲劇があった後。

何かが違えば、私は今この世からいなくなっていたかもしれないのだ。





「ラクト!ラクトぉ!! 」


とめどなく溢れていく涙をまるで他人事のように感じながら、それを拭う気力さえ起きない。

ただただ体は脱力し、膝から崩れ落ちた体をなんとか支えている現状だった。


この場所は、よく勇者パーティのみんなで遊びに行った丘の上。

まだみんなが打ち解けあっていない昔から、信頼し合える仲間になった今まで、何度もお世話になった思い出の場所。


昔からラクトは仲間想いで、何か喧嘩が起きるとすぐこの場所に連れて来て言うのだ。

『仲直りするまで帰さないぞ』と。


勿論、私達も勇者であるラクトと一緒に行動しているだけあって、自力でここから帰ることは簡単だ。

でも、みんなの暗黙の了解として、ここへ来たら思う存分暴れあって、妥協して、納得して、満足して、そして仲直りしたものだ。


でも、今はそのラクトがいない。

魔王の道連れから逃がすために、私達をここまで転移させたのだ。

よりにもよって、この思い出の場所に。


その事を考える度に、私は後悔の念に苛まわれる。

あの時、ラクトに抱きつくのを我慢して直ぐに脱出していれば、私達は全員で帰ることが出来たんじゃないかと。

それに、ラクトが一人で残ろうとした時、何故そのことに気づけなかったのかと。


「うぅ……」


段々と零す涙も枯れ果ててくる。

私の目から零れる涙が少なくなっていくごとに、私の心のどこか大切な部分が失われていくのを感じる。


奴隷商人に捕まった時に、私を救い出してくれたラクト。

私達のことをいつも1番に考えて、私達が傷ついたら自分の時以上に怒ってくれたラクト。

恥ずかしそうに、私にプロポーズをしてくれたラクト。


そんなラクトが、私は大好きだった。

でも、そのラクトは、もうこの世界にはいない。

ラクトがいない世界で、私はどうやって生きていけばいいのだろうか。


ああ、もうラクトのいない世界なんて、私には必要ないーーー


「リリアーナ!」


「っ!」


突然カナエの声が聞こえ、私は慌てて意識を現実に引き戻す。

私の目の前には、普段あまり怒らないその姿からは珍しく、猛烈な怒りの表情を見せるカナエの姿があった。


でも、今はなんだか、その事さえどこか遠くのことのように感じられる。


「何?」


「何?じゃないわよ!

あんた今、凄い顔になってるわよ!

その顔をラクトが見たらどう思うでしょうね!」


カナエは何を言っているのだろう。

そのラクトが、この世界にもういないというのに。


「…………」


返事を返さない私に、カナエは更に畳み掛ける。


「貴女の言いたい事は私にも分かるつもりよ。

貴女程の苦しみは無いにしても、私だってラクトに救われてここまで来たんだから。

だから、貴女の気持ちはよくわかる」


なら、どうして止めようとするの?


カナエにも分かるんでしょ?


今の私の気持ちが。


どうしようもなく、空白で、ぽっかりと穴の空いたこの心情が。


「でも、ラクトが何を思って貴女を生かしたのかを考えたら、私は貴女を止めなければならない。

もしもここで貴女まで死んでしまったら、私は天国でラクトに合わせる顔がないわ」


ラクトの、気持ち?


「ラクトは、私達にこの世界の事を頼んだのよ。

最後に勇者としての意地を見せて、魔王から私達を救ってね。

ラクトがそういう人だってことは、貴女が1番よく分かってるでしょ?」


ああ、そうだ。

ラクトはいつも、自分の事より、私達のことを優先する人だった。

時には自分のことも考えて欲しいと思うこともあったけど。

それでも結局は私達を大事にしてくれる、そんなラクトを、私は好きになったんだから。


「貴女に出来ることはここで絶望する事じゃない。

ラクトの今までの行動を、全国に広めて、ラクトに安らかに眠ってもらうことよ。

もしも私達が不甲斐ない行動に出たら、今も天国で見守ってくれてるラクトが、壁の端っこの方でうずくまって悲しむでしょうね」


ふふっ、そうだ。

ラクトはそんなふうに悲しむんだった。


だったら、ラクトにそんな顔はさせたら駄目だね。


「カナエ、もう、大丈夫」


「そう。それは良かったわ」


「うん、ありがとう、カナエ。

流石、ラクトが最高の魔道士って言うだけあるよ」


「え!?

そ、それは今関係ないじゃない!」


私の言葉に顔を赤くして慌てふためくカナエを見て、私は何だか微笑ましい気持ちになる。

まさか、カナエに救われる日が来るとは思っていなかった。


「ほ、ほら、リョーマも聞いてたんでしょ?

いい加減泣きやみなさい!」


カナエは慌てて誤魔化すように、私のすぐ近くですすり泣くリョーマに声をかける。

自分のことでいっぱいいっぱいで気づいていなかったけど、リョーマも深い悲しみの中に沈んでいたみたいだった。

でも、それも当たり前か。

私とは種類が違うけど、リョーマもラクトのことをすごくいい慕っていたみたいだったから。


そんなリョーマもカナエの話を聞いて顔を上げる。


「そうっすね、僕も、師匠の弟子として、師匠の偉功を伝える義務があるっす。

だから、もう泣くのは止めにするっすよ」


「ふふ、そうよ。

いつまでも泣いていちゃ、先には進めないからね」


「うん、そうだね。

カナエは、強いね」


「まあね、ラクトにみんなの事を任されちゃったからさ!

それに、私がしっかりしとかないと、誰がこのメンバーを纏めるのよ」


「それは、そうっすね。

ははっ、僕にはリリアーナさんを制御しきる自身が無いっす」


「ちょっと、それはどういう意味よ!」


「ふふっ」


私達は、無理にでも笑顔を作って、精一杯の会話をした。

同じ気持ちを抱えたみんなと話すだけで、少しは気持ちが楽になったから。

それを私達に教えてくれて、泣かずに私達の心配をしてくれたカナエに、私は心から感謝と尊敬の念を送った。


でも、その後こっそりと木陰で泣いているカナエの声を聞いた時、カナエもやっぱり私やリョーマと同じほどの悲しみを抱えていたのだと改めて思い知った。

そして、尊敬の気持ちが増したと共に、私は強く決心した。


これからは、カナエにも、私を今も見守ってくれているだろうラクトにも、心配をかけないように生きていくことを。





「リリアーナ!準備は出来たの?」


「うん、お母さん。

でも、もうちょっと待っててね」


「分かったけど、できるだけ早くしなさいよ」


「うん」


今日は私の二十歳の誕生日でもあり、同時に結婚式を挙げる日でもある。

勇者パーティの仲間である私の元には、一年前からひっきりなしに見合いの話が来ていた。

昔はラクトがいたから、こんな話が私の元にまで届くことは無かった。

そういう所でも、私はあの人に守ってもらっていたんだなと感じる。


勿論、ラクトを失った私にそんな事を考える余裕なんて無く、全てを断っていたのだが、貴族でもある私は跡継ぎを残さなければならないと両親に言われて、受けることになったのだ。


本来ならラクトがいたはずの場所に別の男性がいる。

そう考えるだけで、心がボキッと折れてしまいそうになるが、それを我慢し、私は今日まで生きてきた。


それも、あの日カナエに言われた言葉があったからだ。

だから、これからも私は一生ラクトの事を想い続けて生きていく。

例え違う男性と結婚しようが、その想いが消えることはないのだ。


「よし、行こう」


自分の気持ちをしっかりと再確認した私は、暗闇に足を踏み入れる感覚を味わいながらパーティに参加する。


この地獄のような日々の先には、きっと幸せが待っていると信じて。



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